普通の歯科医師なのか違うのか

IODで咀嚼機能や咬合力、栄養状態が改善するか(review2015)

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

歯を喪失することは低栄養リスクである、ということは単純に考えるとそうなのかな、という感じなんですが、それを論文上でしっかりとしった根拠にすることはなかなか難しいようです。

2本システマチックレビューを読みましたが、結果が全然違います。
無歯顎だから低栄養リスクという結果にはならなかったレビューがあります。

天然歯を多数喪失すると義歯を入れても低栄養リスクは消えないというレビューもありました。ではインプラントオーバーデンチャー(IOD)ならどうでしょう?

2015年のJournal of Oral Rehabilitaionのレビューを読んでみましょう。

Improving masticatory performance, bite force, nutritional state and patient’s satisfaction with implant overdentures: a systematic review of the literature
G C Boven , G M Raghoebar, A Vissink, H J A Meijer
J Oral Rehabil. 2015 Mar;42(3):220-33. doi: 10.1111/joor.12241. Epub 2014 Oct 13

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25307515/

Summary

Oral function with removable dentures is improved when dental implants are used for support. A variety of methods is used to measure change in masticatory performance, bite force, patient’s satisfaction and nutritional state. A systematic review describing the outcome of the various methods to assess patients’ appreciation has not been reported. The objective is to systematically review the literature on the possible methods to measure change in masticatory performance, bite force, patient’s satisfaction and nutritional state of patients with removable dentures and to describe the outcome of these.

Medline, Embase and The Cochrane Central Register of Controlled Trials were searched (last search July 1, 2014). The search was completed by hand to identify eligible studies. Two reviewers independently assessed the articles. Articles should be written in English. Study design should be prospective. The outcome should be any assessment of function/satisfaction before and at least 1 year after treatment. Study population should consist of fully edentulous subjects. Treatment should be placement of any kind of root-form implant(s) to support a mandibular and/or maxillary overdenture.

Fifty-three of 920 found articles fulfilled the inclusion criteria. A variety of methods was used to measure oral function; mostly follow-up was 1 year. Most studies included mandibular overdentures, three studies included maxillary overdentures. Implant-supported dentures were accompanied by high patient’s satisfaction with regard to denture comfort, but this high satisfaction was not always accompanied by improvement in general quality of life (QoL) and/or health-related QoL. Bite force improved, masseter thickness increased and muscle activity in rest decreased. Patients could chew better and eat more tough foods. No changes were seen in dietary intake, BMI and blood markers. Improvements reported after 1 year apparently decreased slightly with time, at least on the long run.

Treating complete denture wearers with implants to support their denture improves their chewing efficiency, increases maximum bite force and clearly improves satisfaction. The effect on QoL is uncertain, and there is no effect on nutritional state.

インプラントを支持として使用した場合、義歯使用時の口腔機能は改善します。咀嚼機能、咬合力、満足度、栄養の測定方法には数多くの種類があります。患者の感謝をアウトカムとして報告したシステマチックレビューはありません。本研究の目的は義歯使用者における咀嚼機能、咬合力、満足度、栄養状態の変化を計測する方法とその結果について検討することです。

検索データベースから2人のレビュアーが論文を抽出しました。条件は、英語論文で縦断研究、アウトカムとして治療前と治療最低1年後の昨日満足度が評価されている、完全無歯顎の被験者であること、上顎、または下顎にインプラント治療を行いオーバーデンチャーになっている事です。

最終的に53本の論文が選択基準を満たしました。殆どの論文は下顎のIODで、3本が上顎のIODでした。義歯の快適性という点では高い満足度でしたが、QOLの改善と祠宇転では常に高い満足度というわけではありませんでした。咬合力は改善、筋の厚みも改善し、安静時の筋活動は減少しました。硬い物が食べやすくなりました。食物摂取、BMI、血液マーカーに関しては変化を認めませんでした。1年後に報告された改善は時間経過によりわずかに減少していくようです。

無歯顎にインプラント治療を行いインプラント支持とする事で咀嚼能率、咬合力、満足度は改善しますが、QOLに対する効果は不確実で、栄養状態に対する効果は認められません。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

歯が欠損しているにもかかわらず補綴物が装着されていない場合、QOLが低下し、がんや腎臓病の身体的幸福度に匹敵するほどの影響を受けます。通法通りの義歯を装着した場合、全体的な満足度、審美性、快適性、発声などの改善が認められますが、機能的な改善は満足のいくものではないことが多いです。下顎および/または上顎の義歯を保持するためにインプラントを埋入すると、機能的転帰および患者の満足度が向上します。インプラントオーバーデンチャー(IOD)に対する患者の評価に関する多くの研究では、アンケートを用いて患者が現状に満足しているかどうかを評価しています。また、IODの治療効果は、咀嚼効果、咬合力、筋活動、筋解剖学のテストで測定されます。これらの項目の改善は、患者さんの満足度の向上にもつながるという仮説が立てられています。

インプラント支持オーバーデンチャーを用いた治療に対する患者の評価についてレビューがあります。患者の満足度については、歯科医師と患者が介在する嗜好性(文献17)、患者の視点から見た下顎IODの有効性(文献18)、高齢者におけるCDとIODによる治療の比較(文献19)、(口腔関連の)QoLの観点からの結果(20)、口腔健康状態とQoLとの関連性(21)などが検討されています。IODまたはCDを用いた下顎無歯顎の修復については、治療法の選択の効果に関するエビデンスが蓄積されてきています。無歯顎患者にインプラント支持オーバーデンチャーを装着することは、健康関連QOLの向上に寄与します。口腔内の健康状態と健康関連QoLとの間に有意な関連性を示した論文もあります。下顎IODは、無歯顎患者にとって新しいCDよりも満足度が高いかもしれませんが、その効果の大きさはまだ不明です。インプラント治療が患者の満足度を高め、QoLを向上させたとしても、採用された方法の違いにより、研究間の直接的な比較を行うことはできませんでした。下顎無歯顎の各治療法(CD、IOD、固定式補綴)に対する患者の受容性の違いをさらに調査するためには、より良いデザインの長期的な研究が必要です。

無歯顎の人は特定の栄養素が不足しており、その結果、様々な健康障害のリスクがあることが示唆されています。IODやCDによる無歯顎者の治療が栄養状態や身体状態に及ぼす影響については、いくつかのレビューがなされています(文献22、23)。インプラント治療を受けた無歯顎患者の栄養状態への影響は、従来の取り外し可能な義歯で得られるものと同様です。著者(文献24、25)は、CDを装着している人が健康的な硬めの食品を摂取していないことに対して、2本のインプラントで支持されたIODが解決策になるのではないかと提案しています。満足度のパラメータとして機能を測定するために、多くの異なるアンケートや異なる方法が報告されていますが、患者の感謝の気持ちを評価する様々な方法の結果を記述したシステマティック・レビューは報告されていません。そこで、IODで治療を受けた無歯顎患者に関する本システマティックレビューの目的は、様々な方法で測定された満足度、咀嚼(パターン)、咬合力、栄養状態に関して、少なくとも1年の観察期間を経て、治療前と治療後の患者の評価を評価することです。

方法

論文の適合条件

1 患者:CDに代わりIOD治療を上顎または下顎、または上下顎に行っている
2 介入:インプラントのタイプや本数、アタッチメントシステム、即時荷重か否かは問わない
3 比較:治療前と治療後最低1年以上の経過をおいてアウトカムが比較されている
4 アウトカム:満足度、QOL、口腔関連QOL、機能、咬合力、咀嚼機能、栄養状態などから最低1つ
5 研究デザイン:縦断研究

論文の採用条件

1 英語論文
2 通法の総義歯からインプラントオーバーデンチャーへ移行が最初から計画
3 IODとボーンアンカードブリッジがミックスされた研究の場合、データを分離できること
4 同一患者を術前、術後1年以上で評価している

除外条件

1 研究規模が10人以下

結果

研究の選択

最終的に53本の論文が選択されましたが、定性的なレビューはできても定量的なメタアナリシスは今回出来ていません。

論文の特徴(表2参照長いのでブログの一番最後に添付)

殆どの論文は満足度を評価項目として採用していました。咀嚼、咬合力や他のパラメーターを評価している論文はあまり多くありませんでした。殆どの論文は下顎のIODで上顎のIODを検討したものは3つしかありませんでした。

満足度はIODの治療後に総じて向上しました。

咀嚼に関して報告している7つの論文のうち5つにおいて改善が認められました。咬合力に関して報告している4つの論文全てで上昇を認めました。咀嚼パターンにおいても改善傾向が認められましたが、BMIと血漿のレベルについては変化を認めませんでした。

咀嚼

咀嚼機能を評価した論文全てでIOD治療後に有意な改善を認めました。IOD治療の結果、より少ない咀嚼回数でCD時と同じ結果に到達し、硬い物も食べられるようになりました。ある論文(文献13)では混合能力はCDとIODで有意差を認めませんでした。

咬合力

2つの論文(文献13,29)では、IOD治療後に最大咬合力は改善し、10年後もその改善効果は持続していたと報告しています。しかし、IODによる最大咬合力は有歯顎者と比較すると有意に低いという報告もあります(文献16)。

1年後の満足度

IODにおける患者満足度は様々な尺度で評価されています。カスタムメイドの質問表、一般的な満足度スコア、Vervoorn質問表、OHIP-20、OHIP-EDENT、McGills義歯満足質問表、自己回答式義歯満足度スケール、義歯不満質問表などを用いた報告で明確な改善が認められています。しかし、満足度の改善は一般的なQOL、健康関連QOLなどの改善と結びついてません。

2つの論文では、心理的な要因の改善と行動制限の減少について触れています。ある論文では、IODはボーンアンカードブリッジと比較して満足度は低いと報告しています。しかし、清掃の容易さではIODの方が優れています。SF-36、WHO-Five、BACQにおいてはCDとIOD間で有意差は認められませんでした。

5年後の満足度

多くの研究で5年後のIODに対する満足度もベースラインと比較して明確な改善を認めました。1年後に到達した改善の値は5年後にも安定していると報告しています。

ある論文では、補綴のタイプにより満足度が異なると報告しています。口腔衛生状態のパラメーターを除いてボーンアンカードブリッジの方が有意に満足度が高かったと報告しています。

10年後の満足度

10年後を評価した論文はさすがに少ないですが、1年後に得えられた改善効果を持続していると報告しています(文献67~70)。ベースライン時の満足度が低ければ、ベースライン時の満足度が元々高い人よりも同じ治療を受けても満足度が低い結果になるかもしれません。

その他の評価項目

2つの論文では下顎の運動パターンが変わったと報告しています。そのなかの1つでは調和的で効率のよい咀嚼運動が認められました。咀嚼筋の厚みがIOD治療後に増加したと言う報告と、安静時の咀嚼筋活動量が減少したという報告がありました。唾液流量、BMI、血液マーカーに関しては変化は認められませんでした。

食事の摂取(文献13、72)、エネルギー分布(文献14)に関しても変化を認めませんでした。しかし、IOD装着群は有意に新鮮な野菜やフルーツを通して栄養素をより多く摂取していました。

考察

CD装着者にIOD治療を行うと、アンケートやインタビューで測定した口腔内の状態に対する患者の満足度が明らかに向上しました。ある論文ではSF-36、BACQ、WHO-fiveにおいて改善が見られませんでした。Allenらが述べているように、SF-36は口腔内の健康状態を測定するための構成概念の妥当性が限られているからかもしれません。このことは、他の質問票についても当てはまるかもしれません。満足度の向上は、必ずしも一般的なQOLや健康関連のQOLの向上にはつながりませんでした。QOLを測定するために使用された質問票は、口腔の健康にあまり焦点を当てていなかったので、口腔の健康の質が改善された場合の一般的な健康の質への影響を測定していないのかもしれません。

咀嚼のパラメータについては、IOD治療を受けた患者さんはよりよく噛むことができ、より硬いものを食べることができることがわかりました。生の果物や野菜、ナッツ類などの硬いものをより多く食べられるようになったものの、インタビューやアンケート、血液サンプルなどで測定した食事摂取量はIODによって改善されなかったようです。食生活は習慣であり、歯の状況を改善するだけでは、食生活の習慣は変わらないようです。ある論文(文献13)では、咀嚼効率の改善は認められませんでしたが、その理由として、既存の義歯を研磨した義歯を再利用したことを挙げています。この論文の治療群は高齢者であったため、加齢に伴う運動調整能力の低下も影響している可能性があります。驚くべきことに、CD群では12ヶ月後の追跡調査で56%もドロップアウトしており、この研究の結果には疑問が残ます。

予想通り、IOD治療後に咬合力は向上しました。咬筋の使用量とトレーニング量が増えたため、厚みが増しました。緩んだ義歯を安定させる必要がなくなったため、安静時の筋活動が低下しました。1年後に得られた改善はわずかに減少したように見えたが、少なくとも10年間は安定していた。

Limitation

殆どが下顎IODであり、上顎IODにはこの結果は適応できない可能性
1年以上の追跡調査を行った論文が少なく、長期結果は少ないサンプル数
様々な治療法、評価法のため、部分的な比較にとどまる

過去のレビューとの比較

このシステマティックレビューに記載された論文では、エネルギー分布と食事摂取量に変化は見られませんでした。これは、Thomasonら(文献20)とSanchez-Ayalaら(文献22)によって行われたレビューにも記載されています。Thomasonら(20)は、オーダーメイドの食事のアドバイスがなければ、義歯補綴は必ずしも満足のいく食事には至らないと述べています。

内藤ら(文献21)は満足度とQOLの関係についてのレビューを行い、口腔内の健康状態を改善した後にQOLの改善を確認した論文が3つ、確認しなかった論文が4つありました。これは、QOLの改善の大きさが不確かであることを示しているように思えました。もしかしたらQOLの改善はあるかもしれませんが、測定方法がQoLの改善を測定するのに適していないため、有効なデータが得られていないのかもしれません。QOLの向上が確実ではないとしても、満足度の向上は明らかです。

ポイント

IOD治療により従来のCDよりも咀嚼効率、最大咬合力は改善
特に満足度は明確に向上
QOLの改善は明確ではない

まとめ

口腔機能が向上したからといって、栄養状態が改善するとは限らない、というのはちょっとショックな結果です。当然よく咬めるようになったから満足度が上がったから栄養状態も上がるだろう、と今まで私は思ってきましたし、多くの歯科関係者の方もそうではないでしょうか。

Thomasonら(20)は、オーダーメイドの食事のアドバイスがなければ、義歯補綴は必ずしも満足のいく食事には至らないと述べています。

という論文の存在や、実際通常の総義歯を作成した際に栄養指導をした群では栄養状態が有意に改善したが、栄養指導しなかった群では栄養状態は改善しなかったという日本の論文もあります。

つまり、いくら最大咬合力やグミゼリーによるテストで値が向上したからといっても、結局ある程度栄養指導を行わないと、患者さんの栄養状態は改善しないということなります。

ここら辺が栄養士さんとうまくコラボしていかないといけない所ではないでしょうか。

IODの方が通法の総義歯患者よりも栄養指導による改善効果が高い、という論文もあります。

IODを行う意義はやはり満足度の向上が大きいと思われます。多くの論文で満足度が大きく向上しています。そしてそこに栄養指導を加えることで本当の意味でのリハビリテーションになると考えられます。オーダーメイドの栄養指導についてどうすればよいのか、これは今後の検討課題ですが….。

表2

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

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