普通の歯科医師なのか違うのか

オーラルフレイルはフレイルや要介護、死亡のリスクである

2020/02/15
 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

今回からオーラルフレイルへ

1/12に地元で講演を聴いてきました。

「地域包括ケアシステムのなかでオーラルフレイルをどう活かすか」
というタイトルで北海道大学の渡邊裕先生にご講演頂きました。

実は渡邊先生が東京歯科にいた頃に初めて飲みにいったので、もう10年以上前ですかね、結構前から知っている先生です。
北海道だと気軽に呑みに行けないですね。
渡邊先生の講演は老年歯科医学会等でも聴いていましたが、学会の時は硬い内容で時間が短い講演が多かったので、今回初めてじっくりと聴く事ができました。

結果からいうと大変感銘を受けました。

先生は数多くの論文を書かれていますが、n数が凄く大きい大規模調査が多いです。それを踏まえた講演は非常に説得力がありました。
そしてpubmed検索したら最近の論文の数が凄かったです・・・。

渡邊先生、お勧め物件ですよ・・・。是非歯科医師会等に呼んでみてください。

その中で紹介された論文を何本か読んでみないといけないなと思いました。

というわけで最も有名な論文からいきたいと思います。

今回は柏スタディの論文

J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018 Nov 10;73(12):1661-1667. doi: 10.1093/gerona/glx225. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. Tanaka T et al

2018年のJournal of Gerodontologyに掲載された論文です。

実はこれが2017年末にアクセプトされたお陰で口腔機能低下症が2018年4月に保険収載されたと言われており、厚労省を動かす程インパクトがあった論文と言うことになります。

また安倍政権の骨太の方針2019に
「口腔の健康は全身の健康にもつながることからエビデンスを蓄積しつつ、国民への適切な情報提供、生涯を通じた歯科健診、フレイル対策にもつながる歯科医師、歯科衛生士による口腔機能管理など歯科口腔保健の充実、入院患者への口腔衛生管理などの医科歯科連携に加え、介護、障害福祉関係機関との連携を含む歯科保健医療提供体制の構築に取り組む 」
という文言がはいったのにも影響はあるでしょう。

こういったスタディは全国各地で行われており、今後別のスタディに関する文献も読む予定です。

Abstract

Background: Oral health is important for maintaining general health among the elderly. However, a longitudinal association between poor oral health and general health has not been reported. We investigated whether poor oral status can predict physical weakening (physical frailty, sarcopenia, and subsequent disability) and identified the longitudinal impact of the accumulated poor oral health (i.e. oral frailty) on adverse health outcomes, including mortality.
Methods: A total of 2,011 elderly individuals (aged ≥ 65 years) participated in the baseline survey of the Kashiwa study in 2012. At baseline, 16 oral status measures and covariates such as demographic characteristics were assessed. As outcomes, physical frailty and sarcopenia were assessed at baseline and at follow-up in 2013 and 2014. Physical independence and survival were assessed from 2012 to 2016 at the time of long-term care certification and time of death.
Results: Poor oral status as determined by the number of natural teeth, chewing ability, articulatory oral motor skill, tongue pressure, and subjective difficulties in eating and swallowing significantly predicted future physical weakening (new onsets of physical frailty, sarcopenia,
and disability). Oral frailty was defined as co-existing poor status in ≥3 of the six measures. Sixteen per cent of participants had oral frailty at baseline, which was significantly associated with 2.4-, 2.2-, 2.3-, and 2.2-fold increased risk of physical frailty, sarcopenia, disability, and mortality, respectively.
Conclusion: Accumulated poor oral status strongly predicted the onset of adverse health outcomes, including mortality among the communitydwelling elderly. Prevention of oral frailty at an earlier stage is essential for healthy aging.

背景:高齢者において、口腔の健康は全身の健康を維持するために重要です。しかし、口腔状態が悪い事と全身状態の経年的な関連性についての報告はいまだありません。そこで私達は口腔状態が悪い事が全身の弱体化(例えばフレイルやサルコペニア、その後の機能障害)を示唆するかどうかを調査し、口腔状態の累積的な悪化が死亡を含めた健康状態の悪化に関連することを縦断的に確認することができました。

方法:2011名の65歳以上の高齢者が2012年の柏スタディの調査に参加しました。人口統計学的特性として口腔状態を16項目計測調査しました。身体的なフレイルとサルコペニアを調査して2012~2014年までフォローアップしました。身体的な介護度と生存に関して、介護保険の適応時と死亡時を用いて2012~2016年まで調査しました。

結果:残存歯数、咀嚼能力、顎機能、舌圧、主観的な食事と嚥下の困難さにより口腔状態の悪化を規定しました。口腔状態の悪化は全身状態の将来的な弱体化(フレイル、サルコペニア、機能障害 (要介護状態) の発症)を示唆することが統計的に明らかになりました。オーラルフレイルを上記6項目中3項目以上の該当と規定しました。16%の被験者が最初の調査時にオーラルフレイルであり、オーラルフレイルは2-2.4倍フレイルに、2-2.2倍サルコペニアに、2-2.3倍機能障害(要介護状態)に、2-2.2倍死亡するリスクが増大することが示唆されました。

結論:高齢者の蓄積された口腔状態の悪化は死亡を含めた全身的な健康状態悪化の始まりを強く示唆しています。早期のオーラルフレイル予防は健康的な加齢に重要です。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。エンドから急に高齢者系に移ると英語もガラッと変わって難しいです。緒言は訳したのですが、まあいいかなということでざくっとカットしました。

実験方法

柏市の12000名の65歳の高齢者がランダムに抽出され、そこから研究に参加する意思を確認し、了承を得た2044名(男性1013名、女性1031名)が対象です。ベースラインの調査は2012年に行われました。MMSE18以下とペースメーカー装着者は除外しています。フレイルとサルコペニアの始まりに関しての調査は2013年と2014年に行われました。さらに、長期間の調査が2016年まで行われました。

口腔状態16項目

口腔状態(5項目):残存歯数、機能歯数、CPI、舌の厚み( 口腔内の栄養状態の指標 )、うがいした水の濁り(口腔衛生状態の指標)

口腔機能(8項目):最大咬合力、咀嚼能力、最大舌圧、RSST、オーラルディアドコキネシス(3項目)、口腔湿潤度

主観的項目(3項目):食べにくさ、嚥下しづらさ、口腔乾燥の経験

オーラルディディアドコキネシスのパ、タ、カは全て1つの独立変数となっているようです。

全身的なフレイルの判定はthe Cardiovascular Health Study(CHS)の基準に基づいて行われています。

機能障害と死亡に関しては介護保険のシステムから情報を採取したようです。要介護3が認定された時が新たに機能障害が発生した時点となります。

用いられた変数はかなり沢山ありますが、今回は省略します。

結果

2044名がベースラインの調査に参加し、33名除外で2011名がデータ対象となります。そのうち最後の調査まで完走できたのが1381名となります。

そこからデータの欠落や、最初のベースライン検査の際に既にフレイルやサルコペニアと診断された人を除外しています。今回はこの実験期間中に新たに虚弱状態に陥った人の口腔状態との関連性をみるのが趣旨だからです。

2年間の間に1151名中7.2%が新たにフレイルに、1216名中5.2%が新たにサルコペニアに罹患しています。また、約4年間の間に2011名中4.5%が機能障害になっています。

口腔状況と身体状況の相関をみると

口腔機能と全身状態

残存歯数
咀嚼能力
オーラルディアドコキネシスの「タ」
舌圧
食べづらい
飲み込みづらい

の6項目に有意差が認められ、これらがオーラルフレイル候補です。
例えば低舌圧は口腔機能低下症の低舌圧の境界値とは違いますので注意が必要です。他の項目もそうです。
それらの多重共線性をチェックしたところ認めなかったため、6項目全てをオーラルフレイルの影響を検討するために採用しています。

オーラルフレイルと全身の関連

オーラルフレイル6項目中、1,2個が該当する場合、全身的なフレイルになるリスクが上昇しますが、3個以上の場合、フレイル、サルコペニア、機能障害全ての発症リスク上昇に有意に相関する事が分かりました。

ということでこの文献において
6項目中該当 0該当 を オーラルフレイルではない
      1-2該当 を オーラルフレイル前段階のプレ(オーラル)フレイル
3以上該当を オーラルフレイル
と分類しています。

オーラルフレイルでは無い状態は、今回の被験者の34%
プレフレイルは50%
オーラルフレイルは16%
となっています。

このデータからすると65歳以上の日本の高齢者はかなりの割合でプレフレイルではあるといえます。すでに1,2個該当しているわけですから、後1つ該当すればオーラルフレイルになってしまう方が多いと言うことです。

オーラルフレイルになっている人の特徴としては
高齢
教育レベルが低い
低収入
認知機能低下
BMI低値
Alb低値
フレイル、サルコペニアの罹患率が高い
うつスコアが高い
服薬が多い
傾向が認められました。
しかし、これらの慢性的な症状とオーラルフレイルには統計的に有意な関連性は認められませんでした。あくまで傾向です。

また、オーラルフレイルの被験者は 肉の摂取減少を含む食事量が有意に減少しており、咬みづらい、食べるスピードがダウン、食欲低下、食事に飽きている、一人っきりの食事などが原因と考えられています。

ハザード比

オーラルフレイルと全身状態悪化の関連性について検討すると

オーラルフレイルであればフレイル、サルコペニア、機能障害(要介護3以上)、死亡全てのリスクが2倍以上となるという結果になりました。

ハザード比

よくみたら、プレフレイルでも2年でフレイル、サルコペニアになる可能性って有意に高いんです。つまりプレフレイル段階から歯科的な介入が行われるべきなんだろうと思います。

生存曲線ですが、オーラルフレイルの方の生存曲線はかなり急角度で落ちていきます。4年弱で4%以上差がついていますので、これ以上の年数になるとさらに差が開くでしょうね。オーラルフレイルは死亡にも繋がってしまうという根拠になるものです。

オーラルフレイルと生存曲線

考察で重要な点

Because most oral frailty components, except the number of teeth, were reversible, early awareness of declining oral health and prompt treatment of impaired oral function may be effective in preventing adverse health outcomes.

残存歯数以外の5項目は可逆性で有り、早期発見、早期介入していくことが全身状態悪化防止に効果的です。

Furthermore, an oral health education program, including an exercise for promoting oral functions, was shown to be effective in improving articulatory oral motor skill , functional performance of the tongue, and swallowing function among disability- free elderly individuals

口腔機能を賦活するための教育プログラムが大事!

まとめ

この論文がオーラルフレイルという概念を作った、といっても過言ではないでしょう。この結果からするとプレ(オーラル)フレイルの段階から注意する必要があります。

プレフレイルってどういう状況か想像してみれば
歯科医院において高齢者で19本以下の義歯装着の方が、最近食べづらくなった、なんて言ったらもうプレフレイルなわけです。

凄く簡単にプレフレイルになれちゃうわけですから、そこに低舌圧が加われば立派なオーラルフレイルになってしまいます。自分の診療所でもあの方、おそらくそうだな、と思い当たる人はいらっしゃいます。

私は訪問診療していないから関係ない、というようなものではないのです。
歯科医院に実際に受診している高齢者の方に対するアプローチの方法をしっかり考える必要があります。

歯科医師会でもオーラルフレイル対策に乗り出しており、実際マニュアルを作っています。

https://www.jda.or.jp/dentist/oral_flail/

しかし、これって診断までで実際何をするかまではちゃんと書いてないんですよ・・・。続編はあるのかないのか・・・。

フレイルという概念自体が可逆性なはずです。
口腔機能低下症になる前段階としての滑舌低下、むせ、食べこぼし、噛めない食品増加あたりがオーラルフレイルのはず、ということは口腔機能低下症は非可逆性なんでしょうか?そこら辺がよくわからないです。

どちらにせよ、この論文から口腔機能低下症になる前の段階に入れば全身状態に影響を充分与える可能性があるということが示唆されたのではないかと思います。

概念図は老年歯科医学会のサイトより拝借しました。

http://www.gerodontology.jp/committee/001190.shtml

口腔機能低下症概念図

間違い発見

読んでいたら間違いを発見してしまいました。

1381と1318、これ同じ数字じゃないといけないわけですが、計算すると1381が正解のようです。文献読んでるとたまに発見しますね。

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