普通の歯科医師なのか違うのか

水酸化カルシウム長期使用は象牙質を脆弱化しなかった。

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

水酸化カルシウムと破折シリーズ

緊急事態宣言が解除されてから急に仕事が忙しくなりまして、論文を読めていなかったのですが、やっと少し落ち着いてきました。水酸化カルシウム、MTAが象牙質の強度に与える影響を読んでいる途中でしたのでその続きをやっていきたいと思います。

水酸化カルシウムの長期使用が象牙質を脆弱化するかどうかについては結構長い間論争があります。それぞれ使っている歯種や本数、インストロンでの破折試験の方法が違っており、なかなか結論がでないところです。

今回の論文はMTAで有名なTorabinejad先生が共著者にエントリーしている2015年の論文です。

Jeremiah James Hawkins,Mahmoud Torabinejad, Yiming Li,Bonnie Retamozo
Effect of Three Calcium Hydroxide Formulations on Fracture Resistance of Dentin Over Time
Dental Traumatology 2015; 31: 380–384; doi: 10.1111/edt.12175
PMID: 25891936

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25891936/

Abstract

Background: The long-term use of calcium hydroxide has been discouraged throughout the recent decade due to a proposed decrease in fracture resistance of dentin. This weakening has grave implications when used on immature teeth with thin dentinal walls in procedures such as apexogenesis.

Aim: The purpose of this study was to identify the effects of three commercial calcium hydroxide formulations (Vitapex, Ultracal XS and Pulpdent) on the fracture resistance of dentin in relation to time.

Materials and Methods: Two-hundred and forty deciduous lamb incisors were collected, cleaned and shaped, and filled with one of the three calcium hydroxide formulations and one negative saline control. At one, three, and 6 months, these teeth were fractured on an Instron machine to determine fracture resistance.

Results: No statistical differences were observed among any of the experimental groups, nor between any of the experimental groups and negative control groups.

Conclusions: Based on our findings, there appears insufficient evidence to support that either Vitapex, Ultracal XS, or Pulpdent will cause a decrease in fracture resistance of dentin within a 6-month period.

背景:水酸化カルシウムの長期使用は、象牙質の破折抵抗の低下を招くという理由でここ10年強く推奨されていません。この弱点はアペキソゲネーシスのような象牙質の壁が薄い根未完成歯に使用する時は致命的になりえます。

目的:今回の研究の目的は3種類の水酸化カルシウム製品(Vitapex,、Ultracal XS、Pulpdent)が経時的に象牙質の破折抵抗に与える影響を明らかにすることです。

実験方法:子羊の240本の切歯を集め、洗浄し形態を整えた後に3つの水酸化カルシウムをそれぞれ充填しました。またネガティブコントロールとして生理食塩水を充填しました。1か月後、3か月後、6か月後にインストロンを用いて破折抵抗を計測しました。

結果:3つの水酸化カルシウム間に有意差は認めませんでした。また水酸化カルシウムと生理食塩水の間にも有意差は認めませんでした。

結論:今回の研究結果からはVitapex,、Ultracal XS、Pulpdentを6か月使用した際に象牙質の破折抵抗が低下するという充分なエビデンスは存在していません。

ここからはいつものように適当に抽出して要約しますので、気になった方は本文をご確認いただきますようお願いいたします。

緒言

水酸化カルシウムは間接覆髄などの虫歯治療以外にも根管治療などにも広く応用されています。外傷歯においても長期使用が行われてきました。
1988年にStomerが水酸化カルシウムの長期使用により歯頸部破折のリスクが増加すると指摘しました。その後もCvekやAndreasen、その他数多くの研究によってリスクの増加が指摘されています。
水酸化カルシウムが象牙質にネガティブな影響を与える可能性に関してはかなり強いエビデンスがありますが、水酸化カルシウム濃度が与える影響に関しては検討されていません。そのため、今回の研究では3種類の水酸化カルシウム製品を使用して研究をおこなっています。

実験方法

35頭の屠殺された子羊の下顎から8本の切歯を抜歯して240本用意しています。ホルマリンにて固定後にCEJから10mm根尖側で切断して歯髄組織を除去。さらに30号04テーパーのNiTiファイル拡大後、生食と次亜塩素酸ナトリウムで洗浄しています。

使用した材料は以下の通りで生食は15本、他の水酸化カルシウムには75本ずつ割り振られています。水酸化カルシウム濃度がやや異なる材料となっています。

材料充填後1か月、3か月、6か月後に破折試験を行っています。

押し方は歯頸部をある程度幅の広い金棒で押して破折させているようです。

結構綺麗に割れています。

結果

3種類全ての水酸化カルシウムで経時的な象牙質の強度低下を認めませんでしたが、コントロールの生理食塩水のみ有意な低下を認めました。

この図をみると他の研究とは異なり、水酸化カルシウム群の破折強度はほぼ全く低下していません。生理食塩水であるコントロール群のみが経時的に強度が低下しています。

考察

生理食塩水であるコントロール群のみが強度が低下した原因ですが、考察ではサンプルサイズと推測しています。確かに水酸化カルシウムは各75本も使っておいて生理食塩水は15本ですから、コントロール群も同数程度やっていればまた結果が違った可能性はあるのかもしれません。

今回、全製品で破折強度の低下が認められなかった原因ですが、ピュアな水酸化カルシウムではなく、水酸化カルシウムが最大でも40%程度しか含まれていなかったためではないかと考察しています。

6か月後のレントゲン像を見るとvitapexはしっかり残っているものの、他の材料はかなり溶出が認められます。

これからするとvitapexはしっかり残っていて象牙質の破折強度を最低でも6か月は低下させないということになりますので、この3製品の中ではvitapexの使用が適しているかもしれません(アペキソゲネーシスにどれだけの水酸化カルシウムがどこにあればいいかというのがわからないですけど)。

後は根尖側に穴があいていて歯冠側には穴があいていないはずですが、なぜか歯冠側の水酸化カルシウムがなくなっているのが謎です。

まとめ

この結果は以下のブログで読んだ論文の結果とかなり似ていると感じました。この論文でも経時的な象牙質強度の低下は認められませんでした。
よく比較すると実験系もかなり似ていますので、おそらく今回の論文の方法をまねしてさらにポジティブコントロールとしてピュアな水酸化カルシウムを使い、コントロール群の本数も増やしています。

つまり、この2018年の論文は今回の論文をブラッシュアップした感じではないでしょうか。

ここ5年程度の水酸化カルシウムの象牙質強度に関する論文は比較的強度低下に否定的ではないでしょうか?勿論影響はありますが、それが破折の主原因になるほどではないと言う解釈かと思います。
まだまだ読んでみる必要はあるとは思いますが。

古い論文は象牙質強度低下を報告している論文がかなり多いです。

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