普通の歯科医師なのか違うのか

高齢全部床義歯装着者の栄養状態、口腔関連QOLは悪い

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回のリファレンス

前回、全部床義歯装着と食事指導を併用すると栄養状態が改善する、という論文を読みました。その際に引用されていた論文を読むことにしました。

gerodontologyの2012年の論文ですが、100以上引用されており、比較的重要度が高いといえそうです。

Nutritional status, dietary intake and oral quality of life in
elderly complete denture wearers
Pierre Yves Cousson , Marion Bessadet, Emmanuel Nicolas, Jean-Luc Veyrune, Bruno Lesourd, Claire Lassauzay
Gerodontology  2012 Jun;29(2):e685-92.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22004061/

Abstract

Background and objective: The prevalence of malnutrition increases with age because of many factors. Edentulousness leads to the avoidance of many types of foods. The aim of this study was to determine whether elderly complete denture wearers have a higher risk of malnutrition than dentate controls.

Material and methods: A Mini-Nutritional Assessment (MNA) and a 3-day dietary record were compiled for a group of fully dentates (21 women and 29 men; mean age 70.1 ± 6.1) and for a group of complete denture wearers (31 women and 16 men; mean age 70.1 ± 8.1). Socio-demographic data and scores on the General Oral Health Assessment Index (GOHAI) questionnaire were collected.

Results: Inter-group comparison of MNA scores showed that more subjects in the edentulous group (21.3%) risked malnutrition than in the dentate group (0%). The variability of the MNA could be explained for 22% by dental status, 7% by loneliness and 4% by the GOHAI score (regression analysis). Both groups had insufficient energy intakes and deficits in vitamins and micronutrients; moreover, edentulous subjects had lower intakes than dentate subjects.

Conclusion: The use of conventional dentures increases the risk of malnutrition in the elderly.

背景と目的:低栄養は色々な理由で加齢と共に増加します。無歯顎者は多くの食べ物を避けがちです。本研究の目的は高齢全部床義歯装着者が有歯顎者と比較して栄養不良のリスクが高いかどうかを決定する事です。

実験方法:高齢正常有歯顎者(50名 男性29、女性21、平均年齢70.1±6.1)と全部床義歯装着者(47名 男性16 女性31、平均年齢70.1±8.1)に対してMNAと3日間の食事内容を調査しました。社会人口統計学的データとGOHAIに関しても調査しました。

結果:MNAのスコアから栄養不良のリスクがあったのは、無歯顎者群で21.3%、有歯顎者群で0%でした。MNAスコアは歯の状態が22%、孤独さが7%、GOHAIスコア4%で説明出来る可能性があります。両群共にカロリー、ビタミン、微量元素不足でしたが、無歯顎者群は有歯顎者群よりも摂取状態が悪い結果となりました。

結論:高齢者において従来の義歯使用は低栄養のリスクを増加させます。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

無歯顎者は色々な食べ物を敬遠します。生野菜などの従来の全部床義歯では食べづらい物は特に。Sheihamらは20本以上歯がある人と全部床義歯装着者を比較すると、全部床義歯装着者では栄養素摂取が低かったと報告しています(論文7)。

栄養不良のリスクは口腔関連QOLに反映されるかもしれません。口腔関連QOLは栄養不良や栄養不良のリスクとなるQOL低下に関連するという報告があります(文献14)。

本研究の目的は高齢全部床義歯装着者が同年齢層の正常有歯顎者と比較して栄養不良のリスクが高いかどうかを決定する事です。栄養障害は多要因であり、色々な尺度で評価する必要があります。

実験方法

被験者の選択

60歳以上の自立した高齢者
除外項目:フランス語に会話や読み書きができない、深刻な鬱状態や栄養状態に影響を及ぼすような全身疾患を有している、食事制限されているものは除外されました。
Study group:Clermont-Ferrand Dental Hospitalに全部床義歯治療を希望して来院した完全無歯顎者207名に全部床義歯を製作し、6か月後にこの実験に参加するか聞きました。
Control group:Clermont-Ferrand Dental Hospitalで治療している患者またはその家族でEichner A群であり、インプラントまたは部分床義歯を装着していない人達です。
同意を得られた被験者に対する調査は両群とも同時期に行いました。

GOHAIの評価

GOHAIは3群12個の質問からできています。
1)機能群:食事、会話、嚥下
2)心理面:心配、不快事項と見た目
3)痛み又は不快:薬の服用、咀嚼時の痛みやしみ
それぞれの質問に1点(いつもそう)~5点(全く無い)をつけます。
57~60点はかなりよい口腔のQOL、51~56は普通、50点以下はQOL低下です。

栄養評価と摂取品目

NMAによるアセスメントを使用しています。NMAが24以上は良好な栄養状態、17~23.5はリスクあり、17未満は栄養不良です。

被験者から平日2日、週末1日の食事と飲み物の記録を採取しました。記録をSU.VI.MAX iconographic methodを用いて集計して、栄養素に変換しました。

結果

被験者の構成を以下に示します。人数や年齢はそろっていますが、男女構成や独居であるかどうかに関しては差があると思います。しかし、そこら辺はあまり考慮されていません。

GOHAI

GOHAIのスコアは有歯顎群が57.0±2.97だったのに対して、無歯顎群は48.8±9.14であり、有意差が認められました。
また、よい、普通、悪いの3群にわけた場合、有歯顎群は良い76%、普通20%、悪い4%だったのに対して、無歯顎群では良い26%、普通24%、悪い51%でした。χ2検定を行った結果、有意差を認めました。

MNA

無歯顎群のMNAの平均値は25.86±2.89で有歯顎群は28.21±1.53であり、統計的有意差を認めました。
一般線形モデルにより、MNAの変動は歯の状態によって22%、孤独感の状態によって7%、GOHAIによって4%説明できることが明らかになりました。MNAは、参加者が歯の状態、夫婦生活、GOHAIスコアが良い場合に高いスコアを示す傾向でした。

食事摂取

カロリーと主要栄養素の摂取量の比較では、タンパク質、水分量とコレステロールに関しては有意差は認めませんでしたが、カロリー量、脂質、炭水化物、食物繊維では有歯顎群の方が有意に摂取量が多い結果となりました。

微量元素に関しては、ナトリウム、カリウム、亜鉛では有意差を認めませんでしたが、マグネシウム、リン、カルシウム、鉄では有意に有歯顎群の摂取量が多い結果となりました。

ビタミンなどに関しても、ビタミンB1、B2、B5、葉酸に関しては有歯顎群が有意に摂取量が多い結果となりました。

まとめ

ここまで圧倒的に有歯顎群と全部床義歯装着者群で差を見せつけられるとは思っていませんでした。

フランスと日本では違う所もあるでしょうが、まあ大体の状況は同じではないでしょうか。

考察では、独居が栄養状態に与えるリスク、栄養摂取量の低下による骨粗鬆症やサルコペニアのリスクなどが記載されています。

全部床義歯装着者は咀嚼機能も有歯顎者群に劣るため、料理を工夫して摂取量を保つか、面倒になって食べやすいものだけ選んで偏食になり栄養不良になるか、という風に記載されていますが、これは色々な文献でも指摘されています。

少しでも栄養状態を改善するためには、この前の論文でもあったようにただ義歯を作るだけではなく、適切な食事指導が必要と考えられます。

しかし、アブストの結論にある

The use of conventional dentures increases the risk of malnutrition in the elderly

従来の全部床義歯の使用は栄養不良のリスクである

というのは結局ショッキングな一文でした・・・。

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