普通の歯科医師なのか違うのか

インレー、アンレー修復におけるCADCAMの精度に関するシステマチックレビュー

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回はクラウンのマージン精度に関する論文

前回はCADCAMと従来法におけるクラウン、またはそのコーピングのマージン部における適合精度に関する2018年のシステマチックレビューを読みました。

今回は似たような感じですが、内側性部分が含まれるインレー、アンレーについて検討した2019年フランスからのJPDの論文となりまる。クラウンの支台歯より複雑な形態となるわけですが、結果はどうなるでしょうか。

Marginal and internal fit of CAD-CAM inlay/onlay restorations: A systematic review of in vitro studies
Alexis Goujat, Hazem Abouelleil, Pierre Colon, Christophe Jeannin, Nelly Pradelle, Dominique Seux , Brigitte Grosgogeat
J Prosthet Dent. 2019 Apr;121(4):590-597.


Abstract

Statement of problem: Different parameters can influence the adaptation of computer-assisted design and computer-assisted manufacturing (CAD-CAM) inlay/onlay restorations. However, systematic reviews to identify and discuss these parameters are lacking.

Purpose: The purpose of this systematic review was to summarize the scientific literature investigating all parameters that can influence both the marginal and internal adaptation of CAD-CAM inlay/onlay restorations.

Material and methods: An electronic search was conducted by 2 independent reviewers for studies published in English between January 1, 2007 and September 20, 2017 on the PubMed/MEDLINE, Scopus, and Web of Science databases and in accordance with the Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses (PRISMA) statement. Factors investigated in the selected articles included the type of CAD-CAM system, virtual space parameters, version of the software, type of block, luting procedure, type of restoration, sample size and aging procedure, evaluation method, and number of measurement points per specimen.

Results: A total of 162 articles were identified, of which 23 articles met the inclusion criteria. Nine studies investigated adaptation with different restorative materials, 2 evaluated adaptation according to the type of preparation design, 9 compared adaptation before/after thermomechanical loading, and 2 before/after cementation, 1 study investigated marginal adaptation based on whether the optical scan was made intraorally or extraorally, 1 compared adaptation with 5 and 3 axis CAM systems, and 1 assessed adaptation with 4 different intraoral scanners. The risk of bias was high for 7, medium for 15, and low for 1 of the studies reviewed. The high level of heterogeneity across the studies excluded meta-analysis.

Conclusions: Most of the studies reported clinically acceptable values for marginal adaptation. The performance of a CAD-CAM system is influenced by the type of restorative material. A nonretentive cavity preparation exhibited better adaptation than a retentive preparation. Most studies showed that thermomechanical loading affected the quality of marginal adaptation. Cementation increased marginal discrepancies. No statistically significant difference was found for marginal fit of onlays between intraoral and extraoral optical scans using a stone die. The number of milling axes, the type of digital camera, and the region measured were statistically significant in relation to marginal/internal adaptation. Values of adaptation recorded failed to reproduce the preestablished spacer parameters in the software. Clarification is needed concerning adaptation according to the type of preparation design, the type of material, the choice of intrinsic parameters for the CAD process, the type and shape of milling instruments, and the behavior of the material during milling. Adaptation of CAD-CAM inlay/onlays should be evaluated under clinical conditions.

問題の背景:CADCAMによるインレー、アンレー修復の適合には様々な要因が影響しています。しかし、その要因に関して確認、議論したシステマチックレビューは存在していません。

目的:CADCAMによるインレー、アンレー修復のマージン、内面適合に影響する全ての要因を調査した論文を要約することです。

実験方法:2007年1月から2017年9月までに期間にパブリッシュされた英語論文に関して2人の独立したレビュアーがPubmed/MEDLINEその他で検索を行いました。システマチックレビュー、メタアナリシスに好ましい論文を優先して検索しました。要因としてはCADCAMシステム、セメントスペース、ソフトウエアのバージョン、ブロック、セット過程、修復の種類、サンプルサイズと経年劣化の過程、評価法、測定点数などがありました。

結果:162の論文が確認され、23の論文が基準に該当しました。9つの論文は異なる材料による適合に関するものでした。2つは形成デザインによる適合に関して評価していました。9つは熱機械的な負荷前後での適合を比較、2つはセメンテーション前後での比較、1つは口腔内、口腔外でのスキャンがマージン適合に及ぼすかどうか、1つは5軸と3軸のCAMシステムでの適合比較、1つは4つの異なるIOSによる適合に関してでした。バイアスリスクは7つの論文で高い、15が中程度、1つが低いと評価しました。不均一性の高い論文はメタアナリシスから除外しました。

結論:殆どの論文ではマージン適合は臨床的に許容できるものでした。CADCAMシステムのパフォーマンスは修復材料により影響を受けました。抵抗形態を付与しない場合の方が付与する場合よりも良好な適合を示しました。殆どの論文では、熱機械的な負荷はマージン適合に影響を与えました。セメンテーションによりマージンの離開量は大きくなりました。口腔内、口腔外でのスキャンによるアンレーのマージン適合には有意差はありませんでした。ミリングの軸数、デジタルカメラの種類、測定領域、はマージンと内面の適合に有意な関連性を認めました。記録した適合の値とソフトウェア上で予め設定したスペーサー値は一致しませんでした。形成デザイン、材料、CADプロセスの内在的パラメーターの選択、ミリングの種類や形態、ミリング時の材料変化などによる適合への関与はさらなる研究が必要です。CADCAMインレー、アンレーの適合は臨床的に評価されるべきです。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

CADCAMとIOSは従来の印象と鋳造工程の代替として普及しつつあります。秀句過程は支台歯のスキャニング、修復物のデザイニング、センターまたはラボ、チェアサイドでのミリングなどを含みます。CADCAMは修復物の正確性を高める潜在能力があり、それは製作工程を省略できることに基づいています。CADCAMは従来法と同等かそれ以上の結果をもたらすかもしれません。インレー、アンレーは全部被覆冠より保存的なアプローチであり、セメント能力の向上により維持形態があまり必要ではなくなりました。加えて、間接法によるコンポジットレジン修復の重合収縮によりセメントスペースは限定されます。CADCAMインレー、アンレーはセラミックでは10年で88.7%成功、コンポジットレジンでは5年で84.78%成功と報告されており、満足いくレベルです。

現在インレーアンレー修復で使用されている材料は、ガラスセラミックスとコンポジットレジンブロックです。ガラスセラミックスは長石を含むポーセレン(Mark II; VITA Zahnfabrik)、リューサイト強化型セラミックス(Empress CAD; Ivoclar Vivadent AG, Initial LRF Block; GC Dental Products)、二ケイ酸リチウム(e.max CAD; Ivoclar Vivadent AG)、ジルコニア強化型ケイ酸塩リチウムガラスセラミックス(Suprinity; VITA Zahnfabrik, Celtra Duo; Dentsply Sirona)などの種類があります。CADCAMでは分散型フィラーを用いた新しいコンポジットレジンブロック(Lava Ultimate; 3M ESPE, CERASMART; GC Dental Products)とポリマー浸潤型セラミックネットワーク材料(Enamic; VITA Zahnfabrik)を使用する事が出来ます。これらの新しい材料は高温高圧下で重合されています。そのため、従来型のコンポジットレジンよりも物性が機械的、生物的に優れています。さらに、破折抵抗の向上、弾性係数が低く象牙質に近似した物性を有しています。

 いくつかの要因が間接法による修復におけるマージンや内部適合の質を含む長期予後に影響します。マージン適合が不良な場合、微少漏洩やセメントの溶解を招き、二次カリエスや歯肉炎に至る可能性があります。加えて、内部適合が不良だとセメントの厚みが増加、維持力が変化、咬合への影響、修復物の破折強度の減少、そしてマージン適合の不良にも至ります。インレー、アンレー修復においてマージンと内部の適合は特に重要です。

 著者らはCADCAMによるインレー、アンレー修復でマージン、内部適合に関して検討されているシステマチックレビューを見たことがありません。そのため、本研究の目的はin vitroでの研究をレビューし、マージン、内部適合両方に影響を与えるCADCAMテクノロジーに関するものをレビューすることです。

実験方法

今回のシステマチックレビューはPRISMAに沿って行われました。PubMed/MEDLINE、Scoups、web of Scienceの3つのデータベースから2007年1月~2017年9月までにパブリッシュされた論文を検索しました。検索方法は以下の様になります。

残った論文のバイアスリスクに関しては、最後の追加表1を御覧ください。in vitroの研究だからか、ブラインドは殆どの研究でされていません。ブラインドとしたら材料差を見る場合はブロックをブラインドする形なのでしょうか?

yesが1から3の場合、バイアスリスクが高い、4,5の場合は中間リスク、6,7の場合は低いという分類をしています。

結果

除外していくと最終的に23の論文が残りました。

論文の内容については大まかには図2のようになります。詳細は追加表2、3を御覧ください。

適合の測定方法で研究がまず分類されています。直接測定、3D micro-CT、3Dスキャナーの3種類が存在しており、そこからさらにセメンテーションするかしないかで分類されています。今回収集した論文では直接測定が最も多くなっています。

EE, enamel etch; mO, optical microscopy; SARC, self-adhesive resin cement; SEM, scanning electron microscopy;
RC+SE, resin cement+self-etch; RC+TE, resin cement+total etch.

今回の論文におけるマージンの適合度は36μm~222.5μmで、内部適合は23μm~406.5μmとなりました。マージン適合に関してギャップがない割合は象牙質で43%~92%、エナメル質で51%~98.4%となりました。また内部適合では象牙質で71%~89%となりました(%gap-free unit valuesというのがちょっと意味がわかりませんでした)。マージン適合は修復物の辺縁から形成限界までの距離を計算しています。試料が分割されている場合、マージンギャップは絶対的なマージン離開量と考えられます(絶対値かもしれません)。そのためいくつかの修復物はオーバーまたはアンダーである可能性がありえます。特にオーバーは好ましい状況ではなく、プラークの集積を引き起こすかもしれません。

9つの論文は異なる材料によるマージン、内部適合を評価しています。5つの論文は、マージン、内部適合に関するCADCAMシステムのパフォーマンスが修復材料により影響を受けるかどうかを検討しています。マージンの適合に関しては3つの論文でレジン系とガラスセラミック系で有意差を認めなかった一方、他の3つの論文では、レジン系の方が有意に優れていました。特に歯頸部のマージン部での適合において優れていました。内部適合に関しては3つの論文では2つの材料間で有意差を認めなかったものの、2つの論文ではレジン系の方が有意に適合が優れた結果となりました。2種類のレジン系材料を比較した場合、1つの研究では内部適合に有意差を認め、もう1つではマージン、内部適合療法に有意差を認めました。

2つの研究から、維持形態の付与は内部、マージン部のギャップが大きくなる事が報告されています。2つの研究でセメンテーション前後でのマージン適合を評価し、レジンセメント+セルフエッチングまたはトータルエッチングとトータルエッチングのみではマージン部の離開が大きくなると報告しています。この2つの研究では修復物をセットする前のボンディングは光重合ではありませんでした。

9つの研究がマージンの適合をμmの単位で測定しているか、時間経過後のマージンの連続性の割合で評価しています。6つの研究で、熱機械的な負荷の後にはマージンの連続性が有意に低下しました。一方で2つの論文では負荷前後で有意差を認めず、1つの論文ではむしろ負荷後にマージンの適合が有意に改善しました。

ある研究では4つのスキャナー(iTero, caraTRIOS, CEREC AC with Bluecam, and Lava COS)を比較し、システムの違いにより有意差を認めました。iTeroが最も良いマージン適合で、CEREC AC with Bluecamが最も良い内部適合という結果になりました。直接的なスキャニング(IOS?)が15の論文で採用されており、間接的なスキャニングは8つの論文で採用されていました。唯一、口腔内と口腔外のスキャニングを比較した論文では有意差を認めませんでした。ミリングの軸数を比較した研究では咬合面のギャップと軸面のギャップに関して5軸の方が3軸よりも良好な結果となりました。

試料毎の測定点数はマージン適合においては6点~600点、内部適合に関しては7点~320点でした。各論文により結果の表記も様々で平均値のみで表記してあるものから、各測定領域での平均値、最も良い値、指定した点での値などがありました。

23の論文中、3つがセメントスペースを指定、8つがセメントスペースと接着ギャップの両方をソフトウェア上で指定していました。セメントスペースは30~140μmで接着ギャップは20~50μmで設定されていました。記録した適合の値とソフトウェア上で予め設定したスペーサー値は一致しませんでした。

考察

臨床的に許容できるマージン離開量にコンセンサスはありません。100μm以下という人もいれば、120μm以下という人もいます。今回用いた殆どの論文ではマージンギャップは120μm未満でした。内部の適合に関しては70~120μmが提唱されています。今回の論文の内部適合は50~100μmで、最もよいレジンセメントのパフォーマンスが期待できると思われます。

CADCAM材料がマージン部、内部の適合に影響する可能性が示唆されました。また、マージン内面適合に関するCADCAMシステムのパフォーマンス自体も材料により影響を受けます。低硬度、弾性率はグラインディング時に削れていきます。逆に硬い材料はエッジのチッピングも少なく、機械的な物性も良い、適合性も良いという報告もあります。ミリングインスツルメントの種類や挙動の影響はさらなる研究が必要です。

同じスキャンデータ、ソフトウェアで4軸または5軸にてミリングしたところ、5軸の方が適合が良い結果となりました。特に咬合面のギャップと内部軸面ギャップにおいて良好な結果でした。切削器具のサイズと形態も適合に影響をあたえると報告されています。インレー、アンレーなどの複雑な形態の場合0.6mm径以下のミリングインスツルメントを使用するべきです。

インレー、アンレー窩洞の複雑さは口腔内でのスキャンにも影響します。スキャナーの違いが適合に影響する可能性が示唆されていますが、違いについて検討された論文は殆どありません。他の影響するパラメーターとしてはセメントスペースがあります。今回の論文の約半分が垂直的なスペース量を指定していません。セメントスペースのセッティングはCADCAMによる修復物のマージン適合に有意な影響を及ぼします。クラウンの研究では、設定したセメントスペースと実際のマージン、内部の適合は一致しませんでした。間接法によるデジタルスキャンの場合、印象採得して石膏模型を製作するため、色々なエラーが起こる可能性が存在します。クラウンに関する4つの研究で口腔内での直接スキャンの方が石膏模型の間接スキャンよりも適合が良好だったと報告しています。

結論

1.殆どの研究では、臨床的に問題の無いマージン適合(<120μm)であった。
2.CADCAMシステムのパフォーマンスは材料の影響を受けた。
3.維持形態がない方が良い適合だった。
4.殆どの研究で熱機械的な負荷はマージン適合に影響し、セメンテーションはマージン離開を増加した。
5.アンレーのマージン適合は口腔内スキャン、模型スキャンで有意差はなかった。
6.5軸のミリングマシーンの方が3軸より適合が良かった。
7.部分被覆修復物の適合はスキャナーに依存する。
8.測定された部位は、辺縁/内部適応に関連して統計的に有意であり、歯肉縁および窩底と歯軸ではより大きなギャップが見られた。
9.殆どの研究では設定したセメントスペース以上のスペースが計測された。

まとめ

インレー、アンレーは複雑な形態ですから今回のレビューでは直接スキャンと間接スキャンで有意差はなかったと結論づけています。基本的にin vitroの研究ですから、クラウンで直接スキャンが間接スキャンよりも優秀という結果が完全に口腔内での実臨床に一致するわけではありません。口腔内で全ての形成面が正確にスキャンできるかは別問題かと思います。ただし、やはり印象から石膏模型製作ステップで絶対にエラーが蓄積することは確かなので、近未来に口腔内スキャンした方が適合がよくなることはおそらく間違いないのではと思います。

レジン系の方が適合がよかった、というのはちょっと意外な気がしますが、やはりガラスセラミックスは最後熱を加えるせいでしょうか。

抵抗形態を付けずにシンプルな形態にした方がよい、というのはスキャンやミリングの精度的に理解出来ます。複雑な形態を付与する場合はおそらく従来法を選択した方がよいでしょう。

前回の論文ではin vitroだけではなくin vivoの論文も含まれており、クラウンのマージン適合は材料や製作法によってCADCAMと勝ったり負けたりであり、一概に今の段階ではどっちが良いとは言えない、という結論でした。

どちらにしても、CADCAMの進歩は早いので5年後ぐらいにはまた結果が変わってる可能性はありそうです。

追加表1

追加表2

追加表3

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

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