普通の歯科医師なのか違うのか

衛生士が老健にいると入所後早期の入院が少なくなる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

ちょっと脱線

全身と口腔の関連性について読んでいく予定ですが、講演会に使いたい論文が出てきたのでそちらを優先して読みます。講演会に使う論文をアブストだけ読んだだけで使うわけにはいきません。今年のGeriatric Gerodontologyに出た日本の論文です。

Characteristics associated with hospitalization within 30 days of geriatric intermediate care facility admission
Seigo Mitsutake , Tatsuro Ishizaki , Shohei Yano , Rumiko Tsuchiya-Ito , Xueying Jin , Taeko Watanabe , Kazuaki Uda , Ian Livingstone, Nanako Tamiya
Geriatr Gerontol Int. 2021 Sep 21. doi: 10.1111/ggi.14278. Online ahead of print.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34549493/
PMID: 34549493DOI: 10.1111/ggi.14278

Abstract

Aim: To identify facility-level characteristics associated with hospitalization within 30 days after admission to a geriatric intermediate care facility (GICF) (30-day hospitalization) in Japan.

Methods: This retrospective cohort study used nationwide long-term care insurance claims data and a national survey of long-term geriatric care facilities. The study population was residents admitted to GICFs between October 2016 and February 2018. The outcome variable was 30-day hospitalization. The independent variables were facility-level characteristics such as level of healthcare professionals.

Results: The final sample for analysis comprised 282 991 residents of mean age ± SD, 85.8 ± 7.2 years, of whom 12 814 (4.5%) experienced 30-day hospitalization. In a multivariable logistic generalized estimating equation model adjusted for facility- and resident-level characteristics, and clustering GICFs, the odds of 30-day hospitalization were 0.906 times lower (95% confidence interval [CI] 0.857-0.958) among residents in a GICF with dental hygienist than in those in a facility without. Furthermore, the risk of 30-day hospitalization was lower among residents who had been admitted to a GICF with higher staffing levels of pharmacists (adjusted odds ratio [aOR] 0.941, 95% CI 0.899-0.985), registered nurses (aOR 0.931, 95% CI 0.880-0.986), care workers (aOR 0.920, 95% CI 0.879-0.964) and speech-language pathologists (aOR 0.926, 95% CI 0.874-0.982) than in those who had been admitted to a GICF with fewer of these healthcare professionals.

Conclusions: Transitional care including dental hygienist or higher staffing levels of pharmacists, registered nurses, care workers and speech-language pathologists may be a more effective way to prevent 30-day hospitalization.

目的:日本における老人保健施設(GICF)への入所後30日以内の入院に関連する施設レベルの特徴を明らかにする事です。

方法:この後ろ向きのコホート研究では、全国の介護保険請求データと、長期療養型介護施設の全国調査を用いました。この研究の被験者は2016年10月から2018年2月までの間に老健に入所した人達です。アウトカムは入所30日以内の入院です。独立変数は、医療従事者のフルタイムワーク人数など、施設の特性としました。

結果:最終的なサンプルサイズは282991名で平均年齢85.8±7.2歳でした。そのうち12814名が30日の入院を経験しました。施設、入所者のレベル、施設の分散等を調整した多変量ロジスティック一般化推定方程式モデルの結果、衛生士がいる施設では30日の入院リスクが0.906倍 (95% CI: 0.857-0.958) となりました。薬剤師 (オッズ比 0.941, 95% CI 0.899-0.985)、正看護師 (オッズ比0.931, 95% CI 0.880-0.986 )、介護福祉士(オッズ比 0.920 , 95% CI 0.879-0.964)、ST(オッズ比0.931, 95% CI 0.874-0.982)などのスタッフ数が多い施設では、他の職種と比較して30日の入院リスクが低くなりました。

結論:入所後30日以内の入院を防止するためには、衛生士を含むケアや薬剤師、正看護師、介護福祉士、STなどの人数を増やす事が有効です。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

身体や認知機能に障害のある高齢者や慢性疾患のある高齢者は、医療機関を頻繁に転々とすることが多く、高齢者にとっても医療従事者にとっても負担になることがあります。質の高い移行期のケアを行うことで、長期療養施設(LTCF)への入所後30日以内の再入院を防ぐことができ、その結果、医療費を何十億ドルも節約することができます。早期再入院を含む長期療養施設(LTCF)入所後30日以内の入院予防は新しいテーマではありませんが、高齢者と介護者の負担を最小限にするために、LTC環境では依然として重要な課題となっています。

日本では2000年に介護保険のシステムがスタートしました。老健は病院を退院した高齢者に機能的、認知的な低下を看護やリハビリテーションでADLが独立して行えるようになり、居宅に帰るための手助けをカバーしています。老健入居者の入院は多いですが、多くは予防できるものかもしれません。

病院や長期療養施設のプロフェッショナルスタッフの配置などはケアの質を左右します。アメリカの研究ではナーシングホームにおいて、PT、OTにより提供されるケアの時間とケアの質、ADLの自立度は正の相関を示すと報告されています。また、日本の研究では、機能的状態の指標の一つである要介護度は、准看護師1人当たりの正看護師の割合が低いLTCFで悪化しやすいことが示されています。しかし、LTCFに在籍する色々な医療スタッフと入所後30日以内での入院との関連を調査した研究は殆どありません。このような情報は、政策立案者や医療従事者がLTCFにおける移行期のケアを最適化することで、GICFへの入院後30日以内の入院(30日入院)を防ぐのに役立つと考えられます。本研究の目的は、日本における30日以内の入院に関連する医療従事者を含む施設レベルの特性を、全国データを用いて明らかにすることであった。

実験方法

この研究は後ろ向きのコホート研究で、2016年4月~2018年3月までの介護保険請求データを使用しています。介護保険請求データには、人口統計的特性、ケアの必要度、月ごとのケアサービスの使用と施設コードが含まれています。 また、入所日や転院などのデータも含まれています。厚生労働省が収集したデータの二次利用については、統計法第33条に基づき、統計情報局の承認を得ています。

サンプルについて

2016年10月1日から、2018年2月28日までの間にGICFへ入所した高齢者を対象としています。GICFに複数回入所を繰り返した場合には、最初の1回目のデータを抽出しています。また、29ベッド以下のGICFは除外しています(30ベッド以上の場合、スタッフ配置の義務が生じるため)。

アウトカム

2016年10月1日から2018年3月31日までの間の30日間の入院の発生をアウトカムとしています。

独立変数

介護保険請求データなどから施設レベルの特性を解析しました。GICFで看護師や介護福祉士が夜勤をしているかどうかなども加算で把握することができます。GICFの所有者を医療法人、社会福祉法人、その他の3つに分類しました。また、専門職13種類(医師、歯科医師、衛生士、薬剤師、正看護師、准看護師、介護福祉士、ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、栄養士、PT、OT、ST)を選択して、100ベッド毎のフルタイムワーカーの数+フルタイムに相当するだけのパートタイマーの数を計算しました。それに応じて施設の規模とスタッフのレベルを高い、中間、低い、の3つに分類しました。

ただし、歯科医師、衛生士、STに関しては雇用している施設がかなり少ないため、この分類とは違う形で評価をおこないました。歯科医師、衛生士は雇用しているかしていないかの2択、STは0、100床あたり1名未満、100床あたり1名以上の3択としました。

また、入居者の個別データ(性別、年齢、要介護度1~5)を独立変数としました。GICF入所前の施設を居宅、医療施設、 長期療養型介護施設 、その他の4つに分類しました。

統計処理

まず、無調整のロジスティック回帰分析を使用して30日以内の入院リスクと各独立変数の関連性を調べました。次に一般化推定方程式にフィットしたロジスティック回帰分析を構築しました。この多変量一般化推定方程式ロジスティック分析はロジットリンク関数を使用しており、二項分布を含んでいます。調整済みオッズ比(aORs)と95%信頼領域を算出しました。

結果

被験者の選択は以下のように行われ、最終的に282991名の被験者が解析に使用されました。

各項目のデータは以下の様になっています。例えば、DHがいる施設に入所している被験者は全体の14.2%、歯科医師の場合は2.3%であり、歯科関係者が常駐している施設はこの時点ではまだかなり少ないのが現状のようです。

全被験者の4.5%にあたる12814名が30日以内の入院を経験していました。

表2に30日の入院を経験した被験者のレベルと施設のレベルの関連性を示します。女性の入院リスクは0.543であり男性よりも優位に低い結果でした。75歳以上ではそれ未満の群よりも高い入院リスクを認めました。要介護2以上だと要介護1と比較して入院リスクが高く、さらに医療施設からGICFへ転院してきた場合の再入院リスクは居宅からと比較して2倍以上となりました。

施設レベルでは、医療法人所有の施設と比較して、社会福祉法人でもない施設では入院リスクが低くなりました。さらに歯科衛生士がいる施設ではいない施設と比較して入院リスクは0.906倍となりました。介護福祉士の人数が少ない施設と比較すると、多い施設では0.875倍、中間では0.920倍の入院リスクでした。さらに 薬剤師 (オッズ比 0.941, 95% CI 0.899-0.985)、正看護師 (オッズ比0.931, 95% CI 0.880-0.986 )、介護福祉士(オッズ比 0.920 , 95% CI 0.879-0.964)、ST(オッズ比0.931, 95% CI 0.874-0.982)がのスタッフレベルが高い施設では、他の職種と比較して30日の入院リスクが低くなりました。

考察の一部

施設レベルでは、GICFに歯科衛生士がいることと、STのスタッフ数が多いことが、30日入院率の低下と関連していました。歯科衛生士とSLPは、口腔ケアを直接行うほか、他のスタッフに口腔ケアの指導を行うことで間接的に口腔ケアを行います。いくつかの研究では、専門的な口腔ケアサービスが肺炎による入院の予防に役立ち、LTCFの入居者の一般的な健康状態の改善と関連することが示されています。また、嚥下障害は肺炎の危険因子であるため、STは、嚥下障害のある入居者に嚥下機能を改善する治療を行うことで、肺炎による入院の予防に貢献することができます。 肺炎は、GICFの入居者の入院の主な原因となっています。そのため、歯科衛生士やSTがより良い口腔ケアを行い、STが嚥下機能の改善にも貢献することで、GICFにおける入院リスクの低減につながると考えられます。GICFでは、厚生労働省の人員要件により、入居者100人あたり、医師1人以上、看護師9人以上、ソーシャルワーカー1人以上、ケアマネージャー1人以上、介護士25人以上、栄養士1人以上、リハビリテーションセラピスト(理学療法士、作業療法士、ST)1人以上を配置する必要がありますが、GICFでは歯科衛生士やSTを配置する必要はありません。移行期のケアを最適化するためには、LTCFに歯科衛生士やSTを配置することを検討することが重要です。

本研究のもう一つの発見は、薬剤師のスタッフ数が多いほど30日入院率が低いことでした。移行期のケアでは投薬内容の変更が一般的で、薬物有害事象の原因となります。以前の研究では、薬剤師による投薬の調整と薬剤師と医師とのコミュニケーションが、介護施設と病院との間を移行する介護施設の入居者における薬剤の不一致に関連する有害事象のリスクを低減することが示されました。したがって、GICFへの入所前に病院や在宅介護の現場で医師との調整やコミュニケーションに時間を割く可能性が高い薬剤師の入力のスタッフレベルが高ければ、介護施設の入居者が30日以内に入院するリスクを低減できる可能性があります。

Limitaion

・介護保険請求データには、医療情報のほか、身体機能や認知状態に関する詳細情報が含まれていません。そのため、30日以内の入院のリスクに関連する可能性のある共変量として、これらの要素を含めることができませんでした。

・入院原因に関する情報が得られなかったため、早期入院の理由を特定することができませんでした。しかし、本研究の結果は、口腔ケアを実践する医療従事者が配置されたLTCFは、肺炎による入院のリスクを低減できる可能性を示しています。

・入院(医療施設への退院)に関する介護保険請求データは、GICFのスタッフが手入力したものであるため、エラーが含まれている可能性がああります。

・日本の研究であり、各国の医療制度の本質的な違いを考慮すると、本研究の結果が他の集団に直接一般化できるとは限りません。

まとめ

今回どういった疾患で入院することになるのかが分からないですが、衛生士の寄与が結構大きく出たのは考察もされていますが肺炎が多い可能性を示唆していると思われます。歯科医師がどういった理由で雇用されているかがわかりませんが、口腔ケアよりは義歯製作などの歯科治療メインなのかもしれません。

STや薬剤師なども人数が多ければ入院リスクを下げる事が出来るというのが面白い所です。医師や歯科医師よりもSTやDHなど日常的に患者さんと付き合う職業の方が貢献度が高いというのは当たり前といえば当たり前ですけど、しっかりデータに出てきているのは素晴らしいと思いました。

どちらにしても、老健に来てすぐに入院してしまってはリハビリどころか、よりADLが下がってしまう可能性が高いわけで、できるだけ避けなければいけません。

歯科医院は衛生士を確保するのが今でも大変です。こういう論文が出ちゃうとまた衛生士の人気が上がってしまいます。是非、衛生士を希望する学生がもっと増えてくれることを期待したいです。

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

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