普通の歯科医師なのか違うのか

NCCLは酸蝕+色々な要因と考えるとすっきり?

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

NCCLのリスクファクターは何なのか?

前回までのブログでCEJより根尖側の象牙質は歯ブラシで磨くと削れてしまう事がわかりました。特に研磨性の高い歯磨剤を用いて硬い歯ブラシを使用するとかなり鋭角的なNCCLを生じるという研究でした。

これらの研究はあくまで抜去歯を用いた研究室レベルの実験であり、実際の人を用いた実験ではありません。今回は人を用いたケースコントロールスタディです。2019年とかなり最近の論文です。

Alvarez-Arenal A, Alvarez-Menendez L, Gonzalez-Gonzalez I, Alvarez-Riesgo J A, Brizuela-Velasco A, deLlanos-Lanchares H. Non-carious cervical lesions and risk factors: a case-control study. J Oral Rehabil 2019;46: 65–75.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30252966/

Abstract

Objectives: To evaluate whether the presence of non-carious cervical lesions (NCCLs) was related to the considered risk factors and to show the corresponding odds ratio in a predictive model.

Methods: The sample was 280 dentistry students. In an initial clinical examination, 140 cases were selected that presented one or more teeth with non-carious cervical wear. For each case, a similar sex and age control without any tooth with non-carious cervical lesions was selected. An occlusal examination and periodontal probing were performed in all cases and controls by skilled dentists. All the subjects answered a questionnaire referring to factors of brushing, bruxism, preferred chewing side, consumption of extrinsic acids and the presence of intrinsic acids. Data were analysed by means of univariate and multivariate logistic regression.

Results: Of all the study variables, only the protrusion interferences, interferences on the non-working side, the brushing force, CPITN value and the consumption of salads increase the risk of NCCLs in the univariate regression. The best predictive model was formed by the combination of CPITN variables >1, the consumption of acidic salads, self-reported bruxism, brushing force and attrition. However, it only correctly classifies 68.75% of subjects.

Conclusions: This study supports the multifactorial aetiology of NCCLs, the combination of several factors being necessary to explain their presence. The risk factors that make up the predictive model are not sufficient to explain the appearance of NCCLs. Dentists should take into account all these risk factors in prevention, diagnosis and treatment.

目的:NCCLと関連するリスクファクターを評価して予測モデルを構築してオッズ比を算出することです。

方法:280名の歯学部生を集めて初期の評価を行いました。その結果、1つまたはそれ以上のNCCLを認めた140ケースを抽出しました。NCCLの歯以外は性別や年齢に関してコントロールされています。咬合診査やプロービング検査等が全てのケースで行われました。被験者はブラッシング、ブラキシズム、主咀嚼側、外因性酸性物質の摂取、内因性酸性物質の存在等について問診されました。データはロジスティック回帰分析により解析しました。

結果:今回の研究の全ての因子中、前方滑走時の干渉、非作業側での干渉、歯磨き時の力、CPITN、サラダ摂取がNCCLのリスクとなりました。ベストの予測モデルはCPITN>1、酸性サラダの摂取、ブラキシズムの自覚、歯磨き時の力と摩耗となりました。しかし、このモデルでは被験者の68.75%しか正確に分類できません。

結論:本研究ではNCCLは多因子性病因であることを指示しています。いくつかの要因が複合する子でがNCCLの存在を説明するのに必要です。今回の予測モデルを構築するリスク因子はNCCLの発現を説明するのに不十分です。歯科医は予防、診断、治療において全てのリスク因子を考慮する必要があります。

ここからは適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。

緒言

若年層のNCCLの発生は重要な歯科的な健康問題です。病因を知り理解することにより歯科医師は適切な治療を選択する事ができ、患者は予防策を講じることができます。しかし、NCCLの病因に関しては未だに議論の対象です。
現在は多因子性であることが広く支持されています。酸蝕(内因性、外因性)、摩耗(ブラッシング)、アブフラクションに加えて唾液の修飾効果の複合に基づくものと考えられています。しかし、多因子性であるということに対する科学的な根拠は最近のシステマティックレビュー(文献9)が指摘しているとおり充分ではありません。このレビューによるとNCCLの研究の殆どは横断研究でランダム化されていません。コホート研究はなくケースコントロールスタディも2つのみです。ロジスティック回帰分析によるオッズ比によりNCCLとリスクファクターの関連を調べた論文はあまりありません。さらに採用されたリスクファクター間に因果関係がある可能性が示唆されています。

ある研究では咬合調整はNCCLが発達するのを抑制する効果はなかったと報告していますが、他の研究では咬合力や応力はリスク因子であると同時にブラッシングや酸性食品の摂取等はリスク因子ではないと報告しています。最近のシステマティックレビューは咬合がNCCLの病因であることに否定的です。同様に、他の臨床横断研究では咬合、ブラキシズム、ブラッシングに関する因子、食品酸性摂取パターン等に関してNCCLとの有意な関連は報告されていません。

数多くの研究でNCCLのリスクファクターを解明する試みがなされてきましたが、未だ達成されていません。そこで縦断ケースコントロールスタディである本研究の目的は、咬合、ブラッシング、酸性食品の摂取などがNCCLと有意に関連するかどうかをロジスティック回帰分析で評価する事、相関の強さを明らかにすること、予測モデルを構築することです。

実験方法

スペインの6つの歯学部からランダムに280名の学生を選択しています。各歯学部において約25名のNCCL群と約25名の非NCCL群が選ばれて合計280名となっています。両群共に女性の方が多いです。

被験者全員が質問への回答を行い、口腔内診査が行われます。
NCCLが視診でみつかった、またはプローブで触診された場合にNCCL群となります。プローブを歯肉溝から歯冠をなぞるように動かして凹みが観察されたなら、スミスとナイトの分類によりスコア2(深さ<1mm)またはそれ以上と判断されNCCL群へ組み込まれます。
コントロールはケースと男女数が完全に一致、年齢層に関しては近似するように調整されています(表1)。
矯正や歯頸部への修復、補綴治療が行われている学生は全て除外となっています。

質問自己回答の項目
歯ブラシの仕方(磨き方、力、頻度)
酸性食品、飲料の摂取
胃食道逆流の有無
摂食障害の有無
ブラキシズムの有無
主咀嚼側

臨床診査
静的な咬合状態(アングルの不正咬合分類、オーバージェット、オーバーバイト、クロスバイト等)
動的な咬合状態(最大接触状態、早期接触の有無、前方、側方時のガイド)
咬耗の有無
CPITN

結果

単変量解析の結果、NCCLの存在に有意に影響する変数を表1~3に示します。

力強い歯磨き
CPITN
サラダに酸性のドレッシング
外因性の酸
前方滑走時の干渉
非作業側の干渉

ブラキシズム
がNCCLの存在に有意に影響が認められる項目となっています。

多変量解析の結果ですが、以下の様になります。CPITNが4だと凄いオッズ比ですがポケット6mm以上の存在ということになりますので、若い歯学部生でCPITN4はちょっとヤバい感じしかしません。
また、サラダにお酢やレモンなどをかけるかどうかですが、1日2回が最大という回答で有意差があり、オッズ比は1.83です。
歯ブラシの力が強い場合もオッズ比1.87、咬耗(摩耗)の存在がオッズ比1.83となっています。

ROC曲線

今回構築した予測モデルのROC曲線は以下の通りで、縦軸が感度、横軸が特異度となります。感度はNCCL陽性であることを判断できる割合、特異度は健常者である事を判断できる割合となります。

ROC曲線の評価については以下のサイトが参考になりました。https://miii.me/716.html

この曲線をみると曲線Cに一番近いと感じます。
この曲線の評価ですが、以下の様になります。

構築したモデルで如何に疾患群と非疾患群を明確に分けられるかが大事ですからCが好ましい事になります。つまり今回の予測モデルは優れていると考えられます。
ただし、それでも感度は64.29%となります。他の実際使用されてるスクリーニング検査と比較するとそれほど高い感度を有しているとはいえないです。

考察

今までの研究でも色々な事が言われていてリスク因子、病因が何なのかはっきりしません。5年間の前向き研究では最大摂食時の咬合力のみがNCCLと関連して他の食事摂取、歯磨き等は関連しませんでした。

臨床研究の多くでは、歯頸部のwearにおいて咬合要因、歯磨き、食事などに関連したリスク因子の1,2群の独立した影響が示唆されてきました。今回の研究結果から下顎運動の干渉がNCCLの存在に影響を与える可能性が示唆されましたが、一般的には咬合要因を肯定する研究も否定する研究もあります。
ブラキシズムの自覚や咬耗の存在は今回の予測モデルに組み込まれた5つの因子のうちの2つですが、過去の報告で支持されたものもあれば関連性を否定するものもあります。

ブラッシング方法に関して色々な要因があるにも関わらず、今回は力強い歯磨きのみが有意差を認めました。歯頸部応力や酸性環境で脆弱化したエナメル質がが歯ブラシで摩耗する可能性が考えられますが、NCCLと歯磨き単独の関連性を示唆する論文は殆ど有りません。NCCLは歯ブラシをしていない人達にも認められており、in vitroの研究では歯磨き単独だけでは不十分であることを示しています。

酸性食品摂取に関しては今回の研究でもNCCLとの関連性が示唆され、他の研究でも報告されています。酸蝕はNCCLの発現に主体的な役割を果たし、ブラッシングと咬合要因はNCCLの発達に関与しているかもしれません。

CPITNに関して相関が出た事には、CPITNが高いと言うことは歯肉の炎症やプラークの付着があるということで、歯肉溝のpHや歯周病菌によるエナメル質の脆弱化等の可能性があるかもしれません。

今回の研究に関しての限界は臨床診査と問診を同時に行っており、NCCLはすでに存在していたわけで純粋にNCCL発生時の状態とリンクしないということがまずあります。またNCCLは年齢が上がるほど発生率が上がりますが、今回はかなり狭い年齢域の被験者を用いています。その他にも自己申告制の質問表記載にも正確性が欠ける可能性などが記載されています。

まとめ

CEJ近くのエナメル質に関する話が出てきて話の前提にずれを感じましたが、これはアブフラクションを考慮に入れているため、エナメル質が引っ張り応力で破壊されてNCCLができるという概念が無視できないという事かと思います。
いままで読んできたアブフラクション否定の論文だとCEJ根尖側の象牙質が削れることがさも前提なのでちょっとドキッとしました。

CPITNに関してもそれぐらい歯周病が進行していたら歯肉退縮も明確でしょうからNCCLができるチャンスはかなりあるという思考回路だったのですが、今回の考察では自分の考えと全く違う考察になっているのが面白い所です。

単変量解析では酸蝕要因のオッズ比が高い結果となっています。1日2回以上サラダにレモンや酢をかけて食べる場合のオッズは4以上です。力強い歯磨き、咬合などの要因はオッズ比は2前後となっています。

これからするとやはり酸蝕のNCCLへの関与はかなり強いと考えられると思います。酸蝕+歯磨きや咬合要因によりNCCLが発生し大きくなるという多因子前提でNCCLが多発している患者さんには問診や検査が必要ではないかと考えます。

ただし、リスク因子が実際どういうものの寄与率が高いのかについてはまだ議論の対象でありますので今後の研究がさらに必要かと思います。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
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