高透過性ジルコニア接着ブリッジリテーナー部の厚みの検討
モノリシックジルコニアも透過性により3Y、4Y、5Yと色々種類があります。透過性が高い材料を使った場合、強度的な不安があります。そのため接着ブリッジの厚みも増やした方が良いような気がします。実際どうなのでしょうか。今回は名前が変わる前、2021年の東京科学大学の皆さんの論文です。
Strain analysis of anterior resin-bonded fixed dental prostheses with different thicknesses of high translucent zirconia
Michiko Noda , Satoshi Omori , Reina Nemoto , Erika Sukumoda , Mina Takita , Richard Foxton , Kosuke Nozaki , Hiroyuki Miura
J Dent Sci. 2021 Mar;16(2):628-635. doi: 10.1016/j.jds.2020.10.002. Epub 2020 Oct 23.
PMID: 33854712
Abstract
Background/purpose: High translucent zirconia has been used as a new monolithic zirconia prosthesis, which has the potential to make anterior resin-bonded fixed dental prostheses (RBFDPs) without veneering porcelain. However, it is unclear whether the RBFDPs retainer can be thinned as much as conventional zirconia RBFDPs. The aim of this study was to assess the usability of high translucent zirconia RBFDPs with a thin retainer thickness by evaluating differences in retainer thickness on the surface strain.
Materials and methods: A model with a missing upper lateral incisor was used. The abutment teeth were upper central incisor and canine. Three types of RBFDPs were fabricated as follows: metal RBFDPs with a retainer thickness of 0.8 mm (0.8M), and high translucent zirconia RBFDPs with a retainer thicknesses of 0.8 and 0.5 mm (0.8Z, 0.5Z) (n = 10). The fitness of the margins was evaluated by the silicone replica technique. The surface strain of each retainer under static loading was measured and statistically analyzed using a t-test with Bonferroni correction.
Results: The marginal fitness of all RBFDPs was under 76.1 μm, which was clinically acceptable. Each strain of the 0.8Z and 0.5Z groups was significantly lower than that of the 0.8M (p < 0.05). There was no difference in strain of the zirconia RBFDPs even if the retainer thickness was changed.
Conclusion: Our results suggest that the high translucent zirconia RBFDPs can be manufactured with a retainer thickness of 0.5 mm, which reduces the amount of tooth preparation compared to the metal RBFDPs.
背景/目的:高透過性ジルコニアは新しいモノリシックジルコニア補綴物として使用されており、陶材前装なしの前歯部接着ブリッジ(RBFDPs)としてのポテンシャルを有しています。しかし、従来のジルコニア接着ブリッジと同じ厚みを付与することができるのかはよくわかっていません。本研究の目的は、異なる厚みの接着ブリッジリテーナー部の表面歪みを評価し、リテーナー部が薄い高透過性ジルコニアが使用できるかどうかを検討することです。
実験方法:上顎側切歯欠損モデルを使用しました。支台歯は中切歯と犬歯としました。以下に示す3種類の接着ブリッジを製作しました。リテーナー厚み0.8mmの金属製接着ブリッジ(0.8M)、リテーナー厚みが0.8、0.5mmの高透過性ジルコニア製接着ブリッジ(0.8Z、0.5Z)(n=10)。シリコーンレプリカテクニックによりマージン部の適合を評価しました。静的負荷による表面歪みを計測し、ボンフェローニ補正を用いたt検定で統計的に解析を行いました。
結果:マージン部の適合は76.1μm以下で、臨床的に許容できるものでした。0.8Z、0.5Z群の表面歪みは0.8Mと比較して有意に小さく、ジルコニアのリテーナーの厚みを変化させても歪みに違いは認められませんでした。
結論:私たちの結果から、高透過性ジルコニア接着ブリッジのリテーナーの厚みは0.5mmで製作でき、金属接着ブリッジよりも形成量を削減できます。
ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
接着ブリッジは、従来の固定性ブリッジよりも脂質の削除量が少ないため、臨床現場で広く使用されています。様々な接着ブリッジ材料の中で、高い機械的強度と審美性でイットリア安定化ジルコニア多結晶体(Y-TZP)が注目されています。従来のジルコニアを接着ブリッジのフレームワークとして使用した場合、従来の金属による接着ブリッジのリテーナー厚さ0.8mmと比較して0.5mmと薄く作る事が可能です。ジルコニアを使う利点は、歯質切削量が最小化できることです。ジルコニア接着ブリッジは、従来の金属接着ブリッジと比較して良好な生存率も報告されています。
従来のジルコニア接着ブリッジは、唇面にポーセレンの前装が必要でした。ジルコニアによる固定性補綴の最も多い合併症はポーセレンのチッピングです。チッピングはメタルの固定性補綴物よりもジルコニアの方が発生しやすいです。有限要素法は、ポーセレンのチッピングを最小限にするための適切なジルコニアフレームワークデザインを解明するのに役立ちますが、モノリシックの方がチッピングや破折といった合併症を減らしてくれるでしょう。
最近、単冠、複数歯用にカラーマッチングが改良された高透過性ジルコニアが開発されています。高透過性の利点の1つは歯冠色の高い再現性であり、そのため、モノリシック透過性ジルコニは、単層構造で審美補綴物として満足度の高いオプションになるかもしれません。透過性ジルコニア修復は、従来型ジルコニアと同様に、アルミナサンドブラスト処理とレジンセメントの選択により強固に接着させることができます。さらに、接着ブリッジの形成は極力エナメル質内に限局されるべきです。そのため、高透過性ジルコニアは、薄いリテーナーでありながら強固に維持され支台歯を保護する接着ブリッジを製作するポテンシャルを有しています。本研究の目的は、異なる2種類のリテーナー厚さ(0.5mm、0.8mm)で高透過性ジルコニア接着ブリッジの適合性、歪みゲージを用いた表面歪みを評価し、メタル接着ブリッジと比較することです。
実験方法
マスター模型の製作
上顎右側側切歯欠損顎模型を実験模型として使用しました。上顎右側中切歯、犬歯を支台歯として形成しました。支台歯間の口蓋側は0.5mm形成しました。1.0mm径、0.5mm深さのホールを口蓋側面に形成しました。2.0mm長、0.5mm深さのグルーブを両隣接面に形成しました。歯頸部のフィニッシュラインはシャンファー形成し、エッジはすべてラウンド形成しました(図1)。

シリコーンゴム印象材(エグザミックスファイン)で印象後、コバルトクロム合金による金属歯モデルを製作しました。この金属モデルをマスター模型として使用しました。
マスター模型をアルミニウムチューブ(20mm長、1.0mm径)に常温重合レジンで固定しました。歯軸は支台歯の長軸から45度としました。
接着ブリッジの製作
親水性シリコーンゴム印象材(フュージョンII ウオッシュタイプとモノフェーズタイプ)を使用し、マスター模型の複印象を採得しました。印象にタイプIV石膏(ニューフジロック)を注入しました。この石膏模型を使用して以下の接着ブリッジ(n=10)を3種類製作しました。
リテーナー部の厚みが0.8mmの金属接着ブリッジ(0.8M)
リテーナー部の厚みが0.8mmの高透過性ジルコニア接着ブリッジ(0.8Z)
リテーナー部の厚みが0.5mmの高透過性ジルコニア接着ブリッジ(0.5Z)
高透過性ジルコニア接着ブリッジの製作
石膏模型をスキャナー(Lava Scan)でスキャンし、CADソフトウェア(DWOS LAVA edition)上で設計しました。犬歯とポンティック間の隣接面の面積は、0.8Z、0.5Zともに11.0mm2とし、中切歯とポンティック間の隣接面面積は、0.8Zで11.1mm2、0.5Zで10.1mm2としました。透過性ジルコニアディスク(3 M Lava Esthetic Fluorescent Full-Contour Zirconia)をミリングマシーンでミリング後にシンタリングしました。唇側面のみグレーズペーストを用いてグレーズし、1回だけ800度で焼成しました。全ての試料はマスター模型上に試適、調整を行いました。接着面以外を研磨しました。0.8Z、0.5Z共に10試料ずつ製作しました。
金属接着ブリッジの製作
金属接着ブリッジを製作するために、0.8mm厚の高透過性ジルコニア接着ブリッジのコピーをレジンパターン(パターンレジン)で製作しました。ポンティック外形の1mm内側をカットバックマージンとして規定し、ポンティック唇側面をコンポジットレジン前装のため1.0mm削除しました。リテンションビーズをカットバック領域に塗布しました。レジンパターンを金銀パラジウム合金で鋳造し、前装部をコンポジットレジンで前装しました。最後に接着ブリッジの調整と研磨をマスターも形状で行いました。10試料製作しました。
マージン部のフィットテスト
ブラックシリコーン(バイトチェッカー)を用いて全ての接着ブリッジのマージンフィットを確認しました。ブラックシリコーンの横断面をthe micron depth and a height measuring machineを用いて計測しました。切縁部、近心、遠心、歯頸部の4箇所を計測しました。
セメンテーション
リテーナー部の被着面は70μmのアルミナでサンドブラスト処理(0.2MPa、10秒、距離10mm)を行った後に、蒸留水で超音波洗浄を10分行いました。マスター模型の被着面をアルコールで清掃した後に、プライマー処理(Panavia V5 tooth primer)を行いました。リテーナー部もアルコール清掃後にセラミックプライマー処理((Clearfil Ceramic Primer Plus)を行いました。メーカー指示に従い、接着ブリッジをレジンセメント(Panavia V5)でマスター模型に装着しました。
ひずみの測定
歪みゲージ用セメントを用いて、3軸ロゼットゲージ2つを、各リテーナーの口蓋側面に手指圧1分で装着しました(図2)。これらの試料をジグを用いて室温で24時間位置固定しました。

万能試験機を用いて、直径4mmの球端を有するステンレス鋼棒を用い、クロスヘッド速度1.0mm/minで200Nまで荷重を加えました。荷重方向は歯の長軸から45度の角度で、ポンティックの中央を荷重しました(図3、4)。


歪みゲージからのアウトプットをセンサーインターフェース経由でソフトウェアで記録しました。その後、最大主歪み(εmax)を以下の様に計算しました。

εa、εb、εcは、それぞれのゲージから得られた歪みです。この歪みゲージは0度、45度、90度の位置に設置された3つのリニアゲージで構成されていました(図2,図5)。

正の値は引張歪みであり、負の値は圧縮歪みを意味します。εaからの角度θで表される最大主歪みの方向は、以下のように計算できます。

統計処理
SPSS 22.0を用いて統計解析を行いました。Shapiro-Wilk検定でデータの正規分布を確認した後に、各群のεmaxの違いをボンフェローニ補正を用いたt検定で計算しました。同様に、θの違いも解析しました。有意水準は5%としました。
結果
マージンフィットの結果を表1に示します。支台歯と接着ブリッジの間のブラックシリコーンはスムースかつ一定でした。平均マージンギャップの最大値は76.1μmでした。

最大主歪みの方向について表2に示します。

全ての群において、支台歯それぞれでほぼ同じ傾向を示しました(図7)。犬歯と中切歯のリテーナーは、頬舌側方向に歪んでいました。各群における平均θに統計的有意差は認めませんでした。

最大主歪みの平均値を図6に示します。0.8Mにおける犬歯の最大主歪みは、0.8Z、0.5Zよりも有意に大きい値を示しました。0.8Mにおける中切歯の最大主歪みも同様に0.8Z、0.5Zよりも有意に大きい値を示しました。しかし、0.8Zと0.5Zの間には有意差は認めませんでした。

考察
接着ブリッジの破折強さと特性に関する研究は数多く存在していますが、歪みゲージを用いた歪みに関する研究は殆どありません。過去の研究では、歪みゲージは表面歪みと補綴物の変形を解析するために用いられました。変形により、ストレスがレジンセメント層に集中し、補綴物が脱離します。歪みゲージを用いる事で、変形を高感度で測定する事が出来ます。この方法は、口腔内の修復物に実際起こる歪みも計測可能です。他の研究では、in vivoとin vitroで歪みに有意差はなかったと報告しています。言い換えると、歪みゲージを用いたin vitroの研究は、臨床的に有益な情報を提供できます。本研究では、接着ブリッジの形状を解剖学的形態に設計することで臨床状況を模倣し、マージンギャップは臨床的に許容される値である120mmを十分に下回りました。過酷な状況下での歪みを計測するために、最大咬合力(210.5N)を想定した200Nを歯軸から45度の角度でポンティック中央部に荷重しました。接着ブリッジの違い以外の全ての要素を除外するために、コバルトクロム合金による単一の金属歯モデルを選択し、人工歯根膜は使用しませんでした。
補綴物の変形は力のモーメントと弾性係数によって決定されます。金属接着ブリッジ(0.8M)の表面歪みが、同じ厚みの高透過性ジルコニア接着ブリッジ(0.8Z)よりも大きくなった理由は、弾性係数の違いと考えられます。金銀パラジウム合金の弾性係数は86GPa、高透過性ジルコニアの弾性係数は200~210GPaと報告されています。高透過性ジルコニアはとても硬いため、歪みにくいです。この結果は、高透過性ジルコニアは、金属より接着ブリッジの材料として適している可能性を示唆しています。加えて、薄い高透過性ジルコニア接着ブリッジ(0.5Z)は、金属接着ブリッジ(0.8M)と比較してより歪みにくく、厚い高透過性ジルコニア接着ブリッジと有意差を認めませんでした。これらの事実は、従来のジルコニアと同じく、0.5mm厚で高透過性ジルコニアも製作できる事を示しています。これらの知見は、ミニマルインターベンションと歯牙構造の保存という観点からとても重要です。金属接着ブリッジのフレームワークの厚みは、一般的には最低でも0.7mm以上必要です。しかし、日本人における口蓋側のエナメルの厚みは、上顎中切歯で0.3-0.6mm、上顎犬歯で0.4-0.9mmと報告されています。Brokosらは上顎前歯部の口蓋側エナメル質の厚みは0.7mmであり、口蓋側が最も薄いと結論づけています。そのため、高透過性ジルコニアを使用すればエナメル質内に窩洞が収まるため、金属よりも優れていると主張することができます。
接着ブリッジの脱離を防ぐため、グルーブを形成し接着面積を増やすことが有益であると報告されています。このメカニズムに基づき、中切歯の歪みが犬歯より小さかったのは、犬歯よりも中切歯が広い形成面を有するからであると示唆することができます。加えて、コネクター部の断面が広くなるに従って破折荷重が大きくなると示唆する論文がいくつか存在しています。本研究では、隣接部のグルーブを形成し、接着ブリッジをモノリシックジルコニアで製作しました。グルーブの形成により、接着面とコネクター断面の両方が増加します。モノリシック接着ブリッジのコネクター部には、ポーセレン前装のためのカットバックは必要ありません。これは、コネクター部の断面は維持されることを意味します。犬歯とポンティック間のコネクター部の断面は、0.8Zで11.0mm2、0.5Zで11.0mm2であり、中切歯とポンティック間では、0.8Zで11.1mm2、0.5Zで10.1mm2でした。それぞれの断面はだいたい同じぐらいであり、補綴物の維持には充分でした。そのため、0.8Zと0.5Zで歪みに有意差がなかったと考えられました。これらの結果から、機能時に最も応力が集中する接着ブリッジのコネクターは、硬いジルコニアのみで構成し、それが脱離リスクの軽減になるかもしれない、という事が示唆されました。
本研究では、咬合力を想定した際のリテーナー部の最大主歪みは、従来の金属接着ブリッジよりも高透過性ジルコニアの方が小さくなりました。高透過性ジルコニアにより、従来の0.8mmから0.5mmへとリテーナーの厚みを削減ですることができました。これにより歯質削合量を最小限に抑えつつ、エナメル質とジルコニアの接着性を確立できます。高透過性ジルコニア接着ブリッジの挙動は、長期機能を有する歯科補綴物の開発に寄与する可能性があります。
まとめ
考察中にin vitroとin vivoでは結果が変わらないという論文があるから、in vitroで実験をやったというような文章がありますが、あくまでin vitroであり、口腔内と完全に一致するかは少し考える必要があるでしょう。今回接着ブリッジを装着する歯はコバルトクロムであり、エナメル質や象牙質ではありません。補綴物の脱離は歯質とセメント間で起こると考えると、今回と同様の結果になるかはわからないところがあります。
しかし、この論文を読んでいて一番注意しないといけないなと思ったのは、上顎前歯部の口蓋側エナメル質の厚みはかなり薄いということです。日本人だと0.5mmない事も多いなら、0.5mmで厳密に形成できたとしても結局かなりの部分象牙質が露出しているということになります。象牙質とエネメル質では接着強さが全然違いますから、そこら辺も脱離に影響してきそうです。あと心情的に0.5mmはやはり薄すぎて怖い。とくにジルコニアで破折症例を経験した後なので0.5mm!?割れない?と思っちゃいます。