普通の歯科医師なのか違うのか

洗浄剤は義歯床上バイオフィルムの細菌数、組成等を改善する

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回読んだ論文は前々回の論文の引用だったのですが、その引用文献番号が間違っていて読みたかった論文と違うものを読んでしまいました。その論文の中に、著者らが以前の研究で乾燥下での実験を行った、という文章があったため、おそらくこっちが本命ではないかと推測して、読んでみることにしました。なぜ論文を読むのに推理力が問われるのかがすでに謎です。

前々回の論文中に「微生物学的な観点から、ある臨床研究は、乾燥保管は細菌数とCandida Albicansのレベルを減少させ、夜間水道水に過酸化物の洗浄剤を入れて浸漬するのと同程度の効果があることを報告しています。」と書いている内容がこの論文なんでしょうか?

Overnight storage of removable dentures in alkaline peroxide-based tablets affects biofilm mass and composition
J Duyck , K Vandamme, P Muller, W Teughels
J Dent. 2013 Dec;41(12):1281-9. doi: 10.1016/j.jdent.2013.08.002. Epub 2013 Aug 13.
PMID: 23948391

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23948391/

Abstract

Background: Clinical guidelines for denture care are available, but evidence for optimal nocturnal storage is scarce. The aim of the study was to compare the role of the overnight storage state on plaque growth and composition on acrylic removable dentures.

Methods: In a parallel-group randomized controlled trial of 51 institutionalized participants, 3 denture overnight preservation methods were considered: (i) in water, (ii) dry or (iii) in water with added alkaline peroxide-based cleansing tablet. Biofilm samples were taken on day 7 (developing biofilm – dBF) and day 14 (maturing biofilm – mBF) from a mechanically uncleaned, standardized region, situated distally to the second lower premolars. Total and individual levels of selected perio-pathogenic and species (n=20), and of Candida albicans were calculated by PCR. Differences between storage conditions (water/dry/tablet) and between the samples (dBF/mBF) were assessed by means of unpaired and paired t-tests respectively, with α=5%.

Results: Overnight denture storage with cleansing tablet significantly decreased the total bacterial level of dBF and mBF up to 13.8%. Fn, Ec, Cs, Sc, Ao and Vp counts were particularly affected by tablet care. Significant lower amounts of Candida albicans for tablet storage compared to water preservation were recorded in dBF and mBF (-69.3 ± 3.8% and -75.9 ± 3.2% respectively). The mass and pathogenicity of dBF and mBF was equal, irrespective of the overnight storage intervention.

Conclusions: The use of cleansing tablets for acrylic removable denture overnight storage reduces denture biofilm mass and pathogenicity compared to dry and water preservation, and may contribute to the overall systemic health.

Clinical significance: Evidence-based clinical guidelines for overnight storage of removable acrylic dentures are lacking. The findings of this study indicate that alkaline peroxide-based cleansing tablets decrease bacterial and Candida levels in denture biofilms in case of poor oral hygiene. This provides evidence for a clinical guideline to minimize microbial load of dentures, thereby reducing associated systemic health risks.

背景:義歯のケアに関する臨床的なガイドラインはありますが、適切な夜間保管のエビデンスは殆どありません。本研究の目的は、レジン床義歯上でのプラークの成長と構成に与える夜間保管方法の影響を比較する事です。

実験方法:51名の施設入居者をランダムに割り当て並列で実験を行いました。夜間保管方法は3種類で1)水中、2)乾燥、3)水中+洗浄剤です。機械的清掃は行わず、下顎全部床義歯第2小臼歯部の遠心からバイオフィルムサンプルを7日後(発達期)、14日後(成熟期)に採取しました。歯周病原性、片利共生細菌(n=20)の総菌数と個別菌数とCandida Albicansの菌数をPCRで計測しました。保管方法とサンプル採取時期の違いを調査しました。統計は対応のある、ないt検定を用い、有意水準は5%としました。

結果:水中+洗浄剤の夜間保管では7日後、14日後の総細菌量が13.8%まで有意に減少しました。Fn、Ec、Cs、Sc、Ao、Vpには特に洗浄剤の効果がありました。洗浄剤の使用によりCandida Albicansの総量は7日後は-69.3±3.8%、14日後は-75.9±3.2%と有意に減少しました。夜間保管方法に関わらず、7日後、14日後の量と病原性は同等でした。

結論:夜間の洗浄剤使用は義歯バイオフィルム量と病原性を乾燥、水中保管より減少させます。それは全身的な健康に寄与するかもしれません。

臨床的な意義:可撤式レジン床義歯の夜間保管方法についてエビデンスに基づいたガイドラインは存在しません。本研究での知見から、口腔衛生状態の悪いケースで、洗浄剤はバイオフィルムの細菌とカンジダのレベルを減少します。このことは、義歯の微生物負荷を最小化し、関連する全身的な健康リスクを低減するための臨床ガイドラインの根拠となるものです。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

可撤式レジン床義歯にバイオフィルム(表面に付着し、エキソポリマーマトリックスに包まれた構造化された微生物群集)が存在することは、特に介護が必要な高齢者において、深刻な全身状態と関連しています。口腔細菌は、心内膜炎、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患、その他の疾患と関与しています。口腔の健康状態と全身の健康状態の関連性について充分なエビデンスがあります。

デンチャープラークは、1ミリグラムあたり108以上の細菌で構成される複雑な集合体で、600以上の原核生物 を含みます。異なる種の細菌はバイオフィルムの形成に協力します。義歯患者のデンチャープラークは広範囲に研究され、レジン床義歯のバイオフィルムに関する論文は存在します。義歯のバイオフィルムの微生物組成を精密に解析できる培養に依存しない分子生物学的手法は、Camposらによって初めて採用されました。3種類のカンジダ(Candida Albicans、Candida glabrata、Candida tropicalis)を含む82種類の細菌が、義歯性口内炎を有する、有しない、患者の義歯バイオフィルムサンプルから同定されました。26の細菌が「健康な」義歯装着者(Streptococcus属が多い)で見つかり、32が義歯性口内炎患者にのみ見つかりました。義歯性口内炎群では、Streptcoccus属23%、Atopobium属16%、Prevotella属11%という構成でした。Candida Albicansは義歯性口内炎群で主に認められる真菌ですが、健常者群では、3種のCandidaがより多様に認められました。健康な人と義歯性口内炎を患っている人では、関連する病原性リスクを持つ、異なるバイオフィルムが存在するようです。Sachdeoらはモレキュラーハイブリダイゼーションを用いて、義歯のバイオフィルムから、Actinomyces属、Streptcoccus属、Veillonella parvula,、Capnocytophaga gingivalis、Eikenella corrodens、Neisseria mucosaなどを検出しました(文献16)。歯周病原因菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansとPorphyromonas gingivalisの存在が重要で、義歯装着者へのポピュレーションケアとフォローアップは、義歯を装着していない人と同様なものを提供する必要がある事が示唆された、と著者らは考えました。

義歯清掃不足と同様に夜間義歯装着などの不適切な習慣は、Candida関連の義歯性口内炎と相関することが明らかになっています(文献19、20)。そのため、夜間の撤去を臨床ではアドバイスします。これらの指導に関わらず、多くの無歯顎患者が夜間義歯を装着しています。

エビデンスに基づいた義歯のケアとメインテナンスについてのガイドラインは存在しますが、夜間保管方法についてのガイドラインは存在しません。夜間の乾燥、水中浸漬がカンジダのコロニー化に与える影響を検討した論文が1つありますが、1986年とかなり古いです。この研究では、水中浸漬する代わりにに夜間義歯を撤去して乾燥保管したところ、義歯上のカンジダのコロニー化が減少しました。この研究により、義歯の微生物汚染に対する夜間保管の重要性が示されました。しかし、現在のすべての夜間保存プロトコルが義歯の微生物汚染(細菌汚染とC. albicans汚染の両方)に及ぼす影響に関する情報はないため、夜間保存に関する明確な臨床ガイドラインを確立するために、さらなる研究が必要です。

そのため、本研究の目的は、時期の異なるデンチャープラークにおける細菌構成とCandida Albicansのコロニー化について、異なる夜間保管の影響を比較し、開業医に義歯の夜間ケアについてのエビデンスを提供する事です。

実験方法

被験者とデザイン

被験者の条件は、上下顎無歯顎、義歯使用、インフォームドコンセントのためのよい精神状態です。2人の研究者が選択した施設入所者60名中、51名(85.9±5.9歳)が研究参加を了承しました。

被験者はランダムに3つの義歯保管群に分類されました。1)水道水保管18名、2)乾燥保管16名、3)水道水に義歯洗浄剤17名。群分けは患者にはブラインドされました。洗浄剤はCorega Tabs Anti-bacteria(GlaxoSmithKline Consumer Healthcare)を使用しました。口腔衛生状態は1名の研究者によりコントロールされ、患者と施設職員に義歯を自分達で清掃しないように指導しました。

下顎義歯にプラークの集積が予想されたため、下顎義歯頬側面を実験の対象としました。実験に先立ち、全ての義歯は水流下でのブラシとクロルヘキシジン含有の歯磨剤で機械的に清掃、消毒されました。バイオフィルム分析は、下顎第2小臼歯部の遠心研磨面から両側性に5mm径としました(図1)。義歯ごとにシリコーンゴム印象材のパテタイプで位置と径を標準化するための枠を製作しました。枠は実験開始前に義歯を消毒した後に製作し、実験中に再使用できるにしました。バイオフィルムサンプルの採取時、位置固定用リング内のバイオフィルムを綿棒にて除去しました。綿棒は室温乾燥後に-20度で冷凍保存しました。

最初の1週間:義歯表面をターゲットとする小臼歯の面以外はブラシ+石けんで機械的に清掃。夜間水中保管。7日間後にターゲット面の左右どちらかからバイオフィルムを採取

次の1週間:機械的清掃+指定した夜間義歯保管方法。7日後に左右のターゲット面の両方からバイオフィルムを採取。前回採取した側は発達中のバイオフィルム、前回採取しなかった側は成熟したバイオフィルムという想定。

データ収集、統計解析

全てのサンプルが採取されたら、Advanced Dental Diagnostics B.V.(オランダ)に輸送され、20種類の口腔内細菌(表1)とカンジダアルビカンスのPCRを行いました。この分析では定性と定量の両方が可能性です。夜間保存条件ごとに、総菌量だけでなく、異なる菌の相対的な割合も計算しました。少なくとも1つの保存条件において、20%以上の有病率を持つ細菌種を選択し、さらに分析を行いました。

保管方法による違い、バイオフィルム成熟度による違いの比較は、F検定と対応のないt検定、または対応のあるt検定を用いました。有意水準は全て5%としました。Candida Albicansには特別な解析方法を用いました。Candida Albicansを定量化できれば1、存在しなければ0とし、各保存条件で比較しました。

結果

洗浄剤使用は総細菌量を減少する

夜間保管介入前の義歯上のバイオフィルム形成は全ての群でほぼ均一で、各群のコントロールは有意差を認めませんでした(図2)。発育過程のバイオフィルムでは、洗浄剤を用いた場合が、水中浸漬、乾燥群と比較して有意に細菌数が少ない結果となりました。成熟過程でのバイオフィルムでは、水中浸漬と洗浄剤群のみで有意差を認め、洗浄剤群の方が有意に細菌数が少ない結果となりました。各保管方法内で、発育過程と成熟過程のバイオフィルム間で有意差を認めませんでした。

洗浄剤による夜間保管は、6種類の細菌数を減少させる

Aa、Fn、Ec、Cs、Sm、Sg、Sc、Ao、Vpは総細菌数の20%を越える最も優勢な細菌だった(図3)ので、さらなる統計解析を行いました(図4)。夜間方法の違いはAa、Sm、Sgには影響はありませんでした。その他の6種では、洗浄剤群は他の2群と比較して有意に細菌数が少ない結果となりました。特に乾燥群と有意な違いが認められました。発達中のバイオフィルムでは、Fn、Ec、Sc、Ao、Vpの細菌量は、乾燥群と比較して洗浄剤群が有意に少なくなりました。これらの違いは、成熟バイオフィルムでもFn、Ec、Vpで維持されました。さらに、発達中のバイオフィルムでは、CsとVpは水中浸漬と比較して洗浄剤群の方が有意に少なくなりました。特定の夜間保管状態では、発達中のバイオフィルムと成熟バイトフィルムサンプルのタイプが異なる可能性がありますが、どの保管方法でも、発達中のバイオフィルムと成熟バイオフィルムで違いを認めませんでした。

洗浄剤入りでは、カンジダアルビカンスのレベルも低下する

Candida Albicansは実験群の全てのサンプルで認められました。出現率は洗浄剤群が最も低く、水中浸漬と比較するとかなりかなり低い結果でしたが、統計的な有意差は認められませんでした(図5a)。Candida Albicansの量による比較では、発達中、成熟バイオフィルム両方において、洗浄剤群は水中浸漬群よりも有意に少ない結果となりました。特定の保存条件下では、発達中と成熟バイオフィルムは同じレベルのC. albicansを含んでいました。

考察

レジン床義歯上に存在するバイオフィルムを日々除去する事は、義歯性口内炎リスクを最小化し、ひいては口腔内、全身の健康状態への寄与と言う点で非常に重要です。義歯の清掃については、長年にわたり多くの研究がなされてきました。そのため、義歯の夜間保管方法の重要性に関する情報が殆ど無いということは驚きです。義歯の夜間乾燥または水中浸漬がカンジダのコロニー形成に与える影響を検討した研究をStaffordらがパブリッシュしたのが1986年です。微生物の汚染に夜間保管方法が与える影響を評価した唯一の論文として非常に重要です。この研究では有意な効果が認められましたが、サンプリング状態が不明確、境界条件の情報がないなどのlimitationが存在します。また、夜間保管条件としてよく提唱される、洗浄剤については考慮されていません。

そういうわけで、微生物の義歯上でのコロニー形成や増殖を減少させるための適切な夜間保管方法については、かなり低いレベルのエビデンスしかありません。そのため、本研究は、機械的清掃なしでレジン床義歯上のプラークの成長と構成に夜間保管方法が与える影響を解析する事を目的としました。特に、施設入所高齢者において、水道水浸漬、乾燥、水道水に洗浄剤の3群を並列でランダム化比較しました。

水に洗浄剤を加えた義歯の夜間保管により、プラセボとしての水中保管と比較して、発達中、成熟バイオフィルム両方の総細菌数は有意に減少しました。これは化学的な洗浄が微生物数を減少させるという研究を裏付けるものです。さらに大気中乾燥保管と比較して、洗浄剤では発達中のバイオフィルム中の細菌が有意に少なくなりました。しかし、この効果は持続せず、乾燥保存では総細菌数は時間とともに減少しました。これは、長期間の栄養不足と、このような条件下での種間相互作用の変化の結果です。注目すべきは、夜間義歯を水中または乾燥状態で保存した場合、同じ微生物が義歯に定着していたことです。筆者らの知る限り、可撤式レジン床義歯について、夜間保管時の湿度または乾燥状態における微生物の影響を比較した文献はありません。

バイオフィルムの組成を評価したところ、Pg、Tf、Td、Pi、Pm、Pn、Cg、Cr、Enなどのいわゆる歯周病原性細菌は、保管方法にかかわらず、存在しないか無視できる数であることがわかりました。しかし、AaとFnの割合はかなり多い結果でした。あまり歯周病毒性のないEcとCsも検出されました。Ecは炎症反応を起こす可能性のある潜在的な有害細菌と考えられています。Capnocytophaga属(Cs)は血流感染との関与が報告されています。さらにStoreptococcus属(Sm、Sg、Sc)、Ao、Vpは全ての実験群のバイオフィルムサンプルで最も割合が多い結果でした。レジン床上のバイオフィルムにこれらの細菌が多いことは以前の研究ですでに報告されています。Storeptococci属は比較的無害であると考えられていますが、Streptococcus gordonii(Sg)は心臓弁膜症の起炎菌です。さらに、Actinomyces odontolyticusの全身的な感染がいくつか報告されており、免疫抑制が病因として大きく関与しています。最後にV. parvulaは片利共生細菌で、肺や心臓など多の臓器での潜在的な病原性を有しています。未清掃レジン床義歯上の7日、14日でのバイオフィルムは、片利共生細菌と歯周病原性細菌で構成され、片利共生細菌が最も割合が多い事が示唆されました。より多くの歯周病原生細菌がバイオフィルムの一部となるのを防ぐことができるかもしれません。しかし、その全身的な病原性やバイオフィルムの細菌同士の相互作用が、菌血症、心内膜炎、肺炎などのより深刻な疾患の一因となる可能性があります。

義歯バイオフィルムの構成で著明な質的な違いを認めたのが、洗浄剤群と乾燥群を比較したときで、歯周病毒性が中程度のFnとEc、毒性がないSc、Ao、Vpに違いを認めました。さらに、洗浄剤群と水中浸漬群の比較では、CsとVpの2細菌に有意差が認められました。これらの結果と、水中保管と乾燥保管の保存方法の間で観察された義歯の微生物プラーク組成の変化のなさを考慮すると、洗浄剤による義歯の夜間保存は、微生物組成に影響を与えるのに好ましい方法であることが示唆されます。

義歯から同定される酵母型真菌の殆どがCandida Albicansであり、今回の研究でも同様でした。C. Albicansは全てのサンプルから検出されました。洗浄剤を使用した夜間保管はC. Albicansの感染機会を減少させる可能性を示しました。水中保管群と比較して、洗浄剤群のCandida Albicansの量が減少した事は、夜間の義歯ケアのために水中に洗浄剤を加える事がカンジダのコロニー化を修飾するというエビデンスとなります。微生物とカンジダ菌の結果をまとめると、特に口腔内や義歯の衛生状態が悪化している場合に、洗浄剤による義歯の夜間保管を臨床的に推奨する根拠となります。

最後に、総微生物量、優勢種の微生物数、およびC. albicansの数は、発達中のバイオフィルムと成熟バイオフィルムの両方で等しいことが判明しました。これは、夜間保管の介入効果が、ベースライン時に綺麗な義歯表面であっても汚染されていてもその状況に依存しないと言うことを示唆しています。

結論として、義歯装着に関連する全身的な健康リスクを減少させるための、無歯顎患者の治療の最適化には、義歯表面に存在する微生物への見識だけでなく、夜間のケアについてのエビデンスに基づいたガイドラインが必要です。本研究では、洗浄剤を用いた夜間保管により、発達中、成熟バイオフィルムの両方において細菌とCandidaのレベルは減少しました。夜間の洗浄剤保管で認められた、バイオフィルムのレベルと潜在的に有害な細菌の減少は、洗浄剤使用は、義歯バイオフィルム量と構成に影響する事により、義歯に関する健康問題に直接的に影響を与えるだけでなく、より複雑な真菌バイオフィルムの形成を防ぐことで間接的に影響を与える可能性があることを示唆しています。施設に入所している高齢者の口腔内や義歯の衛生状態は良好とは言えず、義歯性口内炎やより深刻な全身疾患との関連性が高いと推測されることから、本研究の結果は、現在存在しない義歯の夜間保管に関する臨床ガイドラインを確立する根拠となります。

まとめ

求めていた「微生物学的な観点から、ある臨床研究は、乾燥保管は細菌数とCandida Albicansのレベルを減少させ、夜間水道水に過酸化物の洗浄剤を入れて浸漬するのと同程度の効果があることを報告しています。」という内容から程遠い論文でした。もうアブストを読んだ段階でこの論文ではないな、と分かってはいたんですが、折角なので読みました。考察の文章が後半に行くほど難解になり、しかたないので、多少DeepLさんの訳にも頼りました。

まず、この論文の主目的は洗浄剤の効果を判定することであり、乾燥はあくまで検討項目の1つに過ぎません。乾燥保管と洗浄剤使用を比較すると、14日後の成熟バイオフィルム中の細菌量では有意差を認めていませんが、レベルが一緒かというと結構違います。

水中保管と乾燥でも細菌量に有意差がない事、乾燥保管の方が洗浄よりも有意に量が多い細菌(Fn、Sc、Ao、Vp)が認められる事、乾燥群のCandida Albicansの量は水中保管と比較すると確かにかなり少ない感じに見えますが、水中保管、洗浄群と比較して有意差はありません。経時的に乾燥でCandida Albicansの量は減っていますけどね。以上の結果から、この論文を読んで乾燥保管を微生物的な観点から強く押す理由がないです。

前回読んだ同一著者による次の論文では、今回と異なりクロスオーバーで実験が行われています。おそらく今回の実験で突っ込まれてデザインを修正したんでしょうね。後、3群間での解析方法も今回は多重比較されていませんが、次では多重比較しています。できれば今回もクロスオーバーでやってほしかったですね。また、バイオフィルム採取部位は機械的清掃しない、と強調していますが、本当にそこだけ機械的清掃しないことができるのかちょっと疑問です。

求めていた内容とは違うものだったのですが、前々回の論文がこの論文を読んで「微生物学的な観点から、ある臨床研究は、乾燥保管は細菌数とCandida Albicansのレベルを減少させ、夜間水道水に過酸化物の洗浄剤を入れて浸漬するのと同程度の効果があることを報告していますと書いたとしたら、乾燥保管と洗浄剤で有意差がなかったというのをかなり恣意的に解釈しており、前々回の論文の考察部分そのものを疑ってかからないといけなくなります。他の引用文献にそういう内容があるんでしょうか・・・探すのが辛いですね。こういうときこそChatGPTとかの使い所なんでしょうかねえ。どなたか論文ご存じなら教えてください。

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