普通の歯科医師なのか違うのか

モノリシックジルコニアと二ケイ酸リチウムクラウンでのwearの比較

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学(現東京科学大学)卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学、岩手医科大学

前回読んだ論文、オールセラミック材料のtooth wearに関するシステマティックレビューで二ケイ酸リチウムとモノリシックジルコニアのwearに差があるのかないのか、どちらが対合歯をより削るのかが気になりました。そこで引用されているもので、「あるin vivoの研究では、二ケイ酸リチウムの対合歯では、ジルコニアの対合歯と比較してエナメル質のwearが少なかった」と紹介されている論文を読んでみることにしました。インドの補綴誌みたいなんですが、もうそれだけでちょっと不安ですね。

Comparative evaluation of natural enamel wear against polished yitrium tetragonal zirconia and polished lithium disilicate – An in vivo study
Girish S Nazirkar , Swati Vijay Patil , Priyanka P Shelke , Preetam Mahagaonkar
J Indian Prosthodont Soc. 2020 Jan-Mar;20(1):83-89. doi: 10.4103/jips.jips_218_19. Epub 2020 Jan 27.
PMID: 32089603

Abstract

Aim: The aim of this study is to compare wear of the natural teeth against polished yttrium tetragonal zirconia and polished lithium disilicate crowns.

Study setting and design: Experimental type of study.

Materials and methods: Polished yttrium tetragonal zirconia and polished lithium disilicate crowns were fabricated and given to 15 patients each (n=15). Crowns were fabricated opposing natural tooth. Patients were recalled after 1year and impression were recorded with opposing arch and baseline and final cast were scanned and superimposed using 3 D scanner.

Statistical analysis used: Data collected by experiments were computerized and analyzed using the Statistical Package for Social Sciences (SPSS) version 16.0. The normality of the data was checked using the Kolmogorov-Smirnov test and Shapiro-Wilk tests. The data were normally distributed. Statistical analysis was done by using tools of descriptive statistics such as Mean, and Standard Deviation for representing quantitative data (enamel wear measured in μm) Parametric tests: Student t-test for intergroup comparison was done.

Results: No statistical difference were found between wear of opposing enamel for polished yttrium tetragonal and polished lithium disiliacte crowns [p=0.446].

Conclusion: Within the limitations of the study, it can be concluded that polished lithium disilicate showed better clinical outcome than polished yttrium tetragonal zirconia, though the evaluated data was statistically non significant.

目的:本研究の目的は、研磨イットリア正方晶ジルコニアと研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合歯である天然歯のwearを比較することです。

研究デザイン:実験研究

実験方法:研磨イットリア正方晶ジルコニアと研磨二ケイ酸リチウムクラウンをそれぞれ15名の患者に製作しました。天然歯の対合にクラウンを製作しました。患者を1年後にリコールしました。ベースラインとリコール時の印象を採得し、製作した石膏模型をスキャン、重ね合わせを行いました。

統計解析:得られたデータをSPSS16.0にて解析しました。データの正規性をKolmogorov-Smirnov testとShapiro-Wilk testsにてチェックし、正規分布であることを確認しました。定量データ(μm単位で測定したエナメル質wear量)を表すために平均値や標準偏差などの記述統計学的手法を用いて実施しました。パラメトリック検定:群間比較にはスチューデントのt検定を行いました。

結果:ジルコニアと二ケイ酸リチウムクラウンの対合歯エナメル質wear量には有意差はありませんでした。

結論:統計的有意差はありませんでしたが、研磨二ケイ酸リチウムは研磨イットリア正方晶ジルコニアよりもよい臨床結果が認められたと結論づけることができます。

ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

エネメル質のwearは複雑なプロセスであり、エネメル質の厚さや硬さに影響されます。対合歯の接触は、wearと歯科材料の段階的な除去(gradual removal of dental material)の主な原因です。硬い凹凸が柔らかい表面に食い込む、パラファンクションと神経筋力との組み合わせによる咀嚼行動、ならびに食物や対合歯による摩耗によりwearが起こります。

最も一般的な固定性補綴治療は、全部被覆冠による治療です。審美的、メタルフリー、生体親和性修復物への需要の増大により、企業は様々なタイプのオールセラミック材料、例えば、長石系陶材、リューサイト強化ガラス、二ケイ酸リチウム、アルミナ、イットリア正方晶ジルコニアといったものをここ数十年の間で開発してきました。セラミックはエネメル質、象牙質の特性を模倣し、生体親和性、化学的耐久性を有しており、そのために広く使用されています。

イットリア正方晶ジルコニアは、好ましい寸法安定性、機械的抵抗力、硬さ、弾性係数などから、数多くの研究、臨床試験が行われています。In vitroでの研究では、曲げ強度が900-1200MPaで、破折強度が9-10MPa/m2でした。

エンプレス2システムは二ケイ酸リチウムコア材料を使用します。ロストワックスとプレステクニック、ミリングのいずれかでフレームワークを製作します。二ケイ酸リチウムコア材料の破折強度は2.8-3.5MPa/m2です。二ケイ酸リチウムは透明度の高い修復物を製作できます。強度と耐久性を確保するため、これらの修復物は適切に接着することが推奨されます。

エナメル質と修復材料自身のwearは、修復材料の選択と密接な関連があります。イットリア正方晶ジルコニアと二ケイ酸リチウムを含む色々なin vitroの研究が行われており、グレージングジルコニアと研磨ジルコニア、研磨二ケイ酸リチウムクラウンが対合天然歯エナメル質に与える影響を評価するためにACTAやOSHUなど異なった方法が用いられています。

しかし、長期にわたるin vitroの研究とin vivoのシチュエーションを関連づける試みはうまくいっていません。in vivoでの複雑なwearの挙動は、物理的、機械的な試験からは予測できません。in vitroでは、実際の咀嚼環境を表現していませんし、複雑な咀嚼パターンをシミュレートできません。そのため、モノリシックイットリウム正方晶ジルコニア多結晶(Y-TZP)とモノリシック二ケイ酸リチウムクラウンのwearポテンシャルを評価し、比較するin vivoの研究が必要です。

そのため、研磨二ケイ酸リチウム、研磨Y-TZPの対合エナメル質のwear体積を、3Dスキャンと重ね合わせにより比較評価する臨床試験を計画しました。

実験方法

本研究は、インドのマハラシュトラ州サンガムナーにあるSMBT歯科大学病院の補綴科にて2017~2018年に行われました。倫理審査は承認されました。インフォームドコンセントに患者がサインを行いました。

サンプルサイズを関連論文、研究、レビュー文献およびサンプルサイズ計算式を参照して算出しました。本研究の検出力は低いため、サンプルサイズは30と設定しました。

サンプルをA群とB群の2群に分割しました。それぞれに15名の被験者を割り当てました。本研究はランダム化臨床試験であり、サンプルは以下の採用除外基準で選択しました。

採用基準
a 正常咬合
b 全部被覆冠を提案した歯の対合が天然歯
c 第1大臼歯、または第2大臼歯にクラウンの治療が必要
d 反対側には比較するための天然歯が存在
e 20~40台

除外基準
a 歯科治療が医学的に禁忌
b ブラキシズムのようなパラファンクションを有する
c 顎関節症または、片側咀嚼習慣がある
d 研究期間1年間の居住状況が不明確

30名の選択後に、15名を研磨イットリウム正方晶ジルコニアクラウンによる治療を行う1群に割り当てました。他の15名を研磨二ケイ酸リチウムクラウンによる治療を行う2群に割り当てました。プロトコルに則り、支台歯形成を行いました。研磨モノリシックジルコニア(Sagemax white zirconia blocks)と研磨二ケイ酸リチウム(IPS e. max)クラウンをメーカー指示に従い製作しました。両方のクラウンをタイプ1グラスアイオノマーセメント(GC Gold Label)にて合着しました。

ベースラインの記録として、クラウン合着後にシリコーンゴム印象材を用いて対合歯の印象を行いました。スキャン精度14μmの3Dスキャナー(図1)を用いて、ベースライン時の石膏模型をスキャンしました。患者をクラウンの評価のために12か月後にリコールしました。12か月終了時点で、最終記録として2回目の印象を行いました。ベースライン時と同等に模型の3Dスキャンを行いました。

スキャン後に、ベースラインと最終時のスキャンデータの重ね合わせを行いました。重ね合わせはwearしていないと考えられる3点または3エリアのリファレンスポイントを選択する事により行いました。その後、2つの画像間の空間的差異を特定・定量化し、これによりwear量を3次元で測定しました。これにより、wearの臨床的特徴と関与する可能性のあるメカニズムについて、より現実的な見解が得られます(図2,図3)。

実験により集めたデータを統計解析しました。データの正規性をKolmogorov–Smirnov testとShapiro–Wilk testsで検討しました。Lawsonらも同様に正規性を検討しています。データは正規分布していました。定量データ(μm単位で測定したエナメル質wear量)を表すために平均値や標準偏差などの記述統計学的手法を用いて実施しました。パラメトリック検定:群間比較にはサンプルサイズが30を超えないため、スチューデントのt検定を用いました。

結果

ベースライン時と12か月後の対合歯列模型をスキャン、重ね合わせを行う事でwearを計測しました。1群、2群の12か月のwear量を表1,表2に示します。

研磨ジルコニアクラウンの対合歯の天然エナメル質のwear量と、天然歯と対合した天然エナメル質のwear量間では統計的有意差を認めました(表3)。

研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合歯の天然エナメル質のwear量と、天然歯と対合した天然エナメル質のwear量間では統計的有意差を認めました(表4)。

研磨ジルコニアクラウンの対合歯エナメル質のwear量と研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合歯エナメル質のwear量の比較では、統計的有意差を認めませんでした。両者のwear量は同等でした(表5)。

考察

天然歯対天然歯または天然歯対修復物が接触する時、それぞれが滑走し天然歯のエナメル質に不可避の変化が起こります。しかし、修復に使用する材料によりそのプロセスが加速されます。歯の構造との違いから、材料はwear特性を有するかもしれません。エナメル質により材料のwearが起こりますし、材料によりエナメル質のwearがより大きく起こります。クラウンブリッジ、部分床義歯の咬合面に使用する材料に必要な特徴は、wear耐性と対合歯にマイナスの影響を与えないことです。wearを観察評価する事は、wearメカニズムを理解するのに必要です。

Pindborgは、硬組織の欠損をカリエス、酸蝕、咬耗、摩耗に分類しました。主に、wearは5種類あると思われます。咬耗、摩耗、cutting wear(訳不明)、酸蝕のwear、表面の疲労、他のマイナーなwearです。口腔内でよく認められるのは、咬耗と摩耗、そのミックスです。この2つのwearは、新しい修復材料を使用する時には最重要です。対合歯のwearはセラミック材料に依存します。その他の要因、例えば疲労強度、内部気泡、表面の欠損などは、対合歯のエナメル質喪失を加速するかもしれません。そのため、今回のin vivoの研究は研磨モノリシックジルコニア、研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合歯咬合面のwearを評価しました。

反対側の天然歯ー天然歯と比較した場合、研磨モノリシックジルコニアクラウンの対合歯のwear量には統計的有意差を認めました。この結果からY-TZPクラウンの対合天然歯のwear量は、天然歯の対合天然歯のwear量よりも有意に大きい事が示唆されました。

Stoberらは、6か月の臨床研究で研磨、グレージング、調整、再研磨ジルコニアの対合エナメル質を計測しました。彼らはジルコニア対合天然歯のwear量(33μm/6mo)は、天然歯対合天然歯のwear量(10μm/6mo)よりも大きかったと報告しました。さらに、本研究では、反対側の天然歯ー天然歯のwearにつても調査を行いました。エナメル質による対合歯エナメル質のwearは、ジルコニアの対合エナメル質のwearよりも有意に小さい結果(平均10μm vs 33μm、最大値46μm vs 112μm)でした。

反対側の天然歯ー天然歯と比較した場合、研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合歯のwear量には統計的有意差を認めました。この結果から研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合天然歯のwear量は、天然歯の対合天然歯のwear量よりも有意に大きい事が示唆されました。

研磨ジルコニアクラウンの対合エナメル質wearと、研磨二ケイ酸リチウムクラウンの対合エナメル質のwearの比較では、統計的有意差を認めませんでした。本研究の実験群では、この2つのクラウン材料は対合歯にほぼ同等のwearを起こすことが示唆されました。

Lawsonらは、ステアライト対合歯との間で、研磨、グレージング、調整後の二ケイ酸リチウム、ジルコニアクラウンのwear量を比較しました。この研究では全ての群間で統計的な有意差を認めませんでした。さらに、他の研究と同じく、本研究では研磨、グレージングジルコニアにはwearを認めませんでしたが、二ケイ酸リチウム表面には計測可能なwearを認めました。

他の様々な研究をまとめたレビューは、本研究の結果を支持しています。al‑Hiyasatらによると、ポーセレンの調整後は、対合歯のwearを最小限にするために必ずグレージングか研磨を行う必要があります。なぜなら調整により露出する陶材断端が対合歯のwearを助長するからです。

Mitovらの研究では、ジルコニアの調整に使用する道具の荒さが対合エナメル質のwearに影響する事が示唆されました。30μmの細かいダイヤモンドバーで調整したジルコニアが起こす対合歯のエナメル質wearは研磨ジルコニアとほぼ同等であり、100μmの荒いバーで調整したジルコニアよりも小さい結果でした。

二ケイ酸リチウムは、対合歯がジルコニアの場合、ジルコニアよりもwearが大きい事が報告されています。過去の研究では、二ケイ酸リチウムはジルコニアよりも対合歯のエナメル質のwearが大きいと報告されています。一方で他の研究では、ジルコニアよりも対合エナメル質のwearは小さかったという報告もあります。

Lambrechtsらは、歯の検査が同じ個体において一定期間にわたるエナメル質の喪失速度を最も正確に測定できると述べました。対合歯の段階的なwearは、ヒトの歯列において普通に起こる現象です。微細構造的には、天然歯構造と対合歯修復物の表面wearにおいて修飾が起こります。修復材料の構造、結晶粒径、表面硬度は、対合面エナメル質のwearを制御するのに寄与しています。本研究では、咬合面の3次元的な解剖学的変化が経時的に解明されました。三角測量の原理と自動3D重ね合わせソフトウェアを用いた精度の高いスキャナーが使用されました。

本研究では、研磨ジルコニアと研磨二ケイ酸リチウムクラウンの間では統計的有意差を認めませんでした。その可能性のある原因はモノリシックなクラウンであると考えられ、Rupawalaら、Palmerら、Lawsonらの研究と一致しています。

本研究のLimitationは、直接口腔内スキャンを用いたさらなる長期研究、より大規模なサンプルサイズ、および本研究に含まれていないその他のパラメータを用いた研究が想定されます。新たなアプローチはより実践的であり、問題解決型学習とエビデンスに基づく歯科医療を、従来の臨床材料と材料科学の概念の概観と統合するものです。これは依然として、口腔顎顔面系のバランスを維持する上でより重要です。

結論

本in vivo研究のLimitationの範囲内で、結論は期待された目的または仮説に沿うものでした。研磨二ケイ酸リチウムは、研磨イットリウム正方晶ジルコニアと比較してよい臨床的結果を示しました。しかし、評価されたデータは統計的有意差を認めませんでした。一方で、天然歯の対合歯である研磨イットリウム正方晶ジルコニアクラウンと二ケイ酸リチウムクラウンの比較では統計的有意差を認めました。

まとめ

アブストや結論で二ケイ酸リチウムの方が臨床結果がよかったみたいな事を書いてるんですが、結局対合歯エナメル質のwear量は統計的有意差はなかったわけで、私としては、この論文を読んで「あるin vivoの研究では、二ケイ酸リチウムの対合歯では、ジルコニアの対合歯と比較してエナメル質のwearが少なかった」などと紹介することはないです。前回の論文の著者は本当にこの論文を読んだんでしょうかね。

前回の論文でもそうですが、二ケイ酸リチウムとモノリシックジルコニアのどちらが対合歯の摩耗を起こすのかということについては、まだエビデンスが足りないようです。

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