普通の歯科医師なのか違うのか

短縮歯列に義歯を入れると咀嚼機能はどうなるか?

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

ナイジェリアの論文はいけるのか

前回、Kennedy1,3級の被験者に対して、義歯装着時と非装着時の咀嚼機能を比較した論文を読みました。ニンジン、ピーナッツ咀嚼時の食塊粒径や咀嚼サイクルなどを比較しています。

今回は同じ様な感じですが、短縮歯列(SDA)に義歯をいれてみたらどうなるか、というものになります。

ナイジェリアの論文でちょっと大丈夫かな?・・・

Masticatory efficiency of shortened dental arch subjects with removable partial denture: A comparative study
J O Omo, M A Sede, T A Esan
Niger J Clin Pract. 2017 Apr;20(4):459-463
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28406127/

Abstract

Objective: The objective of this study was to compare the masticatory efficiency in subjects with shortened dental arch (SDA) before and after restoration with removable partial denture (RPD).

Materials and methods: This was a prospective study carried out on 36 consecutive patients. The subjects were asked to chew 5 g of a measured portion of fresh raw carrot for 20 specified numbers of strokes. The raw carrot was recovered into a cup and strained through a standard mesh sieve of 5 mm by 1 mm, it was air dried for 30 min and weighed with FEM digital series weighing scale. The masticatory performance ratio was then determined.

Result: The age range of the subjects was 34-64 years with the mean age being 52.2 ± 8.2 years. The difference between the total masticatory performance score at the post- and pre-treatment phases was statistically significant (P = 0.001). The improvement in masticatory performance was marked among the younger age groups (P = 0.001), unilateral free end saddle subjects (P = 0.001), and among the male gender (P < 0.05).

Conclusion: Masticatory performance improved with the provision of RPD. However, the improvement was marked among the younger age groups, unilateral free end saddle subjects, and the male gender; thereby supporting the need for RPDs in patients with SDA.

目的:SDA患者において可撤式部分床義歯による治療の前後で咀嚼効率が変化したかを客観的に判断することです。

実験方法:36名の被験者を用いて前向きな研究が行われました。生のニンジン5gを20回咀嚼するよう指示しました。ニンジンを吐き出させて1×5mmメッシュの篩にかけ、30分乾燥させた後に重量を計測しました。重量比により咀嚼能力の比を決定しました。

結果:被験者は34~64歳(平均年齢52.2±8.2歳)でした。義歯治療前後の咀嚼能力には有意差が認められました。若年者、片側遊離端欠損、男性の方がより咀嚼能力が改善しました。

結論:可撤式部分床義歯の装着で咀嚼能力が向上しました。咀嚼機能の大きな向上は特に若年者、片側遊離端欠損、男性に認められました。SDA患者への部分床義歯の必要性が示唆されました。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

満足いく咀嚼機能のために最低何本の歯が必要かはよくわかっていません。Yuekstasは1954年に大臼歯欠損の咀嚼能力や効率のバリエーションについて言及しています。同様にその後の研究において、機能歯数と最大咬合力は咀嚼能力に影響を与える主たる要因であると示唆されています。しかし、別の研究では機能性や耐久性の点で問題ないと小臼歯歯列が提案されています。

短縮歯列(SDA)の場合、満足できる咀嚼能力のために最低でも4つの咬合接触が残存している必要で、咬合歯は10本未満にならなければ咀嚼機能低下にはならない、と報告されています。疫学的な研究では、歯の欠損が多くなるにつれて主観的な咀嚼能力も低下するとされています。また、3,4箇所の小臼歯で咬合している非対称の歯列弓を有するSDAでは硬い物に対する咀嚼機能が低下し、一方で小臼歯部で0~2箇所でしか咬合しないSDAでは深刻な咀嚼能力低下が起こることが報告されています。

本研究の目的は、SDA患者において可撤式部分床義歯による治療の前後で咀嚼効率が変化したかを客観的に判断することです。

実験方法

被験者は36名で、第2小臼歯を含まない片側遊離端欠損+健全な前歯部を有するSDA、健全な前歯部を有する非対称性のSDAで構成されています。

生のニンジン5gを20回咀嚼するよう指示しました。ニンジンを吐き出させて1×5mmメッシュの篩にかけ、30分乾燥させた後に篩に残った重量と通過した重量を計測しました。咀嚼能力の比は、通過重量/トータル重量としました。治療後のテストは部分床義歯をセットしてから3か月後に実施しました。

統計方法はおそらく対応のあるt検定と一元配置分散分析です。有意水準は5%。

結果

年齢、性別に関しては以下のようになっています。最も多い層が10名の46-50歳のゾーンになります。男女比は1:2で女性の方が多い母集団です。

咀嚼能力は術前術後で比較すると、有意に術後の方が高い結果となっています。
おそらくですが、通過重量/全体重量×100した数字ではないかと思います。なので、吐き出したニンジンの重量のうち、術前では35%ぐらいしか篩を通過しなかったのが、53%通過するようになった、食塊が細かくなったという解釈になるかと思います。

年齢層別に結果を解析していますが、標準誤差が0という階層が多発しており、実験方法が本当に適切だったのが疑われます。よく考えると1人に1回ずつしか実験してない可能性も高いですね。個人内での誤差を考えると1人3回ずつ実験するとかそういうのが必要だったのではないでしょうか。

性差に関しても検討していますが、これは有意差がなかったようです。

欠損形態について検討していますが、両側遊離端欠損よりは片側遊離端欠損の方が当然咀嚼能力は良いという結果になりました。また改善度合いですが、両群とも有意に改善しています。

まとめ

残念ながら、実験方法に問題があると言わざるを得ません。6人計測して標準誤差0というのは現実的ではないでしょうし、小数点以下2桁まで有効数字があるのですが、.00という数字が多すぎます。何かおかしいです。

大体、両側遊離端と片側遊離端の比較でも、片側遊離端は51.25→59.38という咀嚼能力の改善でしたが、両側遊離端は23.00→49.00だったわけで、どちらが改善度合いがあったかといえば後者のように見えます。しかし、この論文の結論では、そういった数字は無視され、単純に数字が大きい片側遊離端のほうが改善したということになっています。これはおかしいでしょう。

やはりナイジェリアは駄目だったかな・・・という感じですが、まあ食塊が小さくなる、というのは前回の論文と同じ様な傾向ですから、大きな筋としては間違ってはいないとは思います。しかし、実験方法に疑問符がつく論文を使う事はできませんね。

最近歯科の論文にもブラジルのメタアナリシスとか多いのですが、アフリカはまだ厳しいクオリティの論文が多いのかもしれませんね。

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