普通の歯科医師なのか違うのか

シリコーン系軟質裏装材はスポンジと中性過酸化物洗浄剤で清掃

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

今回は前回の続きの論文となります。前回の論文では、義歯ブラシの柔らかい、硬いのみを検討してどちらもリライン材表面が削れてしまったので、今回はそれよりも柔らかいスポンジを追加して実験しています。

Effect of mechanical and chemical cleaning on surface roughness of silicone soft relining material
Takeshi Saito , Takeshi Wada , Keitaro Kubo , Takayuki Ueda , Kaoru Sakurai 
J Prosthodont Res. 2020 Oct;64(4):373-379. doi: 10.1016/j.jpor.2019.10.007. Epub 2019 Nov 29.
PMID: 31787576

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31787576/

Abstract

Purpose: This study aims to investigate the effect of mechanical and chemical cleaning on the surface roughness of silicone soft relining materials.

Methods: We selected silicone soft relining materials with the highest (Soft) and lowest (Supersoft) Shore A hardness. In the abrasion test, specimens were cleaned 50,000 times using a kitchen sponge (Sponge), a soft (Soft brush) or hard (Hard brush) denture brush, or stored in water (No cleaning). In the immersion test, specimens were immersed in either water (Water), neutral peroxide denture cleanser (Neutral), alkaline peroxide denture cleanser (Alkaline), or hypochlorite denture cleanser (Hypochlorite) for 1440 h. Surface roughness of the arithmetic mean height of the surface (Sa) and maximum height (Sz) were measured before and after the tests. Data were analyzed using the Kruskal-Wallis and Mann-Whitney U tests.

Results: In the abrasion test, significant differences were observed for Sa and Sz with Soft relining materials, but not for No cleaning and Sponge. In the immersion test, significant differences were observed for Sa and Sz with Soft relining materials, but not between Water and Neutral or Water and Alkaline. Significant differences were observed with Supersoft, except between Water and Neutral or Water and Alkaline for Sa and between Water and Neutral for Sz.

Conclusions: Mechanical cleaning using a sponge did not increase the surface roughness of the material with a high Shore A hardness. Furthermore, neutral peroxide denture cleanser did not increase the roughness of materials with high and low Shore A hardness.

目的:本研究の目的は、機械的清掃と科学的洗浄がシリコーン系軟質理想材料の表面粗さに与える影響を検討することです。

方法:ショア硬さが最高(Soft)と最低(Supersoft)のシリコーン系軟質裏装材を選択しました。摩耗試験において、水中浸漬(試験なしのコントロール群)、台所用スポンジ、柔らかい義歯ブラシ、硬い義歯ブラシで50000回清掃を行いました。浸漬試験では、水、中性の過酸化物系義歯洗浄剤、アルカリ性の過酸化物系義歯洗浄剤、次亜塩素酸系義歯洗浄剤に1440時間浸漬しました。試験前後の表面粗さとして算術平均粗さ(Sa)と断面の最大高さ(Sz)を計測しました。統計処理には、Kruskal-Walis検定とMan-Whitney U検定を用いました。

結果:摩耗試験では、軟質リライン材のSaとSzで有意差を認めましたが、清掃とスポンジで有意差は認めませんでした。浸漬試験では、SaとSzで有意差を認めましたが、水、中性、アルカリ性の過酸化物系義歯洗浄剤間では有意差を認めませんでした。Supersoftにおいて、Saでは水と中性、水とアルカリ以外、Szの水と中性以外では有意差を認めました。

結論:スポンジを使用した機械的清掃は、高いShoreA硬度材料の表面粗さを増加しませんでした。さらに、中性の過酸化物洗浄剤は、ShoreAの高い材料でも低い材料でも表面粗さを増加しませんでした。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

義歯床下粘膜の菲薄化、抜歯後の顎堤吸収、大きな咬合力は痛みを引き起こし、調整してもよくならないかもしれません。

このようなケースでは、軟質リライン材によるリラインが痛みの軽減に有効です。アクリル系とシリコーン系の軟質リライン材が一般的に使用されています。アクリル系は粘弾性のお陰で、シリコーン系よりも高いクッション効果を有していますが、重合後時間が経つに従って可塑剤が溶出し、硬さが増加します。逆に、シリコーン系の硬さは、安定したシロキサンポリマーのお陰で比較的安定しており、長期間クッション効果を有しています。そのため、シリコーン系は軟質材料の第1選択となっています。硬質のアクリルレジンと比較して、軟質リライン材には真菌の早期の付着が認められます。さらに、義歯に付着する真菌の増加は、義歯性口内炎と誤嚥性肺炎と関連します。そのため、軟質リラインを行った義歯の効果的な清掃方法は重要です。

機械的清掃では義歯ブラシを使用しますが、化学的洗浄では取り外し可能な義歯を洗浄するために義歯洗浄剤を使用します。機械的清掃は物理的に義歯上のバイオフィルムを除去しますが、化学的洗浄はイオンにより細菌や真菌の蛋白質を溶解することにより義歯を消毒します。どちらか1つだけの方法よりも良い結果が得られるため、機械的、化学的清掃の併用が推奨されています。以前の研究で、シリコーン系軟質リライン材に対する義歯ブラシの使用で表面が荒くなりました。これにより真菌の付着が増加する可能性があります。歯科医師は、機械的清掃による表面粗さの増加を避けるために、軟質リライン材には化学的洗浄のみを選択するように患者に指導するかもしれません。

そのため、より効果的な清掃方法を目指すため、機械的清掃が軟質リライン材の表面を荒くするかどうかを確認する事は重要です。

太い直径の毛を有する義歯用ブラシはとても硬いです。歯ブラシ、義歯ブラシの硬さによる分類はISOで規定されています。一般的に、義歯用ブラシは硬くhardに分類されますが、軟質リライン材を用いた義歯に使用する義歯ブラシは柔らかく、softに分類されます。シリコーン系軟質リライン材料のブラシによる清掃はシリコーン表面が荒くなる原因となります。しかし、柔らかいブラシを使用すると表面の粗さは軽減します。我々は、義歯用ブラシよりも柔らかいスポンジを使えば、シリコーン系軟質リライン材の表面は粗さは変化しない、という仮説を立てました。

義歯洗浄剤は、酸性、中性、弱アルカリ性、強アルカリ性に分類されます。中性、アルカリ性は一般的にタブレット形態で市販されており、ホームケアで使用されています。義歯洗浄剤は、酵素系、過酸化物系、次亜塩素酸系に分類されます。次亜塩素酸系は、アルカリ性過酸化物系と比較して強い酸化力をもつために消毒効果が高いですが、アクリルレジンの表面を荒くします。加えて、アルカリ性過酸化物系による軟質リライン材の洗浄も表面を粗くします。一方で、中性の過酸化物で4か月浸漬しても表面は粗くなりませんでした。そのため、われわれの第2の仮説は、中性の過酸化物を用いて、シリコーン系軟質リライン材の表面を荒くする事なく義歯を洗浄することができる、としました。

本研究では、ブラシとスポンジを用いた機械的清掃、義歯洗浄剤を用いた化学的清掃が、シリコーン系軟質リライン材の表面粗さに与える影響を検討し、軟質リライン材の表面を粗くしない清掃方法を確認する事を目的としました。

実験方法

シリコーン系軟質リライン材

Shore A硬度、接着強さ、吸水性、溶解性がISOにより定義されています。シリコーン系軟質リライン材の摩耗耐性を検討するためにShore A硬度にフォーカスしました。最もShore A硬度の高い(48.8)材料であるGCリラインII soft、最も低いShore A硬度の低い(8.0)材料であるソフリライナースーパーソフト、2種類の軟質リライン材を選択しました。

試料

2mm厚板状の加熱重合型レジン(アクロンNo8)に厚さ2mmのアクリル板をパラフィンワックスで仮固定し積層しました。その後、フラスクに埋没し、埋没材硬化後に仮固定していたアクリル板を除去しました。プライマー塗布後、シリコーン系軟質リライン材を塡入し、30分間392Nで加圧し続けました。フラスクから取り出した後に10×20mmのサイズにカットしました。軟質リライン面に大きな気泡や傷がある試料は除外しました。10分間超音波洗浄を行い、埋没材を除去しました。超音波洗浄後はリライン材表面に触らないようにしました。

摩耗試験

水 未清掃群
キッチンスポンジ(Scotch-Brite 3M) 清掃群
硬い義歯ブラシ(Ci Denture Brush) 清掃群
柔らかい義歯ブラシ(Ci Denture Brush S) 清掃群

歯ブラシ摩耗試験機(K236)をもちいて、毎分150回、30mm幅、2.9N、室温25度±2度の水中という条件で摩耗試験を行いました。30秒間、1日4回、半年間をシミュレートするために、50000回反復させました。機械的清掃を行わず、摩耗試験時間(333分)水中に浸漬し続けた試料を同数用意しました。各群5個の試料を用いたので、合計は40個となりました。

浸漬試験

水道水
酵素入り中性過酸化物義歯洗浄剤(ポリデント)
酵素入りアルカリ性過酸化物洗浄剤(バトラーデンチャークリーナー)
0.5%次亜塩素酸義歯洗浄剤(ラバラック)

25度±2度で1440時間浸漬(1日8時間で6か月)
8時間ごとに液を交換
次亜塩素酸洗浄剤がポジティブコントロール、水道水がネガティブコントロール
各群5個試料で合計40個

表面粗さ

3次元レーザー顕微鏡を用い、1280×1280μmの範囲を10倍拡大で表面粗さを計測
250μmの波長をカットオフ
算術平均粗さ(Sa)と断面の最大高さ(Sz)を各資料の中央部5点で計測
計測は摩耗試験、浸漬試験前後

軟質リライン材の表面の形態を測定:3次元電子顕微鏡
摩耗試験:50倍 1800×2400μmの範囲
浸漬試験:500倍 180×240μmの範囲

統計解析

SaとSz:kruskal-Wallis検定
摩耗試験と浸漬試験:Man-Whitney U検定
有意水準:5%

結果

摩耗試験

図1、図2に摩耗試験の結果を示します。ソフトでは、スポンジと未清掃群以外でSaとSz両方で有意差を認めました。スーパーソフトでは、SaとSz両方で全群間で有意差を認めました。

図3と図4に摩耗試験後の表面形状の結果を示します。ソフトでは、スポンジ清掃後の表面粗さは未清掃と同等でした。一方で、義歯用ブラシ両方による清掃は未清掃よりも表面が粗い結果となりました。スーパーソフトでは、スポンジ、義歯用ブラシ両方は、未清掃よりも表面が粗い結果となりました。

浸漬試験

図5、図6に浸漬試験の結果を示します。ソフトでは、水と中性過酸化物、水とアルカリ性過酸化物間に以外でSaもSzに有意差は認めました。スーパーソフトでは、Saの水と中性過酸化物、水とアルカリ性過酸化物間、Szの水と中性過酸化物間以外で有意差を認めました。

図7、図8に浸漬試験後の表面形状の結果を示します。ソフトでは、中性、アルカリ性過酸化物の表面粗さは水と同等であり、次亜塩素酸は水よりも表面が荒くなっていました。スーパーソフトでは、中性過酸化物の表面粗さは水と同等でしたが、アルカリ性過酸化物、次亜塩素酸は水よりも表面が粗くなっていました。

考察

Shore A硬度の高いソフトでは、SaとSzは義歯ブラシでの清掃で増加しましたが、スポンジでは変化がありませんでした。Shore A硬度の低いスーパーソフトでは、SaとSzは義歯ブラシだけでなくスポンジでの清掃後に増加しました。架橋構造が多ければ、物質の硬さを増加させます。本研究で用いたシリコーン系軟質リライン材の引っ張り強さは、ソフトで3.85MPa、スーパーソフトで1.06MPaでした。架橋構造の密度がこの2つの材料の硬度と引張り強さに相関していると考えられます。そのため、架橋構造の密集が粗い表面の形成を防いだため、ソフトにおいてスポンジによる清掃では表面構造が破壊されませんでした。逆に、柔らかく、架橋構造が密集していないスーパーソフトでは、スポンジによる清掃でも破壊され、表面が粗くなりました。これらの結果から、Shore A硬度の低い軟質リライン材には、表面が荒くなるため、義歯ブラシまたはスポンジによる機械的清掃は行うべきではない事が示唆されました。

ソフトでは、次亜塩素酸浸漬群でSaとSzが水中浸漬群よりも増加しました。スーパーソフトでも次亜塩素酸浸漬群でSaとSzが水中浸漬群よりも増加しました。次亜塩素酸の酸化作用による軟質リライン材の架橋構造により、表面粗さが増加すると考えられます。

過酸化物は中性もアルカリ性も次亜塩素酸よりは酸化力は低いです。本研究で使用した過酸化物の義歯洗浄剤には、漂白効果を有する過酸化物が入っています。また、クエン酸のような効果を無効化する他の酸も含まれています。この抑制効果は、過酸化物の酸化力に依存します。これらの結果から、過酸化物は次亜塩素酸よりもシリコーン系軟質リライン材に表面性状に与える影響が少ない事が示唆されます。使用した次亜塩素酸系洗浄剤のpHは12.5で、アルカリ性過酸化物は8.5、中性過酸化物は7.4でした。pHはイオン量に影響し、pHが7未満なら水素イオンが増加し、pHが7より大きければ水酸化物イオンが増加します。水酸化物イオンの量が多いほど、液の変性特性が高まります。一方、アルカリまたは中性過酸化物義歯洗浄剤はpHが7に近いため、pHの高い次亜塩素酸と比較して、シリコーン系軟質リライン材の表面を粗くしません。

表面の観察の結果は、表面粗さの計測の結果と一致しました。摩耗試験後の表面の粗さは裸眼でわかるレベルであり、電子顕微鏡の弱拡大(50倍)で確認することができました。しかし、浸漬試験では、裸眼で表面の違いを見分ける事はできず、電子顕微鏡の強拡大(500倍)でないと確認する事ができませんでした。

ソフトとスーパーソフト両方において、次亜塩素酸浸漬後の表面は粗くなっていました。表面の粗さ計測でも同様の結果でした。

清掃後の表面の粗さはShore A硬度によると考えられます。勿論、たった2種類のシリコーン系軟質リライン材しか使用していない本研究で結論づける事は出来ません。私達は時間の制約上、Shore A硬度が最も大きい、最も小さい材料を選択しました。これが本研究のlimitaitonです。

機械的清掃で表面が粗くなるの防止するため、シリコーン系軟質裏装材では化学的洗浄のみを行うべきと推奨されます。しかし、義歯に付着した真菌や細菌は、機械的清掃と化学的清掃の併用で効果的に除去する事ができます。そのため、シリコーン系軟質リライン材表面ができるだけ粗くならないように、機械的清掃と化学的清掃の両方を行うべきです。Shore A硬度の大きいソフトでは、中性過酸化物による化学的洗浄、スポンジによる機械的清掃は表面を荒くしません。スポンジによる機械的清掃と中性過酸化物義歯洗浄剤の併用後のシリコーン系軟質リライン材の表面粗さは、機械的清掃のみと同程度でした(追加データ)。そのため、Shore A硬度の大きなシリコーン系軟質リライン材には、中性過酸化物義歯洗浄剤とスポンジの併用が適しています。本試験において、水浸漬後および水道水浸漬後に表面粗さが増加した群では、洗浄前に比べて洗浄後に真菌の付着が増加した可能性があります。しかし、真菌の付着は本研究では観察されませんでした。一方で、確実に結論づけることはできません。

結論

摩耗試験では、スポンジによる清掃はシリコーン系軟質リライン材の表面をあまり粗くしません。浸漬試験では、中性過酸化物はシリコーン系軟質リライン材の表面をあまり粗くしません。

まとめ

自分が使っている軟質リライン材のshore硬さがわからないので、スポンジを使って良いかどうかが難しい所ですが、安全を考えると軟質リライン面は流水下で軽く指でこする+化学的洗浄ぐらいがよいかもしれませんね。どちらにしても軟質リライン面に義歯ブラシを使用しない方がよいですね。

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
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