普通の歯科医師なのか違うのか

根管処置で象牙質は劣化する

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

神経をとると歯質が弱くなるというのは、よく知られており、患者さんに説明する事も多いのですが、実は根管処置が本当に歯質を脆弱化するか、というのはあまりエビデンスとして確かではなかったようです。以前、「失活歯は最大咬合力が生活歯よりも大きくなる」という論文を読みました。これは失活歯が破折する原因の1つとして、歯髄の中にあるだろう圧受容器を喪失することにより、咬合力が失活歯に大きくかかるせい、というものでした。神経をとっても歯質は弱くなるのか、ならないのか?というのは気になる所です。今回はアメリカからの2019年の論文です。

Contribution of Root Canal Treatment to the Fracture Resistance of Dentin
Weishi Yan , Carolina Montoya , Marit Øilo , Alex Ossa , Avina Paranjpe , Hai Zhang , Dwayne D Arola 
J Endod. 2019 Feb;45(2):189-193. doi: 10.1016/j.joen.2018.10.004.

PMID: 30711176

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30711176/

Abstract

Introduction: Although the strength and toughness of dentin decrease with age, no study has explored if restorative treatments are a contributing factor.

Methods: Multiple extracted teeth were obtained from randomly selected donors and categorized according to donor age and prior root canal treatment. The microstructure and chemical composition of radicular dentin were evaluated using scanning electron microscopy and Raman spectroscopy, respectively, and the strength was evaluated in 4-point flexure to failure. Data were compared using the Student t test.

Results: Dentin from the root canal-restored teeth exhibited significantly lower strength (P < .05) than tissue from age- and donor-matched unrestored tooth pairs. Although there was no significant difference in the mineral-to-collagen ratio between the 2 groups, dentin obtained from the root canal-treated teeth exhibited more extensive collagen cross-linking and lower tubule occlusion ratios than the unrestored tooth pairs.

Conclusions: There is a decrease in the strength of radicular dentin with aging, but prior root canal treatment increases the extent of degradation.

緒言:加齢に伴い象牙質の強度と耐久性は低下しますが、修復処置が寄与因子であるかどうかを検討した研究はありません。

方法:ランダムに選択したドナーから抜歯した歯を入手し、ドナーの年齢と根管治療の有無により分類しました。歯根象牙質の微細構造と化学的組成について、電子顕微鏡とラマン分光法を用いて評価しました。また、強度については4点曲げ試験で評価しました。データはt検定で評価しました。

結果:根管処置歯の象牙質は、年齢、ドナーをマッチさせた根管処置を行っていない歯と比較して有意に強度が低い結果となりました。ミネラルーコラーゲン比は両群で有意差を認めなかったものの、根管処置歯から得られた象牙質は、根管未処置歯と比較して、より広範囲なコラーゲンの架橋構造と、低い象牙細管の閉塞率が観察されました。

結論:歯根象牙質の強度は加齢により減少します、しかし、根管処置は象牙質を劣化させます。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください

緒言

高齢者の歯列において、歯科専門職は新たな問題に直面します。高頻度におこる問題の1つが歯根破折です。加齢による歯の有害な物性変化は特に象牙質で起こります。

象牙細管の内腔径は、加齢によるミネラルの集積により段階的に減少します。結果として、組織は半透明化し、硬化象牙質として一般的に知られる状態になります。この微細構造の変化は、破折に対する抵抗力の低下を伴います。加齢による劣化は歯冠部、歯根部両方で顕著です。しかし、修復処置をされた歯では、加齢による劣化がより顕著なのではないか、ということを検討した論文はありません。

垂直性の歯根破折(VRF)は、歯の破折で最も一般的なものであり、根尖部にクラックが発生し、咬合ー歯頸部へと延長していきます。VRFと診断された患者はしばしば不快さを経験しますが、一貫した徴候や症状がなく、診断が困難です。VRFの修復で普遍的な方法は存在せず、抜歯に至ることがしばしばです。一番重要なのは、VRFは高齢者によく見られるということです。

根管治療を行った歯は、行っていない歯よりもVRFになりやすいです。治療後の生存率は当初は高いですが、破折リスクは時間とともに上昇します。破折の主なリスクは、歯の構造物の喪失によるストレスの増加に起因しています(文献19)。治療自体にも懸念があります。インスツルメンテーションで、歯の破折の原因となるような実質欠損を起こすわけではないですが、ロータリー、レシプロケーティングを行うインスツルメントは、根管充填時およびその後の機能時に機械的サイクルを受ける歯質の欠損を引き起こす可能性があります。ただし、これが破折に繋がるかどうかは明確ではありません。

根管処置後の劣化も可能性があります。Carterらは、生活歯と根管処置歯では象牙質の剪断強さと靭性が有意に異なると報告しています。しかし、Cheronらは、根尖象牙質の弾性率と硬さは、根管処置前後で変化しなかったと報告しています。同様に、Missauらは根管処置歯と未処置歯で同じ疲労強度であったと報告しています。

本研究では、選択したドナーから得た複数歯の化学的な組成、微細構造、強度を、ドナーの年齢と根管処置の有無により比較しました。仮説は、修復歯と未修復歯で破折強度は変わらない、としました。

実験方法

55本の人間の歯を得ました。虫歯または病変、実質欠損、修復の有無などの検査を行いました。虫歯や実質欠損のある歯は除外しました。1人のドナーから6~13本の歯を入手しました(図1A)。ドナーのうち5名が根管処置値を有していました。歯は即座にHank’s平衡塩溶液(HBSS)に保管し、歯の位置、ドナーの年齢、性別を記録しました。

選択された歯をポリエステル樹脂の土台に植立し、低速ダイヤモンドディスクを用い、注水下で近遠心方向で分割しました。各歯の片側半分を、確立された方法に従ってさらに切削し、頬舌側4分の1の歯根から長方形の試料を得ました(図1B)。加工後、試料はHBSS中、22℃で2日弱保存しました。

象牙質の試料を用いて、確立された方法に従って4点曲げ試験を行いました。曲げ試験は1/3スパン配置で構成しました(図1c)。実験には万能試験機を用い、試験中は水和を維持するために試料をHBSS(22度)に浸漬しました。準静的曲げ試験は、0.001mm/sのクロスヘッドスピードで破壊まで荷重をかける変位制御下で実施しました。各試験片の強度は、従来の梁理論に従って計算した破壊までの最大曲げ応力から求めました。6人のドナーの根管治療象牙質と未治療象牙質の強度の正規性をチェックし、有意水準を5%で対応のあるt検定を用いて比較しました。

根尖象牙質の微細構造は、電子顕微鏡を用いて検討しました。残りの半分の歯を根管が露出するようにエポキシレジンで包埋しました。露出した象牙質を800~4000番まで研磨しました。さらに、ダイヤモンド粒子懸濁液を使用して、3μmサイズまで研磨を行いました。開口している象牙細管と閉鎖された象牙細管の総数をカウントしました。Montoyaらの方法に準じて、総細管数における閉鎖細管の比を閉鎖率としました。

化学的な組成についてはRaman分光法を用いて解析しました。ミネラルーコラーゲン比率、コラーゲン架橋率、根管処置歯、未処置歯の象牙質閉鎖率について正規性を検討して、対応のないt検定で比較を行いました。有意水準は5%としました。

結果

歯根象牙質試料の平均曲げ強さを、ドナーの年齢別に根管処置歯と未処置歯に分けて図2Aに示します。Yanらが報告した若いドナーの平均曲げ強さ199±36MPa、30歳以下を基準値としました。55歳以上のドナーから採取した全ての歯は、Yanらの基準値と比較して有意に曲げ強さが小さくなりました。高齢5人のドナーから採取した未処置歯の象牙質の曲げ強さは150±16MPaでした。本実験群ではドナーの年齢が増加すると曲げ強さが減少する傾向で、最も高齢ドナーの曲げ強さが最も小さくなりました(130±1.4MPa)。

根管処置歯では、ドナーの年齢による曲げ強さの傾向は認められませんでした。5人のドナー間で根管処置歯の象牙質の曲げ強さは有意差を認めませんでした。根管処置歯トータルの曲げ強さの平均値は123±18MPaであり、未処置歯と比較して有意に小さくなりました。また、ドナーの歯種をマッチさせた場合でも同様の有意差を認めました。

さらなる分析のために、曲げ強さの正規化を行いました。具体的には、全ての歯の象牙質曲げ強さは、同じドナーから採取した根管未処置の切歯を元に正規化を行いました。結果を図2B、図2Cに示します。図2Bでは、根管未処置の臼歯の曲げ強さは、コントロールである切歯と有意差を認めませんでした。根管処置歯の場合、曲げ強さの比の平均値は0.82±0.17であり、最も小さい値を示したのは63歳のドナーから採取した0.65±0.08でした。5人中4人のドナーでは、健康な切歯と比較して臼歯の曲げ強さの比は有意に小さい結果でした。興味深い事に、最高齢ドナーから得た根管処置歯は、根管未処置の切歯と比較して有意差を認めませんでした。

化学的組成と微細構造解析の結果を、ミネラルーコラーゲン比、コラーゲン架橋率、閉塞率として図3に示します。ミネラルーコラーゲン比は根管処置の有無で有意差を認めませんでした。しかし、根管処置歯の象牙質は、有意に高いコラーゲン架橋率、有意に低い閉塞率を示しました。

考察

本研究では、化学的組成、微細構造、歯根象牙質の曲げ強さをランダムに選択したドナーから得た複数歯から評価しました。年齢、ドナーを一致させた歯のペアを用いて行った特性の比較により、根管処置履歴の重要性を評価する事ができました。

根管未処置歯の歯根象牙質の曲げ強さは150±16MPaで、報告されている若い人の歯根象牙質の199±36MPaと比較して有意に小さい結果となりました。ドナー56Aを除き、年齢により曲げ強さは小さくなる傾向を認めました。若い人の象牙質と比較して、74歳のドナーから得た歯では最大で35%曲げ強さが減少していました。根管未処置歯の曲げ強さのバリエーションは、74歳ドナーで最も小さくなりました。歯根象牙質では、Yanらは曲げ強さの劣化速度は55歳に到達するまで25MPa/10年で、その後はプラトーに達すると報告しています。この傾向は歯冠象牙質にも反映されています。

根管未処置歯と対照的に、根管処置歯の象牙質の曲げ強さは年齢に依存しませんでした。にもかかわらず、平均曲げ強さは、根管未処置歯と比較して20%も小さくなりました。図2の結果の比較から、年齢に関係なく、根管処置歯の象牙質の曲げ強さは、未処置歯よりも小さく、仮説は否定されました。そのため、インスツルメンテーションによる歯質の喪失とは無関係に、根管治療後の歯根の強度は低下します。これは、治療後に生じる象牙質の強度の変化と臨床機能について、明確なエビデンスを示した初めての調査です。

歯の組織の特性についての過去の研究における大きな懸念となったのは、患者・ドナー固有の口腔状態や健康状態の重要性です。この懸念は、2人の56歳ドナーの象牙質強度で強調されます(図2)。この2人の根管未処置歯の曲げ強さには有意差を認めました。細管の密度やコラーゲン線維径などの微細な特徴が重要です。日常的な習慣、服薬、外傷の既往、かみ癖の違いでさえ、寄与因子として可能性があります。加齢に伴い、象牙質の強度は低下しますが、低下の程度は患者固有です。

基準を同じ患者から得る曲げ強度の正規化は、患者に依存する因子、潜在的な交絡などの影響を抑えることができます。このアプローチのメリットは図2B、2Cで明らかです。6人中5人の未処置歯の平均曲げ強さは、健康な切歯の5%範囲内であり、患者の歯列内における特性のバリエーションが非常に狭いことが示唆されました。根管処置歯では、5人中4人で年齢による劣化とは別に、未処置歯と比較して15%程度曲げ強さの減少が認められました。

Carterらは、根管処置歯の象牙質は弱くなり、生活歯と比較して脆くなると報告しましたが、その主な原因は明らかにしませんでした。過去の研究では、根管処置歯はインスツルメンテーションに関係なく、脱水により脆くなる事が示唆されています。これは物議を醸す示唆です。例えば、Huangらは人の象牙質で圧縮、引っ張り、衝撃試験を行い、処置、未処置で有意差を認めなかったと報告しています。加えて、脱水は必ずしも破折、疲労性クラックの進展への抵抗力を低下させるわけというエビデンスがあります。今後の研究では、根管治療歯の象牙質における遊離水と結合水の変化と、その機械的耐久性への寄与に焦点を当てるべきです。

コラーゲンの架橋構造は、骨の破折抵抗が加齢により劣化する主な要因と考えられています。根管処置歯と未処置歯を比較すると、ミネラルーコラーゲン比には有意差を認めませんでしたが、閉塞率では統計的に有意ではありますが、それほど大きくない差を認めました。しかし、根管処置歯はコラーゲンの架橋率が、加齢による影響よりも有意に高い結果となりました。このことは、還元可能な2価の架橋構造であるdeH-DHLNLとデヒドロキシリシノノロイシンに対して、非還元性のヒドロキシピリジニウム架橋であるPryとデオキシピリジノリンが増加していることを示しています。非還元性架橋構造の増加は、加齢を伴う象牙質に認められ、象牙質の脆弱性に寄与します。PryとdeH-DHLNL率はコラーゲンの成熟度を表します。根管処置歯の架橋率の高さは、未処置歯と比較した強度低下の主原因であることが示唆されました。これは自然な加齢変化の影響と重なるため、根管治療は加齢プロセスを加速させ、歯の脆弱性を増大させるようです

この研究にはいくつかのlimitationがあります。根管処置はしばしば微生物の暴露を招き、神経の炎症を引き起こします。これが強度低下を招く可能性がありますが、ミネラルーコラーゲン比は根管処置で変化は認められませんでした。関連する懸念として、根管処置から抜歯までの期間が不明であり、治療された歯は間違いなく治療後の臨床機能が独特な期間を有しています。このトピックは重要であり、さらなる調査が必要です。

まとめ

今回の実験系では、1人の患者から多数歯を抜歯して個人内で根管処置の有無を比較したというのが特徴です。カリエスや実質欠損がないのに、ここまで多数歯を抜歯するというのは原因は歯周病なんでしょうが、歯肉退縮により歯根面が長期間口腔内に晒されている影響というのはあるのかないのか?気になる所です。

加齢変化でも象牙質は劣化するが、根管処置はそれにプラスした劣化の効果をもたらす、ということが今回の研究で示唆されました。破折する要因として、失活歯は歯の劣化する、咬合力が増加するといったことが今回と前回の論文から考えられそうですね。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
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