普通の歯科医師なのか違うのか

義歯の超音波洗浄、温水にした方が効果が高い

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

できれば、化学洗浄の際の水温の効果を比較した論文を探していたのですが、うまく見つけられませんでした。ただし、徳島大学が超音波洗浄の水温の違いを検討していたので、それを読んでみたいと思います。Jstageなのでダウンロードフリーで有り難いです。参考文献に化学洗浄の温度に関するものがあるかもしれません。

Effect of water temperature during ultrasonic denture cleaning
Yuki Iwawaki, Takashi Matsuda, Kosuke Kurahashi, Tsuyoshi Honda, Takaharu Goto, Tetsuo Ichikawa
J Oral Sci. 2019;61(1):140-145. doi: 10.2334/josnusd.17-0387.

PMID: 30918210

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30918210/

Abstract

Denture plaque is a biofilm composed of various microorganisms aggregated with saliva. Various denture cleansers and cleaning apparatuses have been developed and studied. However, the optimum water temperature for denture cleaning is unknown. Therefore, the present study investigated the effects of water temperature during ultrasonic denture cleaning. In vitro, resin disks with artificial Candida albicans biofilm were pressed onto Candida GE media after ultrasonic cleaning with water at different temperatures for 5 min. The media were subsequently cultured at 37°C for 24 h. The colonies formed were observed and colony areas were quantified using ImageJ software (US National Institutes of Health, Bethesda, MD, USA). In situ, the bacterial count and degree of cleanliness on the tissue surface of maxillary dentures were measured before and after ultrasonic cleaning with water at different temperatures for 5 min. Changes in bacterial counts and cleanliness were calculated for each temperature. The ratio of the area occupied by bacterial colonies in vitro and reduction rates in situ after cleaning with warm water were markedly less than those observed after cleaning with cold water. Therefore, ultrasonic denture cleaning with warm water is more effective.

デンチャープラークは様々な微生物で構成されたバイオフィルムです。様々な義歯清掃器具、清掃装置が開発され研究されてきました。しかし、義歯清掃の際の適切な水温はわかっていません。そのため、本研究では、超音波洗浄字の水温の効果について検討しました。in vitroで、Candida albicansバイオフィルムを形成したレジンディスクを、異なる水温で5分間超音波洗浄した後に、Candida GE培地に圧接しました。培地を37%24時間培養しました。コロニー形成を確認し、コロニー数をイメージソフトを用いて計測しました。また、in situで、超音波洗浄前後の上顎義歯表面の細菌数と清潔さを計測しました。細菌数と清潔さの変化は、どちらの水温でも観察されました。ib vitroでのコロニーが占めるエリアの割合と、in situでの減少率は、温水の方が冷水よりも遙かに小さくなりました。そのため、温水を用いた超音波洗浄はより効果的です。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して意訳要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

アジアの多く(特に日本)とヨーロッパ諸国は、高齢化に関する課題に直面しています。高齢者、介護が必要な医療的に脆弱な人が増加しています。高齢者では、よい口腔衛生は誤嚥性肺炎を予防するというYoneyamaらの報告以降、口腔衛生の重要性が広く認識されるようになっています。特に、周術期口腔管理と感染コントロールの予防的効果は、MRONJ患者や、悪性腫瘍の外科療法、化学療法、放射線療法を受けている患者においても報告されています。義歯におけるプラークコントロールは、義歯装着者において口腔衛生を維持するには重要です。

デンチャープラークは、通常のプラークと同様に、唾液で集積された微生物で構成されたバイオフィルムです。デンチャープラークは口臭、虫歯、歯周病、義歯性口内炎、誤嚥性肺炎と関連します。細菌数に基づいた旧来の評価法に加えて、アデノシン三リン酸(ATP)、アデニル酸(AMP)拭き取りによる義歯の清潔さを評価する方法も使用されます。これら2つの方法は包括的に義歯の衛生状態を評価する事ができます。

数多くの研究が、機械的な清掃と化学的な洗浄の併用を推薦しています。化学的な洗浄方法、例えば、義歯洗浄剤、消毒薬、水、が開発され、その有効性が報告されてきました。水温の高さと細菌数の関連性についてはGlassら(文献17)により調査されています。しかし、温水(30~40度)が細菌数に与える影響に関しては殆ど知られていません。そのため、本研究では、超音波洗浄における水温が、細菌数と義歯の清掃性に与える影響をin vitroとin situ両方で検討しました。

実験方法

In Vitroにおけるバイオフィルムの解析

C.albicansバイオフィルムモデルの準備(図1)

C.albicansバイオフィルムモデルを以前報告した方法を用いて準備しました。デンチャープラークから分離した株であるC.albicans CAD1を使用しました。ブレインハートインフュージョン培地にて37度24時間培養し、遠心分離により1.0×108CFU/mLの濃度に調整しました。100nmol/Lのグルコースと2.5mol/LのN-アセチルグルコサミンを添加したYeast Nitrogen Base培地40mLに、調製したC. albicans懸濁液(1.0×106CFU/mL)40μLを添加して調製しました。

C.albicansバイオフィルムを直径13.5mmの義歯床用アクリルレジンディスク上で発育しました。レジンディスク表面を70%アルコールと紫外線照射で滅菌しました。その後、レジンの表面をムチンで処理しました。目的のために、0.5mg/mLのムチンをレジン表面に配置し、遠心分離下で37度10分間培養しました。C. albicansは最初表面に付着します。レジンディスクをリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄しました。次に、C.albicans懸濁液3mLを加え、遠心分離下で37度60分培養しました。C.albicansのレジンディスクへの付着が認められます。その後、再度リン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、新しいYeast Nitrogen Base培地に移し替え、遠心分離下で37度48時間培養し、バイオフィルムを形成しました。

超音波洗浄

バイオフィルムを形成したレジンディスクを16度、30度、40度の異なる温度の水道水に浸漬し、10分間超音波洗浄しました。コントロールとして、水道水にレジンディスクを10分浸漬しました。超音波洗浄中、水温を確認しました。水温は、アクリルレジンにダメージを与える可能性のある温度よりも低く保たれました。

コロニーの観察とコロニー領域の測定

処理済みのレジンディスクをリン酸緩衝生理食塩水で2回洗浄し、乾燥しました。レジンディスクをCandida GE medium培地上に1秒軽く圧接し、撤去しました。培地は37度24時間培養しました。その後、培地上のコロニーを写真撮影し、イメージソフトウェアにて領域を計算しました。コロニー占有領域比(コロニー領域/培地領域*100)を各温度別に比較しました。

In situ

徳島大学補綴科において、清掃前の24個の上顎全部床義歯を本研究で調査しました。上顎右側大臼歯部の関心領域の義歯粘膜面を滅菌コットン綿棒で清掃し、スワブにおける細菌数を細菌カウント装置を用いて計測しました。右側小臼歯部の関心領域を検査キットで拭き取り。ATP+AMP検査装置を用いて清掃度を測定しました(図2)。

その後、義歯を水中浸漬し、5分間超音波洗浄しました。3種類の水温(16度、30度、40度)にて洗浄しました。8つの義歯をランダムに各水温群に振り分けました。洗浄後、義歯を乾燥し、細菌数、清掃度を同様に測定しました。洗浄後の計測部位は、洗浄前と反対側の、左側の大臼歯部と小臼歯部としました。減少率を、清掃前の値ー清掃後の値/清掃前の値*100(%)として計算し、各水温で比較しました。

統計解析

Kruskal-Walis検定+Dunn検定とMann-Whitney U検定を用いました。全ての有意水準は5%としました。

結果

In Vitro

図3Aに異なる水温でのレジンディスク上のC. albicansのコロニーを示します。肉眼的な観察では、コロニー形成は超音波洗浄群で抑制されている事がわかります。特に、水温30度、40度のコロニー形成は16度と比較して抑制されています。

図3Bに各水温でのコロニー占有領域比を示します。超音波洗浄により領域比は著しく減少しました。特に水温が高い30度、40度では、16度と比較して著しく減少しました。非洗浄群では、30度での占有領域比は他の温度よりも有意に小さい結果となりました。

In situ

図4に各水温での超音波洗浄後の細菌数の減少率と清掃度について示します。16度洗浄群は最少の細菌数減少率を示しました。40度洗浄群では、最大の細菌数減少率と最大の清掃度を認めました。清掃度については16度と30度、40度で大きな差を認めました。細菌数減少率では各群で有意差を認めませんでしたが、減少率は水温が上がるほど大きな傾向を認めました。

考察

デンチャープラークは、義歯表面の唾液由来のペリクル、微生物が産生する細胞外多糖類、様々な血液成分、細菌の共凝集体に付着した様々なStreptcocci、Staphylococciを含む好気性菌、通性嫌気性菌などのコロニーで構成されたバイオフィルムです。

本実験では、電気的細菌数測定とATP+AMP拭き取り法による2つの方法を用いました。電気的細菌数測定法では、誘電泳動インピーダンス測定法(DEPIM)を適用して細菌数を測定しました。この測定法は、電極に細菌を捕捉し、インピーダンスの変化に注目することで細菌濃度(CFU/mL)を測定します。この測定は、臨床現場で高齢者を対象に頻繁に行われています。一方、ATP+AMP拭き取り法では、発光酵素であるルシフェラーゼが発する発光量と、変換されるATP+AMPの量を測定しました。ATP+AMPは生体組織に共通して存在するという概念を用い、微生物や食品残渣の量を測定することで、汚染の程度を測定しました。Watanabeらは、ATP拭き取り法により歯科のユニットの水回りの汚染を簡便で迅速に調べる事ができると報告しています。さらに、Gillespieらは、ATP拭き取り検査は内視鏡の清潔さを調べるのに簡便で有益であると報告しています。本研究では、電気的細菌数測定とATP+AMP拭き取り法の両者により、義歯表面の清潔さを正確に調査することができました。

適切な義歯の清掃として、ブラシを用いた機械的清掃と、洗浄剤を用いた化学的清掃が求められます。超音波洗浄は、微細な超音波振動を用いた機械的清掃法で、デンチャープラークの除去に非常に効果的です。Cruzらは、超音波洗浄と義歯洗浄剤の併用が真菌の除去に効果的であると報告しています。加えて、義歯洗浄剤、電解水、次亜塩素酸ナトリウム水溶液など、様々な無菌化された溶液の使用がCandida属の除去のために報告されています。

超音波洗浄と義歯洗浄溶液浸漬の基本的特性、特に水温の影響については、これまでの研究では十分検討されていません。そのため、本研究において、水温の違いによる超音波洗浄の効果の違いをin vitroとin situで評価しました。in vitroでは、レジンディスク上のC. albicansバイオフィルムが使用されました。デンチャープラークを、酵母と菌糸両方の形態を有するC.albicansの存在により特徴付けしました。C. albicansバイオフィルムは、in vitroで臨床に近い義歯洗浄の評価を可能にします。in situにおいては、チェアサイドで超音波洗浄中の水温の影響を細菌数測定とATP+AMP活性を用いて評価しました。

in vitoとin situの結果から、水温は清潔さに影響する事が示唆されました。この効果は40度と高めの水温で最も識別可能でした。義歯床用アクリルレジンは40度以上の温度にも耐久性があります。本研究で用いた40度という最も高い水温は、義歯の変形を起こさず、臨床的に使用される温水の温度と近似しています。

40度の水温で見られた効果を説明する事はできませんが、温度が高いほどシンナムアルデヒドの作用によるC. albicansの菌糸形成が阻害されることが提唱されています。さらに、40度は微生物が成長するのに適した温度ですが、バイオフィルムの微生物間に存在する細胞間タンパク質や結合が増殖中に一時的に緩み、結果的に超音波振動による義歯洗浄効果が高まったかもしれません。

約30~40度の温水での超音波洗浄は、冷水よりもより効果的である、と結論づける事ができます。これは、細菌数と清潔度の解析により評価されました。清掃の強化は、口腔衛生を促進する簡単で経済的な方法であり、医療や看護ケアに広く影響を与えます。

まとめ

基本的に過酸化物の洗浄剤は温水の方が発泡効果が高まるので、冷水よりも洗浄効果が高いということが知られています。しかし、今回は単純に水温+超音波洗浄、しかも5分だけで、デンチャープラークに影響するとはなかなか驚きの結果です。なぜこうなるかについてのメカニズムはまだよくわからないわけですが、どちらにしても40度程度のお湯で洗浄するのがお勧めということでしょう。歯科医院で義歯を超音波で洗浄している所も多いと思いますが、その際に冷水ではなく、少し温水にするだけ効果アップが期待できるということです。

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