普通の歯科医師なのか違うのか

義歯安定剤は咀嚼能率を向上させる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

MRONJのポジションペーパー2022を読んでからずっとMRONJ関連の論文を読んできましたが、そろそろ煮詰まってきたので、義歯や摂食嚥下関連に戻っていきたいと思い、pubmedで検索していたら面白そうなやつが引っかかってきました。

義歯安定剤のシステマティックレビューが今年のJPDに載ってるのを見つけました。まずはこれから読んでみたいと思います。

Masticatory performance of denture wearers with the use of denture adhesives: A systematic review
Rayanna Thayse Florêncio Costa , Taciana Emília Leite Vila-Nova , Arthur José Barbosa de França , Bruno Gustavo da Silva Casado , Rafaella de Souza Leão , Sandra Lúcia Dantas de Moraes 
J Prosthet Dent. 2022 Feb;127(2):233-238. doi: 10.1016/j.prosdent.2020.10.011.

PMID: 33279156

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33279156/

Abstract

Statement of problem: Denture adhesives are products used by wearers of removable dental prosthesis; however, systematic reviews on their influence on masticatory performance are lacking.

Purpose: The purpose of this systematic review was to evaluate the efficiency of denture adhesives in improving the masticatory performance of users of complete dentures (CD).

Material and methods: This systematic review was organized from the Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses checklist, and the methods were registered on the international prospective register of systematic reviews (PROSPERO-CRD42020187385). The focus question was as follows: “Does the use of denture adhesives improve the masticatory performance of patients with removable dental prostheses?” The databases PubMed/MEDLINE, Scopus, Web of Science, and Cochrane Library were used to extract information.

Results: The search yielded 1338 articles, of which 6 met the inclusion criteria and were selected. All included studies were crossover randomized controlled trials including bimaxillary edentulous individuals. Masticatory performance was evaluated by using a comminution and sieve method.

Conclusions: Denture adhesives significantly increased the masticatory performance of CD users.

問題点:義歯安定剤は可撤性補綴物装着者に使用されている製品だが、咀嚼能率に与える影響についてのシステマティックレビューが不足しています。

目的:本システマティックレビューの目的は、全部床義歯装着者の咀嚼能率の改善に義歯安定剤が効果的かどうかを評価することです。

実験方法:本システマティックレビューは、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analysesのチェックリストより整理し、その方法を国際システマティックレビューの前向き登録(PROSPERO-CRD42020187385)にて登録しました。メインのクエスチョンは、「義歯安定剤は義歯装着者の咀嚼能率を改善するか?」です。PubMed/MEDLINE、Scopus、 Web of Science、Cochrane Libraryを使用して情報を抽出しました。

結果:1338本の論文から、基準に適合したのは6つの論文でした。全て上下無歯顎者を含むランダム化クロスオーバー試験でした。咀嚼能率は篩分法により評価されました。

結論:義歯安定剤は上下全部床義歯装着者の咀嚼能率を有意に上昇させます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言の一部

インプラント支持補綴と骨移植の成功率にも関わらず、可撤式の全部床義歯はいまだ一般的です。その中には経済的な理由によるもの、深刻な骨吸収、インプラント負荷前の暫間治療、深刻な全身状態により外科処置が困難、可撤式に満足しており外科処置を行う気がない、などが含まれます。可撤式補綴装置の成功は異なる要素に依存しますが、適切な維持、安定、支持の影響が強調されてきました。

維持、安定が満足いくレベルに達していない場合、例えば顎堤吸収が著しい、口腔乾燥症、筋のコントロールが欠如、腫瘍や外傷による顎欠損などでは、咀嚼機能を改善するために義歯安定剤の使用が推奨されるかもしれません。義歯安定剤は異なる組成やテクスチャ(クリーム、パウダー、テープ)を幅広く利用でき、主に粘着成分で構成されています。多くの商品はカルボキシメチルセルロース(CMC)などの天然由来化合物を使用しており、唾液に触れると義歯の粘膜面と口腔粘膜間の粘着力を向上します。

義歯安定剤の利点としては、維持安定の向上、満足度の向上、機能時の義歯偏位の減少などが報告されています。しかし、義歯安定剤使用時の咀嚼能率についてはさらなる検討が必要です。

咀嚼能率を評価するためには、質問表による主観的な方法と、食品を用いたテストによる客観的な方法があります。最も一般的なテストは篩分法です。

本システマティックレビューの目的は全部床義歯装着者に義歯安定剤を使用した場合の咀嚼能率を評価することです。本研究の仮説は、義歯安定剤の使用は咀嚼能率を有意に改善させる、です。

実験方法

本システマティックレビューは、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analysesのチェックリストより整理し、その方法を国際システマティックレビューの前向き登録(PROSPERO-CRD42020187385)にて登録しました。

文献の選択についてはPICOを用いて行っています。
可撤式補綴装置使用者、義歯安定剤使用、義歯安定剤未使用との比較、客観的な咀嚼能率
が基準です。加えて、メインのクエスチョンは、「義歯安定剤は義歯装着者の咀嚼能率を改善するか?」です。

選択基準

採用基準:RCT、英語、義歯使用者に対して客観的な手法で咀嚼能率を比較
除外基準:in vitro、症例報告、ケースシリーズ、後ろ向き、前向き、パイロット研究

文献検索

PubMed/MEDLINE、Scopus、 Web of Science、Cochrane Library+補綴系の雑誌
2人のオーサーが独立して検索→3人目が上がってきた論文を評価して、ディスカッション
バイアスリスクはCochrane risk of bias toolを用いて評価

結果

1337本の論文がピックアップされ、重複を除くと1191本が残りました。タイトルとアブストを読み、46本が抽出されました。内容を精査して40本が除外され、最終的に6本が残りました。

全てクロスオーバーデザインのランダム化比較試験で、被験者は完全無歯顎でした。6つのうち4つの論文では、新しい義歯を製作して咀嚼能率を測定していました。半数の論文で、被験者数についてはサンプル計算を行っています。義歯安定剤については、Corega(Corega denture fixative cream、GlaxoSmithKline)が最も多く使用されていました。製品に含まれる主な成分を詳細に分析した論文は2件のみで、素材の3つのテクスチャー(クリーム、テープ、パウダー)についても分析されています。篩分法のメッシュサイズと被験食品は各論文で異なります。6つのうち5つの論文で、義歯安定剤により咀嚼能率が上昇しました。二次的評価において、咀嚼能率の上昇は、義歯の質が悪い、特に義歯床面積が小さい被験者において認められました。義歯安定剤のテクスチャーの違いでは、咀嚼能率に有意な差を認めませんでした。しかし、同じクリームタイプの商品を評価した論文では成分が異なる結果だったため、義歯安定剤の組成は明らかに異なります。

バイアスリスクについては、多くの項目が「明確ではない」評価になりました(黄色:リスク不明確、緑:低リスク)。

考察の一部

本研究の結果から、咀嚼能率に対して義歯安定剤はプラスの効果があることが示唆されました。そのため、本研究の仮説である、義歯安定剤は咀嚼能率を有意に改善させる、は承認されました。

義歯安定剤の有効成分は粘着剤で、例えば、ポリビニルエーテルメチルセルロース(PVM-MA)とカルボキシメチルセルロース(CMC)などがあります。そのメカニズムは、唾液と反応し粘性が増加、それにより義歯粘膜面と口腔粘膜との間に接着力が働き、結果として義歯の維持安定が向上します。維持安定の向上は咀嚼の安全性も向上させ、食物の粉砕を改善します。

義歯安定剤を使用した全部床義歯装着者の主観的な咀嚼能率において満足度の上昇が報告されています。より均質な食品粉砕と、結果として起こる好ましい食品摂取は、全身状態を改善することが、OHIP-EDENT、OHIP-14を用いた研究で報告されています。

義歯安定剤の使用は、Munozらの報告ではクッション効果による義歯偏位の減少が認められ、他の咀嚼因子の改善も促進します。彼らは林檎を粉砕するのにかかる咀嚼回数は一定ですが、義歯安定剤使用群の方が、義歯の偏位が起こる前に可能な咀嚼回数が多い事も報告しています。加えて、義歯安定剤の使用は微生物、特に義歯性口内炎を引き起こすCandida Albicansの増殖を抑制すると報告されています(文献3)。

義歯安定剤を使用することで最も心配なのは、残った義歯安定剤の除去が難しいということです。そのため、使用後の微生物の増殖を防ぐために、義歯安定剤除去の適切なプロトコールが必要です。Nunesらは、クリームタイプ使用者の場合、水のみで機械的にブラッシングするより、ココナッツ石けんまたは歯磨剤を用いてブラッシングする機械的+化学的な方法の方が衛生的に優れていると報告しています。

義歯安定剤使用時の咀嚼能率の評価にはいくつかの方法が報告されています。質問表を使った主観的な方法や、3Dモーションキャプチャ、キネジオグラフの使用による下顎運動記録、咀嚼運動時の義歯の微少偏位などがあります。しかし、篩分法がスタンダードな方法です。2色ガムも妥当性があり信頼できる方法であると報告されています。

Limitation

臨床研究の方法論にばらつきがあることです。

採用した論文のバイアスリスクが不明確が多すぎます。

まとめ

義歯安定剤を研究した論文がまずあまり多くなく、そのなかで研究デザインがしっかりした論文は殆どない、ということが今回わかりました。採用された6本の論文をみると、Kapurの論文が入ってます。Kapurの分類で有名な方ですが、1967年の論文です。さすがにこれがレビューに入っちゃうのはまずいでしょう。

一応、見解としては、義歯安定剤の使用は咀嚼能率を向上させる、ということは言ってもいいのかな、という感じですが、結論づけるためにはよりデザインがしっかりした論文が必要でしょう。

今回の研究の結果では、採用した論文の使用材料にクッションタイプがないようで、海外はクッションタイプ(ホームリライナー)の義歯安定剤は存在しないのかも?という疑問をもちました。ネットで色々調べてみたところ、以下の商品とかは4日間もつと書いてありますのでクッションタイプではないでしょうか。

https://www.walmart.com/ip/Cushion-Grip-Long-Lasting-Thermoplastic-Denture-Adhesive-1-oz/551988501

クッションタイプを明確に否定する論文ってあるんでしょうか。義歯安定剤に興味が湧いてきました。

なお、義歯安定剤については昔、以下の論文をご紹介したことがあります。義歯安定剤にはアルコールが入ってるものがあって、それが運転時に問題になったことがあります。

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