普通の歯科医師なのか違うのか

ガム咀嚼訓練は健常者の舌圧、頬圧を強化する

2020/09/13
 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

咀嚼訓練は咀嚼筋以外にも効果

今回は日本歯科新潟校からの2019年の論文です。健常有歯顎者にガム咀嚼をある程度の期間させた効果を見た論文になります。

咀嚼訓練って素材選びからなかなか難しいんですよね。

Effects of gum chewing training on oral function in normal adults: Part 1 investigation of perioral muscle pressure
Mutsumi Takahashi, Yoshihide Satoh
Journal of Dental Sciences (2019) 14, 38-46

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1991790218303222

Abstract

Background/purpose

The strength of the intraoral and extraoral muscles that assist the function of tooth and jaw movement during mastication is important for performing oral function. The aim of this study was to investigate the usefulness of gum chewing training to improve the swallowing and feeding function.

Materials and methods

In experiment 1, the differences in maximum tongue pressure (TP) and cheek pressure (CP) at the measurement time point for both groups with and without training were examined. We instructed subjects to perform gum chewing training 3 times daily for 3 months. TP and CP were measured before training and at 1, 2, and 3 months after starting training. In experiment 2, the changes of TP and CP based on the sex and duration of training were examined. The effect of the training was evaluated before training, at 2 weeks and 1, 2, and 3 months after starting training, and at 1 and 3 months after cessation of training.

Results

Experiment 1 showed TP and CP increased with the progress of continuous training. In experiment 2, TP and CP were higher in men than in women and markedly increased at 2 weeks and 1 month in both sexes. After cessation of training, TP and CP tended to decrease, but there was no significant difference between 3 months after starting training, and also significantly higher than before training.

Conclusion

This study suggested that gum chewing training is a useful to improve the swallowing and feeding function.

目的:咀嚼時に歯の機能と顎運動をアシストする口腔内、口腔外の筋力は非常に重要です。本研究の目的はガム咀嚼のトレーニングが嚥下や咀嚼機能を改善するのに有効か検討する事です。

実験方法:実験1では最大舌圧(TP)と頬圧(CP)をガム咀嚼トレーニング群と非トレーニング群において計測しました。ガム咀嚼は1日3回で3か月間行い、1,2,3か月目で圧を測定しました。実験2では性別やトレーニング期間によるTPとCPの変化を計測しました。トレーニング前、2週間後、1,2,3か月後、トレーニング終了1、3か月に計測を行いました。

結果:実験1ではTPとCPはトレーニング期間の進行に応じて増加しました。実験2ではTPとCPは女性よりも男性の方が高く、男女共にトレーニング開始2週間後、1か月後では開始時点よりも大きな増加を認めました。トレーニング終了後、TP、CPは減少傾向を示しましたが、トレーニング終了時点での値と有意差は認められず、トレーニング開始時点より有意に増加している状態を維持していました。

結論:ガム咀嚼トレーニングは嚥下、咀嚼機能の改善に有効である事が示唆されました(今回feeding functionを咀嚼機能と訳していますが、詳細としては頬舌から食塊を把持して咬合面から落ちないようにする機能を指しているのではないかと思われます)。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

咀嚼過程ではリズミカルな開閉口と舌、頬、口唇の協調運動が認められます。これらは脳幹にあるセントラルパターンジェネレーターにより制御されています。咀嚼時には上下の歯が食塊をすりつぶすために舌と頬は咬合面から落ちていかないように協調して食塊を把持します。また、舌は食塊を左右の咬合面に移送する機能もあります。

食塊が嚥下に適切な状態になると舌により咽頭に送り込まれます。このように口腔内、口腔外の筋力は咀嚼時に重要です。

しっかりとした舌圧が食塊形成や口腔内での食塊移送、咽頭への移送などに必要です。近年、顎の進行性障害、顎顔面の非対象、口腔機能の不均衡などによる口腔周囲の筋力低下が報告されています。これらの問題は片側咀嚼、咀嚼回数の減少、柔らかい食事の増加などと関連していると考えられます。

色々なプログラムが口腔機能の改善のために試行されています。トレーニング効果は被験者のバックグラウンドによります。子供であれば、咬合状態や咀嚼機能を向上させるようなプログラムを選択しますし、大人であればたるみを減らす、表情を豊かにする、咬合力増強などが選択されます。

高齢者に対するトレーニングは嚥下、咀嚼機能低下を防ぐものが良く選択されます。舌の筋力や口唇閉鎖、咀嚼機能を高めるトレーニングが報告されています。加えて、トレーニングにより、舌の体積が増加して摂食嚥下障害が改善するなどの組織と機能の変化が起こることも報告されています。トレーニング終了後も効果が持続する可能性があるのかもしれません。しかし、正常な成人ではトレーニング終了後には低下したという報告もあります。一方で、Arakawaらは舌のローテーション訓練により筋力を安定させるためには2ヶ月以上の期間が必要であると報告していますが、トレーニング後の変化に関しては評価していません。

そこで本研究の目的はガム咀嚼訓練はトレーニング終了後にも嚥下や咀嚼機能を向上するという仮説を検証することとしました。

実験方法

実験1

被験者:顎口腔系に異常を認めない健常者24名
12名(平均年齢24.4)をトレーニング群、12名(平均年齢24.3)を非トレーニング群

ガム咀嚼訓練
ライオンのデイアップを1回2粒、5分間咀嚼。10回咀嚼したら反対側に移送するのを繰り返します。それを1日3回3か月間継続します。

筋圧測定
JMS舌圧測定器を使って舌圧と頬圧を測定していますが、頬圧をどうやって計測したかという詳しい事は記載がありませんでした。それぞれ休憩を挟みながら3回計測して平均値を採用しています。トレーニング開始時、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月時に計測を行っています。

実験2

被験者:顎口腔機能に異常の無い32名(男性18?、女性16)
男性(平均年齢24.0)、女性(平均年齢24.3)

男性18人と記載があるが、男女差を考慮する際にわざわざ男女の人数に差をつけることはないと思われるので、男性16、女性16の合計32の間違いではないかと思われます。
筋圧測定とガム咀嚼訓練は実験1と同じですが、測定時期にトレーニング開始2週間後、トレーニング終了後1ヶ月後、3ヶ月後が追加されています。

統計処理

実験1についてトレーニング群、非トレーニング群(A)と測定時期(B)において二元配置分散分析をTP、CPそれぞれに行っています。また、実験2については男、女と測定時期において二元配置分散分析をTP、CPに行っています。

結果

実験1

TPにおいてもCPにおいてもトレーニング群、非トレーニング群間(A)に有意差を認めます。また測定時期(B)においても有意差を認めます。またAとBの相互作用に関しても有意差が認められました。

以下の図のAがTP,BがCPになります。どちらもトレーニング群ではトレーニング期間に応じて筋圧が有意に上昇しているのがわかります。こんな綺麗に出るの?というぐらい綺麗に出ています。一方で非トレーニング群では当然筋圧の上昇は認められません。

実験2

実験2においては、TPもCPも有意に男女差が認められている。また、測定時期においても有意差が認められました。ただし、相互作用に関しては有意差は認められませんでした。

図5はTPの測定時期における有意差を示しています。Aが男性、Bが女性です。
トレーニング2週間後からトレーニング前よりもTPの有意な増加が認められます。トレーニング終了3ヶ月後でも有意に増加したままです。
トレーニング終了時(3ヶ月目)とトレーニング終了後1ヶ月、3ヶ月は有意差を認めませんでした。

表6はCPの結果となります。
トレーニング2週間では有意差は認めませんが、1か月後から有意差を認めます。男性と女性ともにトレーニング2か月と3か月では有意差を認めません。
トレーニング終了時(3ヶ月目)とトレーニング終了後1ヶ月、3ヶ月は有意差を認めませんでした。

以下の図は測定時期と男女差について検討していますが、CP、TP共に全ての測定時期において有意な男女差が認められます。

考察

ガム咀嚼トレーニングについては咀嚼に焦点が当てられた研究が多く、口腔機能に維持や改善に関する報告は殆ど無いです。
健常成人へのガム咀嚼トレーニングの主目的は左右均等に咀嚼運動を行うことによる舌や頬の筋力の改善です。トレーニング終了後にもよい咀嚼機能を維持する事が期待できます。

高齢者の継続的なトレーニング効果が明確になるには、口腔機能が若い人と比較して低下しているため時間がかかることが報告されています。高齢者は身体的、心理的な影響から健康な人達よりも標準偏差(ばらつき)が大きいとも考えられます。そのため、ガムトレーニングプログラムも被験者の年齢や健康状態に合わせてアレンジする必要があります。さらに被験者を拡充してトレーニングの効果を決定する必要があります。

舌圧と頬圧で増加の仕方にやや差が認められ、今回は舌圧の増加が顕著だったわけですが、咀嚼時には頬と舌が協調的に食塊を押さえるわけですが、今回の実験では10回咀嚼の旅に逆サイドに移送を行う事、最終的に舌側に食塊はこぼれようとするためそれを舌で押さえることから、メインに働くのは舌であり筋力の増強は舌の方が有意になったのではないかと考察しています。

ガム咀嚼は唾液の分泌を促進するため、そういう意味でも食塊形成や嚥下の改善に貢献すると考えられます。さらにフローラの変動に伴う歯周病の病原因子の改善にも影響するかもしれないです。

終わりに

咀嚼訓練はこう決まったものがなくて、私は段階に応じて、赤ちゃん用の煎餅、かっぱえびせん、グミゼリー、ガムなどと言う風に使い分けしております。しかし、これはどちらかというと咬合力による使い分けです。ガムは舌の移送目的で使いますが。

摂食嚥下障害の方の一部は脳血管疾患サルコペニアの影響で舌骨上筋郡のみならず咀嚼筋の能力が本当に落ちてしまっていてグミゼリーなど全く咬めない方がいます。易疲労性で形態がある食事がなかなか厳しいみたいな人もいます。そういった方は訓練で柔らかいものからスタートしているわけです。

今回は健常者での口腔周囲の筋力アップも合わせてガム咀嚼というのが新鮮ですし、健常者でここまで上がるものなのか、という驚きもあります。舌機能障害で移送が難しい人や咬合力があまりないような人にはガムをいきなりは難しいかなと思います。また大きな義歯を入れている場合も義歯が動いたり外れたりしやすいためガム咀嚼はあまり向いていない気がしますが、どうなんでしょう。
今後は高齢者にもやるようなのでpart2に期待でしょうか。

摂食嚥下障害患者や義歯装着者に対する咀嚼訓練は案外エビデンスがなく、ガイドライン的な物もないと思います。今後はそういったものの構築が進むとよいなと思っています。

JMSで頬圧って測れるものなんですね。ちょっとここはやり方がしっかり書いていないので調べてみる必要がありそうです。

ちなみにこれを読んでから1日1回ですが、自分もガムトレーニングはじめました。効果ありますかね?(笑)



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