普通の歯科医師なのか違うのか

COVID-19関連の顎骨壊死が起こりうる?

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

顎骨壊死は色々な原因で起こり得るが、これは本当??

今回は勉強会中に指摘されていたCOVID-19関連の顎骨壊死の論文を読んでみることにしました。
MRONJのポジションペーパーでも顎骨壊死は色々な原因で起こりうる事が示唆されていました。免疫不全とかそういうものでも低確率ですが、起こりうると考えるとありえない話ではないですし、ステロイド使用も言及されています。COVID-19では症状が重いとステロイドを使用しますが、そこまで長期間というわけでもないですよね。本当にCOVID-19と顎骨壊死が関連するのかな?というのが読む前の実感です。

Post-COVID-19 related osteonecrosis of the jaw (PC-RONJ): an alarming morbidity in COVID-19 surviving patients
Haytham Al-Mahalawy , Yehia El-Mahallawy , Noha Y Dessoky , Sally Ibrahim , Hatem Amer , Haytham Mohamed Ayad, Hagar Mahmoud El Sherif , Alshaimaa Ahmed Shabaan 
BMC Infect Dis. 2022 Jun 14;22(1):544.

PMID: 35701730

Abstract

Purpose: The recent coronavirus disease (COVID-19) pandemic mainly affects the respiratory system; however, several oral and maxillofacial post-COVID-19 complications have also been observed. This series reports the growing number of osteonecrosis cases associated with post-COVID-19 patients.

Materials and methods: This is a retrospective, multi-center case series that reports cases with maxillary osteonecrosis after various periods of SARS-CoV-2 infection in the period between January and August 2021 based on the PROCESS guidelines.

Results: Twelve cases were reported with post-COVID-19 manifestation of spontaneous osteonecrosis of the maxillary jaw. Five patients were hospitalized during COVID-19 management and all of the twelve cases had at least one systematic Co-morbidity, and undertake corticosteroids prescription based on the COVID-19 disease treatment protocol. The mean onset of osteonecrosis symptoms appearance was 5.5 ± 2.43 weeks calculated from the day of the negative PCR test. The management was successfully done through surgical debridement and pre and post-operative antibiotics. No anti-fungal medications were prescribed as the fungal culture and the histopathological report were negative.

Conclusion: Post-COVID-related osteonecrosis of the jaw (PC-RONJ) could be now considered as one of the potential post-COVID-19 oral and maxillofacial complications that occurs unprovokedly and mainly in the maxilla.

目的:最近のCOVID-19パンデミックは主に呼吸器系に影響を与えます。しかし、口腔内、顎顔面領域においてCOVID-19罹患後の問題も認められます。このシリーズははCOVID-19罹患後の患者に関連した顎骨壊死の数の増加を報告します。

方法:2021年1月から8月の間にSARS-CoV2に感染した後の上顎骨壊死に関する後ろ向き、マルチセンターリサーチです。

結果:COVID-19罹患後に自然に起こった上顎骨壊死が12ケース報告されました。5ケースはCOVID-19管理のために入院していました。12ケース全てで、1つ以上の全身疾患を有しており、ステロイドを投薬されていました。PCR陰性となった日から平均5.5±2.43週で骨壊死の徴候が発生しました。外科的なデブリードマンと術前術後の抗菌薬投与により骨壊死の管理は成功しました。真菌培養と病理組織のレポートが陰性であったため、抗真菌薬は処方されませんでした。

結論:COVID-19罹患関連顎骨壊死(PC-RONJ)は、主に上顎に突発的に発生するCOVID-19罹患後の口腔内や顎顔面に起こる可能性のあるものの1つであると考えられます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

背景

COVID-19に罹患しても多くの患者は回復しますが、後遺症が残る可能性があることは憶えておく必要があります。顎顔面領域における後遺症として無血管性顎骨壊死(AVN)があり、なってしまうと予後が悪く、組織を大きく欠損することになるかもしれません。

SARS-CoV2のウイルス感染はACE2レセプターを標的とした時点から始まります。ACE2レセプターは肺以外にも口腔や鼻腔粘膜などにも存在しています。
ACE-2のダウンレギュレーションと細胞膜上のパターン認識受容体(PPP)によるSARS-CoV2スパイク糖タンパク質の認識は、自然免疫系の活性化とウイルスの侵入点での局所炎症を引き起こし、最終的に炎症性サイトカインストームが発生することになります。
さらに、ACE2レセプターのダウンレギュレーションは内皮の機能不全を招き、ウイルス誘因の炎症と共に、さらに内皮の機能不全と内皮炎を促進します。続いて、ウイルスが侵入した箇所だけではなく、その他の組織でも微小循環の機能不全を起こします。この流れは、SARS-CoV2が血栓症と炎症の間のユニークなメカニズムと相互作用を通じて、凝固亢進状態を促進することを実証しています。

口腔粘膜のSARS-CoV2感染に対する直接的な脆弱性が、COVID-19に関連する口腔の徴候を導くという仮説があります。これらの徴候は、口腔粘膜上皮細胞における高いACE2発現の結果と報告されています。今回のケースシリーズの目的は、COVID-19後の患者に関連した、主に上顎の骨壊死ケースの数の増加を報告する事です。

患者と方法

デザイン

後ろ向き、1つの国でのマルチセンターリサーチ

患者

2021年の1~8月に口腔内の痛みで口腔外科、または顎顔面外科に相談に訪れた患者
全ての患者はPCRにてSARS-CoV2感染を確認済み

方法

SARS-CoV2感染から口腔、顎顔面に異常を発生するまでの期間、ステロイド投与などのCOVID-19感染管理の方法、患者の病歴を採取
主訴、感染を特定するための詳細な診査、確認のためのCT検査
COVID-19感染後のあらゆる刺激(最近の歯科治療、外傷、義歯装着など)
粘膜上を綿棒で擦って標本を採取、顕微鏡と細菌、真菌培養検査

外科処置

全身疾患の管理は外科的な処置を行う前から開始。
患者全員、入院、全身麻酔下で外科的なデブリードマンを実施
壊死骨と正常骨の境界を同定し、壊死骨を除去してデブリードマン。骨の鋭縁等は整形
削除した壊死骨は病理組織検査
術後最低3週間抗菌薬投与

実際行われた治療(図1)

結果

今回の患者12名の情報は表1の通りです。平均年齢は56.1±9.65歳(37-68歳)で、7名が女性でした。SARS-CoV2感染で時の管理でICUに入院した患者はおらず、入院した5名にデキサメタゾンを24時間6mg注射10日間、家で隔離された7名にデキサメタゾン6mg内服を10日間行われています。頭頚部への放射線治療、骨吸収抑制薬、血管新生抑制薬などの経歴を持つ患者はいませんでした。

全ての症例で、COVID-19からの回復後、様々な期間を経て自然発生的な上顎骨壊死を認めました。顎骨壊死の平均発症期間はPCR陰性になってから5.5±2.43週(3~12)でした。全ての患者において骨壊死を加速させるようなイベントや発生を刺激する要因などはありませんでした。

臨床所見として、上顎の歯槽骨の可動性を認めたのが9名、排膿路を認めたのが8名、口蓋部の腫脹が3名、口腔粘膜に潰瘍と壊死骨の露出を認めたのが4名でした。真菌培養と顕微鏡検査では、全てのケースで陰性で、真菌の増殖などはなかったことが示唆されました。全てのケースで細菌培養からは細菌が検出されました。グラム陰性のアンピシリン、サルバクタム耐性菌が9名から検出されました。残り3名からはエンテロコッカス、ナイセリア、スタフィロコッカスなどが検出されました。

術後は最低3週間は抗菌薬投与を行いました。フォローはCRPが正常値になるまで行い、最短で2か月後でした。

病理組織検査では、HE染色した標本では骨梁に多数の壊死片と骨細胞の欠落を認めました。骨髄にはリンパ球、貪食細胞、形質細胞、破骨性巨細胞などを主体とした炎症性細胞の強い浸潤が認めました。PAS染色では真菌の浸潤を認めませんでした。

考察の一部

多数の要因がCOVID-19感染後の顎骨壊死発生に関与している可能性があります。第一にウイルスそれ自体です。ウイルスはACE2をダウンレギュレーションして炎症状態を引き起こします。サイトカインが上昇して免疫が調節不全に陥ります。さらに微小血管の血栓や凝固促進状態が起こります。第二にサイトカインストームなどの管理に用いられる薬剤です。ステロイドやヒトモノクローナル抗体であるトシリズマブなどのバイオロジクスなどです。第三に二次的な細菌または真菌感染などの共感染です。第四にはDMなどの併存疾患です。これら全ての要因が独立、または相互作用的に顎骨壊死の発生に関連します(図4)。

DaltroらはCOVID-19と骨壊死の関係について調査したレビューで、11の論文がCOVID-19と骨壊死および副腎皮質ホルモンの使用に関連していたことから、COVID-19患者での無血管性骨壊死に対するステロイドリスクに十分な証拠があると結論付けています。軽症から中等症の症例において、科学的裏付けなくステロイドを一般的に使用するのは正当化されません。ステロイドの使用は重症例または急性呼吸器徴候があるケースに限定するべきです。

いくつかの論文では、DMを有するCOVID-19患者と顎骨またはそれ以外の骨で骨壊死に関連が認められたと報告しています。微小循環の血行障害がDMの特徴としてよく言われますが、これは骨への栄養不足を引き起こします。血糖値の上昇は直接的に白血球の走化性や貪食作用に影響し、その結果、ウイルスの結合親和性を向上させ、ウイルスクリアランスを低下させます。

興味深いことに、今回の全症例が上顎に限定して骨壊死が認められました。鼻粘膜と上顎洞が近接が寄与しているかもしれません。ACE2レセプターが鼻粘膜と口腔粘膜上皮に高い発現を認めるのも血液供給の減少に対するリスクファクターとして作用しているかもしれません。SARS-CoV-2は呼吸器感染症であるため、副鼻腔炎からの骨髄炎がこの攻撃的な症状の起点になると推測されています。

あくまで後ろ向きの観察研究で限られたサンプルサイズです。顎骨壊死の正確な発生機序や、ステロイド治療や患者の合併症の影響を受けずに、ウイルスが寄与する効果だけで病的な血管壊死を引き起こすことができるかどうかは、今後の研究課題です。また、上顎の硬・軟組織への血液供給量の減少については、本研究では評価していません。骨壊死が疑われる患者に対して、上顎硬・軟組織の血管系を評価し、骨壊死を早期に発見するための予防的アプロー チを提示することが必要です。

まとめ

元々顎骨壊死の徴候があった患者がCOVID-19の感染や治療を契機に顎骨壊死が顕著になっただけじゃないの?という読む前の思いは色々と打ち壊されました。しかも顎骨だけじゃなくて、他部位にも起こり得るわけです。これはちゃんと科学的に検討していく必要がありますね。

今回の12例では全ての人に基礎疾患がありますが、全員に共通しているのはDMです。さらにステロイドも入ってます。ただし、ICUに入るまではいかなかったということなので、中等症IIぐらいのイメージなんでしょうか?

症例写真をみている限り、歯が欠損したり虫歯のまま放置したりしている人が多いみたいなので、元々口腔内にリスクがある人と、そうではない人でどこまでリスクに差があるかは知りたい所です。また、これは実際どれぐらいの確率で起こるものなのかですよね。かなり低確率ではないかと思いますが、DM+ステロイド使用するぐらいの重症度なら確率大幅アップとか考えられそうです。

また、当然ですがワクチン接種の有効性についても検討してもらいたいところです。今回の人達はどうだったんでしょうか?

気になる参考文献

Boymuradov S, Rustamova DA, Bobamuratova DT, Kurbanov YX, Karimberdiyev BI, et al. Complications of COVID-19 in the maxillo-facial region: Clinical case and review of the literature. Adv in Oral and Maxillofac Surg. 2021;3: 100091.

Daltro G, Silva ICF, Daltro PB, Silva ICF, Botelho VL. SARS-CoV-2/COVID-19 and its implications in the development of osteonecrosis. J Regen Biol Med. 2020;2:1–19. https:// doi. org/ 10. 37191/ Mapsci-​2582-​385X-​2(4)-​035.

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