普通の歯科医師なのか違うのか

高齢者の多数歯欠損は認知機能低下のリスクになりうる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回の続き

前回は認知症治療費と歯の欠損、歯周病の状態との相関についての論文を読みました。多数歯欠損、歯周病の状態が重度の場合は、健全な群と比較して認知症にかかる医療費が多い、と言う結果でした。
勿論ですが、この結果だけを踏まえて歯周病をコントロールして歯を保存できれば認知症が予防できる、などという事を指摘することはできません。相関があったとしても因果があるかどうかは別問題です。

しかし、歯を欠損することは栄養状態やその他色々なことに影響していく事は充分想像できるわけで、現時点でどういった影響が考えられるかを把握しておくことは非常に重要であると考えます。

今回は日本の高齢者を4年間追跡調査した中で、歯の欠損と認知機能障害の関連性について報告した論文を読んでいきたいと思います。2018年、東北大学をメインとした論文です。

Association between tooth loss and cognitive impairment in community-dwelling older Japanese adults: a 4-year prospective cohort study from the Ohasama study
Sho Saito , Takashi Ohi , Takahisa Murakami , Takamasa Komiyama , Yoshitada Miyoshi , Kosei Endo , Michihiro Satoh , Kei Asayama , Ryusuke Inoue , Masahiro Kikuya , Hirohito Metoki , Yutaka Imai , Takayoshi Ohkubo , Yoshinori Hattori 
BMC Oral Health. 2018 Aug 20;18(1):142. doi: 10.1186/s12903-018-0602-7.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30126407/

Abstract

Background: Numerous prospective studies have investigated the association between the number of remaining teeth and dementia or cognitive decline. However, no agreement has emerged on the association between tooth loss and cognitive impairment, possibly due to past studies differing in target groups and methodologies. We aimed to investigate the association between tooth loss, as evaluated through clinical oral examinations, and the development of cognitive impairment in community-dwelling older adults while considering baseline cognitive function.

Methods: This 4-year prospective cohort study followed 140 older adults (69.3% female) without cognitive impairment aged ≥65 years (mean age: 70.9 ± 4.3 years) living in the town of Ohasama, Iwate Prefecture, Japan. Cognitive function was evaluated with the Mini-Mental State Examination (MMSE) in baseline and follow-up surveys. Based on a baseline oral examination, the participants were divided into those with 0-9 teeth and those with ≥10 teeth. To investigate the association between tooth loss and cognitive impairment, we applied a multiple logistic regression analysis adjusted for age, sex, hypertension, diabetes, cerebrovascular/cardiovascular disease, hypercholesterolemia, depressive symptoms, body mass index, smoking status, drinking status, duration of education, and baseline MMSE score.

Results: In the 4 years after the baseline survey, 27 participants (19.3%) developed cognitive impairment (i.e., MMSE scores of ≤24). Multiple logistic regression analysis indicated that participants with 0-9 teeth were more likely to develop cognitive impairment than those with ≥10 teeth were (odds ratio: 3.31; 95% confidence interval: 1.07-10.2). Age, male gender, and baseline MMSE scores were also significantly associated with cognitive impairment.

Conclusions: Tooth loss was independently associated with the development of cognitive impairment within 4 years among community-dwelling older adults. This finding corroborates the hypothesis that tooth loss may be a predictor or risk factor for cognitive decline.

背景:歯の欠損と認知機能低下の関連を調査した縦断研究は数多くあります。しかし、歯の欠損と認知機能障害の関連についての同意は確立されていません。それは過去の研究の対象群の違いや手法の違いによると考えられます。本研究の目的は、地域在住高齢者において、口腔内診査により評価した歯の欠損と、ベースラインからの認知機能障害の進行の関連について調査を行う事としました。

方法:4年間の前向きコホート研究で認知機能障害を認めない65歳以上の岩手県大迫町に住む140名の高齢者(平均年齢70.9±4.3歳、女性比率69.3%)を対象としました。認知機能評価にはMMSEを用いました。口腔内の診査で残存歯数で9歯未満と10本以上の2群に分けました。多変量ロジスティック回帰分析を用い、年齢、性別、高血圧、糖尿病、循環器疾患、高脂血症、うつ、BMI、喫煙歴、飲酒、教育機関、ベースラインMMSEを調整しました。

結果:4年で27名がMMSE24以下の認知機能障害になりました。多変量ロジスティック回帰分析の結果から、残存歯が9本以下の群は10本以上の群よりも認知機能障害になりやすいと示唆されました(odds ratio: 3.31; 95% confidence interval: 1.07-10.2)。年齢、男性、ベースラインMMSEは有意に認知機能障害と関連が認められました。

結論:地域在住高齢者における4年間の調査で、歯の欠損は認知機能障害の発症と独立して関連しました。この発見は歯の欠損が認知機能低下のリスクファクター、または予測因子である可能性を裏付けるものです。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

背景の一部

口腔の健康状態、特に残存歯数と認知機能低下、または認知症との関連を報告した論文は数多く存在します(論文2-13)。逆にいくつかの論文では関連は認められませんでした(論文14-18)。最近のシステマティックレビューでは、コンセンサスはないという状況になっています(論文19-21)。研究間の不整合性が起こっているかもしれません。ある研究では、特定職業群やナージングホーム居住者などを解析しています。残存歯数を自己回答式で決定している論文もあれば、口腔内を診査している論文もあります。さらに、ベースラインの認知機能はその後の認知機能低下と密接に関連していますが、2つの研究しかベースラインの認知機能を交絡として扱っていません。

そのため、口腔内を診査して残存歯数を決定、またベースラインの認知機能を考慮して、地域在住高齢者における残存歯数と認知機能障害の関連について解明することを目的としました。

実験方法

研究デザイン

本研究は大迫スタディの一環として行われました。大迫スタディは前向きコホート研究で1986年から岩手県大迫の住民を対象に高血圧、循環器疾患をフォローするものです。図1は本実験のダイアグラムを示しています。2005~2012年で65歳以上の高齢者448名をベースライン調査しました。40名はデータ欠落、82名はベースライン時に認知機能に低下や障害が認められたため除外しました。さらにフォローアップできた150名のうちデータが欠落した10名を除外して140名をフォローアップ群、脱落した176名をドロップアウト群としました。

計測方法

残存歯数は歯科医が口腔内を診査して決定しました。残存歯数の中央値が10だったため、0-9本群と10本以上群の2群に分けました。

認知機能はMMSEを用いて評価しました。30点満点中24点以下は認知機能障害と定義されました。日本人の場合、感度83%、特異度93%と報告されています。

高血圧は135/85mmHg以上、糖尿病は空腹時血糖200mg/dL以上または糖化ヘモグロビンが6.5%以上で、投薬内容、既往歴などから判断しました。循環器疾患に関しては動脈硬化や心臓病の既往、総コレステロールが220mg/dLを越える高脂血症、投薬内容などから判断しました。うつには関してはSDS(the Zung Self-Rating Depression Scale)というスケールを使用しました。BMI、喫煙、飲酒歴なども採取しました。教育歴に関しては10年未満と10年以上で分類しました。

統計

二変量の比較には、連続変数ではt検定またはWilcoxonの符号順位検定、カテゴリーではχ2検定を用いました。多変量ロジスティック回帰分析では4年間で認知機能障害に進行するオッズ比と95%信頼区間を算出しました。認知機能障害に進行する被験者の数がかなり少なかったため、logistic regression for rare events analysisを適用しました。有意水準は5%としました。

結果

フォローアップ群とドロップアウト群のベースライン時の比較を表1に示します。ドロップアウト群は有意に高齢で高血圧の割合が高くなりました。しかし、その他の項目では有意差は認められませんでした。

フォローアップ群の27名がフォローアップ時に認知機能障害と判定されました。表2に認知機能正常群と認知機能障害群のベースライン時の比較を示します。ベースライン時のMMSEに有意差を認めました。また、性差と歯の欠損数に関しても有意差を認めました。

表3に認知機能障害へ進行する各パラメーターのオッズ比と信頼区間を示します。年齢、性別を調整したモデルでは歯の欠損が10本未満でオッズ比3.39(95% CI: 1.29–8.88)でした。性別、年齢、全身疾患やBMI、喫煙飲酒、教育歴、ベースラインMMSEを全て調整したモデルにおいても歯の欠損が10本未満でオッズ比3.31(95% CI: 1.07–10.2)で有意な関連性が認められました。男性、年齢が高い、ベースラインMMSEが低いほど認知機能障害に発展しやすい結果となりました。年齢と歯の欠損歯数には相関を認めませんでした(p=0.925)

考察の一部

今回の結果から、正常な歯列を維持することは認知機能障害のリスクを下げる事が示唆されました。

本研究は地域在住高齢者において、口腔内診査による残存歯数と認知機能障害の関連性を検討した数少ない縦断研究です。韓国の地域在住高齢者を調査した研究では、多数歯欠損は2.4年間における認知症の発症と関連しました(文献2)。日本の地域在住者を調査した5年間の縦断研究では、歯の喪失は中等度記憶障害を予測すると報告しています。別の5年間の高齢日本人の研究でも、歯の喪失は全ての認知症のリスクを上昇させると報告しています(文献13)。本研究の結果はこれらを強調するものです。有意差がなかったという研究もありますが、母集団が高齢女性のみや中年も含まれたりしています。

ベースラインMMSEを調整しても、多数歯欠損と認知機能障害は関連を認めました。ベースラインMMSEを調整した過去の研究は2つだけです。高齢日本人を用いたコホート研究では、義歯を有していない少数歯残存は物忘れとは無関係に認知症のリスクの増加と関連すると報告しています(論文8)。地域在住日本人の5年間の前向きコホート研究では、ベースラインMMSEを調整しても歯の欠損は中等度記憶障害の発生と相関しました(論文11)

歯の欠損と認知機能障害の関連についていくつかの機序が考えられます。1番目に歯周病による慢性炎症の可能性です。歯周病の結果であるアタッチメントロスと歯槽骨吸収の増加は認知障害と関連するという報告があります(論文32,33)。また歯周病による全身の炎症反応がアルツハイマー型認知症のリスクファクターであるという仮説もあります(論文34-36)

2番目に歯の喪失による食事摂取と栄養状態の変化です。低栄養が認知機能低下とアルツハイマー型認知症と関連するという報告があります(論文37-39)。歯の喪失が摂取食物の変化に影響することは多くの論文で報告されています。

3番目に咀嚼機能の低下が脳への刺激を低下させると言う可能性です。咀嚼は脳血流量を増加させます。アルツハイマー病モデルラットを2群にわけ、柔らかい食事と硬い食事を与えた場合、柔らかい食事を与えたラットは硬い食事の群よりも記憶、学習能力の低下が認められました。

limitation

1 フォローアップに応じた人数が少ないです。フォローアップに応じた人がより健康で意識が高い人の可能性があります。
2 MMSEの点数で評価して、認知症発症をアウトカムとして評価していません。
3 歯の喪失の経時的変化を考慮していません。
4 認知機能の低下が歯の喪失を招くのではないかという逆因果律の問題があります。
5 全ての交絡を調整できていません。社会経済的な要素や遺伝的な要素など

まとめ

なかなか興味深い論文でした。機序に関して3つの仮説が立てられていますが、どれか1つではなく複合して起こっている可能性が高いのではないでしょうか。

単純な因果ではないでしょうから、歯を入れたら治る!予防できる!という簡単な構図にはならないと思います。社会経済的な要素など他の交絡因子を含めてさらに大規模な調査を行う事により、歯のありなしがどれだけの寄与があるのか、というのがわかってくるのかもしれませんね。

今回は9本以下と10本以上で分けていますが、義歯の使用とか機能歯数とかそういう定義がよくわからなかったです。また残存歯10本以上の群には12本ぐらいの人もいれば、28本の人もいるわけでかなり範囲が広い気がします。そこら辺も今後の検討課題となりそうです。

文献リスト

論文8 Yamamoto T, Kondo K, Hirai H, Nakade M, Aida J, Hirata Y. Association between self-reported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the Aichi Gerontological evaluation study (AGES) project. Psychosom Med. 2012;74:241–8.

論文13 Takeuchi K, Ohara T, Furuta M, Takeshita T, Shibata Y, Hata J, et al. Tooth loss and risk of dementia in the community: the Hisayama study. J Am Geriatr Soc. 2017;65:e95–e100.

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