普通の歯科医師なのか違うのか

MRONJとインプラント治療vol.1

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

ONJシリーズインプラント編第1弾

Twitterで骨吸収抑制薬投与がインプラント治療に影響を与えるかについて話題になっていました。自分もポジションペーパーを読んだだけで実際の論文に触れていませんでしたので、何本か読もうと思い立ちました。ただし、多くがシステマティックレビューなので読むのに時間がかかりそうです。
ポジションペーパーでは影響があった、なかった、両方の論文が引用されています。片方だけ読むのはフェアではないので両方読んでいく予定です。

今回はポジションペーパーには「影響がある」側とされている論文です。2019年スペインとなります。ダウンロードフリーです。

Medication-related osteonecrosis of the jaw associated with implant and regenerative treatments: Systematic review
A Granate-Marques , C Polis-Yanes, M Seminario-Amez, E Jané-Salas, J López-López
Med Oral Patol Oral Cir Buca. 2019 Mar 1;24(2):e195-e203. doi: 10.4317/medoral.22691.

PMID:30818312

Abstract

Background: The aim of this study was to determine if the treatment with bisphosphonates other anti-resorptive and antiangiogenic agents influences the success of regenerative and / or implant treatments.

Material and methods: We reviewed the literature from the last 5 years in the PubMed database, using the following words: “Sinus Floor Augmentation”[Mesh] OR “Dental Implants”[Mesh]) OR “Guided Tissue Regeneration”[Mesh]) AND “Osteonecrosis”[Mesh]. The articles were selected following the inclusion and exclusion criteria and were evaluated using the 22 items of the STROBE declaration. The following PICO clinical question was applied: Does the treatment with agents associated with drug osteonecrosis influence the success of regenerative and implant treatments?

Results: The initial search resulted in a total of 27 articles. After eliminating those that did not refer to the topic, were duplicated or did not meet the inclusion / exclusion criteria, a full reading of the articles was made evaluating their methodological quality, obtaining six studies with high methodological quality and two with moderate.

Conclusions: The literature regarding this topic is scarce, randomized clinical trials would be necessary to establish protocols relative to implant treatment in patients on antiresorptive treatments. The risk of developing an osteonecrosis associated with the regeneration / implant placement in patients with benign bone diseases is scarce, but it exists and it should not be underestimated. Especially, in the posterior areas of the jaw, if the duration of treatment with BP is greater than 3 years, and if the patient is under therapy with systemic corticosteroids.

背景:本研究の目的はBP、他の骨吸収抑制薬、血管新生抑制薬による治療が、インプラントまたは歯周再生療法の成功に影響するかどうかを決定する事です。

実験方法:PubMedを使用して過去5年間の文献をレビューしました。上顎洞底挙上またはデンタルインプラントまたはGTR、と骨壊死を組み合わせた検索を行いました。STROBE声明の22の項目を使用して文献を選択しました。PICOに基づくクリニカルクエスチョンは「顎骨壊死関連薬剤は歯周再生療法、インプラント治療に影響を与えるか」です。

結果:最初の検索では27の文献が抽出され、最終的に6つが高い質、2つが中程度の文献文献として抽出されました。

結論:今回のトピックに関連した文献は乏しく、骨吸収抑制療法をうけている患者のインプラント治療に関するプロトコルを制作するためにはRCTが必要と考えられました。良性骨疾患を有する歯周再生療法、インプラント治療に関連した骨壊死のリスクは低いですが、0ではないので過小評価してはいけません。特に臼歯部では、3年以上のBP投与期間がある場合、副腎皮質ホルモンの投与がある場合には注意が必要です。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言の一部

BRONJは放射線療法の既往なしで6-8週以上状態が持続する必要があり、痛み、歯の動揺、口臭、感覚異常、腐骨、口腔内外への瘻孔が伴う可能性があります。
BP製剤は骨粗鬆症、骨形成不全、Paget病などの良性の骨疾患において骨のリモデリングサイクルを改変するためによく使用されます。また、多発性骨髄腫などの特定の悪性新生物の骨活動、肺がんなどの原発巣からの骨転移を抑制、コントロールするためにも用いられます。作用機序に応じて第1世代(エチドロン酸、クロドロン酸、チルドロン酸)と第2、3世代(アレドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、パミドロン酸、ゾレドロン酸)に分類されます。経口と注射の2つの投与経路があります。

経口BP製剤は吸収率が低く、半減期が30~120分と非常に短いという特徴があり、20~80%が骨に沈着します。しかし、静脈内投与は高い生物学的利用率を有し、一度骨内に吸収されると代謝排泄されるのに10年以上かかります。BRONJアドバイザリータスクフォースによると、世界中で1億9000万人がBP製剤を投与されました。これらの薬剤は食道潰瘍、非定型の大腿骨骨折、心房細動、顎骨壊死などの副作用を有しています。BP製剤以外の薬が最近骨粗鬆症や骨転移に用いられるようになってきました。いわゆる抗RANKL抗体ですが、これも同様の副作用をもっています。抗RANKL抗体の1つであるデノスマブは破骨細胞の機能を抑制し、骨吸収を減少させ骨密度を向上させます。血管新生抑制薬であるベバシズマブ(アバスチン)とスニチニブ(スーテント)は腫瘍患者によく使われ、MRONJの病因と考えられています。

Ruggieroらは、AAOMSによる論文中において、骨転移による高用量BP服用患者の顎骨壊死が起こる可能性は比較的高く、1~10%程度であるのに対し、骨粗鬆症でBPを服用している患者の顎骨壊死が起こる頻度はかなり低く、1人/10000~100000人/年と報告しています。

リスクファクターは大きく2つに分けることができます。局所因子として抜歯や歯周外科などの外科処置と歯周病、カリエス、膿瘍などの口腔内疾患があります。もう1つは全身的な因子で、高齢、喫煙、副腎皮質ホルモン療法、貧血や糖尿病などの基礎疾患があります。AAOMSによると骨吸収抑制療法を行っている患者におけるインプラント治療や歯内、歯周外科処置による顎骨壊死のリスクはよく分かっていません。文献によればBPが静脈投与されている患者のインプラント治療は避けるべき、経口BPが3年未満の場合はインプラント治療が安全に行う事ができる、と報告されています。しかし、即時、または遅延して顎骨壊死が起こる可能性は常に存在しています。多くの著者は患者の状態と骨吸収抑制薬の投与期間と顎骨壊死のリスクは関連することに同意しますが、インプラント後の顎骨壊死のケースは増えています。本研究の目的は、インプラント治療前または後に骨吸収抑制療法を行ったケースの予後を調査することです。インプラント治療に併せて骨の再生療法を行った場合も行わなかった場合もあります。結果としてインプラントのロス、再生療法の失敗、顎骨壊死の発生が認められました。

実験方法

PubMedで過去5年検索

検索キーワード:((上顎洞底挙上orデンタルインプラント)or GTR) and 顎骨壊死

文献の種類:後ろ向き、前向き観察研究、ケースシリーズを含む
言語:英語、スペイン語、ポルトガル語
対象:ヒトのみ

2名が独立して検索→他の1名がそれを比較評価→他の著者が最終候補をチェック

8つの文献がSTORE声明の22項目を使って評価されました。15以上項目が該当する場合、質が高く、8~14項目が該当する場合、中程度の質と判断

PICOに基づくクリニカルクエスチョンは「顎骨壊死関連薬剤は歯周再生療法、インプラント治療に影響を与えるか」

結果

最初の検索で27の文献を抽出しましたが、19の文献が除外され、8つの文献が残りました。その後、文献の質を検討し、6つが質が高く、2つが中等度となりました。6つが観察、後ろ向き臨床ケースシリーズで1つが観察、前向き臨床ケースシリーズ、1つが前向きコホート研究でした。

8つの論文の質に関する検討を表2に示します。

集めた文献から135名の患者サンプルを得ました。女性が81名と多く、年齢は42~79歳でした。Matsuoらの報告を除いて骨粗鬆症のために経口でBPが投与されているのがメインでした。82名の患者はインプラントに関連した顎骨壊死を発症しました。臼歯部が多く、上顎22名、下顎33名でした。40名の患者が静脈投与(平均投与期間44か月)、42名が経口投与(平均投与期間56か月)でした。今回レビューした文献で再生療法を扱っていたのは1つのみでした。

考察の一部

本研究において、静脈内投与で最も使用されていたのはゾレドロン酸(日本での商品名はゾメタまたはリクラスト)、経口投与ではアレンドロン酸(日本ではボナロン、フォサマック)でした。KwonらとLopez-Cedrunらはインプラント埋入による顎骨壊死を起こした患者の多くはアレンドロン酸を経口投与されていたと報告しています。Holzingerらはインプラント埋入時期と顎骨壊死発生時期を検討し、BP製剤が開始されてからのインプラト治療は顎骨壊死を加速すると報告しています。また、Giovanncciらは顎骨壊死を起こすまでのBP投与期間は経口の方が静脈投与より長かったと報告しています。Jacobsenらも骨粗鬆症患者への静脈投与では38か月、経口では50か月であったと報告しています。一方で、Lopez-CedrunらとGiovanncciらは5,6年ともっと長い期間を報告しています。

Matsuoらの報告はがん患者への静脈投与について研究した唯一の論文です。加えて、インプラント治療を行った後にBP投与した患者を唯一調査しています。彼らの結論として、毎月投与と6か月毎投与では原疾患と投与量が根本的に違うのだから、顎骨壊死のリスクをわけて考える必要があるというものでした。

何人かの著者はインプラントによる外科処置だけではなく、インプラントが存在すること自体が顎骨壊死と関連するかもしれないと報告しています。殆どの論文では、インプラント埋入後すぐ(2~10か月)に起こった顎骨壊死をインプラント手術誘因、1年以上経過してから起こったものをインプラント存在誘因として分類しています。Giovanncciらは15名のインプラント周囲が顎骨壊死した症例を検討し、9名がインプラント埋入後1~15年間良好にインテグレーションしていた症例に顎骨壊死が起こったと報告しています。Knowらは19名の顎骨壊死患者を検討し、3名がインプラント埋入後6か月以内の顎骨壊死、5名はインプラント植立と骨のデブリードメンによるトラウマに関連した顎骨壊死だったが、11名は外科的な処置と無関係だったと報告しています。Lopez-Cedrunらは9名の顎骨壊死患者のうち、4名がインプラント手術後1~12か月の早期型、5名が術後18~96か月の遅延型だったと報告しています。

インプラントに関連した顎骨壊死は臼歯部に遅延型として起こりやすいという報告があります。Jacobsenらの報告では、12名中9名で下顎、もしくは上顎臼歯部にインプラントの失敗を認めました。顎骨壊死の病因は未だ不明ですが、Jacobsenらは12名から採取した壊死骨を組織学的に検討し、アクチノマイセスが7名から検出されたと報告しています。これは感染と骨壊死の過程を関連づけるものです。また、全身的な抗菌薬治療を開始すると、すべての患者で不快感や知覚低下などの他の症状は消失しました。

Kwonらは、BP投与されている患者の既にインテグレートしているインプラント周囲に起こる顎骨壊死リスクの増加は、負荷がかかるインプラント周囲の骨は継続的なリモデリングが必要と考えられるため、骨リモデリング抑制により説明出来るかもしれないと述べています。Tamらはインプラント手術によるトラウマがインプラント表面へのBP製剤の術後集積を刺激する可能性を示唆しました。

DM、副腎皮質ホルモン療法、喫煙などは顎骨壊死を惹起する因子として認識されています。しかし、文献においてデータの同質性はありません。Giovanncciらは副腎皮質ホルモンを投与されている患者は顎骨壊死のリスクが高く、特にがん患者では高いと報告しています。Matsuoらは、今回のコホート研究と同じ被験者を使用した以前の研究で、顎骨壊死と全身要因の間に有意な相関を認めました。しかし、口腔衛生状態やインプラント周囲炎などの口腔感染症なども有意な相関を認めています。

Kwonらは、インプラント周囲の顎骨壊死を3タイプに分類しました。frozen type:歯槽骨に近接した豊富な壊死骨(軟組織の炎症所見よりも明確な壊死領域)、osteolytic:腐骨形成によらない広範囲の骨溶解(軟組織の炎症所見が明確化し、骨髄炎に類似した壊死骨)、block type:インプラント周囲のブロック状の腐骨(インプラントと骨のインテグレーションは維持)。block typeを示した6名は壊死骨とインプラント表面とのインテグレーションは維持された状態で腐骨化を示しました。これはインプラント周囲炎で破壊された骨とは異なる所見です。この所見はインプラント関連顎骨壊死の特徴の1つかもしれません。
Jacobsenらの報告のように、いくつかの報告では細菌、特にアクチノマイセスを壊死骨中から確認され、このこととインプラントの遅延型骨壊死との関連から、Holzingerらを含む一部の著者は、骨壊死の危険因子としてインプラント周囲炎の可能性を考えていることは注目されるところです。しかし、彼らはRCTと縦断研究がこの関係を証明するためには必要と結論づけました。MRONJに関する理論、様々な著者が提案していますが、を表3に要約します。

MatsuoらはBP静注投与しているがん患者では、化学療法によりADLが低下し、結果的に口腔衛生状態が悪化する事が、インプラント関連顎骨壊死の主たる要因の1つであると認識しました。

今回の研究での顎骨壊死の多くはステージ2,3で、疼痛が主な症状でした。疼痛は時に感染、例えば腫脹や排膿のサインとなります。全ての研究が、骨壊死をAAOMSが提唱するステージに分類しているわけではないことは言及に値します。ステージ1は通常無症状であることを考えると、いくつかの骨壊死は過小診断されていると推定されます。
Khouryらは15名のBP投与患者で下顎骨のブロック骨を移植してインプラント治療を行い良好な結果を得ています。全体的な結果はBP投薬無しとほぼ同等でした。ただし、著者らは患者を治療するにあたってハイリスクな患者は再生療法を拒否しています。
研究デザインの限界の一つとしてこの要因を挙げているHolzingerらの論文を除いて、どの論文も補綴物の質に関して言及した報告はありませんでした。

今回の文献のコンセンサスとして、BP静脈投与されているがん患者へのインプラント埋入は禁忌で、BP経口投与されている骨粗鬆症患者へのインプラント治療は、術前に個人のリスク調査をしっかり行えば、全体的に好ましい意見でした。個人のリスクは原疾患、骨吸収抑制療法(薬剤、期間、頻度)、併用療法とDMなどのインプラント治療のリスクになる他の疾患などがあります。その他のリスクとして喫煙、年齢、慢性的な運動不足、肥満、女性、汚染された口腔などが含まれます。BP投与されておりインプラント治療を受ける患者だけでなく、すでにインプラントがインテグレーションしており、今から骨吸収抑制療法を始めおいてもおいても顎骨壊死の潜在的なリスクを説明することは必要です。

結論として
1)このトピックに関する論文はかなり少なくケースレポート、ケースシリーズなどが主で後は後ろ向き研究でした。RCTが必要です。
2)良性骨疾患(骨粗鬆症など)での再生療法、インプラント治療による顎骨壊死リスクはかなり低いが、0ではないので過小評価するべきではありません。特に何名かの著者によると臼歯部でBP投与期間が3年以上、副腎皮質ホルモン投与されている場合には注意が必要です。
3)インプラント周囲炎または顎骨壊死によるインプラント失敗は同じ様な臨床所見を示します。しかし、MRONJの特徴的症状としてブロック状の腐骨化が認められ、失敗の原因として正しい診断をする一助になります。
4)テンションがキツすぎない創部の閉鎖を伴う厳格な外科プロトコルが顎骨壊死のリスクを低下させます。外科処置後に定期的なチェックに来院することも重要です。
5)この論文を書くまでには抗RANKL抗体と血管新生抑制薬を投与されている患者の治療に関する包括的な基準を満たす論文はありませんでした。そのため現時点では、これらの患者さんに対しても、BPを使用している患者さんと同様に対応することを推奨します。特に、これらの患者さんの多くは、主にデノスマブを使用しており、以前に良性の骨病変を制御するためにビスフォスフォネートを使用して治療を受けていたいたと考えられます。
6)処方する専門医は、そのリスクを認識し、治療開始前に歯科医に紹介して評価を受けることで、患者の骨調整療法に応じた最適なリハビリテーション治療を提供する機会を得るとともに、既にオッセオインテグレーションされたインプラントの場合には、MRONJのリスクについて警告し説明しなければなりません(表4)。

まとめ

表4をみるかぎり、今回抽出された論文はMRONJが発生したケースの論文が殆どで、被験者のほぼ全部がMRONJとなっています。ケースコントロールがないので、BP投与とインプラント治療がMRONJと関連するという意見に偏るのはやむを得ないのではないかと考えます。論文8本で患者数も100名ちょっとですから、これだけで結論づけるのは難しいでしょう。

良性骨疾患(骨粗鬆症など)での再生療法、インプラント治療による顎骨壊死リスクはかなり低いが、0ではないので過小評価するべきではありません。

という文章から、骨粗鬆症で骨吸収抑制療法を行っている場合のインプラント治療は禁忌ではないです。ただし、インプラントの手術以外にインプラント自体が顎骨壊死のリスクになる可能性もあるため、個人のリスクをしっかり判断する必要があるのは間違いありません。

参考

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

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