普通の歯科医師なのか違うのか

口腔内の状態とフレイルの関連性に関するシステマティックレビュー

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

NCCLはちょっと飽きた

NCCLはちょっと飽きてきた、というか探してる論文がうまくみつからないので、気分一新高齢者系の論文に戻ってきました。
自分としては高齢者歯科系が専門ですので、かなり興味がある所なんですが、他の先生方は普通に一般診療に関する論文の方が人気があるようです。自分の専門分野の知識をブラッシュアップすることは重要な事ですので、ここから何回かは高齢者系の論文を読んでいきます。

かなり前に日本で口腔機能低下症の病名がつけられるようになった根拠となる論文と言われている柏スタディの論文を読みました。

この論文では、多数ある口腔機能の項目から6項目を抽出してそのうち3項目該当すればフレイルになるリスクが高いオーラルフレイルという状態であると報告しています。

今回の論文はこの柏スタディの論文も入っている口腔機能とフレイルの関連性についての縦断研究をピックアップした2019年のシステマティックレビューとなります。

Faisal F Hakeem, Eduardo Bernabé , Wael Sabbah
Association between oral health and frailty: A systematic review of longitudinal studies
Gerodontology. 2019 Sep;36(3):205-215. doi: 10.1111/ger.12406. Epub 2019 Apr 26.

PMID: 31025772
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31025772/

Abstract

Objective: To systematically review longitudinal studies on the association between oral health and frailty indicated by any validated scale or index.

Background: Frailty and poor oral health are common among ageing populations; however, evidence from longitudinal studies is scarce.

Methods: Three databases (MEDLINE, EMBASE and LILACS) were searched for published literature up to July 2018 using prespecified search strategy. Grey literature was searched using OpenGrey and Google Scholar. Quality of included studies was checked using the Newcastle-Ottawa Quality Assessment Scale (NOS) for longitudinal studies.

Results: Five longitudinal studies from three countries (Mexico, Japan, and UK) that examined the association between oral health and frailty were identified. All studies used Fried’s frailty phenotype criteria for measuring frailty. Oral health indicators were number of teeth, periodontal disease, oral functions (functional dentition with occluding pairs and maximum bite force), use of removable dentures, accumulation of oral health problems and dry mouth symptoms. The studies showed significant association of number of teeth (two studies), oral functions (two studies), accumulation of oral health problems and number of dry mouth symptoms with frailty incidence, whereas periodontal disease showed inconsistent associations.

Conclusion: This systematic review identified significant longitudinal associations between oral health indicators and frailty that highlight the importance of oral health as a predictor of frailty in older age. There is a need for further research exploring the role of nutrition as a mediator of the relationship between oral health and frailty.

目的:口腔内の健康状態とフレイルの関連性について縦断研究によるシステマティックなレビューをすることです。

背景:フレイルと口腔の健康状態低下は高齢者に一般的ですが、縦断研究によるエビデンスは殆どありません。

方法:MEDLINE、EMBASE、LILACSの3つのデータベースを使って2018年7月までにパブリッシュされた論文を特定の検索方法をもちいて検索しました。灰色文献に関してはOpenGeryまたはGoogle Scholarにより検索しました。文献の質に関してはNewCastle-Ottawa Quality Assessment Scale(NOS)を元いてチェックしました。

結果:メキシコ、日本、イギリスからの5つの縦断研究がピックアップされました。全ての研究はFriedのフレイル概念を使用していました。口腔内の健康評価は歯数、歯周病、口腔機能(機能歯数、と最大咬合力)、可撤式義歯の使用、口腔の問題点の累積とドライマウスがありました。歯数(2文献)、口腔機能(2文献)、口腔問題の累積とドライマウスは有意にフレイルと関連性を示しました。一方で歯周病は関連性を示しませんでした。

結論:高齢者のフレイル予知因子として口腔の健康状態の重要性が強調される事を確認しました。栄養の役割などに関してはさらなる研究が必要です。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

口腔の健康状態の低下は高齢者においてよく認められ、フレイルを含む全身状態や慢性疾患と関連しています。口腔健康状態低下は色々な経路からフレイルに関与します。
機能的な経路では口腔健康状態低下や不適切な歯列は食事摂取に影響を与えます。残存歯が21本未満ではフルーツや野菜の摂取が少なくなり、蛋白や微量元素の摂取も減り、炭水化物の摂取が増加するという報告があります(文献14)。一方で、最近の栄養とフレイルの関連性を検討したシステマティックレビューでは栄養素の質とカロリー量両方が高齢者においてフレイルの進行に重要であると結論づけています(文献15)。
他の経路では心理的な要素があります。口腔状態は自尊心、社交性、うつ状態に影響を与えるという報告があります。これらの要素はフレイルを含む全身状態や幸福感に影響を与えます。

口腔の健康状態とフレイルに関して検討したシステマティックレビューは1つしかありません(文献12)。しかし、このレビューでピックアップした研究は横断研究が含まれています。

そのため、本研究の目的は口腔内の健康状態とフレイルの関連性について縦断研究によるシステマティックなレビューをすることとしました。

方法

論文検索

MEDLINE、EMBASE、LILACSの3つのデータベースにてoral heath とfrailityに関しての検索を行っています。またパブリッシュされていない灰色文献に関してはOpenGreyまたはGoogle Scholarを用いて検索しています。
2人の独立したレビュアーが基準に基づいて論文を審査して最終的には議論して論文を決定しています。

バイアスリスク

レビュアーは独立してNewCastle-Ottawa Quality Assessment Scale(NOS)を用いてバイアスリスクに関して調査しました。NOSは各論文に1つ星~9つ星までを与える方法で、星が多いほど優れた論文となります。

データ合成

集まった論文からメタアナリシスできる感じではなかったので、定性的なデータの合成を行っています。

結果

論文検索

593本の論文を審査して最終的に5本の縦断研究が残りました。

論文の特徴

メキシコ、日本、イギリスからの論文で5つの論文で3086名の被験者がいます。被験者数は各論文で322名~1151名で一定地域在住の高齢者でした。フォローアップは2~5年でした。
全ての研究でFriedのフレイル概念に基づいていましたが、フレイルに分類するための計測項目に違いが認められました。ある研究では自己記入式の質問表を用いて身体の虚弱の程度と歩行速度に関して計測しています。他の研究では自己申告の体重をベースラインとしてフォローアップ時の体重減少を測定しています。同様にイギリスで行われた研究ではベースライン時には身体の虚弱と歩行速度を計測しているのに、フォローアップでは質問表にてデータが収集されています。

研究の質

質判定については6~8点であり、goodと判定されたのが2つの論文でpoorと判定されたのが3つの論文です。同じ7点でもgoodとpoorに別れていますが、outcome項目の評価で+が1個ついていない論文は7点でもpoorと判定されています。

残存歯数とフレイル

2つの研究で検討されています。最初の論文では、3年でのフレイルの進行の可能性は口腔内に多く歯が残っていると減少すると報告しています(castejon RR=0.95)。次の論文では3年後フレイルになるリスクは21本以上歯が残っている人よりも無歯顎の人の方が高いと報告しています(Ramsay OR=1.90)。

歯周病とフレイル

2つの研究で検討されています。最初の論文ではポケット深さをベースにした重度歯周病の存在は3年間でのフレイル移行とのみ関連しました(castejon RR=2.13)。しかし、2つ目の研究では歯周病とフレイルの関連性は認められませんでした。

咀嚼機能とフレイル

2つの研究で検討されていますが、それぞれ指標が違います。1つ目は20本以上歯が残っており、9箇所以上対合歯が存在する機能歯という概念を使用しており、5年でフレイルになるリスクが低下すると報告しています(Iwasaki HR=0.50)。他の研究では最大咬合力が小さいと5年でフレイルになるリスクが高くなると報告しています(Iwasaki HR=2.78)。

口腔健康問題の数とフレイル

ある研究では6つの項目(歯数、咀嚼能力、運動スキル、舌圧、咀嚼困難、嚥下困難)のうち3つ以上が該当すればオーラルフレイルという概念を構築しています。高齢者でオーラルフレイルに該当する場合、2年でのフレイル進行のリスクが高いということを報告しています(Tanaka HR=2.41)。他の研究では、咀嚼困難、ドライマウス、温刺激、冷刺激、甘い刺激への反応、21本未満の残存歯の項目中3つ以上該当すれば3年でフレイルになるリスクと関連すると報告しています。

考察の一部

口腔の状態が悪いと食事の摂取と選択、栄養に影響を与えます(文献31)。栄養不良はフレイルの有意なリスクであることが報告されています。残存歯数はこのレビューではフレイルとの有意な関連性を示す1つの指標でした。咬むことに問題があれば食事の質や量に変化が起こり、最終的には栄養不良になると考えられます。機能歯、最大咬合力も同様と考えられます。

一方で、口腔機能とフレイルの関係は、高齢者において口腔機能低下と骨格筋機能低下が関連する一般的なリスクファクターである可能性があります。
さらにドライマウスは嚥下などの口腔機能に影響します。ドライマウスにより食事の選択などにも悪影響が出て栄養低下に至ると考えられますが、今回の研究でこの経路を検討した論文はありませんでした。

次に考えられる経路は炎症ですが、これを支持するエビデンスはあまり強い物ではありません。今回の結果では、歯周病とフレイルの関連性については結論が出ない状態です。1つの論文では関連性が示唆されていますが、もう1つでは否定されています。この2つの論文では歯周病の評価法に違いがあります。

さらに社会的な経路も考えられます。独居がフレイルの進行に影響するという報告があります(論文39)が、今回のレビューでは検討されていません。

重要な要素として社会経済的な要素があります。以前の研究では学歴の低い高齢者は高学歴と比較してフレイルになりやすいという報告があります(論文40,41)。ただし、社会経済的な状況が同じでも口腔健康状態は異なるという報告もあります(論文43,44)。

殆どの口腔状態は可逆性であり、そのため、口腔の疾病を予防しつつ口腔機能を維持する事はフレイルを予防する事に繋がります。口腔機能を維持するため補綴装置を使用する効果を調査することは重要です。しかし、可撤性補綴装置とフレイルの発生の関連性について検討した論文はわずか1つのみでした(文献26)。過去の横断研究では無歯顎で全部床義歯を使用していない老人はフレイルになる可能性が高い事が報告されています(文献47)。私たちは口腔の健康状態と全身のフレイルは双方向の関連性があるという事を強調するべきです。しかし、今回の縦断研究はベースラインの設定や被験者の選択に問題があります。

社会経済的な変数として使用されている要素は教育、収入、慢性疾患など多数ありますが、今回の研究では重要な2つの要素が抜けています。それは認知機能と服薬数です。

まとめ

歯数とフレイルへの移行は関連性を認めているわけですが、歯周病に関してはグレーな結果となっています。しかし、歯を失う原因としてやはり歯周病は代表選手なのですから、そこらへん歯周病の評価方法と交絡などの調整により結果は変わる可能性はあると思います。

機能歯数に関しては簡単に判定可能ですし、補綴すれば増やすこともできる、と書いたところでこれは補綴部位はカウントされているのかチェックが必要だろうと思いました。

ドライマウスがフレイルの予知因子として結構オッズ比(OR=2.05)が高い感じですが、イマイチどうドライマウスを評価しているのかわからない所があり、これは原文を確認する必要があります。

口腔の状態や機能が悪い→食べられるものが制限→栄養状態の悪化→フレイルという流れは想像出来るわけですが、ではどの口腔機能がフレイルの予知因子として有用なのかというところはまだ検討段階というのが実情でしょう。以下のブログにも記載しておりますが、実際口腔機能低下症の定義に関しても今後変わっていく可能性があります。

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