普通の歯科医師なのか違うのか

高用量骨吸収抑制薬投与がん患者ではリスクのある歯を残すと抜歯したよりMRONJリスクが高くなる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

今回はTwitterで紹介して頂いたMRONJのリスクファクターについての論文を読みます。
注意したいのはこれはがん患者さんへの高用量BPまたはデノスマブ投与という条件がついていることです。骨粗鬆症患者さんが対象ではありませんのでご注意ください。

雑誌はPLoS Oneなのでダウンロードフリーです。長崎大学と関西医科大学の先生が著者です。

Factors affecting development of medication-related osteonecrosis of the jaw in cancer patients receiving high-dose bisphosphonate or denosumab therapy: Is tooth extraction a risk factor?
Sakiko Soutome , Saki Hayashida , Madoka Funahara , Yuki Sakamoto, Yuka Kojima , Souichi Yanamoto , Masahiro Umeda
PLoS One. 2018 Jul 26;13(7):e0201343. doi: 10.1371/journal.pone.0201343. eCollection 2018.
PMID: 30048523

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30048523/

Abstract

Methods for preventing medication-related osteonecrosis of the jaw (MRONJ) in cancer patients who have received high-dose bisphosphonate (BP) or denosumab (Dmab) have not yet been established. Tooth extraction after starting medication has been believed to be a major risk factor for MRONJ, and therefore this procedure tends to be avoided. This study investigated the risk factors for MRONJ, with a special reference to the correlation between tooth extraction and development of MRONJ. One hundred and thirty-five cancer patients who were administrated high-dose BP or Dmab were enrolled in the study. Demographic factors, general condition, treatment factors, and dental findings were examined retrospectively using medical records and panoramic X-ray findings. The cumulative occurrence rate of MRONJ was calculated using the Kaplan-Meier method, and the correlation between these variables and development of MRONJ was analyzed by univariate and multivariate Cox regression analysis. MRONJ developed in 18 of 135 patients. The 1-, 2-, and 3-year cumulative occurrence rates were 8.6%, 21.5%, and 29.2%, respectively. The duration of medication before first visit to the dental unit and the presence of a tooth with clinical symptoms were significantly correlated with the development of MRONJ. The rate of MRONJ occurrence in patients who had teeth with clinical symptoms, but who did not undergo tooth extraction, became higher 2 years later than that in patients who underwent extraction of teeth with symptoms, although not significant. Early dental examination and effective preventative care to avoid infection/inflammation are important for preventing MRONJ.

高用量BPまたはデノスマブを投与されているがん患者のMRONJを回避する方法は確立されていません。投与後の抜歯はMRONJの主なリスクファクターであると信じられており、それ故に抜歯を避ける傾向にあります。本研究ではMRONJのリスクファクターについて調査を行いました。特に抜歯とMRONJの発生に関する関連性について言及しました。

高用量BPまたはデノスマブを投与されているがん患者135名が本研究に参加しました。人口統計学的因子、全身状態、治療因子、歯科的所見などをカルテやパノラマX線などから後ろ向きに調査しました。MRONJの累積発生率はKaplan-Meier法を用いて計算しました。各因子とMRONJ発生の関連性については単変量、多変量Cox回帰分析を用いて解析しました。

1年、2年、3年時における累積発生率はそれぞれ8.6%、21.5%、29.2%でした。歯科を初めて受診するまでの投与期間と歯の臨床的徴候はMRONJ発生に有意に相関しました。歯に臨床的徴候を有するが抜歯をしなかった人のMRONJ発生率は、2年後には抜歯をした人よりも高くなりましたが、統計的な有意差は認めませんでした。早期の歯科受診と炎症や感染を避けるための効果的な保存療法がMRONJ予防のためには重要です。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言の一部

現在では、MRONJ患者には保存的な治療よりも外科的な治療が選択される傾向があります。それは保存療法よりも外科的な治療の法が成績が良いといういくつかのシステマティックレビューが出てきたからです。私達もマルチセンターで361名を用いて傾向スコアマッチング解析を行い、MRONJ患者に外科的な治療を行った方が、非外科処置を行うよりもアウトカムが優れている事を報告しました。

対照的に、MRONJのリスクファクターと予防方法はいまだコンセンサスが得られていません。何人かの著者は、抜歯を含む歯槽部の外科処置がMRONJ発生の主なリスクファクターであると述べています。日本でパブリッシュされたポジションペーパーにも、高用量のBP、デノスマブを投与されているがん患者には侵襲的な歯科治療を極力避けるように記載されています。一方で、他の著者らは、抜歯よりも歯周病や根尖性歯周炎などの炎症性病変の方がリスクであると提唱しています。

本研究の目的は、適切な予防法をみつけるために、高用量BP、デノスマブを投与されているがん患者のMRONJ発生に関連する因子を調査することです。

実験方法

被験者

長崎大学と関西医科大学で悪性腫瘍で高用量BP、デノスマブ(ゾレドロン酸 4mg/4week、デノスマブ 120mg/4weeks)を投与されている135名

すべての患者は、歯科に紹介され、パノラマX線検査と歯科治療を受けています。抜歯が必要なら抜歯も行っています。6か月未満のフォローアップしかできなかった患者は被験者から除外されています。

変数

1)人口統計学的因子:年齢、性別
2)全身状態:DM,喫煙、ステロイド投与、最低白血球数、最低血清アルブミン値
3)治療因子:BPまたはデノスマブ、投与期間
4)歯科因子:残存歯数、臨床的徴候(疼痛、腫脹、発赤、排膿)、炎症のタイプ(エンド、ペリオ、エンドペリオ、歯冠周囲炎)、X線異常所見(根尖部の3mm以上の透過像、歯槽骨の1/2以上の喪失、残根、歯根破折)、骨吸収抑制薬投与前の抜歯、骨吸収抑制薬投与後の抜歯
5)MRONJの発生:臨床的、X線的所見

統計

MRONJの累積発生率:Kaplan-Meier法で計算、単変量、多変量Cox回帰分析にて解析

結果

表1に患者の背景因子について示します。

被験者は男性64名、女性71名で平均年齢62.6歳でした。89名(65.9%)が骨吸収抑制薬投与開始前に歯科紹介しており、その中の39名が骨吸収抑制薬投与開始前に抜歯されました。一方で残り46名は骨吸収抑制療法開始後0~4061日後(中央値286日)経過してから歯科に紹介されています。X線の異常所見は56名、臨床徴候は25名(エンド12名、ペリオ10名、エンドペリオ2名、歯冠周囲炎1名)に認められました。

骨吸収抑制薬投与後の抜歯は20名に行われました。殆どの患者はペニシリンを抜歯前1時間に投与され、抜歯後2日、または3日まで継続しました。徴候のあった歯を抜歯したのは11名、そのうちMRONJが発生したのは5名でした。臨床徴候はないがX線的な異常をみとめて抜歯したのは9名で、MRONJが発生した者はいませんでした(表2)。

MRONJは135名中18名に発生しました。発生率は13.3%であり、1,2,3年後の累積発生率は8.6%、21.5%、29.2%でした(図1)。

単変量のCox回帰分析では性別、歯科を初めて受診した時期、徴候のある歯の存在が有意にMRONJの発生と相関しました。多変量解析では、女性、歯科を初めて受診する前に6ヶ月以上骨吸収抑制薬を投与されている、臨床徴候を有する歯の存在が有意にMRONJの発生と相関しました(表3)。骨吸収抑制薬投与後の抜歯はリスクファクターではありませんでした。炎症のタイプとMRONJの発生は相関しませんでした。

骨吸収抑抑制薬をスタートしてから180日以上経ってから歯科に紹介された患者は、骨吸収抑制薬開始前または開始後180日以内の患者と比較して有意にMRONJが発生する頻度が高い結果となりました(図2)。

臨床徴候を有する歯を持つ患者は、持たない患者と比べて短期間でMRONJが発生する頻度が有意に多いという結果になりました(図3)。

図4は、骨吸収抑制薬を投与後の抜歯とMRONJ発生の関連をみたものですが、累積発生率は約3年後には非抜歯群の方が高くなっています。

臨床徴候の有無で調整後に抜歯とMRONJ発生の関連性を推定すると、徴候あり非抜歯群は2年後には徴候あり抜歯群よりもMRONJの発生率が高くなっています(図5)。一方で、徴候なしの患者では、X線的に異常があり抜歯した群ではMRONJを認めなかったのに対し、歯を保存した群ではMRONJが発生しています。保存群ではペリオまたはエンドの炎症領域が発現し、歯科的な管理がない場合急速に悪化しMRONJに至りました。

考察

高用量の骨吸収抑制薬を投与されている患者のMRONJ発生率は比較的低いです。高用量の骨吸収抑制薬を投与されている悪性腫瘍患者5723名で、MRONJが起こったのはゾレドロン酸52名(1.8%)、デノスマブ37名(1.3%)と報告されています。対照的に、高い発生率を報告している論文もあります。Kajizonoらはゾレドロン酸とデノスマブ投与患者155名中13名(8.4%)にMRONJが発生し、排膿所見がある場合に限定すると15.6%と高くなったと報告しています。私達のマルチセンター、後ろ向き研究では、ゾレドロン酸またはデノスマブが投与されており、抜歯した80名のがん患者中11名にMRONJが発生しました。さらにFedeleらはBPまたはデノスマブが投与されており、臨床徴候がある96名中51名(53%)にMRONJが発生し、彼らはMRONJのステージ0を提唱しました。論文によるMRONJ発生率の乖離は患者の選考基準の違いによるものと考えられます。歯科的な徴候がない患者のMRONJリスクは、高用量の骨吸収抑制薬を投与されていても、徴候がある患者よりも低いと考えられます。

MRONJの治療に関してはいまだコンセンサスはありませんが、保存的な治療は以前はよく行われていましたが、最近は外科的な治療が多くなってきています。これは、複数のシステマティックレビューで、外科的な治療が保存的治療よりも優れていると報告しているからです。私達のマルチセンターリサーチでも骨吸収抑制薬が投与されている患者において、外科的治療では76.7%が完治しましたが、保存的治療では25.2%でした。さらに、高用量の骨吸収抑制薬を投与されているがん患者では有意に悪い結果となっており、外科的治療では完治が51.5%だったのに対し、保存的治療では6.9%と報告されています。この結果から高用量のゾレドロン酸またはデノスマブを投与されている場合は悪い結果になりやすく、高用量骨吸収抑制薬を投与されている場合、MRONJの予防が特に難しい問題となります。

抜歯はMRONJ発生の主なリスクファクターと信じられてきました。Barasch らはONJのリスクファクターとしてBPの投与、局所的な化膿、抜歯、放射線治療と報告しています。Kyrgidisらは、ゾレドロン酸投与がん患者において、抜歯はMRONJリスクを16倍高めると報告しました。また、VahtsevanosらはBP静脈内投与しているがん患者の長期的なコホート研究で、抜歯はMRONJリスクが33倍になると述べています。BPを静脈内投与されているがん患者の推定MRONJ発生率は1.6~14.8%と報告されています。

一方で、Ottoらは抜歯を行った72名(27名経口、45名静脈内投与)の後ろ向き研究において、抜歯ではなく、感染状態の方がMRONJ発生の鍵となるリスクファクターかもしれないと述べています。AAOMSの2014年のポジションペーパーでは、ペリオやエンドといった既存の歯科疾患が抜歯とMRONJのリスクの関係を混乱させることがあり、既存の炎症性歯科疾患について調整後に抜歯とMRONJとの関連を調べることが貴重と述べています。

今回の研究では、3つの変数、性別、歯科に紹介される前の骨吸収抑制薬の投与期間、歯の臨床徴候の存在がMRONJ発生と有意に相関しました。しかし、抜歯はリスクファクターとして確認されませんでした。非抜歯群でのMRONJの割合は経時的に上昇し、抜歯群を3年後に追い抜きます。臨床徴候を有する患者のみを調査した場合、約2年後に非抜歯群は抜歯群を追い抜きます。これらの知見は長期間の生存が期待できる患者では、症状がある歯は早めに抜歯した方がよい、ということを示唆しています。

今回の研究では、抜歯ではなく局所的な感染でMRONJは発生する可能性が示唆されました。しかし、臨床的な徴候が歯の感染またはONJそのもの(MRONJのstage 0)によるものかは明確ではありません。実際、歯の感染とMRONJを明確に見分ける事は難しいです。

MRONJの発生率が女性の方が男性よりも有意に高い理由はわかっていません。喫煙はMRONJのリスクファクターの1つとしてよく知られていますが、今回の研究では関連しませんでした。

Limitation

1)後ろ向きでサンプル数が少ない
2)臨床徴候の存在が主観的で客観的な評価(プロービングデプスやブリーディング)に基づいていない

まとめ

高用量のBPまたはデノスマブを投与されているがん患者の場合、感染や炎症自体がリスクであり、それを放置すると抜歯によりその感染や炎症がなくなるよりも経時的にリスクが高くなるかもしれない、という内容です。

実は自分の患者さんにも高用量デノスマブを投与されている方がいらっしゃったのですが、初診時にはすでに歯根破折や重度P部位にMRONJが出来ていました。この論文を読みながらやはりそうだよなあ、と実感した次第です。

AAOMSの最新のポジションペーパー2022でも感染、炎症リスクがある程度強調されており、外科処置によるMRONJ発生に関しては、あまり明確な事はわかっていない、という感じの文章になっています。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
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