普通の歯科医師なのか違うのか

カ連続発音で舌骨上筋群が鍛えられる?

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

嚥下訓練について

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

摂食嚥下障害の訓練ですが、エビデンスがどこまであるのかについてしっかり自分で論文を読んだことがなかったので、この機会に少し検索でひっかかったものを読んでみることにしました。

1発目はこれは使えそうと思ったこの論文

構音運動を用いた喉頭挙上訓練の検討
田代 綾美, 宮本 恵美, 古閑 公治, 久保 高明, 大塚 裕一, 船越 和美
言語聴覚研究 (1349-5828)15巻4号 Page310-320(2018.12)

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.6001200195

フリーダウンロード不可です。

抄録

 近年,超高齢化に伴い,誤嚥性肺炎に罹患する患者は年々増加している.一般的な喉頭挙上にかかわる筋力強化訓練は実施上の配慮の必要な場合が多い.本研究では,簡易に行える構音訓練が喉頭挙上訓練として有効であるか,その効果について表面筋電計を用いて検討した.「カ」は「タ」や「ラ」と比べて舌骨上筋群の筋活動が有意に高く(p<0.01),嚥下おでこ体操と比較して舌骨上筋群の筋活動が同程度であることが明らかとなった.さらに,1か月後の訓練効果を比較した際,「カ」連続構音群では,水の嚥下で単位時間当たりの筋活動量の増加(p<0.05),および筋活動持続時間の短縮が認められた(p<0.05).これは,舌骨上筋群は主に「速筋」により構成されていると推察されることから,「等張性運動」に相当する「カ」連続構音群で訓練効果がみられたのではないかと考えた.このことから,「カ」連続構音訓練は喉頭挙上訓練として有効であることが示唆された.

ここからは適当に重要そうなところを抽出します。詳細は原文をご確認ください。

はじめに

「カ」連続構音訓練では、舌の運動だけでなく、喉頭隆起の上方運動が目視で確認される。そのため、「カ」連続構音は、舌骨上筋群に影響を与えており、喉頭挙上訓練として有効性があるのではないかと推察した。

 研究Iの目的として「カ」の構音が「タ」や「ラ」の構音と比較して舌骨上筋群に影響を与えているのかを検討した。次に,研究IIでは,「カ」連続構音が既存の訓練と比較してどの程度舌骨上筋群に筋活動が認められるか、訓練としての有用性があるかについて検討した。

実験方法

被験者:健常な男性24名(22.5±6.5歳)

筋電図を用いて表面電極を舌骨上筋群部に貼付しました。測定は90度座位にて筋活動量を測定しました。

研究I

「タ」「カ」「ラ」を10回連続で構音した際の単位時間あたり筋活動量を測定して比較
強度、ペースは被験者の任意として指定せず
各試行間に1分間の休憩

「カ」連続構音、開口訓練(最大開口10秒保持)、おでこ体操(5秒保持)での筋活動量を測定して比較

研究II

1日2回訓練を行い4週間後に訓練開始前と終了時の筋活動量の違いを検討
ランダムに訓練を割り当て
①おでこ体操群(5秒保持、10セット)
②「カ」を用いた構音訓練群(10回発音を10セット)
③開口訓練群(最大開口10秒保持、10秒休憩 5セット)
④訓練なし群

測定は空嚥下、水、ゼリー嚥下時の3項目です。水はNWSTと同じ2ml、ゼリーはフードテストと同様のティースプーン1杯(約4g)としました。

結果

タカラ音による違い

タカラ音発音時における筋電図の違いは以下のようになります。明らかにカ音により舌骨上筋群の筋活動量が増加しています。単位時間あたりの筋活動量はタラと比較してカ音は有意に大きな結果となりました。


従来の訓練との比較

従来の訓練との比較ですが、カ連続構音はおでこ体操とは有意差を認めませんでした。この3つの中で最も大きい筋活動量を記録したのは開口訓練で他の2群と比較して有意差を認めました。

4週間訓練による比較

4週間訓練して、筋活動量、筋活動量持続時間に有意差が認められたのはカ連続構音訓練時の水嚥下のみでした。カ音訓練時の水嚥下では、単位時間あたりの筋活動量が有意に増加、筋活動持続時間が有意に短縮しました。

他の全ての訓練、食形態では有意差は認められませんでした。

考察

「タ」は歯茎破裂音,「カ」は軟口蓋破裂音,「ラ」は歯茎弾音で、タとラは内舌筋である上縦舌筋が関与していますが、カは外舌筋である口蓋舌筋、茎突舌筋の関与が指摘されていますが、顎舌骨筋も収縮を開始するという報告されており、カ発音時には外舌筋+舌骨上筋群の活動が起こるので、カ音で筋活動が認められたと考察しています。

また、4週間訓練後の結果においては、開口訓練、おでこ体操共に等尺性運動であり、遅筋に影響を与えるのではないか、それに比べてカ音は等尺性+等張性運動であり、速筋にも影響を与えているのではないか、舌、口蓋、喉頭、舌骨上筋郡は速筋と遅筋両方で構成されるので今回こういう結果になったのではないかという考察になっています。

まとめ

おでこ体操はshaker訓練が難しい患者さんで咽頭期に問題がある場合に私は使うことが多いです。しかし、力をいれてもらうため血圧が高い、心臓に負担がかかると困る、頸椎症など頸部に物理的に異常があるような場合には使用は推奨されていません。そのため、最大開口などを使う事も多いのですが、高齢者では顎関節が脱臼してしまいやすい人もいます。

最近では下顎を最後退させる運動なども紹介されてきていますが、これは指示や維持が難しいと感じます。なにせ結構苦しいです。その点、カ音連続発音はオーラルディアドコキネシスの検査で行うものですから、重度な失語でもなければある程度はできます。

この実験では、速度やペースを被験者に委ねており、10回という回数しか規定していません。実際の嚥下障害の患者さんでも効果があるのか、また効果があるならどういう条件なのか、が知りたい所です。

どちらにしても「カ」連続発音、選択肢としてはありかなと思います。

摂食嚥下学会は訓練法についてまとめていますが、2014年なのでそろそろ改訂されそうな気がします。
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/18-1-p55-89.pdf

カ音、って結構色々な事と関連性が示唆されています。舌や舌骨上筋群との関連性を考えるとやはり重要なのも当然なのかな、と思ってきました。


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