オールセラミック材料のtooth wearに関するシステマティックレビュー
セラミック材料を使用するにあたって気になるのは、破折リスクと対合歯への影響になるかと思います。特に金属冠よりも対合歯がすり減るんじゃないだろうか?というのは誰でも不安に思うところかと思います。今回は、セラミック材料によるwearの違いについての2024年のシステマティックレビューを読んでいこうと思います。
Antagonist enamel tooth wear produced by different dental ceramic systems: A systematic review and network meta-analysis of controlled clinical trials
Zhen Mao , Florian Beuer , Jeremias Hey , Franziska Schmidt , John A Sorensen, Elisabeth Prause
J Dent. 2024 Mar:142:104832. doi: 10.1016/j.jdent.2024.104832. Epub 2024 Jan 10.
PMID: 38211687
Abstract
Objectives: The aim of this study was to evaluate the amount of enamel tooth wear induced by different antagonistic ceramic crown materials in the posterior area within a follow-up period up to 24 months in function. A network meta-analysis was performed to assess the effect of the materials on the mean vertical loss (MVL) of the antagonist enamel tooth surface.
Data: Main search terms used in combination: ceramic, dental materials, metal ceramic, tooth wear and dental enamel.
Sources: An electronic search was conducted in PubMed/Medline, Embase, and Cochrane CENTRAL plus hand-searching.
Study selection: Eligibility criteria included clinical studies reporting on MVL on antagonist’s tooth up to 24 months following the permanent crown placement. From a total of 5697 articles, 7 studies reporting on 261 crowns for 177 subjects with 3 ceramic materials (Lithium disilicate, metal-ceramic, monolithic zirconia) were included. Among all, metal-ceramic and zirconia caused significantly higher enamel tooth wear on antagonist teeth, representing 82.5 µm [54.4; 110.6]) and 40.1 µm [22.2; 58.0]) more MVL than natural teeth group. In contrast, lithium disilicate showed only 5.0 µm [-48.2; 58.1]) more MVL than occurs on opposing natural teeth.
Conclusions: This systematic review demonstrated that prosthodontic ceramic materials produced significantly more antagonist enamel tooth wear than opposing natural enamel tooth wear, and ceramic material type was correlated to the degree of enamel tooth wear. Additional well-conducted, randomized controlled trials with homogeneous specimens are required due to inadequate sample size and number of the clinical studies included in the analyses.
Clinical significance: The amount of wear caused by different restorative materials has a high influence on the antagonistic natural teeth and should therefore be evaluated intensively by the dentist.
目的:本研究の目的は、24か月までのフォローアップ期間中に、異なる臼歯部オールセラミッククラウンの対合歯のエナメル質に起こるwear量を評価することです。対合歯エナメル質表面の垂直的な減少量(MVL)に材料が与える影響を、ネットワークメタ解析で評価しました。
データ:主な検索キーワードは、ceramic、dental materials、metal ceramic、tooth wear、dental enamelのコンビネーションとしました。
検索:PubMed/Medline、Embase、Cochrane Central plusで電子検索を行い、さらに手作業による検索を行いました。
研究の選択:クラウンセット後24か月までにおこった対合歯のMVLを報告している臨床研究を採用しました。5697の研究のうち、7つが該当しました。7つの研究には177名の被験者に装着した3種類(二ケイ酸リチウム、陶材焼付鋳造冠、モノリシックジルコニア)261本のクラウンが含まれます。陶材焼付鋳造冠、モノリシックジルコニアはエナメル質のwearが有意に多く、対合天然歯群と比較してMVLが82.5μm、40.1μm多い結果となりました。一方で、二ケイ酸リチウムは対合天然歯群と比較してMVLは5.0μm多いだけでした。
結論:本システマティックレビューから、セラミック材料は天然歯と比較して対合歯のエナメル質をよりwearさせること、セラミックの材質がwearと相関することがわかりました。分析に含まれた臨床研究のサンプルサイズと数が不十分であるため、均質な検体を用いた適切に実施された追加の無作為化比較試験が必要です。
臨床的治験:異なる修復材料によるwear量は、対合天然歯に大きな影響を与えるため、歯科医師による詳細な評価が必要です。
ここからはいつもの通り本文を訳します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。
緒言
wearは修復物と歯の直接接触による複合的、多要因性の硬組織の喪失です。さらに酸蝕、摩耗、咬耗に分類されます。一般的に、wearの進行には生物学的、機械的、化学的因子が妥当な原因となり得ます。結果として、wearは咬合高径を減少させるかもしれません。咬合高径を回復するためには、複雑で長期にわたり、広範囲かつ侵襲的な補綴処置が必要になります。
wearの主な理由は、随意、不随意の咀嚼運動だけでなく、個人の食習慣や口腔内の修復材料などもあります。補綴材料はwearに大きな影響は与える可能性があります。その特性は天然歯とは異なります。結果的に、対合天然歯のwearが変わる可能性があります。理想的には、セラミック材料と天然歯エナメル質のwearは近似していなければいけません。しかし、wearの複合性とその進行から、信頼できるwearの研究を行うのは困難です。
エナメル質のwearは、セラミック材料によっても引き起こされます。このプロセスは数年間観察され解析されました。異なるセラミック材料によるエナメル質のwearに関する影響因子の存在が示されました。特に、材料の物性が天然歯のエナメルと異なった時に。靱性、破折強さ、表面粗さ、エナメル質より遙かに硬い事が、エナメル質のwearを促進する主な理由であると評価されてきました。Sorensenはセラミックに対合する歯のエナメル質wearに関する潜在的な影響因子を評価しました。表面の微小粗さがwearに強く相関しており、セラミックの粒子サイズが細かければwearを抑制できることが示されました。さらに、セラミックによる対合エナメル質のwearは、facetの質が変化していくため、より動的なプロセスであると報告しています。材料の硬さは塑性変形への耐久性しか計測しないため、材料を特徴付ける方法として適切ではないと言及されています。 殆どのセラミックは天然歯のエナメルよりも高い硬度を有しています。高度なwearは硬い材料と関連すると想定されています。しかし、材料の硬さが対合歯のwearの信頼できる予知因子にはならない事を証明した研究が存在します。Ohらは、エナメル質wearはセラミックの表面構造、対合歯の表面粗さ、環境因子と高い関連性があるとまとめました。
天然歯のエナメル質のwearは年に15~40μmの範囲と報告されていますが、データの状況は不均一です。対合が天然歯であるエナメル質の1年でのwearを計測した研究では、大臼歯で29μm、小臼歯で15μm、平均wearは20~40μm、1年後のwearは40~80μmといった複数の報告があります。いくつかのin-vitroでの研究では、セラミック材料の対合歯エナメル質のwearについて実験しています。その結果はバラバラで幅が大きいものでした。研磨されたモノリシックジルコニアは、グレージングされたジルコニアまたは長石系陶材で製作した修復物と比較して対合歯のエナメル質wearが少ない事がデータから示されました。一般的に、ジルコニアは他のオールセラミック材料と比較してエナメル質のwearが少ない傾向です。陶材焼付鋳造冠の場合、24か月で対合歯のwearは156μmと報告されています。実験的なガラスセラミックの対合歯の場合、24か月で215μmのエナメル質のwearが記録されました。アルミナクラウンでは24か月で261μmのエナメル質wearが報告されています。二ケイ酸リチウムクラウンの場合、1年後のエナメル質のwearは小臼歯部で46μm、大臼歯部で65μmでした。
エナメル質wearの解析のため、間接的、直接的なデジタル解析が最近では行われています。しかし、この方法は効率的ですが、複製段階でエラーが起こる可能性があります。さらに、レーザースキャナーの解像度は5~20μmであり、解析に大きな影響がある可能性があります。さらに、レーザービームの波長といった技術的要因は、wear解析の精度に大きな影響を与える可能性があります。直接的なデジタル解析は歯の構造をスキャンするためにIOSを使用します。複製プロセス時のエラーを避ける事ができます。IOSはエナメル質wearを直接評価するための新しく信頼できる方法を供給します。
エナメル質wearに関する臨床研究は数多くありますが、結果は一貫しておらず、材料が影響を比較したシステマティックレビューは存在していません。そのため、異なるセラミック材料が対合する天然歯に対して同等のエナメル質wearを起こすという帰無仮説を検証するため、以下の研究を実施しました。
実験方法
本レビューはPROSPEROに登録され(CRD42023438833)、PRISMAに従っています。倫理審査は必要ありませんでした。
基準と検索方法
焦点をあてた質問を設定するために、PICOを定義しました。臼歯部に全部被覆冠による治療が行われた患者(P)において、セラミックの対合歯のエナメル質(I)と天然歯の対合歯のエナメル質(C)を比較して、エナメル質wearが変わる(O)、そしてそれぞれの材料表面のwearに関する違いは何か?
採用基準
・被験者は小臼歯、または大臼歯に1本または複数本の全部被覆冠(単冠)を装着しており、対合歯が天然歯
・クラウンセット後、24か月までの対合歯MVLを報告した研究
・最低10名以上の患者がいるRCT、前向き臨床研究
・同じ患者のデータを使用した複数の研究がある場合、完全でほしいデータが含まれている方のみ
除外基準
・ブリッジ、可撤性義歯の対合歯のエナメル質wearのみの研究
・前歯部エナメル質wearを検討した研究
・ブラキシズムを含む医学的に問題のある患者、または入試を扱った研究
・In vitro、観察研究、ケースシリーズ、動物実験、レビュー
EMBASE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE(PubMed)による検索を2023年6月に行いました。発行時期や言語に制限はありません。検索は、MeSHとテキストのコンビネーションで行いました。加えて、関連ジャーナル、採用した研究の引用文献をハンドサーチしました。
研究選択とデータの集計
重複の自動除外後、2名の著者(ZM、EP)が独立して全研究のタイトルと抄録をスクリーニングしました。その次に、抄録の内容が不十分だった場合に全文をスクリーニングしました。除外理由を記録しました。レビュアー間での信頼性をκ係数にて計算しました。レビュアー間による不一致は、3人目のレビュアー(FB)を交えたディスカッションで解決しました。その後、ZMとEPは独自にデータを抽出しました。
バイアスリスク
採用した研究のバイアスリスクを、2名の著者がthe Cochrane Risk of Bias Tool 2 for randomized controlled trialsを使用して独自に評価しました。それぞれをハイリスク、ローリスク、リスク不明に振り分けました。
データの統合
対合歯のエナメルwearに関するネットワークメタ解析
STATAを用いて全ての統計解析を行いました。主要アウトカムは、クラウンまたは天然歯の対合歯におけるMVLで、平均値と標準偏差を抽出しました。計測開始からフォローアップ時の計測終了時点までの測定値の変動を収集しました。正の値は垂直的な高さの低下を意味しています。クラウンの材質(陶材焼付鋳造冠、モノリシックジルコニア、二ケイ酸リチウム、レジンマトリックス)でグループ分けした対照研究から得られたデータを用いてネットワークメタ解析を行いました。頻度主義モデルを使用しました。推定治療効果を平均差と95%信頼区間で表現しました。ネットワークプロットを直接的、間接的なエビデンスのネットワークを表示するために行いました。フォレストプロットをもちいて、天然歯と比較した材料の全種類の材料について、材料によりグループ分けした個別の研究結果とその関連する不確実性を視覚化するために用いました。一方、ネットワークモデルについては、類似性、不整合性、推移性が推定されました。出版バイアスはファンネルプロットを用いて評価しました。
色々な修復物のwearに関するメタ解析
色々な材料により製作されたクラウン表面のMVLとして定義した副次アウトカム(セラミックシステムのwear)のために、追加のメタ解析を行いました。複数の群を設定した研究の場合、データは独立した群のデータセットとして計算されました。平均値と標準偏差を用いて、加重平均値をプールし、95%信頼区間を用いて分析しました、一方で、QテストとI2で効果範囲の異質性を評価しました。I2が50%より大きい場合、異質性が認められ、ランダム効果モデルを使用しました。それ以外では固定効果モデルを使用しました。サブグループ解析と感度分析を、異質性の原因となり得る変数を検討するために行いました。アウトカムと変数間の相関を評価するために、メタ回帰分析を行いました。
結果
研究の選択
最初の検索で5697の研究を確認し、555が重複しており除外しました。タイトル、抄録のスクリーニング後に、31の可能性のある研究がピックアップされ、全文の審査を行いました。最終的に、質、量の合成のために7つの研究が採用され、残りの研究は以下の理由で除外されました。4つは修復物のwearのみで、エナメル質のwearは報告されていませんでした。3つはエナメル質の体積喪失量のみで、垂直的な高さは報告されていませんでした。6つは測定方法やクラウンの材料が不正確、平均値や標準偏差が欠損していました。5つはブリッジ、全部床義歯の対合歯のエネメル質のwearが報告されていました。4つはコントロール群がありませんでした。1つは観察研究でした。Stoberらは同じ患者コホートのデータを発表したものの、後者のみを含めていました。残りの7つ、トータル26群からデータを抽出しました(図1)。レビュアー間の信頼性は0.81と0.79でした。

研究の特徴
基礎的な情報
7つの研究の特徴を表1に示します。

トータルで177名、臼歯部の全部被覆冠261本が含まれます。3つの研究は2群、他の群は3群以上に分類されていました(表2)。トータル26群がデータの合成に含まれています。

本レビューでのクラウンの平均生存率は100%で、合併症は報告なしでした。それぞれの研究で使用されている修復材料は異なり、陶材焼付鋳造冠(研究数2)、二ケイ酸リチウム(1)、ジルコニア(7)、天然歯(7)でした。6つの研究では小臼歯と大臼歯のデータでしたが、1つは大臼歯のみにフォーカスしたデータでした。ベースラインの設定も研究により異なり、補綴物をセットした時からという研究または2週間後からというものがありました。フォローアップ期間は3か月~2年までと様々でした。MVLに関するデータを提供したのは、合計4群を対象としたわずか3件の研究のみであり、いずれもジルコニアクラウンに焦点を当てていました(表3)。他の2つの材料表面のwearは調査されていません。

測定ワークフローと精度
採用した様々な研究間で、操作手順やワークフローデザインのバリエーションは許容できるレベルでした(表1)。全ての研究で、詳細な説明がされていました。たとえば、キャリブレーション、深度、エナメル質喪失測定の精度などです。全ての研究でレプリカ上での測定を行う間接測定が行われており、デジタルを使った直接測定を行った研究はありませんでした。印象過程の真度に関して、最も多い計測方法は、シリコーンゴムによる印象と石膏によるレプリカ製作が行われていました。真度は2.1μm~9μmであり、トレーの選択、印象法により影響をうけたと報告されています。模型のスキャニングには様々な機器が使用されていました。スキャナーが最も多く4つの研究で使用されており、精度は±9μmでした。ワークフローの不正確さは、システムによって異なるだけでなく、使用された参照領域の数や位置とも相関していました。全ての研究において、MVLの算出のために咬合接触エリアを参照領域として選択していました。
バイアスリスク
RCTを含むバイアスリスク評価のまとめを図2に示します。全ての研究でブラインド評価は高リスクとなりました。Mudheらの研究は、バイアスリスクが最も低く殆どの項目で低リスクであり、3つの研究はバイアスリスクが低いと評価されました。4つの研究は主にランダム化と割り付けの秘匿に関する情報が欠如しており、バイアスリスクが高いと懸念されました。

データの合成
対合歯のエナメル質wear
エネメル質のMVLについての修復材料群のネットワークメタ解析プロットを図3に示します。点は介入の数に基づいて大きさが割り当てられ、線の太さは実施された研究の数によって決定されました。全ての介入はコントロール群(天然歯の対合歯エナメル質喪失)と直接的に比較されています。

対合歯のMVLについて、異なる材料とコントロール群との比較を図4に示します。陶材焼付鋳造冠とジルコニア群は、コントロール群と比較して有意にMVLが大きい結果となりました。逆に、二ケイ酸リチウムはコントロール群と比較して統計的な有意差を認めませんでした。

二ケイ酸リチウム(平均差5.0μm、95%信頼区間-48.2~58.1μm)は、他の材料と比較して有意にエナメル質wear量が小さかったことから、エナメル質のwearから保護するのに最も優れた材料であるとランク付けされました。ジルコニア(平均差40.1μm、95%信頼区間22.2~58.0μm)、陶材焼付鋳造冠(平均差82.5μm、95%信頼区間54.4~110.6μm)は2番手、3番手にランキングされました(図5)。

一般的に、ネットワークメタ解析は、修復材料は天然歯と比較し対合エナメル質のwearを促進し、修復物の種類とwear量が相関することを明らかにしました。直接的、間接的エビデンスによる4種類の比較(ジルコニアvs天然歯、陶材焼付鋳造冠vs天然歯、二ケイ酸リチウムvs天然歯、ジルコニアvs陶材焼付鋳造冠)があり、有意な矛盾は認められませんでした。更なるセラミック表面の異なる表面処理効果を検討するために、以下の2つのサブグループを設定しました。鏡面研磨ジルコニア/グレージングジルコニアによるエナメル質wear。鏡面研磨ジルコニア群の加重平均MVLは、エナメル質群と比較して38.8μm(95%信頼区間19.2~58.4μm)でした。逆に、グレージングジルコニア群における加重平均MVLは62.8μmとより大きくなりました。バイアスリスクが高いことから2つの研究を除外し感度分析を行い、1材料(ジルコニア)からのみデータを得ました。同様の結果が得られました。二ケイ酸リチウム(平均差5.0μm、95%信頼区間-53.3~63.3μm)、ジルコニア(平均差40.7μm、95%信頼区間18.6~62.8μm)、陶材焼付鋳造冠(平均差82.8μm、95%信頼区間51.6~114.1μm)で、天然歯群と比較してジルコニアと二ケイ酸リチウム群は有意にwearが大きい結果となりました。
セラミックシステムのwear
ジルコニアのwearは3つの研究、トータル4群で報告されています。2年以内のフォローアップ期間でのジルコニアの加重MVLは20.2μm(信頼区間12.2~28.2、I2=92.4%)でした(追加3)。

感度分析を実施し、各データセットを順次除外することで結果の頑健性を評価しました。グループでは、Tangらを除外した場合の最小加重平均MVLは17.6μm(信頼区間11.3~23.9)であり、Selvarajらを除外した場合の最大加重平均MVLは22.7μm(信頼区間13.4~ 32.0)でした。この知見は、最終的な結論が、いかなる単一の研究にも依存せず、確固たる明確な証拠によって裏付けられていることを示しています。ジルコニアのwear解析のために鏡面研磨/グレージングというサブグループを選択しました。鏡面研磨とグレージングは同様の傾向を示し、wearはそれぞれ20.1μm(信頼区間6.2~34.0μm、I2=99.0%)、20.4μm(信頼区間7.6~33.1μm、I2=95.3%)でした(追加3)。アウトカムと変数(表面性状と研究の質)の関連性を検討するためにメタ回帰分析を行いました。ジルコニアにおいて、wearと関連する因子はありませんでした。採用した研究数が限られていること、データの欠損があることから、陶材焼付鋳造冠、二ケイ酸リチウムに関するメタ解析は行う事ができませんでした。
出版バイアス
最少した研究数が少なかったため、エナメル質のwearについてのファンネルプロットのみ行いました。大体対称分布となりました(追加4)。

考察
本研究の目的は、異なるクラウン材料による2年以内の対合歯エナメル質wearを評価することです。天然歯と比較してセラミックシステムはより多くのエナメル質wearを引き起こし、クラウンの種類によりwearの程度に違いがあることが示され、帰無仮説は否定されました。これは、in vitroの研究からのエビデンスに基づく過去のシステマティックレビューと部分的に一致しています。
修復物-エナメル質vsエナメル質ーエナメル質のMVL
対合歯が天然歯の場合のエナメル質wearと比較すると、対合歯がクラウンの場合、臨床研究やin vitroの研究において、短期間で有意により多くのエナメル質の喪失が認められました。例えば、Stoberらは、ジルコニアの対合天然歯のMVLは46μm、天然歯ー天然歯は19μmと2年間でほぼ倍であると報告しています。スプリットマウススタディでは、陶材焼付鋳造冠群における1年後のMVLは天然歯群と比較して72μm多かったと報告しています。対照的に、ある臨床研究では、二ケイ酸リチウムー天然歯のwear量と、天然歯ー天然歯のwear量には有意差を認めなかったと報告しています。この値は本研究と近似しています。本研究では、エナメル質ーエナメル質間のMVLと比較して、陶材焼付鋳造冠の対合歯のMVLは83μm(p<0.05)、ジルコニアの対合歯のMVLは40μm(p<0.05)、二ケイ酸リチウムの対合歯のMVLは5μm(p>0.05)多いという結果になりました。理想的なセラミック材料はできるだけ天然歯エナメル質の性質に近い必要があるため、日常臨床においてwearの様相は影響因子として考慮すべきです。二ケイ酸リチウムのみがエナメル質と似た効果を示したため、本研究では有益な材料として推薦します。
対合歯MVLへの効果に対する材料の違い
クラウンを製作する際には、金属、セラミック、ハイブリッドレジンなど様々な材料が使用されます。限られたデータのため、本研究ではたった3種類の材料のみを解析しました。色々な材料表面に対向するエナメル質の垂直的なwear量は、陶材焼付鋳造冠>ジルコニア>二ケイ酸リチウムの順にランク付けされました。この現象は、物性、セラミックの微小構造、製作方法、表面粗さ、不規則性、口腔内環境などの要因と相関するかもしれません。実際、異なるセラミックの微小構造成分は咀嚼時に異なる相互作用を示し、これが表面粗さに影響を与える可能性があります。陶材焼付鋳造冠は、加工方法と製作テクニックの発展により、最も高いエナメル質wear率を引き起こしたかもしれません。粒子構造が細かい、気泡が少ないセラミック材料ほど、曲げ応力、破折抵抗、密度など、優れた物性、表面性状を示し、スムースな表面を維持するのが容易になります。現在のオールセラミック材料では、表面粗さとwearパターンはより低摩耗性です。均一構造、高密度、微細な結晶構造サイズであるモノリシックジルコニアは、ポーセレン前装よりもエナメル質のwear量の軽減に寄与します。また、多形性構造は体積増加、化学的安定性も考慮されます。長石系と比較して、ジルコニア対合歯のエナメル質wearが少ないことはいくつかのin vittoの研究で報告されています。
しかし、ジルコニアと二ケイ酸リチウムにおけるエナメル質wearの違いについては、いまだに議論の余地があります。あるin vivoの研究では、二ケイ酸リチウムの対合歯では、ジルコニアの対合歯と比較してエナメル質のwearが少なかったと報告しています(文献68)。この観察研究は本研究の結果と一致しています。しかし、殆どの研究はジルコニアの方が優れていると報告しています(文献71-76)。これらの矛盾した結果は、表面処理方法により部分的に説明できるかもしれません。実際、スムースな表面は摩擦が減るため、エナメル質wearの摩耗は修復物の表面処理に大きく依存します。本研究では、グレージングしたジルコニアと比較して、鏡面研磨のジルコニアではMVLの減少が認められました。これらの知見と一致して、いくつかの研究では、12か月の臨床使用後、鏡面研磨されたモノリシックジルコニアと比較して、グレージングされたモノリシックジルコニアに関連するエナメル質wearの増加が明らかになりました。加えて、in vitroの研究では、Y-TZPセラミックを削った後には研磨が必須であることが示されました。一方で、グレージングは最悪の機械的性能になりました。その結果、二ケイ酸リチウムと比較したジルコニアのエナメル質wearの改善は、表面処理の特異性に影響されるようです。これらの結果に基づき、研磨を好ましい選択肢として支持することを提唱します。加えて、Mundheらはwearの挙動は表面硬さにより影響を受ける可能性を唱えています。ジルコニアはかなり硬いので、結果的に対合歯のwearの増加が予想されます。しかし、自然界の脆性材料のwearメカニズムは異なる事を示した研究があります。いくつかの研究では、材料の硬さはエナメル質wearの要因ではないと述べています(文献2、20、80)。さらに、ジルコニア表面正常に影響を与えるY-TZP中のイットリア含有量の違いも、エナメル質のMVLの違いに結びつくかもしれません。しかし、比較データを提供するための臨床研究がないため、これらの変数を検討することは不可能です。少なくとも、ジルコニアと二ケイ酸リチウムを比較した研究は数少なく、二ケイ酸リチウムのサンプルサイズも小さいため、本研究の二ケイ酸リチウムの結果は慎重に検討する必要があり、さらなるRCTが求められます。
セラミックシステムのMVL
セラミック材料は、咀嚼力からのwearに耐え患者の審美的な要求を満足させるために、口腔内環境で長期的に耐えるだけの良好な物性を有する必要があります。オールセラミック材料は摩耗耐性があると考えられます。結果的に、特にこの種の材料は近年、集中的に研究されてきています。しかし、臨床研究は比較的まれです。本研究では、ジルコニアの2年以内のMVLは、表面処理(グレージング/鏡面研磨)に関わらず20μmであることがわかりました。にもかかわらず、Selvarajらは鏡面研磨の方がグレージングよりもwearが少ないと報告しました。Suputtamongkolらは、in vivoで対合歯エナメル質のwearだけでなく、クラウン材料それ自身のwearを検討しました。二ケイ酸リチウムベースのベニアクラウンに関して、1年後のwear体積(mm3)は小臼歯で0.19(0.06)、大臼歯で0.34(0.08)でした。1年後のwearの垂直的高さ(μm)は小臼歯で29μm(12)、大臼歯で36μm(34)でした。Güthらは、二ケイ酸地理有無の平均wearは1か月あたり9.5(±4.3)μmだったと述べています。2年目にはwearの速度が低下しました。Kramerらは、二ケイ酸リチウムインレーで4年後のwearは78μmであったとのみ報告しています。Nazirkarらは、研磨された二ケイ酸リチウムとジルコニアクラウンのwearを比較しました。1年後の両群には統計的有意差はなかったと報告しています(二ケイ酸リチウム 40.06±7.03μm、ジルコニア 35.09±4.72μm)。陶材焼付鋳造冠に関しては、Etmanらが臨床研究を行い、6、12、18、24か月後の垂直的なwear量を報告しています。時間により材料のwearは増加すると報告しており、6か月後では87.06μm(2.96)、12か月後では116.3μm(4.70)、18か月後では142.30μm(3.91)、24か月後では176μm(3.93)でした。Silvaらは、陶材焼付鋳造冠の体積喪失は3年後に1.48mm3(0.20)だったと述べています。ベニアのない二ケイ酸リチウムの体積喪失は、3年後に1.06mm3(0.12)でした。Esquivel-Upshawらは、in vivoで6か月後と12か月後の陶材焼付鋳造冠とモノリシックジルコニア冠のwearを比較しました。6か月後のwearは両者ほぼ同じぐらい(40μm)でした。12か月後ではジルコニア(54.0μm)が陶材焼付鋳造冠(45μm)よりもwearが多い結果となりました。
陶材焼付鋳造冠と二ケイ酸リチウム表面のwearに関する研究が不足しており、両材料の安定性に関してはまだ不明な点が多いです。
測定方法
殆どの研究では、複模型を3Dレーザースキャナーでスキャンする方法が用いられていました。そのため、今のところ優れた再現性と相まって、間接法がゴールドスタンダードと考えられます。しかし、3Dレーザースキャナーの使用、不適切な複模型、画像マッチングの問題などがエラーの原因となります。マスター模型と複模型における咬合面幅径の違いは0.61~0.7%と報告されています。そのため、臨床条件下では、3Dレーザースキャナーの精度がさらに低下することが予想されます。対照的に、直接IOSを使う方法では、模型製作のステップを省略し、不正確な模型製作による潜在的なエラーを回避することができます。多くの研究者がデジタル化の進歩により直接法に移行しています。Mehlらは、3Dスキャンと3Dマッチングの真度は10.0±2.0μmであったと報告しています。そのため、wear解析の結果は常に注意深い解釈が必要です。wear分析における違いを比較すべきであり、臨床的測定の標準化が必要です。
Limitation
前述したとおり、本レビューの結果は採用した研究数の少なさから慎重に考えるべきです。さらに、表面処理、製作方法、大臼歯/小臼歯などの潜在的な関連影響因子を定量的に分析することはできませんでした。異質性を避けるために短期間の研究を選んだので、材料選択における長期的な安定性などは判断できません。本研究において、採用する可能性のある追加の補綴材料は見つかりませんでした(うまく訳せていません)。そのため、異なるセラミックシステムを比較するための長期間のRCTが今後望まれます。特に、CAD/CAMでミリング、プリント製作できるハイブリッド材料。加えて、インプラント上部構造のwearについても将来検討するべきです。
結論
一般的に、セラミック材料は天然歯よりも対合歯のエナメル質にwearを起こします。陶材焼付鋳造冠は他のセラミックシステムと比較してよりwearが起こりやすい材料です。本研究で採用した研究のサンプルサイズが小さいため、将来的によくコントロールされたRCTが必要です。
まとめ
適切な論文が少ないということで、今回は陶材、モノリシックジルコニア、二ケイ酸リチウムの3種類のみを検討しています。しかも多くがジルコニアであり、二ケイ酸リチウムは数が少なすぎるので、一概にこれだけで二ケイ酸リチウムが最も対合歯にやさしくて優れている、という結論は出せないと思います。ただし、従来使われてきた陶材と比較して、ジルコニアや二ケイ酸リチウムは遙かに対合歯をすり減らさないことは間違いないようです。ジルコニアはグレージングよりは鏡面研磨の方が良いというのは以前から言われていることですね。
また、今回の研究は全て2年以内の結果、というか殆どの研究は1年なので長期的な経過についてはよくわかりません。セット後1年ではなく数年後の結果が知りたいところです。二ケイ酸リチウムについての論文は読んでこなかったので次はそこら辺も読んでみようかなと思いました。