普通の歯科医師なのか違うのか

残存歯が少ないと将来嚥下のトラブルが発生しやすくなる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

歯を失う事と嚥下の関連性に関する研究

今回は2015年に発表された日本からの論文です。歯の喪失と嚥下トラブルの関連性を縦断で検討した論文となります。

Association of Tooth Loss With Development of Swallowing Problems in Community-Dwelling Independent Elderly Population: The Fujiwara-kyo Study
Nozomi Okamoto , Masayuki Morikawa , Motokazu Yanagi , Nobuko Amano , Kimiko Tomioka , Kan Hazaki , Akihiro Harano , Norio Kurumatani 
Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2015 Dec;70(12):1548-54. 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26341784/
PMID: 26341784

Abstract

Background: Tooth loss induces changes to the anatomy of the oral cavity. We hypothesized that tooth loss may disturb smooth swallowing in healthy elderly people. The purpose of this study was to investigate the effect of tooth loss on the development of swallowing problems in an independent elderly population.

Methods: This was a 5-year prospective cohort study conducted in Nara, Japan. Included in this analysis were 1,988 community residents aged 65 years or older without swallowing problems at baseline. The participants were classified into quartile groups according to the number of remaining teeth at the baseline survey: 0-12, 13-22, 23-26, and 27-32 teeth. A decrease in the number of teeth during the survey was calculated by subtracting follow-up number from baseline number. Main outcome was the development of swallowing problems at follow-up.

Results: During follow-up, 312 individuals developed swallowing problems. After adjustment for confounding factors by multiple logistic regression analysis, the odds ratios for developing swallowing problems in participants with 13-22 or 0-12 teeth were 2.42 (95% confidence interval [CI], 1.61-3.63) and 2.49 (95% CI, 1.68-3.69), respectively, compared to participants with 27-32 teeth, demonstrating a significant relationship. The odds ratio of per 1 tooth decrease over 5 years was 1.08 (95% CI, 1.02-1.13), showing a significant association.

Conclusions: Swallowing problems due to aging are more likely to develop in individuals with fewer teeth.

背景:歯の喪失は口腔の解剖学的な変化を引き起こします。私達は健康な高齢者において歯の喪失がスムースな嚥下を阻害するかもしれないという仮説を立てました。本研究の目的は、自立高齢者において嚥下の問題に対する歯の喪失が与える影響について調査することです。

方法:本研究は5年間の縦断研究で日本の奈良県で実施されました。被験者はベースライン時65歳以上の嚥下に問題がない地域在住高齢者1998名です。被験者は残存歯の四分位で0~12本、13~22本、23~26本、27~32本の4群にわけられました。フォローアップ期間中の歯の喪失本数をカウントしました。主なアウトカムはフォローアップ時の嚥下の問題の発生です。

結果:フォローアップ期間中に312名が嚥下に問題を認めました。多変量ロジスティック回帰分析による交絡調整後、嚥下問題発生のオッズ比は残存歯27から32本群と比較して残存歯13~22本群では2.42 (95% CI, 1.61-3.63) 、0~12本では2.49 (95% CI, 1.68-3.69) で有意差を認めました。5年で1本喪失のオッズ比は1.08 (95% CI, 1.02-1.13) で有意差を認めました。

結論:加齢による嚥下の問題は歯が少ない人で起こりやすいと言えます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

嚥下に関する問題は、脳卒中患者の25~80%、パーキンソン病患者の30~70%に認められます。靱帯の弛緩、オトガイ舌骨筋の萎縮、咽頭、食道の筋緊張の低下、嚥下持続時間の増加、最大舌圧の低下、嚥下性無呼吸の増加などは加齢変化により認められます。これらの変化は変性神経疾患により起こる変化と比べたら無視できるぐらいかもしれません。しかし、内視鏡検査で健康な高齢者の11.3%に喉頭侵入が、6.5%に誤嚥が認められたという報告もあります。私達は自己回答式質問表と30ml水飲みテストを用いて自立高齢者の15%程度に嚥下の問題があることを発見しました。

嚥下は唾液と混合されて充分小さい食塊になれば惹起します。咀嚼能力が低下する大きな要因は歯の喪失です。歯の喪失は口腔内の解剖学的な変化を引き起こします。そのため、 私達は健康な高齢者において歯の喪失がスムースな嚥下を阻害するかもしれないという仮説を立てました。

実験方法

被験者の選択

藤原京スタディに参加した被験者のデータを使用しました。藤原京スタディは2007年にベースライン調査を行い、2012年にフォローアップ調査を行いました。被験者はベースライン時に65歳以上の奈良県在住自立高齢者で特に介助なく歩行可能である人としました。

最初は4206名で色々な条件で除外され、最終的に1988名が対象となっています。

嚥下機能評価

義歯を装着している人は義歯こみで、義歯を装着していない人は義歯無しで食事時の嚥下機能を評価しました。

診査は質問表+30mlの水飲みテスト

質問表:4つの質問
1 たべものをこぼしますか?
2 口の中にたべものが残りますか?
3 食事中にむせますか?
4 食事中、食事後に咳が出ますか?

30mlの水飲みテストは訓練された歯科医師または歯科衛生士によって実施されました。
水を飲むのにかかる時間と咳の有無を測定しました。
5秒以内に全部飲めて咳がない人が正常、そうではない人は異常
(予備実験でVFで5秒の根拠については検討済み)

質問表に1つでもyesがつくか、水飲みテストで異常と判定された人が嚥下に問題あり群

口腔診査

1 残存歯数:第3大臼歯を含む健全歯または歯冠修復歯
2 最大咬合力:プレスケール
3 咬合支持:Eichner分類
4 口腔乾燥:主観的に口が渇くかどうか

交絡因子

既往歴と現病歴
血圧
HbA1c
身長体重、BMI
10m歩行テスト
握力

統計処理

ベースライン時の採用群と除外群の各項目の比較は連続変数はMann-Whitney検定、カテゴリはχ2検定。

残存歯数を四分位にて被験者を4群に分類(残存歯数0-12、13-22、23-26、27-32本群の4群)。ベースライン時の4群間の各項目の比較はKruskal-Wallis検定。

傾向分析として拡張Mantel検定またはJonckheere検定。

交絡調整オッズ比と95%信頼区間はロジスティック回帰分析
フォローアップ時の嚥下問題の発生が独立変数。ベースライン時の残存歯数群が従属変数。
交絡:性別、年齢、Eichner分類A、口腔乾燥、既往歴、BMI、10m歩行テスト、握力

有意水準は5%

結果

被験者として採用された1988名と除外された1121名の比較ですが、除外群のほうが有意に高齢で残存歯数が少なく、無歯顎の率が高く、口腔乾燥の割合も高い結果でした。
除外群は死亡でドロップアウトも含まれるのでまあ当然の結果でしょう。

1988名を4群にわけたベースライン時の比較が表2になります。

残存歯数が減るに従って最大咬合力は有意に低下しました。残存歯数と年齢、10m歩行テスト、握力、性別、糖尿病、高血圧の有病率は有意な関連性を示しました。

5年間での累積で嚥下問題が発生したのは全被験者の15.7%でした。男性の16.4%、女性の14.9%に嚥下問題が発生しました。

残存歯群(Q1:0-12本群、Q2:13-22群、Q3:23-26本群、Q4:27-32本群)を65-74歳群と75-89歳群にわけて嚥下問題発生率について検討した所、どちらの年齢層においても残存歯数が少ない程嚥下問題発生率が有意に高い結果となりました。また、性別でわけた場合でも男性、女性共に残存歯数が少ない程嚥下問題発生率が有意に高い結果となりました。

ロジスティック回帰分析の結果を表3に示します。最大咬合力は残存歯数群との有意な関連性が認められたため、今回は交絡として使用されていません。

交絡調整後では、 嚥下問題発生のオッズ比は残存歯27~32本群と比較して残存歯13~22本群では2.42 (95% CI, 1.61-3.63) 、0~12本では2.49 (95% CI, 1.68-3.69) で有意差を認めました。また、追加のロジスティック回帰分析で、5年間で1本の歯の喪失ではオッズ比1.08 (95% CI, 1.02-1.13) で有意差を認めました。

考察の一部

咀嚼は、食べ物を噛み砕くことで、潤滑性の高い、まとまった食塊を形成する役割を果たします。脳卒中患者や全部床義歯装着者では、咀嚼能力が十分でないため、食べ物の粒子を適切な大きさに調整するための咀嚼回数や咀嚼時間が増加しています(文献31、32)。咀嚼時間を長くすると、食塊の粘性が低下します(文献31)。食塊の粘性が低下すると、Stage II transportによる食塊の位置が咽頭のかなり深いところになる傾向があり(文献33)、誤嚥の可能性が高くなります。歯の数が少ない人は咀嚼能力が低くなります。嚥下に適した粘度と粒子径の食塊を、嚥下開始が遅れることなく形成することが困難な場合があります。歯の数が少ない高齢者では、食塊の粘性が低下するため、嚥下の問題が発生しやすくなる可能性があります。健康な高齢者における嚥下の加齢変化は老嚥と呼ばれ、脳卒中後の患者の嚥下障害とは区別されます。残存歯数の少ない自立した高齢者は、一般的に嚥下リハビリテーションを受けることはありませんが、身体の状態が悪化すると、不顕性誤嚥による肺炎を起こしやすくなる可能性があります。口腔内の衛生状態を良好に保ちながら、自分の歯を残すことが大切です。ロジスティック回帰分析では、Eichner分類と嚥下障害との間に有意な関係は認められませんでした(表3)。喉頭への侵入は、無歯顎の高齢者が義歯を装着していない場合、無歯顎の高齢者に比べて頻度が有意に高いと報告されています(文献34)。義歯を装着していない場合は、義歯を装着している場合に比べて、食べ物の操作性が悪く、食塊の形成がうまくいかないため、食塊の通過時間が口腔、喉頭蓋谷、下咽頭で長くなります(文献35)。食塊の下咽頭への滞留時間が長くなると、誤嚥のリスクが高まると考えられます。したがって、臼歯や補綴物による咬合で顎の安定化させる事は、嚥下機能に重要な役割を果たします。

Limitation

1 無回答者の割合が多かった(特に無歯顎者と残存歯数の少ない人からの回答)
2 固形物を用いたテストを行っていない
3 歯の欠損部位の調査がされていない
4 誤嚥する人で低下する咽頭圧と舌圧を調査していない

まとめ

無回答者に無歯顎者と残存歯数の少ない人からの回答がすくなかったという点からしても社会経済的な要因の関与はありそうだな、と思いました。歯が少ない人は経済的にも学歴的にも低い可能性があると思われます。今回はそういった交絡が含まれていません。

嚥下問題があるかないかのテストに関しては、例えばRSSTなんかでも誤嚥に関する感度特異度はある程度の水準でついているので、食品をつかわなかったという点が絶対にマイナスになるかは私にはわからない所です。

残存歯数は今回義歯の人工歯は含まれていませんが、Q1のEichnerA群の%をみるかぎり、少数歯残存の場合、かなりの人が義歯を装着しているのは間違いないでしょう。それに比べてQ2では70%ぐらいしかEichnerA群がいないので、義歯を装着していない人が案外多くいると考えられます。Eichner分類と咬合力、咀嚼能力については以前読ん論文で詳しく検討されていますが、EichnerB2、B3ぐらいで大きく低下します。ただし、今回の論文では義歯をいれればEichnerはA群に戻りますが、以前の論文は義歯をいれてもEichner分類は残存歯で決まったそのままのようです。その評価基準の違いが今回Eichner群と嚥下問題で関連性が出なかった原因かもしれません。

また、表3をみると10m歩行速度が遅くなるのと嚥下の問題は関連が認められています。これからすると、この高齢者にはサルコペニアの嚥下障害患者が含まれていると考えられますが、握力では有意な関連性は認められていませんし、ちょっと解釈が難しい所です。

自分の歯が少ない程、将来的に嚥下障害の可能性が高くなる、という事が今回の研究で示唆されました。

私、全部自分の歯でほとんど治療もされていないんですが、最近むせる回数が増えてきています。勿論歯が少ないことだけが嚥下問題発生の主原因というわけではない事は理解しておくべきかと思います。最近焦ってShaker訓練してます。

メモ

文献31 Kim IS, Han TR. Influence of mastication and salivation on swallowing in stroke patients. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86:1986–1990. doi:10.1016/j.apmr.2005.05.004

文献32 Veyrune JL, Lassauzay C, Nicolas E, Peyron MA, Woda A. Mastication of model products in complete denture wearers. Arch Oral Biol. 2007;52:1180–1185. doi:10.1016/j.archoralbio.2007.04.016

文献33 Matsuo K, Kawase S, Wakimoto N, Iwatani K, Masuda Y, Ogasawara T. Effect of viscosity on food transport and swallow initiation during eating of two-phase food in normal young adults: a pilot study. Dysphagia. 2013;28:63–68. doi:10.1007/s00455-012-9413-1

文献34 Yoshikawa M, Yoshida M, Nagasaki T, Tanimoto K, Tsuga K, Akagawa Y. Influence of aging and denture use on liquid swallowing in healthy dentulous and edentulous older people. J Am Geriatr Soc. 2006;54:444– doi:10.1111/j.1532-5415.2005.00619.x

文献35 Yamamoto H, Furuya J, Tamada Y, Kondo H. Impacts of wearing complete dentures on bolus transport during feeding in elderly edentulous. J Oral Rehabil. 2013;40:923–931. doi:10.1111/joor.12107

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