普通の歯科医師なのか違うのか

機械的清掃よりも化学的洗浄の方がバイオフィルム除去には重要である

 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

今回は日本語の論文を読みます。英語ではないですし、ダウンロードフリーなので自分がわかるようにまとめる感じになります。鶴見大学の先生方の論文になります。

義歯床用レジンの洗浄法によるバイオフィルム除去効果と表面粗さの変化
佐藤 薪, 大島 朋子, 前田 伸子, 大久保 力廣
補綴誌 5:174-184, 2013.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/5/2/5_5.174/_article/-char/ja/

抄録

目的:現在の義歯の清掃方法を正しく評価し、最適な方法の選択基準を示すために機械的,化学的洗浄法の評価を行った。
方法:(1)義歯床用レジン片上にCandida albicansのバイオフィルムを形成させ、義歯洗浄剤使用群、非使用群とで。1日1回浸漬と洗浄を繰り返し、5日間の洗浄剤連日使用試験を行い洗浄剤の持続効果を確認した。残存菌量はREDOX Indicatorで測定した。(2)既製レジン片を5種類の義歯洗浄剤に浸漬したものと、歯磨剤、義歯用歯磨剤と義歯ブラシを用いたものについて表面粗さとバイオフィルム除去効果を測定した。
結果:(1)前日までに毎日洗浄剤を使用していてもレジン片を蒸留水で洗浄した群は5日間すべてにおいて多量の残存菌が検出され、洗浄剤使用群と対照群の間に有意差が認められた.(2)ブラシ使用後は表面粗さが増し、歯磨剤を併用すると著しく上昇しており、研磨剤の混入が大きく影響していた。バイオフィルム除去効果はブラシのみでは認められず、高研磨性の歯磨剤の併用が低研磨性より有意に高かったが、義歯洗浄剤の併用が最も優れていた。
結論:デンチャープラークの除去には歯磨剤を使用せずブラシで清掃した後、そのまま義歯洗浄剤に毎日一晩浸漬すべきである。

緒言は省略します。

実験方法

化学的洗浄

試験片:流し込み用義歯床用レジン(パラエクスプレス)クリア、ライブピンクを型にいれて重合。3×3×2mmに整形し、表面は耐水ペーパー800番で研磨。

洗浄剤:5種類(表1)

バイオフィルム:C.albicansとS.mutansをそれぞれ培養+レジン片と共にC.albicansとS.mutans混合培養1週間

洗浄試験

①単回使用:洗浄剤5種類+蒸留水、40度5分浸漬→30時間培養→蛍光測定
②連日使用:Candida培養液にいれバイオフィルム形成。対象群は蒸留水5分浸漬→培養→蛍光測定 洗浄群は洗浄→培養→蛍光測定、残りのレジン片をポリデントで5分浸漬→各3個取り出し、蛍光測定。残りのレジン片はCandida菌液に戻して培養→次の日に再度洗浄を5日間。
③混合培養単回:混合培養で多量のバイオフィルムを形成させたレジン片を40度のポリデントと蒸留水に浸漬、室温で5分間または一晩→培養→蛍光量測定

機械的清掃法

試料:流し込み用義歯床用レジン(パラエクスプレス)クリアで10×24×2mmに成形
培養:培養などは化学的洗浄の時と同様
義歯用ブラシ:ライオデント義歯ブラシ、軟質毛、硬質毛
歯磨剤:研磨材含有デンタークリアMAX、低研磨性チェックアップスタンダード、システマデンタルペーストα、
義歯用歯磨剤:ポリデント入れ歯の歯磨き
摩耗試験:回転式歯ブラシ摩耗試験機で義歯用ブラシ単独と歯磨剤併用時の表面粗さの測定+SEM、歯ブラシの荷重は2種類。義歯洗浄剤使用時の表面粗さを40度5分と一晩浸漬したもので測定
C. albicans除去効果:義歯用ブラシ硬質毛+デンタークリアMAXで30分間摩耗試験→C. albicans培養→ポリデント5分浸漬or義歯用ブラシ軟質毛で1分清掃or歯磨剤ありで軟質毛ブラシ1分清掃or蒸留水洗浄→培養→蛍光測定

結果

化学的洗浄法

単回使用:5種類全ての洗浄剤でC. albicansの著しい除去効果を認め、30時間培養しても殆ど生存筋は確認されず、対象群の蒸留水と比較して有意差が認められました。製品間に有意差はなく、クリアとライブピンク間でも有意差は認められませんでした。

洗浄剤連日使用:前日まで毎日洗浄剤を使用したとしても、蒸留水で洗浄した群はバイオフィルムを除去出来ませんでした。義歯洗浄剤群とコントロール群で蛍光量で有意差が認められました。

多量バイオフィルムの洗浄洗浄剤浸漬後の残存菌量は浸漬5 分では対照群の約40% まで残存していたが、一晩浸漬後では約15% まで減少し、5 分浸漬群との間に有意差が認められました。各群の洗浄後のバイオフィルム残存状態は、対象群では明らかに肉眼で確認出来るほど多量にバイオフィルムが残存していましたが、洗浄剤使用群ではほぼ除去されていた。

機械的清掃法

表面粗さ

ブラシ単独では硬質毛、軟質毛で有意差は認められませんでした。歯磨剤を併用すると、研磨材を含有するデンタークリアMAXが最も大きな表面粗さを示し、義歯用歯磨剤のポリデント入れ歯の歯磨きと低研磨性歯磨剤チェックアップは同程度の表面粗さを示しました。軟質毛にチェックアップを併用した場合は、義歯用ブラシ単独と同程度の表面粗さを示しました。
各義歯洗浄剤使用後については5分、一晩浸漬では殆どが0.01Raであり、浸漬時間による有意差はありませんでした。ブラシ単独との表面粗さとの間に有意差は認められませんでした。
SEM像では、軟質毛でも硬質毛でも線条痕が認められましたが、毛質、荷重にかかわらず、線条痕の程度に殆ど差が認められませんでした。研磨材含有歯磨剤(デンタークリアMAX)を併用したレジン表面は顕著な線条痕が認められました。

C. albicans除去効果

義歯用ブラシ単独では、対象群とほぼ同じ98.6%と除去効果は殆ど認められませんでした。義歯洗浄剤、デンタークリアMAX使用後では有意に除去効果を認めました。

他の低研磨性歯磨剤および義歯用歯磨剤でも検討を行ったところ、全ての群でコントロール、義歯用ブラシのみと比較して有意に除去が認められた。特に義歯用歯磨剤を低研磨性歯磨剤と比較すると半数以下の値を示しましたが、義歯洗浄剤の除去効果には劣っており、有意差を認めました。

考察の抜粋

予備的検討においてマイクロウェーブ型、射出成形型、常温重合型のレジンを使用して義歯洗浄剤単回使用試験を行ったところ、どの重合方法であっても義歯洗浄剤による除去効果が認められ、重合方法の間に有意差は存在しなかったため、本実験には常温重合型床用レジンを選択した。

1 回の洗浄が何日間持続するか検討したところ、前日まで毎日洗浄剤を使用したとしても、蒸留水で洗浄を行った対照群は5 日間すべてにおいてC. albicans のバイオフィルムを除去できず洗浄剤は毎日の使用が必要であった。

義歯用歯磨剤においては義歯洗浄剤と比較して除去効果は劣るが,低研磨性歯磨剤よりも除去効果は優れ(図6)、レジン表面への影響は低研磨性歯磨剤と同程度であった(図4 A)。また、SEM 観察による結果ではブラシ単独では明らかな表面荒れは認められず(図4A)、明らかな表面荒れは高研磨性歯磨剤使用時でRa値約0.1 を超えていた(図4 A)。各義歯洗浄剤使用後についても同様に評価したところ、5 分間および一晩浸漬ではほとんどがRa 約0.01 であったため,対照群とは有意差が認められたものの,表面荒れと判定できるものではなかった。

日常臨床においては、義歯床用レジンに肉眼ではっきりと観察できる粘着性の多量のバイオフィルムの付着も見受けられる.本研究ではC. albicans およびS. mutansとの混合培養により多量のバイオフィルムを形成させ、義歯洗浄剤のみでの除去効果について検討を行った.その結果、データには示さないが、蛍光量をCFU に換算すると5 分間の浸漬による40% レベルの減少では1×103 CFU/ml 程度の残存菌数が認められ、そのまま放置すると1 日以内に菌数が元に戻ることが考えられるが、一晩浸漬後の15% では検出限界近くまで除菌された状態となる。したがって,大量のバイオフィルムが付着している場合には義歯洗浄剤に5 分間の浸漬では有意な除去効果は得られず、一晩の浸漬が必要であった。
さらに,大量のバイオフィルムは洗浄剤に浸漬するだけでは除去できず、レジン表面には死菌体の塊が残存した。すでに菌の活性は失われているものの、グラム陰性菌の細胞壁の破壊により内毒素が放出されやすくなり、炎症を惹起する可能性も示唆される。
以上より、義歯床用レジンへの影響が最も少なく義歯管理のために望ましい方法は義歯用ブラシを使用した後の1 日最低5 分間の義歯洗浄剤への浸漬といえるのではないだろうか。

結論

化学的清掃方法である義歯洗浄剤の毎日の使用は、機械的清掃方法と比較してバイオフィルムの除去効果が著しく高い。また,高研磨性の歯磨剤の使用は、バイオフィルムの除去効果を高めるものの、義歯床には傷がつきやすく、義歯不適合の原因となりかねない.一方、低研磨性の歯磨剤の使用はバイオフィルムの除去効果は低いため、不適切な義歯用ブラシの使用によっては,かえって義歯床を傷つけてしまう可能性がある.よって、バイオフィルムの除去には,義歯洗浄剤の単独使用が望まれるが,肉眼的に観察して顕著な汚れが認められる場合は、機械的清掃方法として義歯用ブラシの単独使用が望ましい。

まとめ

他の多くの研究では加熱重合レジンを用いていますが、今回は流し込み用の常温重合レジンを用いています。その根拠は考察に記載されていますが、化学的洗浄効果が他の重合方法と有意差がなかったからであると説明していますが、そのなかに従来の加熱重合型レジンがありません。加熱重合レジンと常温重合レジンでは機械的な物性が異なりますので、SEMによる表面荒れについては加熱重合レジンよりもオーバーな結果になった可能性が考えられます。

この論文を解釈すると、
1)化学的洗浄は毎日行うべきである。
2)それほど汚れていない義歯であれば機械的な清掃をスキップして化学的洗浄でもよい
3)肉眼的に観察して顕著な汚れが認められる場合には、歯磨剤等は使用せず義歯ブラシを化学的洗浄前に使用する。
4)汚れがそこまでではない場合には、40度5分浸漬で十分なバイオフィルム除去効果があるが、汚れが顕著な場合は、5分では十分とはいえず一晩浸漬する必要がある。一晩浸漬した場合でもレジン表面には内毒素を含む死菌体が多く存在しており、十分洗い流す必要がある(ここでブラシを使用するかは検討されていない)。

ということかと思います。化学的洗浄を毎日行う必要性については、以前読んだ義歯洗浄剤の使用間隔を検討した論文でも指摘されており、やはり重要でしょう。また、機械的清掃<化学的洗浄であるというのはやはり間違いないと思われます。化学的洗浄の浸漬時間の検討においては、論文としての質に問題はありますが、ポリデントの浸漬時間、温度を検討した論文でも一晩浸漬の有効性が示唆されていました。本研究では、未成熟なバイオフィルムであれば40度5分で十分であり、大量に成熟したバイオフィルムを相手にする場合は、一晩という事になっています。

入れ歯の歯磨き粉ってamazonでみると結構市販されていますね。汚れがかなり酷い人には指導してみるのもありかな、と個人的には思いました。

この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 5代目歯科医師の日常? , 2023 All Rights Reserved.