普通の歯科医師なのか違うのか

アルツハイマー型認知症において体重減少は認知機能低下の予知因子となりうる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

今回はアルツハイマー型認知症の患者さんの体重減少と認知機能低下の関連性についての論文を読みたいと思います。すこし古いのですが、2012年のフランスの論文となります。

Weight loss and rapid cognitive decline in community-dwelling patients with Alzheimer’s disease
Maria E Soto , Marion Secher, Sophie Gillette-Guyonnet, Gabor Abellan van Kan, Sandrine Andrieu, Fati Nourhashemi, Yves Rolland, Bruno Vellas
J Alzheimers Dis. 2012;28(3):647-54. doi: 10.3233/JAD-2011-110713.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22045479/

Abstract

Weight loss is a frequent complication of Alzheimer’s disease (AD) and a strong predictor of adverse outcomes in patients suffering from this disease. The aim of this study was to determine whether weight loss was a predictor of rapid cognitive decline (RCD) in AD. Four hundred fourteen community-dwelling ambulatory patients with a diagnosis of probable AD and a Mini-Mental State Examination (MMSE) score between 10 and 26 from the REAL.FR (REseau sur la maladie d’ALzheimer FRançais) cohort were studied and followed up during 4 years. Patients were classified in 2 groups according to weight loss defined by a loss of 4% or more during the first year of follow-up. RCD was defined as the loss of 3 points or more in MMSE over 6 months. The incidence of RCD was determined among both groups over the last 3 years of follow-up. MMSE, Katz’s Activity of Daily Living scale, Mini-Nutritional Assessment scale, co-morbidities, behavioral and psychological symptoms of dementia, medication, level of education, living arrangement, and caregiver’s burden were assessed every 6 months. Eighty-seven patients (21.0%) lost 4% or more of their initial weight during the first year. The incidence of RCD for all patients was 57.6 (95% confidence interval (CI) = 51.6-64.8) per 100 person-year (median follow-up of 15.1 months). In Cox proportional hazards models, after controlling for potential confounders, weight loss was a significant predictor factor of RCD (adjusted hazard ratio (HR) = 1.50, 95% CI = 1.04-2.17). In conclusion, weight loss predicted RCD in this cohort. Whether the prevention of weight loss (by improving nutritional status) impacts cognitive decline remains an open question.

体重減少はアルツハイマー型認知症においてよく起こりますが、それは悪化の強い予測因子です。本研究の目的は体重減少がアルツハイマー型認知症において急速な認知機能低下(RCD)の予測因子となるのかどうかを検討する事です。

アルツハイマー型認知症の可能性を診断されたMMSEが10~26点の414名の地域在住歩行可能を4年間フォローしました。被験者はフォローアップ最初の1年での体重減少が4%までかそれ以上かで2群に分けられました。急速な認知機能低下(RCD)は6か月で3点以上MMSE低下と定義しました。残り3年間における両群でのRCDの発生に関して検討を行いました。MMSE、Katzの日常生活動作スケール、MNA、合併症、BPSD、服薬、教育レベル、生活環境、介護者の負担などを6か月毎に調査しました。

87名の被験者(21.0%)が最初の1年で4%以上体重が減少しました。全ての被験者におけるRCDの発生は年率57.6名/100名(95% confidence interval (CI) = 51.6-64.8)となりました。Cox比例ハザードモデルでは、交絡を調整した後に体重減少は有意にRCDの予知因子(adjusted hazard ratio (HR) = 1.50, 95% CI = 1.04-2.17)となりました。結論として本研究では体重減少はRCDを予知しました。体重減少を防止すれば認知機能低下を予防できるかどうかはまだわかりません。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言の一部

アルツハイマー型認知症による認知機能の低下はMMSEでは年で2~4±3ポイントであると報告されています。認知機能低下のペースは色々な要因が関与すると考えられます。RCDはアルツハイマー型認知症の進行、死亡、入所、障害の発生などと関連していると報告されています。

体重減少と認知機能低下は異なる2つのレベルで作用していると考えられます。まず、体重減少は臨床的なアルツハイマー型認知症の発症に先立って起こることが知られています。さらにアルツハイマー型認知症発症後の病状を悪化させているかもしれません。アルツハイマー型認知症患者は病状の進行によって有意な体重減少を示すかもしれません。実際、中等度から重度のアルツハイマー型認知症患者の1/3で体重減少があったと報告されています。

本研究の目的はアルツハイマー型認知症と診断された被験者の体重減少とRCDの関連性について調査することです。

実験方法

データ採取

フランスのマルチセンター前向きコホート研究REAL.FRからデータを採取しています。686名のアルツハイマー型認知症の可能性ありと診断された被験者を集めて6か月毎に調査を行い4年間フォローしています。

被験者の条件としてMMSEが10~26点、歩行可能、居宅、介護者あり
除外対象として、MMSEが10点未満、入所している、全身状態に異常、明確な介護者がいない

研究デザイン

1回目から3回目の訪問(最初の1年間)で体重減少を評価して体重が4%以上減ったか減らないかで2群に分類。
その後3回目から9回目までの訪問でMMSEが3ポイント以上低下するRCDイベントの発生を調査。

他に全身状態のアセスメントとして、障害、栄養状態、全身疾患、BPSD、服薬、教育レベル、生活様式、介護者の負担

変数

人口統計学的要素:年齢、性別、教育レベル、生活様式、公的な在宅支援
全身疾患:慢性心不全、不整脈、狭心症、心筋梗塞、末梢動脈疾患、脳卒中、循環系リスクファクター(高血圧、DM、高脂血症、喫煙)、慢性閉塞性肺疾患、聴覚視覚障害、胃腸疾患・・・・etc
全身疾患の数で被験者を3つに分類

介護者に服薬状況の確認(服薬数、コリンエステラーゼ阻害薬の使用)

BPSD12種類のうち4種類以上餓鬼等で深刻であると分類

MNAとBMI

障害には関してはADLスコアで判定(6が最高点、本研究では6未満を障害ありと判定)

教育レベル:4段階に分類

介護者の負担:Zarit scaleで0-88点評価

統計方法

3回目の訪問時のデータが今回のベースライン値

生存率の解析についてはRCD発生率を使用してKaplan Meier曲線とロングランクテスト

加えて体重減少とRCDリスクの関連についてハザードモデルを構築
モデル1:年齢、性別、教育について調整したモデル
モデル2:他の可能性のある交絡を調整したモデル

結果

最終的に被験者は414名となっています。
除外した群と採用した群間で性別、教育歴、生活様式に差を認めませんでしたが、年齢、ADLスコアなどに有意差を認めました。

414名のうち87名に最初の1年で体重減少を認めました。表1に体重減少群と非体重現将軍のデータを示します。殆どの人はアルツハイマー型認知症の治療を受けていました。障害レベル(ADL)と栄養状態において両群間で有意差を認めました。

急速な認知機能低下(RCD)

フォローアップの中央値は15.1か月でした。
295名の被験者が最低でも1回RCDを経験していました。年率に換算すると57.6人/100人(95% confidence interval
(CI) = 51.6–64.8)でした。295名のうち半数がフォローアップ開始1年以内に最初のRCDエピソードを起こしていました。

体重減少とRCDリスク

体重減少群はRCDの回数が有意に体重非減少群よりも多くなりました。体重減少群では年率74.4人/100人(95% CI = 68.4–81.3)でRCDが発生しましたが、非体重減少群では54.0人/100人(95% CI = 48.0–61.6)でした。

Cox比例ハザードモデルにおいて、年齢、性別、教育レベルを調整したモデル1ではHRは1.51(95% CI = 1.13–2.01)、色々な交絡を調整したモデル2では1.50(95%CI = 1.04–2.17)となりました。

最初のフォローアップ1年間のRCDと、栄養的、認知的な状況とは有意な相関を認めませんでした。最後に、感度分析の結果、初年度にRCDに罹患した患者を除外したモデル(191人の患者に対する調整後のHR=1.45、95%CI=0.94-2.39)と従来のモデル2とを比較したところ、RCDのHR推定値に統計学的に有意な差は認められませんでした。

考察の一部

私達は以前の報告で、MNAが23以上であればRCDが起こりにくく(文献8)、それ以下であればフォローアップ初年度での病状の進行と関連する事を報告しています(文献33)。特筆すべき点として、この2つの報告は体重とRCDとの相関を認めておらず、体重単独ではRCDのリスク予知因子とならないことを示唆しています。今回と同じREAL.FRのデータを用いた別の研究では、RCDを初年度に経験した被験者の割合は、低栄養リスクがあるMNA17.5~23の群の方が、栄養状態に問題のないMNA23以上の群よりも有意に高い事が報告されています(文献21)。

今回の研究でRCDはアルツハイマー型認知症では頻繁に起こる事も示されました。RCDが起こる群はRCDがない群よりも悪化を予見すると報告されているので、このグループにおける予防と介入は、臨床において重要な意味を持つと考えられます。体重減少がRCDのリスクであるというのは重要な発見です。体重は簡便に計測できます。体重減少はしっかり栄養面で管理されたアルツハイマー型患者にはあまり多くはみられません。ただし、栄養状態の改善が認知機能低下に影響するかは現在の所未解決な問題です。

アルツハイマー型認知症における体重減少とRCDの関係を説明するもっともらしい生理学的経路は、中枢神経系(CNS)における脂肪細胞由来のレプチンの新たな調節的役割であると考えられます。アルツハイマー型認知症では、レプチンの血中濃度は認知機能低下が重症化するほど低くなります。レプチンのレベルまたは機能の不足は、観察された疾患の進行につながる全身および中枢神経系の異常に寄与するのではないかと推測されています(文献36)。実際、レプチンは、ADのアミロイドβおよびタウ蛋白のリン酸化を抑制すると考えられており、レプチンの循環は、無症候性高齢者におけるアルツハイマー型認知症の発症率の低下および脳体積の増加と関連していました。
さらに、後期高齢者の体重減少は、臨床的なアルツハイマー型認知症の発症に先行することが知られています(文献16)。レプチンの大部分は末梢脂肪組織に由来するので、体重減少に伴う脂肪量の減少とそれに伴うレプチンレベルの低下は、アルツハイマー型認知症の急速な病状進行を説明できるかもしれません。

Limitation

今回の研究の主な限界は、離脱によるデータの欠落でした。高齢者のコホートにおいて、特にアルツハイマー型認知症のような重度で進行性の慢性疾患に罹患している患者を対象とした研究では、離脱はよくあることです。しかし、高齢者の減少にどのように対処すべきかについては、現在のところコンセンサスが得られていません。

まとめ

アルツハイマー型認知症の場合、誤嚥などの摂食嚥下障害自体は一般的にはかなり末期にならないと出現しません。そのため、介助などを必要とする可能性はあってもある程度食べているというイメージがありました。
今回の研究ではMMSE26というMCI領域ぐらいの点数の人も入っていますので、こういった方が体重減少するというイメージが自分にはあまりなかったです。
ただし、1年で4%というのはSGAと比較してもかなり少ない値であり、そういった微少な体重変化がアルツハイマー型認知症の進行の予兆になるかもしれない、というのはかなり興味深いところです。
体重、栄養状態のチェックというのはやはり色々な意味で重要ですね。

結構古い論文だったので、何か更新されていないか探してみる必要がありそうです。

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