普通の歯科医師なのか違うのか

深い虫歯を間接覆髄か全部一気に削るかで予後に差があるか-ランダム化比較試験による結果

2020/02/15
 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

2010年のデンマークからの論文

前回の続きなんですが、もう1本気になった論文があったので読んでみることにしました。
この論文はオープンではなかったので、大学の知り合いにリクエストして送って頂きました。

深い虫歯(カリエス)を全部一気に削るのか、それとも少し虫歯を残して薬をいれてある程度待ってから再度虫歯を削るか、というのは臨床的にも悩む所です。
一気に削ると神経まで到達する可能性があるからです。これを歯科的には露髄といいます。
少し虫歯を残して薬をいれて、虫歯の下に象牙質様の物質が出来るのを期待する行為を間接覆髄と言います。虫歯を削ると神経までいっちゃうかも、というときに間接覆髄を行って数ヶ月待ってから再度虫歯を削れば、虫歯の裏に新しい歯質様の物質が出来ているので神経にはいかないよ!という事です。

また、神経が出てしまった場合にその部分に直接薬を置いて蓋をする方法(直接覆髄)と部分的に神経をとってしまう方法(断髄)との予後比較も行っています。

今回の論文は症例をランダマイズして行って比較しているのが特徴です。こういった実験系を組むのは凄く難しいわけで貴重な論文といえるでしょう。
オープンではないので、文章を全部出すのは控えたいと思います。

Bjørndal et al. Treatment of deep caries lesions in adults: randomized clinical trials comparing stepwise vs. direct complete excavation, and direct pulp capping vs. partial pulpotomy. Eur J Oral Sci 2010. 118:290-297,2010.

Abstract

Less invasive excavation methods have been suggested for deep caries lesions. We tested the effects of stepwise vs. direct complete excavation, 1 yr after the procedure had been carried out, in 314 adults (from six centres) who had received treatment of a tooth with deep caries. The teeth had caries lesions involving 75% or more of the dentin and were centrally randomized to stepwise or direct complete excavation.
Stepwise excavation resulted in fewer pulp exposures compared with direct complete excavation [difference: 11.4%, 95% confidence interval (CI) (1.2; 21.3)]. At 1 yr of follow-up, there was a statistically significantly higher success rate with stepwise excavation, with success being defined as an unexposed pulp with sustained pulp vitality without apical radiolucency [difference: 11.7%, 95% CI (0.5; 22.5)]. In a subsequent nested trial, 58 patients with exposed pulps were randomized to direct capping or partial pulpotomy. We found no significant difference in pulp vitality
without apical radiolucency between the two capping procedures after more than 1 yr [31.8% and 34.5%; difference: 2.7%, 95% CI ()22.7; 26.6)]. In conclusion, stepwise excavation decreases the risk of pulp exposure compared with direct complete excavation. In view of the poor prognosis of vital pulp treatment, a stepwise excavation approach for managing deep caries lesions is recommended.

深いカリエスの場合、非侵襲的なカリエス除去が提案されることがあります。私たちは段階的にカリエスを除去する方法(ステップワイズ)と完全に1回でカリエスを除去する方法に関して実験を行いました。6つの施設において深いカリエスの治療を行った314名の成人被験者を術後1年後に比較を行いました。患歯は象牙質の75%以上がカリエスに罹患しており、どちらの治療に振り分けられるかはランダムに振り分けられました。

ステップワイズ法によるカリエス除去は、全て除去する方法に比べて露髄が少ない傾向を認めました。非露髄、生活歯髄で根尖部に透過像を認めない状況を成功と定義すると1年後の調査ではステップワイズ法の方が成功率が有意に高くなりました。引き続き58人の露髄した患者において直接覆髄または部分断髄をランダムに振り分けて治療を行ったところ、1年以上後の根尖周囲にX線透過性のない生活歯髄の割合には有意差を認めませんでした。

結果として、ステップワイズの方が露髄のリスクを低下させることがわかりました。歯髄処置の予後があまりよくない観点からも、ステップワイズ法は深いカリエスには推奨されます。

Material and Method

ここからは訳さずに解説でいきます。

必要なサンプルサイズは統計的に計算し有効なのは1群134名以上のサンプルサイズとなり、ドロップアウト率15%として総勢308名以上の数が集められています。

被験者振り分け

被験者はデンマークの2大学とスウェーデンの4施設を受診した患者さんです。
18歳以上でレントゲン上で象牙質の75%以上にカリエスを認めるが、カリエスと歯髄との間には境界明瞭な不透過性の歯質が一層残存している事が条件です。
患者さんの中には痛みを訴える人がいましたが、その痛みは冷水またはエアーにより誘発されるものと限定しました。
深刻な痛みで夜も寝られない、アタッチメントロスが5mm以上、根尖部に透過像、妊娠、実験に参加できそうにない全身性疾患、インフォームドコンセントの欠如などといった場合は被験者から除外しました。

もし露髄した場合には歯髄が保存できるか判定をして、可能なら直接覆髄または断髄をランダムに割り付けます。58名中直接覆髄が27名、断髄が31名でした。

かなり細かい症例のチョイスが記載されていますが、今回は省きます。

治療方法

ステップワイズ法

可及的にカリエスをとりつつ、歯髄に近接している部位のカリエスは意図的に温存し、ダイカルにて間接覆髄を行いました。また、その上はアイオノマーセメントで仮封をしました。8~12週後にリエントリーしてカリエスを全て除去しました後に水酸化カルシウム製剤で裏装後にCR充填を行いました。

1回でカリエスを全て取り切る場合

最初に全てのカリエスを除去した後に同じ様にダイカルを裏装後にアイオノマーセメントで仮封を行いました。8~12週後にリエントリーしてダイカルは残したままでアイオノマーセメント部をCRに置換しました。

直接覆髄

カリエスをラバーダム下にてエキスカを用いて削除し終わった段階で露髄した場合、生理食塩水で歯髄を洗い、5分以内の止血後にダイカルを用いて直接覆髄を行いました。上記方法と同じアイオノマーセメントにて仮封を行いました。1か月後にリエントリーを行い、CR充填に置き換えました。その際、露髄周辺のアイオノマー等は温存しました。

断髄

露髄した部位の歯髄を1~1.5mmラウンドのダイヤモンドバーで除去しました。あとの方法は直接覆髄と同様です。

結果判定

施術後1年以上たってから治療の結果を判定しました。ステップワイズに関しては歯髄が生活反応を示し、根尖部にX線透過像を認めない事を判定基準としました。

歯髄の生活反応は冷刺激または電気刺激にて陽性であることとしました。根尖部透過像は他の部位と比べて2倍以上歯根膜腔が拡大しており、歯槽硬線が消失している事を判断基準としました。

結果

結果をみると明らかにステップワイズの法が、1回で全てのカリエスを取ろうとするよりも露髄していない事がわかります。

また1年以上経った際に歯髄が生活反応を示し、根尖部に透過像がない、という効果判定に関してもステップワイズ法が統計的に有意に優れていました。

経過が良好となるか、それとも露髄してしまうか、を目的変数としたロジスティック回帰分析も行っています。

実は結構施設間でオッズ比に差が出てしまっている結果となっています。
テクニックセンシティブな所も大きいので施設や術者による差が出ているのは仕方無いといえば仕方無いですが・・・。


50歳以上だと露髄せず予後良好になりやすいようです。
やはり若者は歯髄腔が大きいから露髄しやすく、加齢の影響で歯髄腔が狭窄してくるからでしょうね。

また、ステップワイズ法の方が1回で全てカリエスを取り切る方法よりも1.74倍露髄せずに予後良好になりやすく、治療前の痛みがある場合ない場合と比較して2.38倍露髄しやすいという結果になりました。

露髄した際の治療法の比較ですが、露髄しなかった場合よりも遙かに成功率が下がります。

この結果からすると、神経を温存するためにはまず第一に露髄をできるだけ避ける事が重要ということになるかと思います。

まとめ

露髄した際に削片を押し込んだりする可能性もあり、処置の不確実性をこの論文では成功率の低さの原因としてあげていますが、確かにそうだと思います。

今現在、マイクロを用いた今回紹介した断髄よりもかなり大きな断髄が商業誌で紹介されていますが、マイクロでみてもこの神経は断髄でいいのかは確実に判定できるわけではないと思います。

また、今回の論文ではケミカルサージャーリーは行っておらず、そこら辺が予後に影響している可能性は否定できません。

水酸化カルシウム製剤であるダイカルよりもMTAを使えば露髄面の処置はもっと予後がよくなるのではないか、という事も考えられますが、そこらへんは別の論文を読んでみないといけないですね。この論文自体が少し古い論文ですから、今は状況が変わってきているかもしれません。

当院、実はダイカルを置いてないので間接覆髄に対応していないのですが、これを読んでダイカルはやはり入荷して50代以上で痛みが少ない場合に間接覆髄を選択する方がよいかな、と思った次第です。

前回のブログ

カリエスリスクの文献考察でした。

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