普通の歯科医師なのか違うのか

基本チェックリストによるフレイル評価の有用性

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

基本チェックリストとフレイル
佐竹 昭介
日老医誌 2018;55:319-328
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/55/3/55_55.319/_article/-char/ja/

前回読んだ論文で基本チェックリストがフレイルの判定に使用されていたのですが、自分的にはそれが一般的であることを知りませんでした。そのため検索した所、2018年と少し古いのですが、日本語の総説を見つけました。

基本チェックリストとは

基本チェックリストとは25項目の質問からなる自己回答式質問表で、近い将来介護が必要になる可能性があるハイリスク高齢者(二次予防事業対象者)を選定するために作られました。基本チェックリストは大きく分けて、ADLを評価する5つの質問、運動器の機能を評価する5つの質問、栄養状態を評価する2つの質問、口腔機能を評価する3つの質問、閉じこもりを評価する2つの質問、認知機能を評価する3つの質問、抑うつ気分を評価する5つの質問で構成されています。

各質問に対する考え方を統一するために、基本チェックリストの考え方が公表されています。

二次予防事業対象者の選定基準は4つあります。
①抑うつ気分の質問領域を除く20項目中10 項目以上該当
②運動器の質問5 項目中3項目以上該当
③低栄養評価の2 項目の質問にともに該当
④口腔機能に関する3 項目の質問のうち2 項目以上該当

口腔機能単独で二次予防事業対象者になるのが、2006年の時点で先進的だったといえるのではないでしょうか。

基本チェックリストを用いた介護予防事業ですが、国の試算した人数ほど予防プログラムに参加しませんでした。そのため、2015年からの介護予防・日常生活支援総合事業から基本チェックリストを用いない対象者の抽出方法に移行しているようです。介護予防相談者の状況を評価するツールという立場に低下しています。

フレイル

フレイルの概念は、「ストレスに対する脆弱性が向上した状態」と規定されています。フレイルの診断方法には統一された基準がありませんが、FriedらのPhenotype model(表現型モデル)とMitnitskiやRockwoodらのAccumulated deficit model(欠損累積モデル)が有名です。

phenotype modelに基づく診断法がCHS基準で、日本では一部チェックリストの質問を取り入れたJ-CHS基準が一般的に用いられています。身体機能の衰えがメインなので、身体的フレイルを評価していると考えられます。

欠損累積モデルは、さまざまな機能障害の集積を評価する方法で、評価項目数に対する累積障害数
の割合をFrailty Index として表わします。障害や問題がある場合には1、ない場合には0を割り付けます。FIMなどでも行われる中間段階の数値の割り付けも許容されています。

基本チェックリストとフレイル

基本チェックリストとフレイル診断基準との関連性の解析

結論:基本チェックリストの総合的評価(#1~25、#1~20)が、既存のフレイル評価と関連した。

自立した日本人高齢者164名
チェックリスト総合点(25点満点)とCHS基準該当項目数の関連性
フレイルに対するROC曲線下面積(AUC)0.92、プレフレイルに対するROC曲線下面積0.81
フレイルはチェックリスト8点以上、プレフレイルは4点以上で判断するのがよい

ブラジル人161名
チェックリスト総合点とEFS(Edmonton Fraility Scale)との関連性
基本チェックリスト総合点はEFS合計点と相関

日本人420名
うつを除く20項目の得点とCHS基準の関連性を解析
ROC曲線下面積0.799

ROC曲線下面積は1に近づけば近づくほど予測モデルが正確ということになるので、0.92はかなり高い予測、診断能を持っていると考えられます。

基本チェックリストの予測妥当性

チェックリストでハイリスクと判定された人が、フォロー期間中に介護認定、死亡するアウトカムを設定し、色々な研究が行われていますが、どの研究においても手法は異なるものの、予測妥当性が認められてます(表3)。

この総説では、「二次予防事業対象者の選定基準はそれぞれ有意な予測能を有する。新規要介護認定に関連する最も予測能の高い基準は「うつを除く20 項目中10 項目以上に該当する場合」であるが、除外された「うつ状態」の有無も新規要介護認定発生の予測因子として有意である。」と結論づけています。

また、「基本チェックリストの総合点が,既存のフレイル評価法と併存的妥当性を有することも含めると、フレイル評価指標としては総合点を用いた評価が有用であると推測された。」としています。実際、5542名を対象とした研究で、総合得点が0~3点の群を基準とした場合、4~7点のプレフレイル軍では新規要支援・要介護認定のハザード比が2.027、8点以上のフレイル群では4.768となっており、総合得点でのフレイル判定の有用性が示唆されています。

まとめ

基本チェックリストは、以前のような高リスク群スクリーニングのための必須なツールではなくなってしまったため、存在感が薄くなってしまっていますが、社会的、心理的フレイルを含めた欠損累積モデルのフレイル判定には有用であることが多くの研究で示唆されています。

オーラルフレイルの診断基準が新しくなり、簡便に判断する事ができるようになりました。オーラルフレイルをスクリーニングする目的は、将来的に移行するフレイル、要介護を予防する事です。オーラルフレイルの診断だけよりは、基本チェックリストを使ってフレイルの診断を併せて行う方が包括的であり有効ではないかと考えます。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
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