普通の歯科医師なのか違うのか

天然歯を多数喪失すると義歯を入れても低栄養リスクは消えない

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回の引用文献を読みます

前回栄養と口腔状態の関連についてのメタアナリシスを読んで気になった引用文献をピックアップして読みます。

前回の論文はこちら
https://www.dentist-oda.com/oralhealth_nutrition_metaanalysis/

今回読む論文はよく見たら日本歯科の菊谷先生がファーストの論文です。

Relationship between nutrition status and dental occlusion in community-dwelling frail elderly people
Takeshi Kikutani , Mitsuyoshi Yoshida, Hiromi Enoki, Yoshihisa Yamashita, Sumio Akifusa, Yoshihiro Shimazaki, Hirohiko Hirano, Fumio Tamura
Geriatr Gerontol Int. 2013 Jan;13(1):50-4. doi: 10.1111/j.1447-0594.2012.00855.x

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22489562/

Abstract

Aim: This study aimed to determine the risk of malnutrition in some communities where the frail elderly receive public long-term care insurance. We also clarified the dental problems in those at risk of malnutrition.

Methods: A total of 716 frail elderly who lived in eight cities in Japan (240 males and 476 females with a mean age of 83.2±8.6 years) were divided into three groups according to Mini Nutritional Assessment short form results: well nourished, at risk of malnutrition and malnourished. They were also divided into three groups in terms of remaining teeth occlusion and denture occlusion: group A, natural dentition with adequate function; group B, partially or fully edentulous, but maintaining functional occlusion with dentures in either or both jaws; and group C, functionally inadequate occlusion with no dentures. The relationship between nutrition status and dental occlusion was evaluated using logistic regression analysis with sex, age, activities of daily living and cognitive function as covariates.

Results: The number of participants in each of the groups was as follows: 251 well nourished, 370 at risk of malnutrition and 95 malnourished. When they were divided into just two groups, (i) well nourished and (ii) at risk of malnutrition plus malnourished, in order to study malnutrition risk factors, there were significant relationships between their nutritious status and sex, Barthel index, and occlusion.

Conclusion: This large-scale cross-sectional survey showed that loss of natural teeth occlusion was a risk factor for malnutrition among community-dwelling frail elderly.

目的:公的な介護保険を受給している虚弱高齢者において低栄養リスクを決定する事を目的としました。低栄養リスクとなる歯科的な問題も明らかにしました。

方法:日本の8つの都市に住む716名の虚弱高齢者(男性240名、女性476名、平均年齢83.2±8.6歳)をMNA-SFの値から栄養状態良好、低栄養リスク、栄養失調の3群に分類しました。さらに咬合状態に合わせて3つの群に分割しました。A群:適切な機能を有した天然有歯顎、B群:欠損はあるが、補綴物で適切な咬合は維持、C群:義歯を有しておらず不適切な咬合。栄養状態と咬合状態の関連性について、性別、年齢、ADL、認知機能を変数としてロジスティック回帰分析を行いました。

結果:251名が栄養状態良好、370名が低栄養リスク、95名が栄養失調でした。そのため、栄養状態良好群と、低栄養+栄養失調群の2群に分割し直しました。栄養状態と性別、Barthel index、咬合が有意に相関しました。

結論:今回の大規模な横断研究の結果、地域在住高齢者において天然歯列による咬合の喪失は低栄養のリスクファクターである事が示唆されました。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

毎日の食事からの栄養素の摂取は、生活の基盤となります。低栄養は、免疫防御機能を低下させ、身体機能を低下させ、高齢者の罹患率や死亡率の直接的または間接的な原因となります。外来患者の1〜15%、施設入所高齢者の15〜60%がタンパク質・エネルギー栄養失調(PEM)に罹患していると報告されており、栄養失調のリスクがある高齢者の状態を遅滞なく調査し、改善する必要があると考えられます。
本研究では,日本の公的介護保険に加入している地域在住の虚弱高齢者を対象に,MNA-SFを用いて栄養失調リスクを評価し、咬合が栄養失調リスクに影響するかどうかを検討しました。

実験方法

被験者

被験者は716名で居宅、介護保険を受給している高齢者(男性240名、女性476名、平均年齢83.2±8.6歳)です。彼らは8つの都市(東京、福島、神奈川、山梨、新潟、福岡、沖縄)に居住しています。

項目、分類

低栄養リスクはMNA-SFで評価し、さらに年齢、性別、Charlson indexによる医学的な問題を抽出しました。さらにADLと認知機能をBarthel indexとCDRを用いて評価しました。情報は介護者またはケアマネージャーから入手しました。また、独居か否かも調査しました。

口腔内診査は歯科医師または歯科衛生士によって行われました。臼歯部の咬合を以下の3タイプに分類しました。
A群:適切な機能を有した天然有歯顎
B群:欠損はあるが、義歯(補綴物)で適切な咬合は維持
C群:義歯を有しておらず不適切な咬合。

嚥下機能は頸部聴診にて正常か異常かを判定

MNA-SFの値で3群に分類しました。
(i)栄養状態良好
(ii)低栄養リスク
(iii)栄養失調
統計処理段階で
(i)栄養状態良好と(ii)低栄養リスク+栄養失調の2群にわけて低栄養リスク
(i)栄養状態良好+低栄養リスクと(ii)栄養失調の2群にわけて低栄養
をロジスティック回帰分析

統計処理

全身状態と口腔内の状況の関連性:χ2検定と一元配置分散分析
低栄養に影響するリスクファクターを検討するためにロジスティック回帰分析

結果

MNA-SFの結果
(i)栄養状態良好:251名(男性94、女性157)
(ii)低栄養リスク:370名(男性120、女性250)
(iii)栄養失調:95名(男性26、女性69)

全身状態(表1)
栄養失調群は他の2群と比較すると値が悪いものが多く、統計的にも他群と有意差が認められる者が多いです。
独居の被験者は栄養状態良好30名、リスクあり29名、栄養失調16群であり、統計的に有意差を認めました。

咬合関係
A群:174名(男性80、女性94)
B群:421名(男性120、女性301)
C群:121名(男性40、女性81)
咬合関係と栄養状態は有意に相関

嚥下
正常音:516名(男性151、女性365)
異常音:200名(男性89、女性111)
嚥下(頸部聴診)と栄養状態は有意に相関

ロジスティック回帰分析

低栄養リスクと有意な相関を認めたのは、性別、Barthel index、咬合関係でした。

低栄養と有意な相関を認めたのは、Barthel index、嚥下異常音、独居でした。

考察

本研究の結果、栄養不良の虚弱高齢者は13.3%(95人)であり、日本で実施された先行研究の結果とほぼ一致しました。さらに、低栄養リスク群と栄養失調群を合わせると64.9%(465人)であり、意外にも50%を超えていました。この結果は、在宅介護で暮らす虚弱高齢者の栄養状態の改善が急務であることを示しています。

今回の研究では、Barthel indexが低栄養リスクと栄養失調の両方で有意な因子という結果となりました。多くの研究者は、身体機能と栄養状態との間に関係があることを認めています。日常生活での活動が制限されている人は、食料品の買い物を避ける傾向があり、その結果、栄養障害が生じると結論付けられるかもしれません。

Barthel indexに加えて、性別も栄養不良のリスクに影響を与える重要な因子であることが判明しました。本研究では、高齢女性は高齢男性よりも栄養不良リスクが1.845倍高いことが示され(95%CI 1.121-3.036)、これは、高齢女性は肥満と栄養不良の両方の栄養障害を発症する可能性が高いことを示した先行研究の結果と一致しました。

さらに、咬合状態は栄養不良リスクに有意に関連しました。C群の栄養失調リスクはA群の3.189倍となりました。咀嚼効率は、歯列の特徴(臼歯の数や咬合関係など)と明確に相関しています。最も顕著な摂取量の差は、野菜や一部の果物などの噛みにくい食物であるため、歯の喪失は食物繊維やビタミンなどの栄養摂取要素に影響を及ぼします。これらの微量栄養素は、良好な栄養状態を維持するための重要な要素であり、このような食物の欠如は、より大きな栄養不良リスクをもたらす可能性を示唆しています。

さらに、B群は、A群に比べて栄養不良リスクが1.704倍高い結果となりました(95%CI 1.013-2.864)これまでの研究では、臼歯を喪失した人は、食事の際に義歯を使用していても、野菜や果物などの噛みにくい食品の摂取量が少ないことが示されています。本研究で得られた結果は、義歯の使用は天然歯を補うのに十分ではないという見解を支持するものです。最近、Bradburyらは、食事指導が義歯を装着したばかりの人のビタミンやミネラルの消費量の増加を促すことを示しました。今後、義歯使用者の栄養失調の予防に対する食事介入の効果を明らかにするための研究が必要です。一方、虚弱な高齢者では、栄養失調と咬合の間に有意な関係は見られませんでした。栄養失調とBarthel index、頸部聴診で検出された嚥下音の異常、独居との間には有意な相関が認められました。これらの結果から、栄養失調の高齢者はすでに嚥下障害を発症しており、食事の改善が必要であることが示唆されました。したがって、栄養不良は適切な咬合関係の影響を受けにくいと考えられます。また、食物を飲み込む能力の低下が栄養不良を加速させるという悪循環もあり得ます。一人暮らしの高齢者は、食生活の改善を実行する可能性が低く、咬合状態にかかわらず栄養不良になる可能性があります。

ポイント

欠損放置の高齢者は、天然有歯顎高齢者と比較すると低栄養リスクは3倍以上
欠損を義歯で補綴した高齢者は、天然有歯顎高齢者と比較すると低栄養リスクは1.7倍で、補綴したからOKではない。

ADLは低栄養と有意に相関している。
嚥下障害は栄養失調のリスクである、というよりも嚥下障害だから栄養失調の可能性

まとめ

栄養状態と咬合に関してはリスクありの所では有意差があり、栄養失調では有意差がないということで結構苦しい考察になっている気がします。かなり年齢が高いので、どの群でもそれなりに喪失歯数は多いですが、栄養失調群は他群より人数が少ないため欠損歯数が散らばった可能性もあると思います。

ある程度歯を喪失した場合には義歯を入れても低栄養リスクがある、というのは咬合力の減少などで食が偏る可能性も考えられます。欠損が大きくなると義歯をいれて適切な咬合を付与しても咬合力は天然歯より明らかに低下するというデータがありますし、最大咬合力が低いとフレイルリスクが上がるという論文もあります。

咬合力、咀嚼能力的にEichnerB2、B3が分岐点
https://www.dentist-oda.com/eichnerb2b3/

咬合力とフレイルの関係性
https://www.dentist-oda.com/biteforce-fraility/

もしかすると咬合力で検討すればまた違った結論になったのかもしれませんね。

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