普通の歯科医師なのか違うのか

オールセラミックとメタルセラミック単冠どちらの予後がよい?

 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回のブログの引用文献

前回、CADCAMで製作したセラミックと従来の方法で製作したセラミックではどちらの方が予後がよいのか、というシステマティックレビューを読みました。

今回はこの文献に結構重い引用されている論文があったので、是非読んでみようという気になりました。まあ新型コロナウイルスの影響で患者さんもまばらで暇なので、こういう時を有効活用していかないといけません。

今回はスイスからの2015年のシステマティックレビューです。5年前なのでちょっと古いですね。

Sailer I, Makarov NA, Thoma DS, Zwahlen M, Pjetursson BE. All-ceramic or metal-ceramic tooth-supported fixed dental prostheses (FDPs)? A systematicreview of the survival and complication rates. Part I: single crowns (SCs). Dent Mater 2015;31:603–23.

え?これよくみたら20ページもある・・・・と思って戦々恐々としていたら殆どが図表でした。

Abstract

Objective. To assess the 5-year survival of metal-ceramic and all-ceramic tooth-supportedsingle crowns (SCs) and to describe the incidence of biological, technical and esthetic complications.

Methods. Medline (PubMed), Embase, Cochrane Central Register of Controlled Trials (CEN-TRAL) searches (2006–2013) were performed for clinical studies focusing on tooth-supportedfixed dental prostheses (FDPs) with a mean follow-up of at least 3 years. This was com-plimented by an additional hand search and the inclusion of 34 studies from a previoussystematic review [1,2]. Survival and complication rates were analyzed using robust Pois-son’s regression models to obtain summary estimates of 5-year proportions.

Results. Sixty-seven studies reporting on 4663 metal-ceramic and 9434 all-ceramic SCs ful-filled the inclusion criteria. Seventeen studies reported on metal-ceramic crowns, and 54 studies reported on all-ceramic crowns. Meta-analysis of the included studies indicated anestimated survival rate of metal-ceramic SCs of 94.7% (95% CI: 94.1–96.9%) after 5 years.This was similar to the estimated 5-year survival rate of leucit or lithium-disilicate reinforced glass ceramic SCs (96.6%; 95% CI: 94.9–96.7%), of glass infiltrated alumina SCs (94.6%;95% CI: 92.7–96%) and densely sintered alumina and zirconia SCs (96%; 95% CI: 93.8–97.5%;92.1%; 95% CI: 82.8–95.6%). In contrast, the 5-year survival rates of feldspathic/silica-basedceramic crowns were lower (p < 0.001). When the outcomes in anterior and posterior regions were compared feldspathic/silica-based ceramic and zirconia crowns exhibited significantly lower survival rates in the posterior region (p < 0.0001), the other crown types performed similarly. Densely sintered zirconia SCs were more frequently lost due to veneering ceramic fractures than metal-ceramic SCs (p < 0.001), and had significantly more loss of retention (p < 0.001). In total higher 5 year rates of framework fracture were reported for the all-ceramic SCs than for metal-ceramic SCs.

Conclusions. Survival rates of most types of all-ceramic SCs were similar to those reported for metal-ceramic SCs, both in anterior and posterior regions. Weaker feldspathic/silica-based ceramics should be limited to applications in the anterior region. Zirconia-based SCs should not be considered as primary option due to their high incidence of technical problems.

目的:天然歯を使ったメタルセラミックとオールセラミック単冠の5年間の生存率を調査することと、その間にどういった不具合が発生するのかについて記録することです。

方法:ネット上で文献検索を行い、2006~2013年の天然歯の固定性補綴にフォーカスした臨床研究で最低3年以上平均フォローアップ期間があるものを抽出しました。さらに独自に検索した文献と以前のシステマティックレビューで用いた34の文献を追加しました。生存と不具合の確率にはロバスト・ポアソン回帰モデルを用いて5年間の推定値を計算しました。

結果:67の研究が抽出されました。4663本のメタルセラミック、9434本のオールセラミックが基準に該当しました。17の研究がメタルセラミックについての報告で54の研究がオールセラミックについての報告でした。メタアナリシスの結果、5年後の推定生存率はメタルセラミックは94.7%でした。この結果はリューサイトまたは二ケイ酸リチウム強化型ガラスセラミックや、ガラス浸潤型アルミナクラウン、高密度焼結アルミナ、ジルコニア冠などとほぼ同じ結果となりました。一方で長石、石英系のセラミッククラウンは生存率が有意に低くなりました。長石、石英系セラミックとジルコニアについて前歯部と臼歯部での生存率を比較した所、臼歯部の方が有意に低い結果となりました。他のタイプのクラウンでも同様な傾向が認められました。高密度焼結ジルコニアクラウンはメタルセラミックと比較するとベニアセラミックの破折によるロスト、脱離が有意に高異結果となりました。オールセラミッククラウンのフレームワークの破折はメタルセラミックよりも高頻度でした。

結論:多くのオールセラミッククラウンの生存率は前歯部、臼歯部どちらにおいてもメタルセラミックとほぼ同じでした。長石、石英系は他の材料よりも弱いため、前歯部に限定して使用するべきです。ジルコニアベースのクラウンはテクニカルな問題の頻度が多く第1選択とするべきではありません。

これからはまた適当に訳していきます。なにせ20ページもあるので大事と思った所だけいきます。疑問に思われた方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。

緒言

かなりラフにまとめると、
オールセラミッククラウンが良く使われるようになってきましたが、やはりメタルセラミックがゴールドスタンダードと言うことになっています。そしてオールセラミッククラウンの材料は今も進歩しています。

そこで、オールセラミッククラウンとメタルクラウンの予後をシステマティックレビューで比較して評価してみることとしました。

実験方法

pubmedなど色々なデータベースを決められたワードで検索して論文を抽出しています。

今回のシステマティックレビューはRCT+前向き、後ろ向きコホート研究+臨床研究で構成されています。
in vitroまたは動物実験、3年以下のフォローアップ、カルテやインタビューなどを元にした研究は除外されています。

変数

変数ですが全て抽出して今回は単冠のみの比較をしています。そのためポンティックとかユニット数とかそういうものも抽出しています。

著者
出版年
研究デザイン
当初の患者数
最終的な患者数
ドロップアウト率
平均年齢、年齢範囲
術者
フレームワークの材料
フレームワーク材料のブランド名
ベニアの材料
ベニア材料のブランド名
製作過程
本数
支台歯数
生活歯、失活歯の本数
ポンティックの本数
補綴の部位
生存率
ロスト数
生物学的な理由による失敗(カリエスや歯根破折)
技術的な理由による失敗(フレームワーク破折、大小のチッピング、脱離)
審美的な理由による失敗
それ以外の失敗

今回見つけてきた33個の論文と2007年にPjeturssonが発表したレビュー34論文のデータを統合して最終的に統計解析を行っています。

今回、生存は観察期間に変形の有り無しは関係なくその場に残っていることと定義されています。
失敗または不具合率は発生回数/総暴露時間(そこにクラウンが存在した時間?)で計算されています。

結果

論文の抽出に関しては以下の様な感じになっています。
アブスト通りですが、通常の方法で33個をデータベースから抽出した後に別のシステマティックレビューの34の論文を追加することにより合計67の論文を元にシステマティックレビューを行っています。

33本の新しい検索でみつけた論文のうち、14本がメタルセラミックに関する論文で4本が長石、石英系のセラミッククラウン(jacket crowns, 3G OPC,Noritake feldspathic, Dicor)、6つがガラス強化型セラミッククラウン(1つがエンプレス1、残りはエンプレス2またはEmax)、3本がガラス浸潤型アルミナ(InCeram)、3本が高密度焼結アルミナクラウン(Procera)、8本が高密度焼結ジルコニア(様々なCADCAM製造会社)でした。

全論文のリストですが、載せると膨大な量でしかも字が小さく見えづらいので割愛します。

材料による生存率の違い

17本のメタルセラミックに関する論文では、平均フォローアップ期間は7.3年で推定される失敗率は年率で0.88%、5年推定生存率は95.7%でした。55本のオールセラミッククラウンの論文では、失敗率は年率0.69~1.96%の範囲で5年推定生存率は90.7~96.6%でした。

オールセラミッククラウンの生存率はセラミックのタイプによって異なりました。
長石、石英系に関する10本の論文では、5年推定生存率は90.7%でメタルセラミックと比較して有意に低い結果となりました。
リューサイト、二ケイ酸リチウム強化型ガラスセラミックに関する12の論文では、5年推定生存率は96.6%であり、メタルセラミックとほぼ同等でした。
15本の論文によるガラス浸潤型アルミナの5年推定生存率は94.6%、8本の論文による高密度焼結アルミナの5年推定生存率は96.0%であり、同様な傾向を認めました。
ジルコニアクラウンの5年推定生存率は91.2%でメタルセラミックよりも有意に低い結果となりました。

前歯部と臼歯部

前歯部と臼歯部補綴において有意差が認められたのは長石、石英系セラミックのみで他の材料では有意差を認めませんでした。長石、石英系の前歯部の生存率は94.6%、臼歯部は87.8%でした。

技術的な不具合

フレームワークの破折、セラミックの破折、チッピング、辺縁部の変色?、脱離、審美性不良を単冠の技術的な問題としています。

メタルセラミッククラウン、オールセラミッククラウン双方、ほぼ同等の頻度でチッピングの発生を認めました。チッピングは最も高い頻度で起こる技術的な問題で5年で2.6%程度の頻度でした。アルミナ、ジルコニアベースのクラウンでは他のセラミッククラウンよりも高頻度にチッピングする傾向が認められました。

フレームワークの破折はメタルセラミッククラウンではかなりまれ(5年累積で0.03%)で、タイプに関係なくセラミッククラウンの方が有意に高い頻度で破折しました。この不具合はセラミック材料の機械的安定性に関連しました。初期の長石、石英系のセラミックは物性が弱く5年間でフレームワークが破折する確率が6.7%もありました。リューサイトまたは二ケイ酸リチウムガラス強化型セラミックスのフレームワークの場合は2.3%でジルコニアの場合は0.4%でした。

ジルコニアを除くと脱離はメジャーなトラブルではありませんでした。ジルコニアベースのクラウンでは5年で4.7%であり、メタルセラミックと比較すると有意に高確率で脱離する結果となりました。

生物学的な不具合

支台歯の失活、支台歯の破折、二次カリエスがよくある不具合でした。

メタルセラミック支台歯の失活は5年で1.8%で、最も多い生物学的な不具合でした。失活はリューサイトや二ケイ酸リチウムガラス強化型セラミックやガラス浸潤型アルミナクラウンでは有意に頻度が低い結果となりました。

支台歯の破折もメタルクラウンではよく認められる不具合で5年で1.2%でした。メタルセラミッククラウンと比較してリューサイトや二ケイ酸リチウムガラス強化型セラミックやガラス浸潤型アルミナクラウン、ジルコニアクラウンなどのオールセラミッククラウンでは有意に低い頻度となりました。

二次カリエスはメタルクラウンでは5年で1%であり、他のオールセラミッククラウンでもほぼ同じ傾向でした。しかしジルコニアクラウンは他のクラウンと比較するとカリエス罹患率が有意に低く、逆にガラス浸潤型クラウンではカリエス罹患率が有意に高い結果となりました。

この表が見づらいので一応結果はかなりの部分訳しています。

まとめ

検索した新しい文献自体は比較的新しい研究なんですが、前のシステマティックレビューの論文も入れているので1991年まで入ってます。

長石、石英系のセラミックの研究は比較的古い研究が多く古いマテリアルメインの比較である事は否定できないかなと思います。実際古い論文ほど予後が悪い感じに見えます。

ジルコニアに関しては2010~2013の研究ばかりで比較的新しいと言えます。論文本文は確認しておりませんが、おそらく全てジルコニアフレーム+セラミックの二層構造のオールセラミッククラウンではないかと思われます。
ジルコニアフレームセラミッククラウンに関しては前の論文でもそうでしたが、予後が他のクラウンと比較すると低くなっています。脱離がメインと考えられます。

メタルセラミックは当然メタルで裏打ちされていますので、技術的なトラブルはオールセラミックよりも少ないですが、その分失活や破折という生物学的なトラブルが多いというトレードオフ的な面があると感じました。

オールセラミッククラウンと一概に言われる物は実際は材料や製法の違いでかなりの種類が存在しており、どれをチョイスするかは悩ましい問題です。やはり今はジルコニアメインのようになってきておりますので、もうちょっとジルコニアの論文を読んでみる必要がありそうです。
しかし、ジルコニアフレームによるオールセラミッククラウンは予後が他と比べると悪い結果となりました。これを第1選択にはしない方が良さそうです。

以前のクラウン系論文

日本の保険にあわせた硬質レジンCADCAM冠を義歯の鉤歯にするのは失敗リスクが高いかも?という東北大学の論文(2019)

従来の製作法とCADCAMでの製作ではどっちが予後がよいかというシステマティックレビュー(2019)

この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 5代目歯科医師の日常? , 2020 All Rights Reserved.