普通の歯科医師なのか違うのか

虫歯を予防するには1日何回歯磨きすればいいのか?メタアナリシス(2016JDR)

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

なんか面白いレビューをみつけたので読んでみる

色々と検索していたら面白そうなレビューをみつけたので読んでみることにしました。歯磨きの頻度と虫歯についてのシステマチックレビューです。答えはもう知っているような気がするのですが、自分が思っている答えと一緒かどうか確認します。

Effect of Toothbrushing Frequency on Incidence and Increment of Dental Caries: A Systematic Review and Meta-Analysis
S Kumar , J Tadakamadla , N W Johnson 
J Dent Res. 2016 Oct;95(11):1230-6. doi: 10.1177/0022034516655315.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27334438/

Abstract

Toothbrushing is considered fundamental self-care behavior for maintenance of oral health, and brushing twice a day has become a social norm, but the evidence base for this frequency is weak. This systematic review and meta-analysis aims to assess the effect of toothbrushing frequency on the incidence and increment of carious lesions. Medline, Embase, Cinahl, and Cochrane databases were searched. Screening and quality assessment were performed by 2 independent reviewers. Three different meta-analyses were conducted: 2 based on the caries outcome reported in the studies (incidence and increment) with subgroup analyses of categories of toothbrushing frequency; another included all studies irrespective of the caries outcome reported with the type of dentition as subgroups. Meta-regression was conducted to assess the influence of sample size, follow-up period, diagnosis level for carious lesions, and methodological quality of the articles on the effect estimate. Searches retrieved 5,494 titles: after removing duplicates, 4,305 remained. Of these, 74 were reviewed in full, but only 33 were eligible for inclusion. Self-reported infrequent brushers demonstrated higher incidence (odds ratio [OR], 1.50; 95% confidence interval [CI], 1.34 to 1.69) and increment (standardized mean difference [SMD], 0.28; 95% CI: 0.13 to 0.44) of carious lesions than frequent brushers. The odds of having carious lesions differed little when subgroup analysis was conducted to compare the incidence between ≥2 times/d vs <2 times/d (OR: 1.45; 95% CI: 1.21 to 1.74) and ≥1 time/d vs <1 time/d brushers (OR: 1.56; 95% CI: 1.37 to 1.78). When meta-analysis was conducted with the type of dentition as subgroups, the effect of infrequent brushing on incidence and increment of carious lesions was higher in deciduous (OR: 1.75; 95% CI: 1.49 to 2.06) than permanent dentition (OR: 1.39; 95% CI: 1.29 to 1.49). Findings from meta-regression indicated that none of the included variables influenced the effect estimate.

歯磨きは口腔健康維持のための基礎的なセルフケアであると考えられます。1日2回の歯磨きは社会的な基準であるが、頻度に関するエビデンスは弱いです。このシステマティックレビューとメタアナリシスの目的は歯磨きの頻度が虫歯の発生、増加に与える影響を調べることです。

2人のレビュアーが独立して論文検索と質の評価を行いました。3つの異なるメタアナリシスを行いました。2つは虫歯の発生、増加をアウトカムした研究で歯磨き頻度を分析しました。その他は歯列のタイプでサブグループ分類を行った研究を分析しました。メタ回帰をサンプルサイズ、フォローアップ期間、虫歯の診断レベル、研究の質が効果推定に与える影響を調べるために行いました。

5494本の研究をピックアップし、最終的に33本が残りました。歯磨き回数が少ないと答えた人は、歯磨き回数が多い人より高い虫歯の発生 (odds ratio [OR], 1.50; 95% confidence interval [CI], 1.34 to 1.69) 、増加 (standardized mean difference [SMD], 0.28; 95% CI: 0.13 to 0.44) を認めました。歯磨き回数が1日2回以上か2回未満か、または1回以上か1回未満かで比較を行うと虫歯の発生は大きな差はありませんでした。歯列の種類をサブグループに分けてメタ解析を行ったところ,乳歯列 (OR: 1.75; 95% CI: 1.49 to 2.06) の方が永久歯列 (OR: 1.39; 95% CI: 1.29 to 1.49) よりもむし歯の発生および増加に対するブラッシング頻度の影響が大きくなりました。メタ回帰の結果、どの変数も効果推定値に影響を及ぼさないことがわかりました。

ここからはいつもの通り本文を適当に抽出して要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

緒言

歯磨きはセルフケアの基本であり、CDCも1日2回歯を磨くことを推奨しています(CDC2014)。しかし、歯磨き頻度と虫歯予防の関連性は不明瞭です。エビデンスは一貫性がなく複雑です。1986年に複数の口腔衛生に関するワークショップからの結論を元にしてAddyは歯磨剤からのフッ素イオンのデリバリーと歯磨きの頻度より優る虫歯予防はないと結論づけました。多くの研究が歯磨き頻度と累積的な虫歯の関連性について報告していますが、虫歯の増加と歯磨き頻度について評価したトライアルは強い逆相関を認めた1本しか発見できません。コクランも1日2回の歯磨きはフッ化物歯磨剤の効果を高め、虫歯の増加を抑制すると結論づけています。

歯磨き頻度と歯肉退縮(Rajapakse et al. 2007)、頭頚部がん、歯周病についての関連性を評価したシステマティックレビュー+メタアナリシスが行われてきました。しかし、歯磨き回数とう蝕との間に明確な関連性があるかどうかの証拠は曖昧なままであり、この問題を具体的に検討したシステマティックレビューは見つかりませんでした。

このシステマティックレビューとメタアナリシスの目的は歯磨きの頻度が虫歯の発生、増加に与える影響を調べることです。

実験方法

論文の選択

システマティックレビュー+メタアナリシスの方法はPRISMAに準拠しています。
歯磨き頻度と虫歯の発生および増加に関するケースコントロール、縦断、後ろ向き、トライアル研究が対象です。
同一被験者をもちいた複数の論文に関しては、最新の論文以外は除外しています。
虫歯の発生に関して食事などの要素を検討しているが、歯磨き頻度を検討していないものは除外しています。
1980年以降の英語論文
被験者のキャラクター、年齢は制限無し
虫歯の増加に関しては、治療した部位もカウントしますが、歯の喪失はカウントしていません。また被験者が虫歯の数を自己申告した論文は除外しています。

論文の質

抽出された論文の質に関してはthe Effective Public Health Practice Project (EPHPP)によるツールを用いました。EPHPPのツールは6項目からなり、それぞれを強い、中等度、弱いの3項目で評価。総合的に強いは全ての項目で弱いがない場合、中等度は弱いが1つまで、2つ以上弱いがある場合は弱いになります。

データ解析

Revman5.3を使用してメタアナリシスを行っています。ほとんどの研究(16 件)では,オッズ比(OR)が要約推定値として報告されていました。7 件の研究では、歯磨きカテゴリの標準偏差とサンプルサイズに加えて、むし歯の「平均増分」という連続データが報告されており、標準化平均差と標準誤差の算出が可能でした。値を報告していないが、歯磨き回数の効果が統計的に有意でないとした2件の研究については、OR = 1の効果推定値をインプットし、標準誤差はその比較で報告された値の平均値としてインプットしました。これらの研究を除外した感度分析はランダム効果モデルを用いて行いました。統計的調整に用いられる可能性のある交絡変数が研究によって異なるため、メタアナリシスでは未調整の効果推定値を用いました。

歯磨きの頻度についての定義も各研究で異なり、2つ以上カテゴライズされている論文もありました。そういう場合、最も歯磨き頻度が多い群とその他の群の虫歯の発生、増加についての比較をから効果推定値を求めました。15の研究では1日2回以上、7つの研究では1日1回以上、1つの研究では1日2回より多い、という回数の設定でした。

異質性はI2統計をもちいて検討しました。I2値が40%未満の場合は低異質性、30~60%の場合は中等度の異質性、75~100%ではかなりの異質性と判断しました。異質性の原因を明らかにするために、サブグループ分析とメタ回帰分析を行いました。報告された虫歯の結果(すなわち、発生率と増加率)に基づいて2つの異なるメタアナリシスを行い、報告された歯磨き頻度のカテゴリーに基づいてサブグループ分析を行いました。虫歯の発生または増加に対する歯磨き頻度のプール効果を報告するために、暴露変数は、頻繁に歯磨きをする人(各研究で最も歯磨き頻度が高い被験者)と、あまり歯磨きをしない人(各研究のその他の被験者)に分類されました。3つ目のメタアナリシスは、虫歯の結果にかかわらず、歯列のタイプをサブグループとして報告されたすべての研究のデータをプールして行いました。

サブグループ解析では考慮されなかった交絡変数が効果サイズに及ぼす影響を探るためメタ回帰分析を行いました。考慮した変数は,サンプルサイズ、フォローアップ期間、むし歯の有無の診断レベル、研究の質です。

結果

抽出した研究

論文を審査した結果、定性的には33の研究が、定量的には25の研究が採用されました。メタアナリシスは25本の内容となります。

殆どの論文は先進国のもので、約半分はヨーロッパ、6本はフィンランド、5本はスウェーデン、7本はアメリカでした。フォローアップ期間は11か月~15年でした。8本以外は全て幼児、小児が被験者でした。11本は乳歯列における虫歯をアウトカムとして扱っていました。3本は混合歯列の虫歯をアウトカムとしていました。3本は被験者数が100名以下で7本は1000人以上でした。

論文の質は13本が強い、14本が中等度、6本は弱いと判断されました。

歯ブラシの頻度と虫歯の発生、増加

歯磨き回数が少ないと答えた人は、歯磨き回数が多い人より高い虫歯の発生 (odds ratio [OR], 1.50; 95% confidence interval [CI], 1.34 to 1.69) を認めました。歯磨き回数が1日2回以上か2回未満(OR:1.45; 95% CI: 1.21 to 1.74)か、または1回以上か1回未満(OR: 1.56; 95% CI: 1.37 to 1.78)かで比較を行うと虫歯の発生に関して大きな差はありませんでした。 異質性は認められませんでした。

1日2回未満の歯磨き回数は、2回以上と比較して有意に虫歯の増加が起こりました(standardized mean difference [SMD]: 0.34;95% CI: 0.18 to 0.49)。1日2回より多いと2回以下では有意差を認めませんでした。全体として歯磨き回数が少ない事と虫歯の増加は相関しました。この結果は異質性がかなり認められました。

乳歯列、永久歯列における歯磨き頻度と虫歯発生、増加との関連性についてですが、両歯列において歯磨き頻度が少ない場合には虫歯の発生、増加が増加する可能性があります。この関連については永久歯列(OR: 1.39; 95% CI: 1.29 to
1.49)より乳歯列(OR: 1.75; 95% CI: 1.49 to 2.06)が強い結果となりました。

異質性については乳歯列は低異質性、永久歯列は中等度異質性でした。

メタ回帰

メタ回帰分析の結果では、どの変数も効果推定値に影響を与えませんでした。その他出版バイアスなども認められませんでした。

考察

対象とした研究のほとんどは、ベースライン時の歯磨き頻度とフォローアップ時のむし歯病変の増加を記録していました。

ほとんどの研究は,中程度あるいは強い質を有していましたが、対象者、研究環境、フォローアップ期間、虫歯の診断方法、むし歯のアウトカムなどが異なっていました。ほとんどの研究では、虫歯になった病変のみをむし歯と診断していましたが、いくつかの研究では。虫歯になっていない病変もむし歯と診断していたため、これらの研究ではそれぞれむし歯を過小評価、過大評価していたと考えられます。しかしメタ回帰分析の結果、これらの潜在的交絡変数はいずれも効果推定値に影響を与えていませんでした。

研究で用いられたブラッシング頻度の分類にかかわらず、歯磨き頻度の低い人は頻度の高い人に比べて、虫歯の発生および増加のリスクが高い結果となりました。ただし、1日2回以上のブラッシングをしている人のむし歯増加リスクは1日2回以下の人と有意差はなかったが、この推定値は1つの研究から得られたものであり、慎重に検討する必要がある。歯磨き回数は自己申告制であり、子どもの場合は親や介護者からの申告であるため情報の正確性は保証されません。この種の社会的に許容される行動については、被験者が回答を誇張する傾向があると考えられます。歯磨きの頻度は、永久歯列よりも乳歯列の方が虫歯の影響を受けやすいためか、発生率や増加率の抑制に効果的でした。

歯磨きによって歯のバイオフィルムを効果的に除去すれば、新たなむし歯発生を抑えることができると広く信じられていますが、特に歯磨きの頻度に関しては根拠が弱いと言わざるを得ません。ほとんどの人が歯磨きだけではバイオフィルムの最適なコントロールを達成できないことが認識されており、歯磨き粉に含まれるフッ素がう蝕予防において重要であると考えられています(Choo et al.2001)。今回のメタアナリシスでは、どの研究も歯磨き粉に含まれるフッ化物の寄与を分離することはできませんでした。しかし、いくつかの研究から得られた知見に基づき、歯磨き粉中のフッ化物とは無関係に、頻繁に歯磨きをする人はむし歯の発生リスクが低いことを確認しました。3つの研究では、歯磨き頻度と歯磨き粉中のフッ化物を別々の変数として考え、歯磨き粉の種類の影響は有意ではないが、歯磨き頻度が少ないとむし歯状の発生と関連することを明らかにしました。2つの研究では、歯磨きの頻度と歯磨き粉中のフッ化物の存在の両方が、むし歯性病変の発生率の低下と関連していると結論づけています。

Limitation

ブラシや毛の性質、デザイン、歯磨きの時間、歯磨き方法、歯磨剤の種類などが詳細に解析されていない。
虫歯の診断基準が研究で異なる。
歯磨剤にフッ化物を含むかどうかで分離できていない。

ポイント

虫歯予防を考えると歯磨きは1日0回よりは1回、1回よりは2回が良さそう。
1日3回絶対に磨かないといけない強いエビデンスはない。
乳歯の方が歯磨き頻度と虫歯の関連性が強い。
フッ化物の影響はこの論文からは明確ではない。

まとめ

歯磨きをする意味は虫歯と歯周病対策です。

虫歯に関してはどちらかというと歯磨剤に含まれるフッ化物を歯に届けるために歯磨きをするという意味もあります。歯磨きとフッ化物使用は上記考察で色々言われていますが、虫歯対策に関して併用すべきものであると認識しています。つまり、虫歯を予防するためにフッ化物入りの歯磨剤を使用しないというのは片手落ちの可能性が高いということです。

そして、フッ化物を歯面に届ける意味で1日2回の歯磨きは合理的であるとこの論文からも考えられます。この論文だと回数やるだけいい、みたいな結果になってしまっています。アウトカムが虫歯の発生と増加なので当然そうなるわけですが、やりすぎると歯肉を傷つけたりする可能性も高くなりますので、オーバーブラッシングは控えるべきです。

歯周病に関してはプラークを機械的に除去しないといけませんので、虫歯よりも遙かに歯磨き方法や回数で差が出ると予想されます(論文を読んでいないのであくまで個人的な予想です)。

今回集めた論文は先進国中心ですが、被験者の社会経済的要素によっても差は出ると思います。今回の論文では特に考慮されてはいないようです。

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