普通の歯科医師なのか違うのか

成人で根未完成歯、根尖病変が大きくても治癒は期待できる

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

MTAと水酸化カルシウム長期貼薬比較

前回のブログで、最近の論文では根未完成歯に水酸化カルシウムを長期貼薬した場合でも、歯頸部による破折強度はそこまで低下しないという論文の数が増えているのでは?ということを書きました。

MTAと水酸化カルシウムにおいて根未完成歯に長期充填した場合は水酸化カルシウムほどではないにしてもMTAにおいて破折強度は下がるという論文を以前読みました。ただし、MTAでは下がらないという古めの論文もあります。破折強度は実験方法の違いで容易に結果が変わってしまうようで、なんともいえませんが、MTAと水酸化カルシウムを比較するとややMTAの方が象牙質脆弱化のリスクが低いのかな?という風に自分は解釈しています。

では、実際の臨床例で根未完成歯で歯髄がすでに失活している場合の治療では水酸化カルシウムとMTAどちらが優秀なのか、というのを調べた論文がありましたので読んでみることにしました。

G Kandemir Demirci , M E Kaval , P Güneri , M K Çalışkan 
Treatment of Immature Teeth With Nonvital Pulps in Adults: A Prospective Comparative Clinical Study Comparing MTA With Ca(OH) 2
Int Endod J. 2020 Jan;53(1):5-18. doi: 10.1111/iej.13201. 

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31397907/

今回は2020年、今年パブリッシュされたトルコからの論文

Abstract

Aim:To evaluate and compare the influence of various predictors on outcomes of apexification using either mineral trioxide aggregate (MTA) or calcium hydroxide (CH) in permanent immature anterior teeth with necrotic pulps and periapical lesions of adults.

Methodology: Ninety immature teeth with necrotic pulps and periapical lesions on adult patients (aged 18–40 years) were treated with MTA (45 teeth) or CH (45 teeth) between 2015 and 2018. Patients of both groups were recalled for follow-up examinations after the first intervention at 1,3,6 and 12 months for the first year, every 6 months for the second year and every year thereafter until the end of the study (median 32.3 months). The treatment outcome based on clinical and radiographic criteria was assessed by calibrated examiners and dichotomized as ‘healed+healing’ or ‘not healed’. The age, gender, stage of root development, preoperative signs and symptoms of apical periodontitis and size of periapical lesion were recorded. The cumulative success proportion and mean time were analysed with the Kaplan–Meier test. The generalized logrank statistic was used to describe prognostic clinical variables. Fisher’s exact test was applied for the evaluation of the healing rates.

Results: Thirty-nine of the 45 teeth treated with MTA were available for recall. Of these, 29 teeth (74%) revealed calcific apical barrier formation with complete resolution of periapical lesions, 7 teeth (18%) were healing, and 3 teeth (8%) had persistent disease. Thirty-four of the 45 teeth in the CH group were available for recall. Of these, 27 teeth (79%) had complete healing of periapical lesions and had calcific barrier formation, 4 teeth (12%) were healing, and the remaining 3 teeth (9%) had not healed. The survival rate of teeth treated with MTA was similar to the survival rates observed in teeth treated with CH (90% and 91%, respectively, P > 0.05). The generalized logrank statistic revealed that the cumulative success rate of both materials was not significantly different (P > 0.05). None of the tested predictors had an influence on the treatment outcomes of teeth in
both groups (P > 0.05).

Conclusions: Apexification with both MTA and CH was associated with similar treatment outcomes. MTA may be proposed as a material for apexification treatment in immature teeth of adult patients due to the shorter treatment time associated with its use.

目的:成人永久歯の歯髄が失活して根尖病変を有している根未完成歯において水酸化カルシウムとMTAを用いたアペキシフィケーションの結果に与える色々な因子の影響を比較することです。

実験方法:被験者は18-40歳で歯髄失活、根尖病変を認める根未完成歯90本が対象です。2015~2018年の間にMTA45本 水酸化カルシウム45本処置を行いました。治療後1,3,6,12か月後にフォローアップし、それ以降は6か月毎のフォローを行いました。フォロー期間は平均で32.3か月でした。治療結果は臨床的、レントゲン的に診断され大別して「治癒+治癒途中」、「治癒不良」の2つに分類されました。年齢、性別、根の完成度、術前の根尖性歯周炎の徴候、根尖病変の大きさ等が記録されました。成功率と時間との関係はKaplan-Meier法を用いて解析しました。予後の臨床因子のために生存時間解析を、治癒率の評価のためにFischerの正確確率検定を用いました。

結果:MTA群では45本中39本がリコール可能で、そのうち29本が根尖部の石灰化と根尖病変の消失を認め、7本が治癒途中でした。3本は治癒不良となりました。水酸化カルシウム群では45本中34本がリコール可能で、そのうち27本が根尖部の石灰化と根尖病変の消失を認め、4本が治癒途中でした。3本は治癒不良でした。生存率はMTAも水酸化カルシウムも同等で有意差を認めませんでした。生存時間解析では累計成功率は両群間で有意差を認めませんでした。また、治療結果に影響を与える因子もありませんでした。

結論:MTAでも水酸化カルシウムでもアペキシフィケーションの治療結果はほぼ同じと考えられました。MTAの方が成人の根未完成歯のアペキシフィケーションにおいては 治療期間が短い可能性が示唆されました。

ここからはいつものように適当に抽出して要約しますので、気になった方は原文をご確認いただきますようお願いいたします。

緒言

水酸化カルシウムは安価でアペキシフィケーションにおいて優れた効果を発揮しますが、治癒期間が長いという問題があります。治療期間が長いとリコールから離脱してしまい、仮封からの辺縁漏洩のリスクもあります。また水酸化カルシウムの長期使用は歯頸部破折を起こすことなども報告されています。
6~16歳の歯髄失活の根未完成歯に水酸化カルシウムを使用した場合の成功率は74~100%という報告があります。

MTAの成功率は77~100%で、しかも水酸化カルシウムよりも短期間で、封鎖姓も良い、という報告があります。ただし、操作性が悪い、高価である、歯質変色なども報告されています。

アペキシフィケーションの結果に与える年齢の影響に関しては議論があります。若い方が適していて予後が良いという事が報告されてきました。しかし、症例報告ですが、水酸化カルシウムによる成人のアペキシフィケーション成功例が報告されています。またMTAや水酸化カルシウムによる歯内再生療法の成功には色々な要因が関与しているという報告があります。

成人の上顎前歯、根未完成で根尖病変のある歯のMTAと水酸化カルシウムを比較した報告は今までありません。

実験方法

90人の被験者(18~40歳)の上顎前歯90本が対象で、外傷により根未完成、根尖病変がある歯が対象です。1人で数本同様な治療を行った場合、ランダムに1本のみを抽出しています。

全身疾患がない事、対象歯がエンド未処置である、歯周疾患があまりないことや破折や吸収などがないことなどが条件です。

100名中90名が残ってそれをランダムに同数ずつMTAと水酸化カルシウムに割り当てています。

治療結果に影響を与える因子は年齢、性別、根の完成度、術前の根尖性歯周炎の徴候、根尖病変のサイズが含まれます。
歯根の完成度に関してはCvekによる分類を用いています。
完成度が半分以下、半分、2/3、2/3以上の4段階に分類します。

MTAはProRootのWhiteを、水酸化カルシウムはMerckというものを使っています。仮封は酸化亜鉛ユージノールセメントを使用しています。
両群共に次亜塩素酸ナトリウムとEDTAによる洗浄を行っています。
MTA群は、まず水酸化カルシウムを1週間貼薬後にMTAを充填しています。水酸化カルシウム群はおそらく初回の水酸化カルシウム貼薬のままではないかと思われます。

治療後1,3,6,12か月後にフォローアップし、それ以降は6か月毎のフォローっています。レントゲンによる治癒の確認ですが、PAIスコアというものを使用しています。

結果

90名中73名(81%)がリコールに応じました。
MTA群87%、水酸化カルシウム群76%
フォローアップ期間は12-48か月で平均は32.3か月でした。

73本中67本は生存と判断され、6本は失敗と判断されました。
MTA群では29本が根尖部の石灰化と根尖病変の消失を認め、7本が治癒途中でした。3本は治癒不良となりました。水酸化カルシウム群では45本中34本がリコール可能で、そのうち27本が根尖部の石灰化と根尖病変の消失を認め、4本が治癒途中でした。3本は治癒不良でした。

両群間の治癒と治癒不良の割合には統計的な有意差を認めませんでした。

累計の生存率はMTAでは12か月では100%、24か月では94%、36か月では90%、48か月では90%でした。水酸化カルシウムでは12か月で94%、24か月で91%、36か月で91%、48か月で91%であり、生存率に有意差は認めませんでした。

予後に影響を与える因子の解析において、MTA、水酸化カルシウム共に有意差がある項目はありませんでした。

まとめ

こんなのもMTAで治ってるので凄いとしか言いようがないです。ある程度大人になってからこういうケースでもしっかりやれば予後が期待できるみたいです。
92%治癒または治癒途中という判定ですから高いですよね。

水酸化カルシウムでも同様です。

今回の研究では年齢や性別、歯根完成度、根尖病変の大きさなどは予後に影響はないというものでしたが、他の研究ではそこら辺関係があったという論文もあります。おそらくやはり若い方がよいんでしょうけど、ある程度大人でもチャンレンジする余地はありそうです。上限40歳ですが、18-25歳の被験者の方が多いです。しかし、26~40歳でも予後に有意差はありません。ただし、人数が結構少ないので、これだけで有意差を言い切るのもちょっと難しい気もします。

MTAでも水酸化カルシウムでも予後に与える影響はあまりないとのことですが、根があまりできていない、歯質が薄い物に関しては破折のリスクがあります。少しでも早く、破折を防ぎつつとなるとMTAの方が優れているのではないでしょうか。MTAの方が治療期間が短いという報告がありますから。ただし、MTAをこのように漏出させずにしっかり詰めるのは難しそうですけどね・・・

メモ

Lin J, Zeng Q, Wei X, et al. (2017) Regenerative endodontics versus apexification in immature permanent teeth with apical periodontitis: a prospective randomized controlled study. Journal of Endodontics 43, 1821–7.

Saoud TMA, Zaazou A, Nabil A, et al. (2014) Clinical and radiographic outcomes of traumatized immature permanent necrotic teeth after revascularization/revitalization therapy. Journal of Endodontics 40, 1946–52.

Kim SG, Malek M, Sigurdsson A, Lin LM, Kahler B (2018) Regenerative endodontics: a comprehensive review. International Endodontic Journal 51, 1367–88.

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