普通の歯科医師なのか違うのか

CAD/CAM冠は接着操作をケチっては駄目

 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

補綴誌をパラパラめくっていたら見つけました

補綴誌と老年が来たのでいつものようにパラパラとめくっていたら、補綴誌に面白い論文がありました。まだJstageにも載っていないのですが、載っているのを待っていると忘れてしまうのでメモ代わりにまとめておくことにしました。

CADCAMについては今までも何本か論文を読んできて、理工学的に表面処理がいかに重要かは理解していますが、それを臨床的に整理した論文はなかなか少ないのが現状です。以前読んだ東北大学の論文は接着方法がバラバラでしかもセメントはグラスアイオノマーセメントの方が多い論文だったので、これを実臨床にそのまま応用するのは難しい感じでした。今回の論文は接着方法がある程度しっかり規定されています。

レジンブロックを用いた小臼歯CAD/CAM冠の予後に関する6年間の後ろ向き研究
高江洲 雄,谷口祐介,平川智裕,一志恒太,城戸寛史,佐藤博信,松浦尚志
補綴誌 13:230-236,2021

抄録

目的:コンポジツトレジンブロックによる小臼歯CAD/CAM冠(以下、CAD/CAM冠)の短期間の臨床報告はあるものの、接着処理などの条件が統一されていないため永続性には不明確な部分が多い。本研究では、接着処理を一定の条件下で装着した小臼歯CAD/CAM冠の予後評価を行う事を目的とした。

方法:2014年4月1日から2020年3月31日までの6年間に福岡歯科大学医科歯科総合病院補綴科・インプラント科の歯科医師16名が装着した小臼歯CAD/CAM冠の装着数、性別、装着時年齢、支台歯および対合歯の状態、残存歯数、歯種、アルミナサンドプラスト処理、リン酸処理、シラン処理の接着処理をすべて行った群(ガイドライン順守群)と接着処理のいずれか一つを行わなかった群(ガイドライン不順守群)に分け調査した。また、生存期間とそれに関連する因子をKaplan-Meier法とCox比例ハザード分析を用いて検討した。

結果:6年累積生存率は93.6%、成功率は88.8%であった。ガイドライン順守群とガイドライン不順守群の6年累積成功率はガイドライン順守群が92.7%、ガイドライン不順守群が79.5%であり,統計学的な有意差を認めた。Cox比例ハザード分析を用いた結果。接着処理の有無で生存期間と有意な関連を認めた。

結論:接着処理の手順を遵守することが、長期予後を得るために重要である可能性が示唆された。

日本語ですので、緒言などは省略します

実験方法

2014年4月1日~2,020年3月31日までの6年間に福岡歯科大学補綴科・インプラント科において臨床経験3年以上の歯科医師16名が装着した小臼歯CAD/CAM冠が対象です。

研究の選定と除外基準は以下の様になっています。

CAD/CAM冠試適後に
1)サンドブラスト
2)リン酸処理
3)シラン処理
4)レジンセメント(セルフアドヒーシブセメント)による装着
を完全に行ったものをガイドライン順守群
1~3のどれか1つを行わなかった群をガイドライン不順守群(2つ以上行わなかったケース無し)
として予後に差があったかを検討しています。

なお、支台歯に対する表面処理方法は指定されていません。

脱離、破折がないものを成功、脱離したものの再セット可能だったものを生存としています。

結果

被験者103名(男性26名、女性77名、25~82歳 平均52.3±14.2歳)
CAD/CAM冠数125
平均観察期間32ヶ月(9~70ヶ月)

ガイドライン順守群:64名81冠
ガイドライン不順守群:39名44冠
脱離有り無しに関してはχ2検定の結果、両群間に有意差が認められました。

ガイドライン不順守群の内容:サンドブラスト未処理20(脱離5)、リン酸未処理17(脱離2),シラン未処理7(脱離2)

成功率と生存率

累積成功率はガイドライン順守群と不順守群で有意差が認められました。不順守群は比較的早い期間に成功率が低下しており、その後は一定となっています。これは他の論文と同様な結果といえます。

累積生存率は統計的有意差を認めませんでした。CAD/CAMは脱離が多く再セット可能なことが比較的多いという事も他の論文と同様な結果といえるでしょう。

Cox比例ハザードモデルの結果ですが、接着処理が完全か不完全かで統計的な有意差を認めました。歯種や生活歯かどうか、対合歯の状態などは有意な関連はありませんでした。

まとめ

補綴学会から保険診療におけるCAD/CAM冠の診療指針 2020というものが発表されています。
https://hotetsu.com/files/files_478.pdf
適応症や実際の臨床操作などが細かく規定されており、CAD/CAM冠で治療されている先生は一度目を通した方がよいかと思います。

その中で装着に関する項目は以下の様になっています。

リン酸処理は接着強さを向上しなかったという報告もあります。そのためサンドブラストがなく唾液を落とす必要がある場合以外は必要ではないという認識ですが、指針にもそういう風に記載されていると解釈しています。

CADCAM冠はサンドブラスト後に水洗、超音波洗浄すると接着強さが落ちるという報告もあるので、私はサンドブラスト後にリン酸処理は行っていません。また他の論文ではシラン処理よりもボンディング処理の方が有効であるという結果もあります。

そのため、今回の研究で3つ全てをマストにしたのは少し違和感があります。
サンドブラスト未処理群の脱離率がかなり高いので、やはりサンドブラストの寄与が大きいのではないかと内心考えていますが、今後検討してほしいところです。

どちらにしても、適当に処理をカットしてしまうと早期にダツリしてしまう可能性があります。あまりにも脱離する数が多いと信用にも関わりますから、処理は手を抜かない方が良さそうですね。

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

Comment

  1. 高江洲雄 より:

    はじめまして。福岡歯科大学の髙江洲と申します。
    先生のブログを拝見させていただきました。論文の引用ありがとうございます。本研究は2014年の診療指針を参考に研究をスタートしており、当時はリン酸処理の効果が不明でしたので論文中の3郡で実験を始めました。現在、大臼歯、前歯の臨床研究も行っており、リン酸処理は除外をしております。個人的な意見になりますが、私自身も先生の仰る通りでサンドブラストの寄与が大きいのではないかと考えています。
    今後も論文等で、ご教示いただければ幸いです。
    何卒宜しくお願い申し上げます。

    • 織田 展輔 より:

      福岡歯科大学 高江洲先生

      コメント誠に有り難うございます。
      また、示唆に富む論文を有り難うございます。
      臨床で大変参考にさせて頂いております。
      追加の研究があるということで、新たなご発表、論文期待しております。
      宜しくお願い申し上げます。

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