普通の歯科医師なのか違うのか

補綴治療で栄養状態が改善するか?

2021/06/24
 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

昔は歯を治せば自動的に栄養も改善すると考えられていました。しかし、単純に歯を治すだけではなく、それが機能や状態にどういった効果があるのかを評価する時代になってきました。

今回は2018年のJournal of Dentistryに掲載された論文で著者はイギリス、ドイツ、アイルランド、スイスとなかなか国際色豊かな感じになっています。

Impact of prosthodontic rehabilitation on the masticatory performance of partially dentate older patients: Can it predict nutritional state? Results from a RCT
Sara Wallace , Stefanie Samietz , Meriem Abbas , Gerald McKenna , Jayne V Woodside , Martin Schimmel 
J Dent. 2018 Jan;68:66-71. doi: 10.1016/j.jdent.2017.11.003. Epub 2017 Nov 10.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29129784/

Abstract

Objectives: With a decreased number of teeth, a reduction in chewing function can contribute to changes in food choices and ultimately impact on overall nutritional status. This study compared the impact of two tooth replacement strategies for partially dentate older patients on masticatory performance and nutritional status.

Methods: Patients aged 65 years and older were randomly allocated to two different treatment groups. For the RPDP-group (removable partial dental prostheses) each participant was restored to complete dental arches with cobalt-chromium removable prostheses. For the SDA-group (shortened dental arch), participants were restored to 10 occluding pairs of natural and replacement teeth using adhesive bridgework. Masticatory performance was assessed with a colour-mixing ability test. Each patient provided haematological samples that were screened for biochemical markers of nutritional status. Patients were also assessed using the Mini Nutritional Assessment (MNA).

Results: Eighty-nine patients completed the test for masticatory performance and provided blood samples and MNA scores at baseline (BL) and after 12 months (12m). Masticatory performance (p<0.001) and MNA (p<0.05) increased significantly in both groups, but no significant between group differences were noted. A mixed picture was observed for nutrition biomarkers. Mixed-effect linear regression models did not demonstrate that nutritional status could be predicted from masticatory performance.

Conclusions: These results indicate that prosthodontic rehabilitation according to the principles of the SDA is equivalent to RPDPs in terms of restoration of chewing capacity for partially dentate older patients. However, masticatory performance may only have minor associations with nutritional status for this patient group.

Clinical significance: Replacing teeth with either RPDPs or SDA provides a prerequisite for efficient chewing. Further research is required to determine the impact of oral rehabilitation coupled with nutritional counselling for this patient population.

目的:歯の喪失に伴い咀嚼機能の低下が起こり、それは食品選択の変化、最終的には栄養状態に影響を与える可能性があります。本研究の目的は、部分的に歯を喪失した高齢者に対して、2種類の補綴方法が咀嚼機能と栄養状態へ与える影響を比較する事です。

実験方法:65歳以上の高齢者はランダムに2つの治療群へ割りふられました。部分床義歯群(RPDP群)はコバルトクロム合金による義歯の補綴治療により歯列を回復しました。短縮歯列群(SDA群)は10本の咬合を作るように接着性ブリッジによる固定が行われました。咀嚼機能は色変わりガムによる評価を行いました。また栄養評価として血液検査とMNAによる評価を行いました。

結果:89名の患者でベースラインと12か月後のデータを収集することができました。咀嚼機能とMNAは両群で有意に増加しました。しかし、両群間で有意差は認めませんでした。線形混合モデルによる結果では、咀嚼機能は栄養状態の予知因子ではありませんでした。

結論:この結果は、短縮歯列の原則による補綴治療は、高齢者の部分欠損患者の咀嚼能力の回復という観点では義歯治療と同等である、ということを示唆しています。しかし、今回の被験者群においては咀嚼機能と栄養は弱い創刊誌か認めませんでした。

臨床的重要性:RPDPまたはSDAで歯を補うことは、効率的な咀嚼のための前提条件となります。口腔リハビリテーションと栄養カウンセリングの組み合わせが、このような患者にどのような影響を与えるのか、さらなる研究が必要です。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

高齢になっても天然歯を維持する高齢者が増えています。天然歯の保持は非常に良いことですが、天然歯は特に唾液分泌低下と相まって慢性歯科疾患の大きなリスクとなります。加齢に伴う全身疾患により、残存する天然歯や取り外し可能な歯科補綴物の清掃が非常に困難になるため、メンテナンスの負担が非常に大きくなります。Gondaらは、取り外し可能な部分歯科補綴物(RPDP)は、さらなる多数の歯の喪失の重要な要因となり、口腔疾患の原因となる可能性があると述べています(文献3)。

高齢者の場合、食べ物を咀嚼する能力の認識は、天然歯の残存数や咬合歯の数と密接に関連していることが示されています。社会経済的地位、文化的信念、個人的な好みなど、食べ物の選択に影響を与える可能性のある要因は数多くあります。しかし、咬んだり噛んだりする物理的な能力も非常に重要です。歯のない患者は歯のある患者に比べて咀嚼能力が低下することがわかっています。これは、食べ物の選択行動に変化をもたらし、食べ物の楽しさを減少させることが示されています。さらに、歯の減少とその放置は死亡リスクと関連します。残存歯が少なくなると、高齢者は柔らかい食品を中心とした食習慣を身につけます。柔らかい食品は栄養素や食物繊維が少なく、カロリーや糖質が多い傾向があります。

咀嚼機能の最も重要な予測因子は、天然歯および歯科補綴物の数と分布です(文献15)。咬合歯を失うと咀嚼効率が低下し、栄養状態にも影響を及ぼす可能性があります。 歯列が減少した状態での咀嚼効率は、咀嚼能力は最大40%低下する可能性があり、義歯はこの機能的欠陥を部分的にしか補うことができません(文献17,18)。歯科補綴によるリハビリテーションは、部分的に歯が生えている高齢者の咀嚼能力を向上させるには、様々な結果が得られることが実証されています(文献19)。この研究の目的は、部分的に歯が生えている高齢者のRPDPとSDAに修復した患者の咀嚼効率を比較することです。また、咀嚼機能の改善が全体的な栄養状態の改善と関連するかどうかを調査することも目的としました。

実験方法

研究デザイン

2種類の治療に関するRCT(2センター)です。

研究対象:65歳以上、片顎に最低6本以上の健全歯、欠損補綴の希望あり、歯科ユニットで治療ができる、歯科治療を妨げる全身疾患がない

治療

補綴治療開始前に、保存不可の歯の抜歯、虫歯の充填処置、口腔衛生指導と非外科の歯周治療などの標準的な歯科治療を行いました。
RPDP群では、コバルトクロム合金によるフレームワークを用いて完全な歯列の回復を行いました。
SDA群では、接着ブリッジによる修復を行い小臼歯部までの咬合を確立しました(大臼歯なし)。

どちらも同一ラボの同一テクニシャンが製作しています。
義歯の設計やSDA群のブリッジの連結範囲などの記載はありませんでした。

データ収集

口腔関連QOL:OHIP-14
咀嚼機能:色変わりガム(Vivident Fruitswing “Karpuz/Asai Üzümü”, Perfetti vanMelle, Turkey)
栄養状態:MNA、血液検査(アルブミン、コレステロール、フェリチン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンD

サンプルサイズについては計算を行った結果、最低でも1群20人以上は必要という結果になっています。

統計解析

平均値の比較にはStudent’s t-testで、比率の比較には二項検定を用いて頻度を比較しました。正規分布を持つ2つの変数の間の関連性を検出するためにPearsonの相関を用い、2つの変数の間の関連性の強さと方向性を示しました。咀嚼能力は、線形回帰でさらに分析され、最適な予測構造を見つけるためにいくつかのモデルが実行されました。また、固定効果とランダム効果の両方に柔軟に対応し、予測因子を年齢や性別でコントロールできるようにするために、線形混合効果モデルも構築しました。

結果

RPDP群44名、SDA群45名

各群間の状態について表1に示されています。介入前の性別、年齢、残存歯数、機能歯数は有意差なしです。介入12か月後の機能歯数は、歯列全てを復元したRPDP群は機能歯数のMAXが14のため平均が13.9となっています。短縮歯列群は大臼歯が上下4本ずつありませんので10本で、ここは有意差を認めています。 

咀嚼機能

咀嚼機能に関してはベースライン時は、両群間に有意差を認めませんでした。介入12か月後では、両群共に介入前よりも有意に咀嚼機能が向上しました。ただし、12か月後の両群間の咀嚼機能に有意差は認めませんでした。

栄養指標

両群に共通する血液マーカーを調査するために線形混合効果モデルが構築されました。
12か月後の両群間で有意差が認められなかったのは、ビタミンB12、葉酸、フェリチン、アルブミン、総コレステロール、ビタミンDでした。一方で、MNAは研究期間中に若干の有意な改善を示しましたが、両群間で有意差は認めませんでした。

栄養状態の予知因子

介入前、介入後においても咀嚼機能とMNAまたは血液マーカーとの間に有意な相関を認めませんでした。

線形混合効果モデルによると、MNAは介入終了後の測定点毎に増加しました。年齢が高いほどMNA低値と有意に関連を示し、それは低栄養状態と関連するということです。同じ統計モデルを適用したところ、ビタミンD濃度は試験期間中に上昇し、評価時点から予測することができました。その他の予測可能な因子はすべて、適用した回帰モデルでは統計的に有意ではありませんでした。

考察

要約すると、このRCTは、RPDPまたはSDAの原則に従ってリハビリテーションを行った部分的に歯が生えている高齢者において、咀嚼機能の有意な改善を示しました。RPDPを用いた患者では機能歯の数がSDA患者より有意に多かったわりに、咀嚼機能の向上には有意な差はありませんでした。本研究の結果、線形回帰モデルに基づく栄養状態と咀嚼機能の関連性は一貫していないことが明らかになりました。しかし、咀嚼機能の向上に伴い、MNAを含むいくつかの栄養パラメータが改善されました。

歯の数と咬合している臼歯の数は、咀嚼機能の最も重要な予測因子の1つとされています(文献15、29、30)。しかし、部分的に歯が生えているRPDP患者,特に咀嚼や義歯の安定が困難な両側遊離端義歯を装着した患者では,このことは当てはまらないようです。これらの所見は、SDA治療を受けた患者が長期的に十分な咀嚼機能を持ち、満足のいく快適性と外観を得られることを示唆した以前の臨床試験データと相関しています(文献5、31-33)。また、SDAコンセプトに基づいた治療は、高齢の患者にとってより適切な治療法である可能性があり、この治療法であればより快適に噛むことができると感じられるという研究結果もあります(文献25、33、34)。この研究ではさらに、歯に関連するさまざまな要因(年齢と性別を考慮したベースライン時と12ヵ月後の天然歯の残存数および咬合歯のペア数)が、咀嚼能力の有意な予測因子ではないことを示しています。この結果は、サンプル数が少ないことが原因と思われますが、口腔内の健康状態と咀嚼能力の間に関連性があることを示した先行研究(文献35) と矛盾しており、この集団の咀嚼能力についてさらなる研究が必要であることを示唆しています。この研究では、すべての患者が補綴治療の前に標準的な口腔ケアを受け、歯にフィットした状態になっていることを認識する必要があります。これは、失われたユニットを交換しなくても、咀嚼能力にプラスの影響を与えたかもしれません。

可撤式部分床義歯は一般的な歯の補綴治療ですが 、部分的に歯が生えている高齢者への使用にはいくつかの制限がある。これらには、主に審美性の低下や口腔内の不快感を理由とした不使用や、う蝕や歯周炎などの歯科疾患のリスクの増加などがあります。高齢者の多くは、保険による歯科治療の一環としてRPDPを受けていますが、RPDPによる治療が保険を有効に活用しているかどうか、また、当該患者にとって最も効果的な治療法であるかどうかについては、現在、新たな議論の対象となっています。RPDP治療の代わりに利用できるものとしては,短縮歯列弓(SDA)コンセプトなどの機能的なアプローチがあります。この戦略は、咀嚼機能と審美的目的のために必要であると考えられている前歯と小臼歯に焦点を当て、10対の咬合歯からなる機能的歯列を提供することで許容可能なレベルの口腔機能を達成することを目的としています。この治療法は患者が容易に維持でき、臨床家にも受け入れられることが示されているが、SDA治療は十分に活用されていないアプローチであり、場合によっては禁忌であることが示唆されています。

ベースラインおよび12ヶ月間の咀嚼能力は、栄養状態の様々なマーカーやMNAスコアとは有意に関連しませんでした。口腔内に問題のある高齢者は、いくつかの食品を避けることが多く、栄養不足のリスクがあることが観察されています。天然歯を失った患者が取り外し可能な義歯を装着した場合、食事の選択が改善されることを示した研究もあれば、ほとんど変化がないことを示した研究もあります (文献45)食物の選択と食事は、歯の状態に加えて、社会経済的地位や教育的達成度など、多くの要因に影響されます。本研究では、回帰モデルを用いて、ベースライン時と12ヵ月時に評価された栄養状態のマーカーを含む因子を用いて、2つの異なる時点(ベースライン時と12ヵ月時)における咀嚼能力とその差を予測しました。テストした因子はいずれも咀嚼能力の有意な予測因子ではありませんでしたが、これはモデルの適合性が悪かったか、サンプルサイズが小さかったことが原因である可能性があります。咀嚼能力、口腔の健康状態、および様々な栄養状態のマーカーの関係については意見が分かれており(文献35,46)、この分野でのさらなる研究の必要性が強調されています。

まとめ

今回の論文に明確なLimitationの記載はありませんでした。
補綴治療に合わせて栄養指導を行ったかどうかなどは不明です。
また、欠損状態については記載がありません。ブリッジもどういった削り方だったのか、例えば5欠損でカンチレバーブリッジになったりしている人がいるのか?などは論文ではわかりませんし、義歯の設計などに関しても同様です。

ガム咀嚼は混合能力にどちらかというと重きを置いた咀嚼能力試験であり、ピーナッツを用いた従来型の篩分法やグミゼリーなどによる粉砕能力をみる試験では結果が変わる可能性はあると思います。現在、咀嚼能力を1つだけで表現できる試験はありませんし、今後もそういった評価法の確立は難しいのではないかと思います。

ピーナッツを使って部分床義歯装着の効果をみた論文もあります。

回の被験者群は平均で17~18本程度歯を有しており、ある程度歯が残っている人達と考えられます。そういった群に義歯による咬合回復、または小臼歯まで歯を揃えてあげることにより、ガム咀嚼による咀嚼機能が向上し、MNA自体も有意に向上しました。つまりある程度歯が残っているとしても治療介入は行った方が栄養的にも良い、という根拠になると思います。

MNAは栄養の評価法としてメジャーな方法です。興味がある方は以下のリンクから御覧ください。なお、左上の部分だけ使用した物をMNA-SF(short form)といい、こちらはMNAの簡易型として頻繁に用いられています。
https://www.mna-elderly.com/forms/MNA_japanese.pdf

今回の実験系はおそらくSDAの有用性を示す実験系で著者もそういう結論の持って行き方をしています。義歯で7-7まで全て回復しなくてもSDAで5-5まで回復すれば同等という結論なんでしょうが、SDAの歯列は第2小臼歯を1本でも失うとバランスが崩れそうなので、長期安定性やもし歯を喪失した場合の移行しやすさ、なども検討すべきではないかと思った次第です。ま、駄目になったときに義歯を作ればいいと考えればSDAも悪くない?でも義歯使うかな?とか色々と考えてしまいます。

全部床義歯において単純に新義歯を製作しただけでは栄養は改善しなかったという論文があります。また、EichnerB2,B3あたりから咬合力や咀嚼機能が急激に低下するという論文もあります。今回の論文と併せて考えると、無歯顎や多数歯欠損は義歯を作っても咀嚼機能は歯がしっかり残っているレベルまで改善しないので、食べ方もしっかり指導しないといけませんよ、と言うことなのかな、と思いました。

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
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徳島大学
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