普通の歯科医師なのか違うのか

口腔機能が悪いほど介護にかかる費用が高くなる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

ここ最近デジタルデンチャーの論文を読んできましたが、煮詰まってきたので、別路線にいってみたいと思います。東海オーラルマネジメント研究会にオンライン参加していたら紹介された論文が気になりました。BMJ openで今年の2月にパブリッシュされたばかりの日本からの論文です。

Oral function and cumulative long-term care costs among older Japanese adults: a prospective 6-year follow-up study of long care receipt data
Kaori Kojima , Masashige Saito , Yasuhiro Miyaguni , Eisaku Okada , Toshiyuki Ojima 
BMJ Open. 2023 Feb 14;13(2):e066349. doi: 10.1136/bmjopen-2022-066349.
PMID: 36787975

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36787975/

Abstract

Objectives: This study evaluated the relationship between status of oral function and related long-term care service costs.

Design: This was a prospective 6-year follow-up study of previous survey data.

Setting: The data were obtained from the Japan Gerontological Evaluation Study conducted between 2010 and 2011.

Participants: The participants were functionally independent older adults in 12 municipalities across Japan.

Interventions: Care service benefit costs were tracked over 6 years using publicly available claims records (n=46 616) to monitor respondents’ cumulative care costs.

Primary and secondary outcome measures: The primary outcome variable was the cumulative cost of long-term care insurance services during the follow-up period. We adjusted for the presence or absence of oral function problems, age, sex, physical function and socioeconomic and lifestyle background at the time of the baseline survey.

Results: Tobit analysis revealed that, compared with those with no oral function problems, cumulative long-term care service benefit costs for those with one, two or three oral function problems were approximately US$4020, US$4775 and US$82 92, respectively, over 6 years. Compared with those with maintained oral function, there was a maximum difference of approximately US$8292 in long-term care service costs for those with oral function problems. With increase in number of oral function problems, there was a concomitant elevation in the cost of long-term care.

Conclusions: Oral function in older people was associated with cumulative long-term care insurance costs. The oral function of older people should be maintained to reduce future accumulated long-term care insurance costs. Compared with those with maintained oral function, there was a maximum difference of approximately US$8292 in long-term care service costs for those with oral function problems. The cost of long-term care was amplified as oral problems increased.

目的:口腔機能と介護サービスにかかるコストの関連性を評価する事です。

デザイン:6年間の縦断研究です。

設定:データは2010年~2011年に行われた日本での高齢者を対象とした大規模研究から得たデータを使用しました。

被験者:日本の12自治体に住んでいる自立高齢者が対象です。

介入:介護サービス給付費を、公開されている請求記録(n=46616)を用いて6年間追跡し、回答者の累積介護サービス費用をモニターしました。

主要アウトカムと副次アウトカム:主要アウトカムはフォローアップ期間中の介護保険サービスの累積コストです。ベースライン時の口腔機能に問題があるかないか、年齢、性別、身体機能、社会経済的要因、ライフスタイルで調整を行いました。

結果:Tobitモデルでは、口腔機能に問題が無い高齢者と比較して、1つ、2つ、3つ問題がある場合の6年間の累積介護サービス給付費は、それぞれ約4020ドル、約4775ドル、約8292ドルでした。口腔機能が維持できている高齢者と比較すると、口腔機能に問題がある場合、最大で約8292ドル介護サービス給付費に違いを認めました。口腔機能の問題が増加すると介護サービスコストも上昇しました。

結論:高齢者の口腔機能は累積介護保険費用と相関しました。将来的な介護保険の累積的なコストを削減するために、高齢者の口腔機能は維持されるべきです。口腔機能を維持している人と比較すると、口腔機能に問題を抱えている人の介護サービスは最大で約8292ドル多くコストがかりました。口腔問題が増えるにつれて、介護のコストも増えました。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

世界的に、平均寿命は延長しています。日本では、介護を必要とする高齢者数の増加、介護が必要な期間の延長などにより、介護サービスのニーズが非常に厳しい状況です。65歳以上の被保険者3555万人のうち、要介護、要支援と認定された人は、2019年に669万人となり、継続的に増加しています。65歳以上の4~5人に1人が介護が必要で、関連する医療費は2019年に2706億2900万ドルとなっています。加えて、2019年の介護保険利用者は計1億6063万人でコストは1045億6700万ドルとなっています。

日本の介護保険システムは、高齢者の介護を社会全体で支える制度として、2000年に設立されました。この保険システムは、介護を必要とする人に給付を行い、適切なサービルを利用できるようにすることで介護を支援するものです。身体的な自立をサポートし、介護を行う家族の負担を軽減するという目的があります。介護保険は被保険者、保険者、介護サービス提供者の3つの組織で構成されています。保険者としての自治体はシステムを統括し、40歳以上の全ての住民は被保険者の対象です。非保険者は、介護保険に課金し、介護サービスが必要と認定された時に、サービスを受けることができます。もし、彼らが介護保険を使用して介護サービスを受けたら、カウンターで料金の10%を支払います(収入により30%までアップする可能性あり)。介護サービス提供業者は、非保険者がカウンターで支払った以外のサービス料金を保険者にを請求します。この介護保険システムは公的資金と介護保険料が財源です。自治体と非保険者は介護保険料を50%ずつ払います。介護保険の被保険者数は前年より0.8%増加しました。しかし、人口推計によると、2019年には40歳以上の7820万人中3588万人が65歳以上であり、介護保険の滞納者が増加しています。非保険者の介護保険料は58.69ドルから60.14ドルへ2021年に値上げされました。これは財政や家計の逼迫につながる苦境です。

高齢者には、口腔機能、全身の健康状態、身体的な健康状態、死亡リスクと咀嚼との関連性が報告されています。加えて、全身的な筋力は加齢によって低下します。口腔内に関連する他の器官と同様に、舌の筋線維の萎縮も加齢により起こります。さらに、全身的な筋量の低下は咀嚼に影響する事が報告されています。骨格筋量の減少による筋力の低下で身体機能が低下することをサルコペニアといいます。口腔機能の低下は全身的なフレイルやサルコペニアと関連します。さらに、サルコペニアは摂食嚥下障害とも関連しています。高齢者の食機能の低下は、低栄養のような深刻な疾患の原因となり、寿命に密接に関連します。

口腔機能の低下した高齢者は、介護サービスを多く利用するために費用がかかる事が想定されます。政府の介護保険給付のコストを削減するためには、要介護の予防が重要です。特に、軽度の要介護者については、予防に重点を移す事が必要です。オーラルフレイルは最近調査されており、そのエビデンスから、早期から機能を維持することは口腔機能の維持を助け、長期的には、摂食嚥下機能の低下を防ぐことが示唆されています。

口腔機能と健康管理にかかるコストとは関連がある事が報告されています。しかし、介護保険の累積的なコストに関する報告はありません。本研究の目的は、いくつかの市町村に居住する日本人高齢者を対象に質問紙調査を実施し、高齢者の口腔機能と介護保険のコストの関連性を保険請求記録から解明することです。

実験方法

サンプル

ベースラインのデータは、地域在留の65歳以上で身体的、認知機能に異常を認めず介護を受けていない人を対象にした自己記入式質問用紙による調査から得ました。データは日本老年学的評価研究(JAGES)から得ました。ベースライン調査時に、回答者は介護の必要性がなく、地域に住んでいる人達です。JAGESは自己記入質問用紙によって調査され、2010年8月から2012年1月までの間に12の参加自治体に住む65歳の自立高齢者へランダムに送付しました。51302名から回答を得(適切な回答率64.7%)、性別年齢がわからないものは除外しました。被験者は、調査時点で介護の必要性がない高齢者と限定されており、6年後の実際の介護保険給付と紐付けました。私達はベースライン調査から6年間毎月の介護保険請求記録を入手しました。回答者の介護保険の利用を確認するために、保険者から実際の保険給付情報が供給されました。保険者による介護保険認定、死亡データ、介護保険料の請求に関する情報は、保険者が暗号化されたフォームで収集していました。得られたデータと回答結果は個人ごとにマッチングされ、コホートデータが作成されました。計46616名(フォローアップ率90.9%)、追跡不能を除外、転入、転出は除外せず、を解析対象としました。

アウトカム

アウトカムの変数はフォローアップ期間中に利用した介護保険サービスの累積コストです。コストに関しての情報または死亡の情報を自治体から入手しました。この解析では、フォローアップ期間中に離床した全てのサービスにおける累積コストを使用し、フォローアップ期間中に要支援、要介護認定を受けなかった人にかかったコスト、介護サービスを利用せずに死亡した死亡した人のコストは全てゼロとしました。介護費用に関する情報は、アンケート調査実施月から2016年11月までに取り込んだ介護費用実績情報の利用点数から把握しました。2010年8月から2016年11月までのフォローアップ期間を利用して介護保険サービスのコストを把握しました。

介護保険サービスの使用に季節性が認められたので、解析はフォローアップ期間に利用された全てのサービスの累積としました。本解析で取り扱う介護サービスのコストは、介護保険サービスのコストの事です。公的な介護保険サービスは、自費で払う介護サービスを含みません。また、福祉用具の購入や住宅改修にかかる費用は含まれていません。独立変数は、6年間の介護保険サービスの累積コストです。回答者は、累積コストが0ドル群と、それより多い群の2群に分けられました。

説明変数

説明変数は、ベースライン調査時の口腔機能に関連するものとしました。日本では、介護予防サービスまたは、介護保険サージ部に該当するか調査するために、基本チェックリスト(KCL)の使用が厚生労働省から推奨されています。KCLは厚労省が作製し、65歳以上の高齢者が自分の生活や健康を振り返り、身体的、心理的機能が低下していないかチェックすることができるものです。地方自治体や地方協議会で、介護予防プログラムの対象者を選別したり、介入の効果を評価したりするために使用されています。KCLは、2014年までは65歳以上のすべての人に毎年自動的に送付されていましたが、現在は各自治体の判断で実施されています。25個の質問に自己回答するもので、生活動作、身体、心理機能などについて、はい、いいえで答える形式です。生活動作に関連する活動、身体、心理機能を評価する質問が5つずつ、口腔機能と認知機能に関する質問が3つずつ、低栄養と孤立に関する質問が2つずつとなっています。質問群は、抑うつ気分の評価に関する7つの分野の質問で構成されています。各質問に対して、生活機能に問題があると判断された場合に1点加算され、点数が高いほど生活機能に問題があることが記録されます。口腔機能に関する3つの質問は以下の通りです。「半年前と比較して硬い物が咬みづらいですか?」「お茶やスープでむせたことがありますか?」「口の渇きで悩まされていませんか?」2つ以上にはいと回答した場合、口腔機能低下と判断し、1つ、または0の場合は正常と判断します。

共変量

ベースライン時の性別、年齢、学歴、世帯等価所得、結婚の状態を介護サービスの利用との関連性を調べる時の基本属性として使用しました。人口統計的な属性に関して、年齢を65-69、70-74、75-79、80-84、85歳以上の5群にわけました。社会経済的な背景として世帯等価収入を用い、2万ドル以下、2-4万ドル、4万ドル以上の3群にわけました。世帯等価収入は、世帯全体の総所得を世帯数の平方根で割って算出しました。学歴は、9年以下、9-12年、13年以上の3群にわけました。人生背景については現在結婚している、または結婚していない、の2群にわけました。家族構成については、同居人がいるかどうかで分類しました。老年期うつ病評価尺度(GDS)とADL、喫煙歴を健康状態の指標として用いました。GDSはうつに関する評価として用い、0-4点がうつ徴候無し、5-10点が中等度うつ、11~15点が重度うつと判定しました。喫煙歴は4年未満の喫煙、または喫煙した事が無い場合をいいえとし、4年以上喫煙歴があるが今は喫煙していない、現在も喫煙している場合をはい、としました。共変量の欠損値はダミーコード化し、「欠損」カテゴリーとして解析に含めました。

統計解析

記述統計は、社会人口統計学的変数と6年間の介護保険サービスコストの平均とパーセンテージを、ゼロとそれ以上の類型の2つの階層グループに従って階層化しました。パーセンテージの比較はχ2検定を使用しました。次に、6年間の累積介護サービスコストは口腔機能との関連性を評価するための独立変数として使用されました。解析には、独立変数が正規分布しないと考えられるため、Tobitモデルを使用しました。Crudeモデルで最初の解析を行った後に、調整変数を以下の順序で配置しました。年齢、性別をモデル1に加えた一方で、身体的要素(ADL、GDS、喫煙歴)、社会経済的背景(学歴、結婚の状態、同居人の構成、等価収入)はモデル2に加えました。回帰係数の推定にはSEを使用しました。統計解析にはSTATA SE 15.1を使用しました。有意水準は5%としました。累積介護コストはケアが必要な期間の長さに依存します。そのため、介護が必要と認定を受けた割合と死亡した割合、そこに至るまでの日数を計算しました。

結果

介護サービスを一切利用しなかった人達の平均年齢は73.0歳でした。一方、介護サービスを利用した人達の平均年齢は79.2歳でした。費用の最小は5ドル、最大は235536.90ドルでした。表1にベースライン時の情報と平均介護保険サービス利用額を示します。

表2に口腔機能の問題数による累積介護保険サービス利用額のTobit回帰の結果を示します。

表3に口腔機能問題数別に、介護認定、死亡の割合、またそこに至った日数を示します。

次に、口腔機能と介護保険使用に関するコストとの関連性について調べるために、私達は6年間の累積コストを独立変数、口腔機能を説明変数としてTobit解析を行いました(表2)。口腔機能正常群と比較すると、性別、年齢、社会環境と身体機能などを調整したモデルでは、口腔機能問題1つ群では、偏回帰係数Bは4020.35、2つ群では4775.48、3つ群では8292.83と、コストが正常機能群よりも多くかかることがわかりました。

介護サービスにかかるコストに与える口腔機能の影響を調べました。フォローアップ期間中にかかった介護費用の累計を元に解析しました。口腔機能により、要介護認定を必要する人、死亡または離脱の割合は以下の通りです。口腔機能問題3つ群では36.8%が介護認定を受けており、口腔機能が維持されている群は16.7%でした。死亡と離脱については、口腔機能問題3つ群で20.6%で、口腔機能維持群で9.1%でした。介護認定、死亡または離脱までの日数は、口腔機能問題数が少ないほど減少しました。累積介護コストを解析した結果、口腔機能は介護サービス費用に影響していることが示唆されました。

考察

本研究では、まず口腔機能の程度と介護保険関連の累積コスト間の差を調べました。6年間の介護保険累積コストを調べると、口腔機能維持群と比較して口腔機能に問題を抱えている群は、介護保険累積コストが高い事が示唆されました。6年間の介護保険累積コストは、口腔機能維持群と問題あり群では4000ドル~8200ドルも違いがありました。さらに口腔機能に問題を多く抱える方が、将来的な高コストと関連する事がわかりました。

介護コストは身体機能、社会経済的な背景、ケア環境に関連することがわかりました。うつを伴うADLの低下、等価収入、学歴も介護コストに関連していました。結婚に関しては、結婚していない人の方が介護コストが高くなりました。さらに、女性の方が男性よりコストが高い傾向が認められました。介護者の34%が男性という他の報告と一致しており、女性が必要なときに介護サービスをより多く利用していることを示し、介護環境にも問題があることを示唆しています。

表2における口腔機能の程度と6年間の介護保険サービスコストの解析では、口腔機能維持群と低下群ではコストが異なると言うことがわかりました。これの説明として、口腔機能が低下した高齢者では、身体機能と口腔の健康との関連性が報告されています。咀嚼できる食品数と咬合力は、脚伸展力(レッグエクステンションパワー)と片足立ち時間と関連しており、20本以上残存歯がある人と比較して、19本以下では、転倒リスクが2.5倍であると報告されています。

口腔機能は、メンタル機能と認知症にも関連しています。口腔衛生に関するQOLの低下は高齢者のうつリスクを上昇させます。認知機能という点で、多数歯欠損で義歯を持っていない場合、20本以上残存している場合と比較して認知症に1.9倍なりやすいという事が報告されています(文献35)。重症な歯周病、歯の喪失の原因となりうるものですが、中等度の認知機能低下に関連しています(文献36)。歯を喪失すると、咬合面の数が減少します。咬合接触の減少と柔らかい食品摂取はAlzheimer型認知症のリスクとなります(文献37)。フレイルと口腔機能の関連性については、フレイルである高齢者は、咬合力の低下、咀嚼筋の厚み、オーラルディアドコキネシスに関連した口腔機能が低下しています(文献38)。高齢者に関する日本の研究では、要介護リスクの1つがフレイルです。これらの報告から、口腔機能低下は身体的、心理的、認知的機能と密接に関連しており、要介護に移行する要因である可能性があります。要介護リスクと要介護認定は、介護サービスの使用、そして介護保険の累積費用と関連すると推定されます。これらは、今回の研究で、口腔機能が低下した人は、口腔機能が維持された人に比べて、6年間で4000~8200ドル(1年あたり670~1360ドル)、要介護リスクである口腔機能低下に伴う高コストの関連を示した結果に対して、確かに妥当な説明です。

日本の高齢者の2020年の受給者1人あたりの年間コストは209万ドルでした(文献41)(注:最後のまとめでこの文章に関して記載あり)口腔機能の問題が増えるごとに、コストの増加も起こっています。口腔機能問題1つ群ではトータルのコストは19.3%増加、2つ群では22.7%、3つ群では39.5%増加しました。口腔機能による介護保険の累積コストを解析すると、口腔機能はコストに影響していることがわかりました。よい口腔機能を有している場合、フォローアップ期間中の要介護期間が短かった可能性があります。

食事の困難さに関する過去の研究では、残存歯が少ない、義歯使用は死亡率と関連しており(文献42、43)、要介護の人達は咬める食品が少ない事(文献32)が報告されています。自己回答式の調査では、咀嚼障害は、高齢者では死亡リスクの増加に繋がると報告されています。口腔乾燥に関する研究では、口唇圧と口唇の巧緻性は要介護者で低下していると報告しており、口唇圧が弱いと、開口時間の増加による口腔乾燥と関連します。摂食嚥下障害はフレイルと関連します。口腔機能に問題が多くなると、要介護の必要性と死亡リスクが増大し、口腔機能が低下している高齢者の健康状態に深刻な影響を与える可能性があります。

本研究では、硬い物を食べる、むせ、口腔乾燥を評価しました。将来的な介護費用を減らすために、これらの機能は維持されているのが望ましいです。咬合力は硬い物を咬む事の困難さに関連し、嚥下に関連する舌骨の筋肉、口腔乾燥は機能訓練によって改善する可能性がある事が報告されています。口腔に問題をかかえる人にとって、早期のプロフェッショナルケアと口腔機能を維持しようとする努力は、将来的な介護保険のコストを抑制するのに役立つかもしれません。口腔機能低下は摂食嚥下障害に移行する可能性があるので、将来的に誤嚥性肺炎による死亡を減らす事に繋がる事が望まれます。

これらの結果に基づき、もし口腔機能に2つ以上問題をかかえる15.9%分の介護保険使用コストを抑制できたとすると、どれぐらいコストを削減できるを試算してみました。口腔機能に2つ問題をかかえる場合の累計介護保険使用コストは4775ドルで、年795ドルとなります。本研究の結果を適用すると、10000人の高齢者のうち1890名が口腔機能に問題を抱えている事になります。口腔機能が維持されると、介護コストが少なくなります。加えて、口腔に問題を抱えている群の76.8%は、口腔に問題があるにも関わらず介護サービスを利用していません。口腔機能低下を有しているが、介護サービスは利用していない人への予防的介入は、将来的な機能低下と深刻な病状リスクを低下させることになるでしょう。

本研究の強み

本研究の強みは、社会生活に関するアンケートと介護サービスに関連する公的請求記録の個人データを統合して分析したことです。具体的には、多数の自治体からのデータを含む大規模なデータセットを使用しました。

Limitation

5つのLimitationがあります。
1 質問表による調査であり、居宅を含む高齢者の全てを把握したものではありません。
 調査時に要介護認定を受けていない高齢者に限定。また、6年後に介護保険給付と紐付け可能な高齢者  に限定しています。
2 本実験のデータは協力が得られた自治体レベルで行われた調査であり、選択バイアスがあります。
 妥当な回答率が64.7%のため、データに偏りがあります。
3 フォローアップ期間が6年しか設定されていません。
 生涯における介護費用として反映するには短すぎます。
4 データは疾患に合わせて調整されていません。
 交絡因子かもしれませんが、今回は解析に考慮していません。
5 利用したヘルスケアサービスの種類を考慮していません。
 患者はすでに口腔に関するプロフェッショナルケアを受けている可能性もあります。
 

結論

高齢者における口腔機能の程度は累積的な介護保険コストと関連が認められました。高齢者の口腔機能は将来的な介護保険コストの削減のために維持されるべきです。口腔機能が保たれている群と、そうではない群では、累積的な介護保険コストに差が認められました。6年間での累積的な介護保険コストは、口腔機能維持群と比較して口腔機能低下群では6年間で4020~8292ドル高い結果となりました。最大では8292ドルの差が口腔機能に問題がある場合認められました。口腔機能の問題が多くなると、差が大きくなりました。高齢者の口腔機能の維持は、将来的な累積介護保険コストを削減することに繋がるかもしれません。

まとめ

日本の高齢者の2020年の受給者1人あたりの年間コストは209万ドル(US$2.09million)、という文章が考察にあったのですが、高齢者1名に1人当たり2億円は高すぎます。さすがに数字がおかしいのでは?と思って引用している資料を見てみました。厚労省が開示しているデータだったのですが、これによると2020年の介護の総費用(予算)は121486億円、つまり12兆1486億円です。介護サービス受給者の総計は5635316人でした。ということは1名当たりは215万円ということになります。2万900ドルの間違いではないでしょうか?

Tobitモデルという解析モデルを初めて知りましたが、わかりやすいサイトがありました。https://www.gixo.jp/blog/2494/

「説明変数がある一定値までは被説明変数が常に0の値を取るが、説明変数がある「しきい値」を超えると、説明変数に比例して被説明変数が増加するような関係を分析する時に使われる手法」という記載があります。今回に当てはめると、縦軸が累積介護費用、横軸が口腔機能となる感じでしょうか。勉強になりました。

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