普通の歯科医師なのか違うのか

咬む歯が少ない事は将来的な食品摂取に悪影響をあたえる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

歯が少なくなれば栄養状態は悪くなる?

どうしても読みたかった日本の口腔衛生管理についての論文を2本読んだりして寄り道しましたが、以前読んだ口腔の状態と全身の関連性についてのScoping Reviewで気になる引用文献を読む旅に戻ってきました。以後3本はこのreviewの引用文献を読む予定で文献も入手しました。

12月に講演会で栄養に関しても少し話さないといけないので、今回は日本人の残存歯と栄養摂取についての2016年の論文を読みたいと思います。

Longitudinal association of dentition status with dietary intake in Japanese adults aged 75 to 80 years
M Iwasaki , A Yoshihara , H Ogawa , M Sato , K Muramatsu , R Watanabe , T Ansai , H Miyazaki 
J Oral Rehabil. 2016 Oct;43(10):737-44. doi: 10.1111/joor.12427.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27545519/
PMID: 27545519

Abstract

Limited information is available on the temporal association between dentition status and dietary intake. The aim of this 5-year prospective cohort study was to investigate whether impaired dentition was associated with subsequent decline in dietary intake in older Japanese adults. Two hundred and eighty-six community-dwelling Japanese individuals, all aged 75 years at baseline, were included in the study. Functional tooth units (FTUs), defined as a pair of opposing natural or prosthetic teeth excluding third molars (range: 0-14), were counted on the basis of baseline dental examinations. Individuals with ≤5 FTUs were defined as having impaired dentition. Dietary intake was assessed at baseline and 5 years later, using a validated dietary questionnaire. Robust regression analyses were used to evaluate the differences in change in dietary intake between participants with and without impaired functional dentition, after adjustment for potential confounders. Sixty-one study participants (21·3 %) were defined as having impaired dentition. Overall, mean values for all estimated dietary variables (energy, nutrients and food groups) declined over time. Notably, individuals with impaired dentition demonstrated a significantly (P < 0·05) greater degree of decline in the intake of multiple nutrients (protein, sodium, potassium, calcium, vitamin A, vitamin E and dietary fibre) and food groups (vegetable and meat) than those without impaired dentition, after adjusting for potential confounders. The results of this study describe the temporal association of impaired dentition with the decline in selected nutrient and food group intake among older Japanese adults.

歯列の状態と栄養摂取の関連についてはあまり情報がありません。今回の5年間の縦断研究の目的は日本の高齢者において歯の喪失がその後の栄養摂取の低下と関連するかどうかを調べることです。

ベースライン時には全て75歳の286名の地域在住日本人が本研究に参加しました。天然歯または補綴歯による機能歯数(第3大臼歯を除く。最大数14)をベースライン時にカウントしました。機能歯数(FTUs)が5以下の被験者を歯列障害と定義しました。栄養摂取についてベースライン時と5年後に質問表を用いて調査しました。ロバスト回帰分析を用いて、歯列障害の有無による食事摂取の変化の違いを交絡を調整し検討しました。

61名の被験者が歯列障害でした。全体として、食事摂取(エネルギー、栄養素、摂取食品)の平均値は減少しました。歯列障害者群はそうでない群と比較して有意に複数の栄養素(たんぱく、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ビタミンA、E、食物繊維)と野菜、肉の摂取量が少ない結果となりました。

この結果により、日本の高齢者において歯列障害が栄養素、摂取食品の減少と関連する事が示唆されました。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

食事が健康的な生活に重要である事は疑いようがありません。栄養摂取は歯列の状態と全身的な健康を結びつける主な経路と考えられます。不適切な歯列は好ましくない食品選択や食事の質や量の低下と関連します。

多くの疫学研究で歯列の状態と栄養摂取の関連性が示唆されていますが、多くの研究は横断研究です。そこで本研究は5年間の縦断研究で日本人の歯列と栄養摂取の関連性についての検討を行いました。

実験方法

被験者

2003年開始、2008年終了の本研究は新潟スタディの一貫として実施されました。新潟スタディは口腔と全身の健康に関する関連を評価するために1998年に開始されたものです。新潟スタディは新潟市在住の1927年生まれの高齢者をランダムに600名抽出しています。

2003年にベースライン調査として口腔内診査、栄養調査、質問表調査、身体測定などを行いました。2008年にフォローアップとして栄養摂取状態を調査しました。

本研究の被験者は①新潟スタディ参加者、②ベースラインとフォローアップ両方に参加、③データの欠落がないものとしました。

口腔内診査

4名のトレーニングされた歯科医師により口腔内診査を行いました。

①動揺度:水平的に2mm以上の動揺または、垂直生の動揺があればsevereと判定
②義歯装着者の維持安定:軽い手指圧で義歯が動く、開口するとダツリする、義歯を着脱方向の反対に動かそうとすると簡単にダツリする場合は適合不良と判定

質問表と身体測定

質問表の内容
咀嚼しづらさがあるか?
社会経済的内容(教育、収入、喫煙、ADL、併存疾患)

身体測定:BMI

食事評価

簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)に記載してもらい、そのデータを基にエネルギー、栄養素摂取などを計算しました。

変数

暴露変数:機能歯数(0-14)で5以下を歯列障害群
アウトカム:ベースラインと5年後の栄養素摂取、食品群の差

5年後の栄養摂取ーベースライン時の栄養摂取/ベースライン時の栄養摂取で%を算出

統計処理

各群間の特性に関する比較は連続変数の場合、t検定またはMann-Whitney U検定
カテゴリの場合はχ2検定検定

ロバスト回帰分析を用いて、歯列障害の有無による食事摂取の変化の違いを交絡を調整し検討。性別、教育、収入、喫煙の有無、ADL、BMI、Charlson comorbidity indexを用いた併存疾患を調整

結果

被験者として最終的に286名が残りました。

歯列障害あり群(機能歯数5本以下)と歯列障害なし群とのベースライン時の特徴の違いについてですが、インプラントが埋入されていた被験者はいませんでした。殆どの項目で有意差はありませんでしたが、咬みづらさについてyesと答えた人は歯列障害あり群が有意に多い結果となりました。

食事摂取状態のベースラインと5年後の比較ですが、全ての項目で5年後は減少となりました。

歯列の状態と食事摂取の変化の関連についてですが、蛋白、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ビタミンA、E、食物繊維において、歯列障害群で有意に減少割合が大きくなりました。同様に野菜と肉の摂取が歯列障害群では有意に減少割合が大きくなりました。

考察

今回の研究では、75歳の研究参加者を対象とした5年間の前向きコホート研究において、エネルギー、栄養素、食品群の食事摂取量の減少が観察されました。加齢に伴い食事摂取量が減少するという今回の発見は、以前の研究の結果と同様です。注目すべきは、今回の研究では、ベースラインの歯列障害が複数の栄養素の摂取量の減少の度合いと有意に関連していることがわかったことです。これは、歯列障害のある人がない人に比べて野菜や肉の摂取量が減少していることが一因と考えられます。また、歯列障害は、自己申告による咀嚼しづらさと関連していました。野菜は、噛みにくい食品として認識されており、多くのビタミン、ミネラル、食物繊維の主要な供給源の一つです。さらに、多くの肉製品は噛みにくい食品と認識されており、タンパク質、ビタミン、ミネラルの重要な供給源となっています。本研究は、歯列の状態と食事摂取量との縦断的な関連性を示した数少ない研究の一つです。

Limitation

1.歯列と食品摂取以外の基礎的項目はベースライン時のみの評価。
2.歯列以外にも栄養知識や調理技術など、食事摂取に関連する決定因子の存在。
3.口腔内の痛みなど、咀嚼能力低下に関連する因子の未評価。

まとめ

5FTUs以下で群をわけた根拠がイマイチわからないのですが、20本で咬めば大丈夫という短縮歯列の概念が10FTUsですから、その半分ということなんでしょうか?。臼歯部からなくなることが多く、下顎前歯部が残りやすい事などを考えると5FTUsはほぼ前歯しか咬んでいないが、義歯は入っていないぐらいのイメージですよね。
かなり極端といえば極端ですが、新潟市というアクセスが比較的良い所に住んでいる高齢者の20%以上が該当していますから、治療せずに放置されている人が結構いるという事なのでしょう。ただし、5年後の歯列の状態を評価していませんから、5年の内に義歯を入れたり治療を受けた人がいた可能性は否定できません。

これぐらい咬む所がないのに義歯治療などを受けていない場合、5年後の栄養摂取は歯列障害なし群と比較すると色々な項目で有意に減少しています。蛋白やビタミンが減るというのは他の咬合と栄養摂取を検討した横断研究などと同等の傾向です。エネルギーに関しては有意差が認められませんでしたが、これに関しても他の横断研究でも指摘されており、咬みづらくなった分食べやすい炭水化物主体の食事メインになることでエネルギーは維持されるが、栄養素としては差が認められるという傾向が今回の研究でも示唆されていると考えられます。

この結果からすると、やはり義歯を入れて機能歯数を増やした方がいいよ、という結果になりますが、口腔状態と栄養状態に関するメタアナリシスでも、限定的ながらその結果は支持されています。ただし、このメタアナリシスでは機能歯数は検討されておらず、無歯顎、咀嚼しづらさが検討されています。

今回は横断ではなく縦断です。咬むところが少ない人は将来的な低栄養リスクが、咬むところが多い人よりも高いこを実際に証明した論文ということになるかと思います。ただし、MNAなどを使って実際に5年後低栄養になったかが評価されていません。咬むところが少ない+加齢による筋力低下などで食品の偏りがより強くなっているという解釈が現実的かもしれませんね。

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