普通の歯科医師なのか違うのか

MRONJとインプラント治療vol.2

 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回読んだシステマティックレビューでは、がん患者で骨吸収抑制療法を受けている場合のインプラント治療は禁忌、骨粗鬆症の場合、MRONJに関してリスクは0ではないという結論でした。ただし、根拠とする文献の多くが症例報告、ケースシリーズであり、MRONJが起こった人が被験者のほぼ全部という状況でした。これでは結論が偏ってしまう可能性が高いと考えられます。

今回は2018年のシステマティックレビューを読んでみたいと思います。さて、このレビューはどう結論づけているんでしょうか。リトアニアの方々が書いています。

Dental Implant Placement in Patients on Bisphosphonate Therapy: a Systematic Review
Rokas Gelazius , Lukas Poskevicius , Dalius Sakavicius, Vaidas Grimuta, Gintaras Juodzbalys
J Oral Maxillofac Res. 2018 Sep 30;9(3):e2. doi: 10.5037/jomr.2018.9302.

PMID: 30429962

Abstract

Objectives: The review aims to study dental implant placement purposefulness for patients who have been treated or are on treatment with bisphosphonate medication.

Material and methods: Structured search strategy was applied on electronic databases: MEDLINE, PubMed, PubMed Central and ResearchGate. Scientific publications in English between 2006 and 2017 were identified in accordance with inclusion, exclusion criteria. Publication screening, data extraction, and quality assessment were performed. Outcome measures included implant failure or implant-related osteonecrosis of the jaw.

Results: In total, 32 literature sources were reviewed, and 9 of the most relevant articles that are suitable to the criteria were selected. Heterogeneity between the studies was found and no meta-analysis could be done. Five studies analysed intraoral bisphosphonate medication in relation with implant placement, three studies investigated intravenous bisphosphonate medication in relation with implant placement and one study evaluated both types of medication given in relation with implant placement. Patients with intraoral therapy appeared to have a better implant survival (5 implants failed out of 423) rate at 98.8% vs. patients treated intravenously (6 implants failed out of 68) at 91%; the control group compared with intraoral bisphosphonate group appeared with 97% success implant survival rate (27 implants failed out of 842), showing no significant difference in terms of success in implant placement.

Conclusions: Patients treated with intravenous bisphosphonates seemed to have a higher chance of developing implant-related osteonecrosis of the jaw. The intraorally treated patient group appeared to have more successful results. Implant placement in patients treated intraorally could be considered safe with precautions.

目的:BP製剤を投与中、または以前投与されていた患者へのインプラント治療の意味について検討する事です。

実験方法:MEDLINE、PubMed、PubMed CentralとResearchGateのデータベースを利用した文献検索を行いました。2006年~2017年間にパブリッシュされた英語の文献から採用しました。データの抽出や質の調査を行いました。アウトカムとしてインプラントの失敗、インプラント関連顎骨壊死を設定しました。

結果:32の文献をレビューし、採用基準に適合した9つを選択しました。研究の異質性が認められたため、メタアナリシスは行いませんでした。5つがBP経口投与とインプラント治療について、3つが静脈投与、1つが両投与について検討していました。経口投与でのインプラント治療の成功率は98.8%(423本中5本失敗)で、静脈内投与の91%(68本中6本失敗)よりも優れた成績でした。経口投与群と比較したコントロール群のインプラント生存率は97%(842本中27本)で、統計的有意差を認めませんでした。

結論:静脈内投与の場合、顎骨壊死のリスクが高いようです。経口投与の場合はより高い成功率でした。経口投与患者へのインプラント治療は、注意事項を守れば安全であると考えられます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言の一部

BP製剤は主に高カルシウム血症、骨粗鬆症、Peget病などの骨疾患やがん患者に広く使用されています。2012年には米国だけで約1,470万件の口腔内BP製剤の処方が行われました。BP製剤は患者のQOLを大幅に向上しますが、BRONJが起こるリスクもあります。BRONJリスクを上昇させる因子として、歯周外科、インプラント治療、抜歯、状態の悪い補綴物、顎骨への慢性機械刺激などがあります。さらに全身疾患、他の薬剤、喫煙やアルコール摂取などもBRONJに多大な影響をもたらします。さらに人種的な関連性もあります。BP製剤による治療を受けている患者は、高齢が故に、歯を喪失している人が殆ど、インプラント治療の必要性を認めます。そのため、インプラント治療におけるBP製剤の影響を調査する事にしました。

実験方法

文献検索

2006~2017年にパブリッシュした英語論文
BP製剤投与されている、されていた患者へのインプラント治療を行った後ろ向き、前向き研究
インプラント治療後に最低1年のフォローアップ
MEDLINE、PubMed、PubMed CentralとResearchGateのデータベース

除外:頭頚部への放射線治療の既往、インプラント治療時に炎症または悪性の病理所見、18歳未満または80歳以上、in vitro、システマティックレビュー

抽出データ

経口または静脈投与
投与理由
平均年齢、投与期間
BP治療を受けていないコントロール群のインプラント埋入本数
BP治療を受けている、受けた事がある群のインプラント埋入本数
インプラントの生存率
フォロー期間
パブリッシュされた年

質の審査

The Cochrane Collaboration’s two-part tool for assessing risk of biasを使用

結果

文献の抽出

図1の通り、最初は297の文献を抽出しましたが、全文読むことが来たのが32で最終的に9つが残りました。5つがヒト以外、2つがin vitro、16がシステマティックレビューという理由で除外されました。

文献の質

The Cochrane Collaboration’s two-part tool for assessing risk of biasを用いて文献を評価しています。ランダマイズされた研究モデルについてはThe Cochrane risk of bias toolを用いた評価(表3)、症例報告では、appraisal checklist tool(表4)を用いて評価しています。

ランダマイズされた研究においては、リスクがLowまたはunclearだったものはありませんでした。全ての研究がリスクHighという結果になりました。SiebertらとJeffcoatは7項目中4、5項目がLowだったため、今回の研究で最もリスクが低い研究でした。

症例報告では全ての研究において良好な質でしたが、2つの研究において、「不利なイベントや予期せぬイベントが確認され、記述されていますか?」という1項目において該当なしでした。

結果の合成と統計処理

合成した結果を表5に示します。データに異質性が認められたため、メタアナリシスは行いませんでした。

静脈内投与患者の結果

Ruganiらは、2015年に成功例に関して発表しています。骨粗鬆症で1年以上BP製剤を静脈内投与されている患者へのインプラント治療を行いました。BRONJと診断された場合、投与を中止して、局所炎症治療、壊死部除去、外科的整復、創部閉鎖などを行いました。9か月のフォローで良好な軟組織と壊死部の骨再生が認められました。その後、インプラント治療を計画しました。2本のインプラントを下顎左側第1大臼歯、第2大臼歯部に埋入しました。治癒過程時にも問題なく、16か月後も軟組織、骨に炎症徴候は認められませんでした。

2012年にSverzutらは肺がんで放射線治療、化学療法を1995年に終えた女性患者のケースレポートを発表しました。2003~2009年にBP製剤を月1回静脈投与されてていました。2004年に右下臼歯部にインプラントを埋入されましたが、補綴完了後1.5年後に病的な動揺を認めたため全て(3本)撤去されました。2008年に同じ口腔外科医が同じ患者の左下臼歯部にインプラントを埋入しました。3本のインプラントが埋入された半年後にインプラント関連顎骨壊死と診断されました。

Siebertらによる2015年の研究では、24名の女性患者を2群にわけ、GroupA12名が骨粗鬆症でBP製剤を2~3年間静脈内投与、GroupB12名は骨粗鬆症はなく何も投与されていない群で比較を行っています。両群ともに部分的に歯を欠損しており、状態の悪い歯を抜歯後にインプラントを即時埋入しました。術後6日間、抗菌薬投与(アモキシシリン/クラブラン酸1g 1日2回)を行いました。1年後の生存率は両群共に100%でした。

Lazaroviciらによる2010年の研究では、145人の患者で27名にインプラント関連顎骨壊死が認められました。11名が経口で残り16名が静脈内投与でした。BRONJ徴候が発現する前のBP製剤投与期間は68か月でした。全てのBRONJ患者は抗菌薬による加療をスタートし、長期投与による改善が認められなかった場合、インプラントを除去しました。結局、16名の患者差がインプラントと炎症性の骨を除去して完全回復が認められるまで抗菌薬投与(ドキシサイクリン塩酸塩水和物 100~200mg/day)を継続しました。他の患者はインプラント除去の必要性を認めませんでした。治療後のフォローは3~43か月でした。

経口投与患者の結果

Torresらによる2009年の症例報告では、2003年にPaget病で長期間BP製剤を投与されている64歳女性の口腔内治療を行っています。BPは経口で1996年から週単位で投与されています。上顎左右に計6本のインプラントを埋入しました。10日間の抗菌薬投与(アモキシシリン 750mg/day)を行いました。術後に粘膜、骨に異常を認めなかったため、6か月後にブリッジを装着しました。4年間のフォローアップを行い、インプラントは問題なく機能し、インプラント周囲炎や動揺などは認めませんでした。

Shabestariらは、2010年に21名の患者について発表しています。全ての患者は骨粗鬆症女性で14名がインプラント埋入、組織治癒後にBP製剤を開始、7名はインプラント埋入前からBP製剤を投与されていました。全ての患者はVitaminDとカルシウムを追加されていました。全てのインプラントは粘膜貫通、非負荷による治癒としました。BPスタート時期、補綴物の種類による有意差を認めませんでした。0~36か月のフォローアップ期間でインプラント関連顎骨壊死を認めた患者はいませんでした。

BellとBellは、2008年に42名100本のインプラントに関して発表しています。BPは経口で6か月~11年投与されており、外科処置後も問題なく投与されています。30名がインプラント治療だけではなく、ボーングラフトされています。内訳はソケットリフト41、サイナスリフト10、GTR13,トンネルグラフト1、バッカルカントゥア3です。平均フォローアップ期間は3.1年(3か月~7.5年)で、骨吸収や炎症は認められませんでした。インプラントは5本失敗し、成功率は95%でした(同じ術者が同じ年にBP投与歴がない患者に行った734本の成功率は96.5%)。そのため経口投与されたBP製剤がインプラント失敗の理由ではないと思われます。

Fugazzottoらは2007年に61名の患者について発表しています。平均3.3年(1~5年)経口でBP製剤を投与されていました。169本のインプラントが埋入され、43本が即時埋入でした。96本が12~18か月、73本が19か月~24か月のフォローアップでした。術後1週間で2~3mm骨が露出した1名の患者を除き、全ての患者に骨の露出や炎症、BRONJは確認されませんでした。露出した患者も最小限のデブリードマンにより粘膜で被覆されました。

Jeffcoatは2006年にBP製剤を経口投与されている場合の顎骨採取の効果についてコントールスタディを発表しています。被験者は25名の平均3年間経口でBP製剤を投与されている閉経後の女性です。コントロール群は年齢調整されたBP投与歴のない25名です。102本をBP投与群に、108本をコントロール群に埋入しました。最低年1回の来院によるレントゲン、臨床的な診査を行い、3年フォローアップしたところ、投与群は100%の成功率、コントロール群は99.2%の成功率で、両群間に有意差を認めませんでした。

インプラントの失敗は以下のように考えられます。
インプラントの動揺
抗菌薬投与を行っても治癒しない8週間以上の炎症
骨壊死の徴候、軟組織の非治癒
インプラント周囲の炎症性組織のドレナージ
フォローアップ期間でのインプラント関連顎骨壊死の発現

アウトカム

静脈内投与されている患者へのインプラント治療はわずか14名68本のみでした。BP投与期間は1~6年でした。インプラントの成功率は91%で6年間静脈内投与されていた患者1名の6本のインプラントを除去しました。他の患者は投与期間が短く(12か月~2.5年投与)、全て成功でした。1つの研究のみで検討されたコントロール群12名は100%のインプラント生存率でした。

経口投与の場合、合計150名の患者に423本のインプラントが埋入されましたが、より良い成績が認められました。投与期間は6か月~11年でした。423本中5本が失敗し、生存率は98.8%でした。コントロール群では842本中27本の失敗で成功率は97%で、両群間に有意差は認めませんでした

BP経口投与群は非投与群、静脈内投与群よりもよい成績でしたが、これはあまり信用できません(静脈投与群のインプラント本数がかなり少ないため)。Lazaroviciらは、患者がすでにインプラント関連顎骨壊死を有していたため、全結果から除外したケースシリーズを発表しています。11人の患者が経口、16人の患者が静脈内BP製剤を投与されていました。患者は、インプラントが完全に回復し安定するまで、長期の抗生物質治療を開始しなければならず、治癒が認められない場合は、インプラントを除去する必要がありました。経口では7名(63%)がインプラントの抜去なしで完治しましたが、静脈内投与では5名(31%)しか完治しませんでした。

考察の一部

BP製剤は20年以上一般的に使用されてきました。この薬は、数百万の閉経後の高齢女性の骨粗鬆症進行を安定化させてきました。骨の悪性腫瘍に使用すれば、骨吸収抑制、病的骨折の抑制として作用します。また高カルシウム血症、Paget病にも効果を発揮します。しかし、BP投与中の抜歯や歯周外科、インプラント埋入、その他の外科的な侵襲処置などは、BRONJ発生の可能性があるため、多くの文献で議論され、推奨されないとされています。2003年にMarxが発表した最初のBRONJから現在まで、多くの成功例、治療プロトコル、治療戦略が発表されていますが、このタイプの骨壊死の管理は困難です。

症例報告のレビューによると、適切なプラニング(放射線評価、悪習癖の減少)、患者の診査(病気の種類、投薬期間、BPの種類、既往歴)、臨床的証拠(口腔衛生状態、不適切な修復物、補綴物の除去)などにより、BP製剤投与中の患者でもインプラント治療ができる可能性があります。しかし、静脈内投与されている患者では、経口投与より7倍BRONJが起こるという報告(文献41)もあり、リスク因子は評価されるべきです。RuggieroらはBP製剤静脈投与患者、またはがん治療中の患者へのインプラント治療はさけるべきだと報告しています。

静脈内投与と経口投与では成功率は今回は有意差を認めませんでした。しかし静脈投与は3つの症例報告のみであり、今回の静脈投与群は統計的に信頼性が低いと考えられます。
一方で、経口BPは423本中5本の失敗で、安全性がかなり高いと考えるべきです。BellとBellはBP投与はインプラント失敗の理由にならないかもしれないと述べています。AAOMSは経口BPを3年以上投与されている患者に外科処置を行うとBRONJリスクが上昇すると確認しました(注:これはかなり古い研究で、今のAAOMSのポジションペーパーでは投与期間によるリスク上昇は明確ではないという文章になっています)。しかし、3つの症例報告では、2年以上BP製剤を経口投与している患者では275本中5本しか失敗していません。経口BP投与患者のインプラント治療は安全と考えられます。ただし、術前に良い準備(専門的な口腔衛生管理、必要なら休薬、抗菌的なマウスリンス)と適切な投薬(抗菌薬投与)、フォローアップ(最低でも1年に1回の再評価)が成功のためには必要です。

静脈内投与患者へのインプラント治療はさらなる研究が必要で、かなり信頼性が劣ります。一方、BRONJ治療の成功例を紹介した論文も多数あり、いくつかのアプローチは、インプラント埋入時の一次創傷閉鎖に役立つと考えられます。例えば、多血小板血漿は創傷の閉鎖と治癒の改善を示しました。PRFも創傷治癒の改善と治癒遅延の徴候減少が報告されています。PRGFも良い結果を示しました。

予防、診断戦略として重要なのはインプラント関連顎骨壊死を避けることです。骨代謝マーカーであるCTX値が150pg/mL以上であれば、顎骨壊死のリスクが下がるという報告があります。予防戦略において、Tardastらは、すでに発達したBRONJを有する患者は副腎皮質ホルモンを投与されており、治癒率が低い事を発見しました。

術後ケアは重要です。Freibergerらは高気圧酸素治療により組織治癒率が向上したと報告しています。結論として、インプラントのプロトコールだけでなく、術後および術前の優れた方法によるインプラント手術の計画が重要です。より複雑な治療法であれば、より優れた満足のいく結果を得ることができるかもしれません。

(注:血小板因子、高圧酸素などはAAOMSのポジションペーパーにおいてはまだエビデンス不足で結論が出ないという感じです)。

結論

静脈内投与患者へのインプラント治療に関する論文は限られており、エビデンスが不足しています。バイアスリスクも高く、ランダム化比較試験が必要です。

静脈内投与患者はインプラント関連顎骨壊死を起こす可能性が高いかもしれません。経口投与患者へのインプラント治療は術前術後によいケアができるなら安全と考えられます。経口投与期間はインプラントの生存率、顎骨壊死に影響を与えませんでした。静脈内投与期間に関してはエビデンスが不足しています。

まとめ

今回のレビューでは、経口BPの服用はインプラント治療のリスクにはあまりならないが、術前術後の管理はしっかりしないと駄目だよ!というものでした。

前回読んだレビューでも

良性骨疾患(骨粗鬆症など)での再生療法、インプラント治療による顎骨壊死リスクはかなり低いが、0ではないので過小評価するべきではありません。

とういう文章があり、骨粗鬆症患者で低用量のBPを経口で服用している場合、外科的な侵襲によるMRONJリスクは低いと言えそうです。

なお、今回のレビューで使用された論文の原文を当たっていないため明確ではないですが、抗RANKL抗体は含まれていないと思います。

参考

この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© 5代目歯科医師の日常? , 2022 All Rights Reserved.