普通の歯科医師なのか違うのか

機能歯数10本未満の女性高齢者は義歯使用未使用で以後15年間での死亡率に有意差あり

 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回、口の中にトラブルを自覚している人は、トラブルを自覚していない人と比べると、その後の介護費用が有意に高くなる、また、トラブルの数が多いほど高くなるという日本の論文を読みました。今回からはその論文で引用されている論文で気になるものをいくつか読んでいきます。

今回も日本の論文なのですが、2008年にパブリッシュされた結構古い論文です。あまり古い論文は読まないようにしているのですが、引用文献なのでそうも言ってられません。

Mortality rates of community-residing adults with and without dentures
Kakuhiro Fukai , Toru Takiguchi, Yuichi Ando, Hitoshi Aoyama, Youko Miyakawa, Gakuji Ito, Masakazu Inoue, Hidetada Sasaki
Geriatr Gerontol Int. 2008 Sep;8(3):152-9. doi: 10.1111/j.1447-0594.2008.00464.x.
PMID: 18821998

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18821998/

Abstract

Aim: To prospectively study how dental status with and without dentures could become a predictor of overall mortality risk.

Methods: Five thousand six hundred eighty-eight community residents over 40 years old in the Miyako Islands, Okinawa Prefecture, Japan, were followed up for 15 years from 1987-2002.

Results: We found that female subjects with less than 10 functional teeth and without dentures showed a significantly higher mortality rate than those with dentures. There was no significant difference of mortality rates in male subjects. There were no significant differences of mortality rates between subjects with 10 or more functional teeth with and without dentures.

Conclusion: The present study suggests that dentures are one of the factors associated with mortality rates especially in female subjects with less than 10 functional teeth.

目的:義歯の有り無しを含む歯科的な状態が死亡リスクの予知因子となり得るかどうかを縦断的に調べる事です。

方法:宮古島に住む40歳以上5688人を1987年~2002年まで15年間フォローアップしました。

結果:機能歯が10本未満で義歯を使用していない女性は、義歯を使用している群よりも有意に死亡率が高くなりました。男性においては有意差を認めませんでした。10本以上の機能歯を有している場合、義歯の有り無しで死亡率に有意差はありませんでした。

結論:本研究から、機能歯10本未満の女性では、義歯は死亡率に関連する1つの因子である事が示唆されました。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

口腔の状態が全身状態に与える影響についての研究は数多く存在します。口腔の健康状態は咀嚼、嚥下会話、審美性、社会活動などに影響しすることにより、QOLに大きな影響を与える可能性があります。歯の喪失は不可逆性で、通常累積するプロセスであり、老年期にピークを迎え、現在では口腔の健康評価と一体化して考えられています。日本では、咀嚼機能障害は高齢者の死亡の予知因子と報告されています。歯列の状態は、施設入居高齢者の全身状態の低下に関連しました。不適切な口腔内は、認知機能とADLが低下した施設入居高齢者では、高い死亡率と関連します。以前の研究では、私達は宮古島に住む40歳以上を対象に1987~2002年まで15年間フォローアップし、口腔内の状況が死亡リスクの予知因子となるかどうかを縦断的に研究しました。その結果、男性で機能歯10本未満の場合、10本以上と比較して有意に死亡率が高い事がわかりましたが、女性では有意差は認めませんでした。

10本未満の被験者において、義歯を使用していない人がいました。無歯顎義歯装着者は、義歯非装着者と比較して、よい食品摂取、少ない体重減少、よい身体的な健康状態、少ない死亡率を示しました(文献5)。しかし、報告の一部は、被験者数が少なかったり、年齢や性別、施設入居者かどうかなどで分類していません。

本研究では、宮古島在住40歳以上の5688人を対象に、歯を喪失した被験者で義歯と死亡が相関するかどうか15年間フォローアップしました。1987年に口腔内の状況を歯科医師が集団健診でチェックしました。15年後の2002年に宮古島の保健所で死亡に関してチェックしました。

実験方法

宮古島の平間市(人口33701人)、下地町(人口3157人)、多良間村(人口1331人)、総人口38189人の住民を対象にベースライン調査を行いました(注:平成の大合併前)。沖縄本島から南西290kmに位置しています。40歳以上の人口は平間市16406、下地町1802、多良間村790人でトータル18998人でした。

医師の診断やコメントに基づく総合的な健康チェックを含む歯科健診は1987年6~11月に40歳以上5688人(男性2248、女性3440)に歯科医により行われました。5584人(男性2206、女性3378)が保健所で健診し、104人(男性42、女性62)については身体的な理由で自宅で健診を行いました。被験者の選択基準は、直近半年間の全身状態が安定している事です。急性疾患、例えば、呼吸障害を伴う肺疾患や感染、心不全、脳卒中、特別な治療と集中的なケアが必要なものがない事、加えて、免疫不全、例えば活動性の悪性疾患、人工透析、低ガンマグロブリン血症、HIVなどは被験者から除外されました。

研究を始めるにあたり、被験者の機能歯数を調査しました。咀嚼するのに適切に機能している全ての歯は機能歯と定義されます。健全歯、修復歯、初期虫歯またはエナメル、象牙質に虫歯がある歯が含まれます。広範囲の虫歯、歯髄にまで及ぶ虫歯、残根は咀嚼時に有用ではないとして、機能歯の定義から省かれています。咀嚼に有用な義歯を使用している被験者と、義歯を使用していない被験者を分類しました。ベースラインの口腔内状況を基にして、被験者を2群に分類しました。1つは10本以上機能歯を持つ群で、もう1つは10本未満の群です。被験者をさらに義歯使用群と未使用群に分類しました。

男女共に年齢階層を5層(40-49、50-59、60-69、70-79、80歳以上)にわけて義歯の使用未使用での死亡を比較しました。15年後、2002年に宮古島の保健所で被験者の死亡を調査しました。

死亡理由と時期をチェックし、ベースライン時の義歯使用未使用で比較しました。生存率をKaplan-Meier法を用いて解析し、long-rank検定で比較しました。Fisherの正確確率検定を用い、義歯使用未使用の人口比率を比較しました。機能歯数に影響する性と年齢の大きさを調べるために、タイプIII ANCOVAを用いました。Type III ANCOVAでは、年齢と機能歯数の線形関係を評価するために、性を固定因子、年齢を共変量として扱いました。加えて、性別と年齢の相互作用について検討しました。Cox比例ハザード回帰モデルを生存データの多変量解析に用いました。目的変数は時間(年)としました。5つの説明変数のうち、4つが交絡因子で他は義歯のカテゴリーです。最初の交絡は年齢群、2つ目は基礎疾患、3つ目は寝たきりかどうか、4つ目は機能歯です。変数の選択方法としては、男女の5つの年齢層でこれら5つの因子の重みの程度が同等であることが望ましいことから、強制投入モデリング法を採用しました。死亡理由について、事故と自殺については解析から除外しました。有意水準は5%としました。

結果

15年間のフォローアップ期間中、5688人の被験者のうち、4676名(男性1725、女性2951)が存命で、1012名(男性523、女性489)が死亡しました。死亡した被験者のなかで、51名(男性29、女性22)は事故または自殺で解析から除外しました。ベースライン時の年齢に応じて5つの群に分類しました。死亡した被験者は、男性がベースライン時40~49歳が14名、50~59歳が41名、60~69歳が153名、70~79歳が210名、80歳以上が76名、女性が7名、44名、109名、203名、104名でした。最終的に、事故と自殺による死亡者を除外した961名(男性494、女性467)を解析対象としました。

ベースライン時の義歯使用、未使用人数を表1に示します。機能歯は男女共に加齢により減少しました。義歯の存在による生存率を見るために、機能歯10歯以上、10歯未満のそれぞれの年齢階層において義歯の使用未使用で比較を行いました。

表2に、各年齢階層における義歯使用未使用者の平均機能歯数を示します。2元配置分散分析の結果、性別、年齢は両方共に機能歯数に有意に影響しました。しかし、性別、年齢間の交互作用は有意差はありませんでした。男性の方が女性よりも機能歯数が多い傾向を認めました。

機能歯10本未満の被験者における、義歯の使用群、未使用群の生存率を図1に示します。女性の70~79歳、80歳以上において義歯の使用未使用で生存率に有意差を認めました。男性については有意差を認めませんでした。機能歯10本以上の場合、男女ともに、義歯使用による生存率に有意差を認めませんでした。

機能歯10本未満の被験者のベースライン時の基礎疾患について表3に示します。80歳以上の群以外では有意差を認めませんでした。

機能歯数10本未満の被験者の死亡原因について表4に示します。フォローアップ期間中には義歯の使用、未使用で死亡原因に有意差を認めませんでした。

男性、女性被験者の生存を、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて年齢群、基礎疾患、寝たきり、機能歯、義歯の使用未使用で解析した結果を表5に示します。義歯を使用している女性は、未使用の女性と比較して生存率が有意に高い事がわかりました。しかし、男性では有意差を認めませんでした。機能歯10本以上の場合、男女共に生存率に有意差を認めませんでした。

考察

Shimazakiらは、年齢や施設入所、その他の因子を調整後に、無歯顎で義歯未使用は、施設入居高齢者において、身体障害と死亡リスクが有意に高くなると報告しています(文献2)。Ohruiらは、施設入居者において咀嚼に不適切な歯列は、2年間の死亡リスクを有意に増加させるが、5年間のリスクは増加させなかったと報告しています。Yoshidaらは、咬合の崩壊、義歯の使用が地域在住高齢者の死亡リスクを増加させると報告しています(文献9)。彼らは、残存歯による咬合接触がある、ない被験者において、義歯の使用未使用により死亡に有意差があったと報告しています。しかし、彼らは性別で群を分けていません。本研究では、女性の方が男性よりも義歯を使用していました。そのため、義歯使用未使用による死亡の違いは性差による可能性がありました。今回のコホート研究は、地域住民の死亡率に関連する義歯の使用状況を調査したデータとしては、多くの地域住民を対象とし、群によって10年の年齢階層、性別で区分し、15年という長い追跡期間で、歯科医師による機能歯の検査が行われた、初めての説得力のあるものです。

本研究で、機能歯10本未満の女性被験者で義歯を使用している人は、義歯未使用よりも有意に生存率が高い結果となりました。しかし、男性では、義歯の使用未使用で有意差を認めませんでした。この理由については私達はよくわかりません。Appollonioらも、有意差は認められなかったものの、義歯使用により女性は寿命が延長したが、男性では認められなかったと、似たような結果を報告しています。ベースライン時の機能歯数は、同じ年齢階層では女性よりも男性の方が多く、もし機能歯数が寿命を決定するとしたら、男性は女性よりも長生きであるはずです。2002年の日本では、男性の平均寿命は77歳で女性は84歳でした。これは、男性は女性よりも死にやすく、選ばれた男性は高齢まで生き残ることができ、女性はどんなハンディキャップを持っていても生き残ることができる、という性差で説明することができます。女性において、平均寿命は男性よりも長く、義歯は食品摂取、審美、QOLなどに重要な道具であるかもしれません。一方で男性の場合、機能歯数の方が義歯使用よりも寿命に寄与しています。

義歯装着による無歯顎者のリハビリテーションは咀嚼と栄養に効果があります(文献11、12)。この結果は、機能的に適切な咬合を有する高齢者は、咬合を喪失した高齢者よりも生存率が高いという以前の報告と強く一致するものです。口腔内の状況が疾患罹患に影響するという報告は数多く存在します。高齢者では、適切な歯列は転倒の素因となっており、咬合の改善は高齢者の転倒予防のアプローチとして注目されています(注:原文通り訳していますが、不適切な歯列は・・・の間違いかもしれません)。口腔のケアも、有歯顎者と同様に、無歯顎者でも肺炎予防に効果的です。さらに、口腔衛生状態を維持することは高齢者のインフルエンザを予防するのに効果的かもしれません。

口腔内の健康は栄養状態に密接に関連しており、高齢者の栄養相談やアセスメント時には歯列の状態を必ず考慮するべきです。フレイル高齢者において、低栄養であれば感染症に罹患しやすくなります。10歯以上の機能歯は、咀嚼能力を維持できる最少閾値です。機能歯10本未満の人達は、良い栄養状態を維持することが難しい可能性があります。にもかかわらず、機能歯が40歳以上の死亡に与える影響は極めて限定的でした。Nakanishiらは、自己評価型の咀嚼障害は、他の因子の潜在的な影響のために死亡の有意なリスクファクターではなかったと報告しています。フォローアップ15年間における歯科治療と機能歯の喪失は、死亡率を変化させたかもしれませんが、今回の研究では検討していません。15年間で多くのの因子が死亡に影響した可能性があります。例えば、栄養状態、心理的状態、ADLなどですが、本研究では検討していません。本研究に参加した高齢者の殆どが生涯、生まれ故郷に住んでいましたが、転居によって研究から脱落した被験者を含めると、死亡率に変化が生じたと考えられます。この条件の範囲内で、女性で死亡率に有意差があることから、長寿のためには義歯による口腔内の健康が軽視できないことが示唆されました。自立した高齢者のうち、約50%が無歯顎で、そのうち35%が義歯を使用していなかったと報告されています。歯科医療利用は年齢とも関連しており、高齢者は機能制限、慢性疾患、経済的困難などの理由で歯科医療サービスを受けにくくなっています。低収入は死亡に影響する科もしれないことをいくつかの研究が報告しています。義歯未使用の人の死亡率が高いのは、収入が少なく治療を受けることが難しいからと考える事が出来ます。日本では、公的医療保険システムが採用されています。口腔のケアに注意を払っている人は、全身的な健康についてもケアするでしょう。それが女性の低死亡に寄与しているかもしれません。本研究の結果は義歯のより幅広い使用を促すものです。

まとめ

高齢女性においては多数歯欠損の義歯使用が死亡率に影響することが示されましたが、男性においては全ての年齢階層において死亡率に有意差は認められませんでした。色々考察されていますが、原因がよくわからない、アテがないという感じです。

考察にも一部触れられていますが、社会経済的な要素が今回解析項目には入っていません。収入や学歴などは自分の健康に対する意識の差に繋がる可能性があります。また、宮古島という離島の住民に限定されていますので、なにかしらのbiasがある可能性があります。

しかし、機能歯数10本ということは最も少なければ、上顎5本、下顎5本あればよいわけで、上下3-3まで残っていれば死亡率には差がないということに今回の結果からはなります。予想よりかなり少ない本数です。

自分は義歯が専門なわけで、やはり義歯をいれる意味、というのはやはりちゃんと理解しておきたいと思いますので、今後も論文を読んでいきます。

この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 5代目歯科医師の日常? , 2023 All Rights Reserved.