普通の歯科医師なのか違うのか

口腔機能とMCIは関連する

2020/02/15
 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

オーラルフレイル第3段

国家試験や模擬試験でかなり忙しい時期になりましたのでブログの更新が遅延し気味です。

今まで読んできた論文

オーラルフレイルはフレイルや要介護、死亡のリスクとなりうるという柏スタディからの論文

次に口腔内の特定機能低下を自覚している高齢者は外出頻度が低下するという高島平スタディからの論文

高島平スタディではうつ傾向が口の中の機能低下に影響を与えている事が示唆されていました。

今回は口の中の機能をみて認知症の前段階とされるMCI(軽度認知障害)が推測できるかどうか、という論文です。そして今回は大府スタディ。

MCIという言葉は最近テレビのCMでもよく耳にします。保険会社のCMでしたね。MCIは正常と認知症の境界領域であり、認知症を完全に治す特効薬や治療法は今現在存在しないことから、このMCIという境界領域で歯止めをかけるのが重要というのが最近の流れです。

今回の論文

Oral function as an indexing parameter for mild cognitive impairment in older adults. Watanabe Y et al. Geriatr Gerontol Int. 2018 May;18(5):790-798. doi: 10.1111/ggi.13259. Epub 2018 Jan 30.

PMID: 29380503

なんとこの論文  Geriatrics Gerontology International Best Article Award 2018を受賞してます。凄い!

Abstract

Aim: To investigate the association between mild cognitive impairment (MCI) and oral status, and to develop an oral-based screening index for MCI.

Methods: A cross-sectional study was carried out in a total of 5104 community-dwelling adults (aged ≥65 years) from the Obu Study of Health Promotion for the Elderly. Screening for MCI included a standardized personal interview, Mini-Mental State Examination, Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool (which included 8 tasks used to assess logical memory, word list memory, attention and executive function, processing speed, and visuospatial skill) and oral status.

Results: In our study, 930 individuals were diagnosed with MCI, whereas the remaining 2669 were not. Both men and women with MCI showed a significantly lower number of functional and present teeth, poorer oral diadochokinesis, and less palpation of masseter muscle tension (P < 0.01). Discriminant analysis of participants with MCI, between categories of pertinence and non-pertinence, showed significant associations for age, sex, educational background, handgrip strength, Geriatric Depression Scale score, Mini-Mental State Examination score, history of heart disease, albumin level and oral diadochokinesis representing oral motor skill. Although the diagnosis rate of our screening index for MCI was not high, it was in the acceptable range as a screening index.

Conclusions: Oral motor skill, such as lip movement, might be impaired in patients with MCI. Detecting decreasing oral motor dexterity supports the early detection of MCI, and might be key to improve the prognosis of dementia.

本研究の目的は口腔内状況とMCIの関連性について調査を行い、MCIを示唆する口腔に基づいた指標まで発展させることです。

方法:大府スタディから65歳以上の地域在住高齢者5104名を抽出して横断研究を行いました。MCIのスクリーニングには個人への標準化されたインタビュー、MMSE、Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool、口腔内状態が含まれます。

この Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool というのは国立長寿医療センターが開発したツールのようで National Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool (NCGG-FAT) というもののようです。 タブレット型 PC を用いた検査で、専門家でなければ実施 が困難であった認知機能検査を研修修了者であれば、誰でも認知機能検査の実施ができる ようにしたツールと記載がありますが、実際どのようにやるかまでは調べられませんでした。以下のリンクをご参照くださいhttps://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/767249.pdf

結果:930名がMCI、2669名がMCIではないと診断されました。MCIの男女共に現在歯数、機能歯数の減少、オーラルディアドコキネシスの機能低下、咬筋触診時の筋緊張低下が有意に認められました。MCIを伴う被験者の判別分析の結果、年齢、性別、学歴、握力、うつ尺度、MMSE、心疾患の既往、アルブミン値、オーラルディアドコキネシスが有意に関連性がありました。MCIのためのスクリーニング指標の診断レートは高くはないですが、スクリーニング指標としては適切な範囲と考えられました。

結論:口唇の動きのような口腔機能がMCI患者において低下する可能性があります。口腔機能の巧緻性低下を把握することがMCIの早期発見に繋がり、認知症予後を改善する鍵となる可能性が示唆されました。

今回もここから適当に本文を要約意訳します。誤訳もあり得ますので気になった方は原文をチェックして頂けますようお願いします。

イントロダクション

認知症患者数は今後も増加して2050年に今の3倍になると推計されています。しかし、認知症に対する根本的な治療法は現在もありません。予防法についてはいくつか存在しており、MCIの段階で早期発見して止めるというのが重要です。高齢者の多くは歯科治療を受診する機会があります。口腔内でMCIの傾向がわかればMCIの早期発見に繋がります。

実験方法

被験者

色々削除要件があって、最終的にMCIが930名、MCIでない人が2669名となっています。当然ですがすでに認知症と診断される認知レベルの被験者等は削除されています。

評価項目

1 身体項目
身長体重、Muscle mass index、握力、歩行速度、skeltal muscle mass index

2 質問表
年齢、性別、独居、教育歴、週毎の喫煙歴、アルコール摂取、日常会話、外出頻度、既往歴、GDS、MMSE

3 口腔内項目
残存歯数、機能歯数(補綴歯数含む)、口腔衛生状態、咬筋の緊張度、咬合力、咬筋の厚み、オーラルディアドコキネシス

4 血液検査項目
総蛋白、アルブミン、中性脂肪、総コレステロール、クレアチニン、LDH

MCIの評価

MCIの評価は以前の論文で確立した手法を用いています。
既往歴、ライフスタイルなどをインタビューします。
また、認知面についてはMMSEと National Center for Geriatrics and Gerontology-Functional Assessment Tool (NCGG-FAT) を用いて評価しています。
MMSE23以下は認知症として扱われる領域のため、今回は対象から除外しています。

結果

口腔機能以外においてMCIと非MCI群で有意差が出たのは以下の赤線の項目になります。

口腔機能に関しては性別+トータルにおいて検定しています。

咬合力や咬筋の厚みはMCI群と非MCI群で有意差は認めませんでした。
現在歯数、オーラルディアドコキネシスのパとカ音、咬筋の緊張に関しては男性、女性、トータル全てにおいてMCIと非MCI群間で有意差を認めました。

年齢により筋力や機能は落ちていくわけでMCI群の方が年齢が有意に高いので、年齢を調整しないと因果関係を説明することができません。

判別分析を行い、MCIと関連する診査項目を検定しています。

有意差があったのは
性別
年齢
教育歴
オーラルディアドコキネシスのパ音
握力
GDS
MMSE
アルブミン値

となります。

MCIを各項目で表現すると以下の式に今回はなったようです。

MCI screen (MCIS; simple diagnosis score) = 567 + 68 × x1 (sex; 1, women; 2, men) − 2 × x2 (age at testing) + 20 × x4 (palpation of the masseter muscle; 1, strong; 2, weak) − 19 × x5 (ODKpa) − 17 × x7 (ODKka) − 16 × x8 (educational background) − 3 × x12 (handgrip strength) − 44 × x13 (walking speed) +9 × x14 (GDS score); at MCIS >50, the patient was judged as group 1 (withMCI); at MCIS <50, the patient was judged as group 2 (non-MCI).

口腔内に関してはオーラルディアドコキネシスのパ音のみMCIと関連したということになります。

パ音は口唇の動きを表現する物ですが、口唇機能低下のために発音が不明瞭になる会話が困難になり得ます。
対照的に舌機能を表現するカ音とMCIには有意差が認められませんでした。これに関してはカ音はパ音よりもより高度な口の動きである舌圧が影響する巧緻性によるものだからと考えられるというディスカッションになっています。

Because of impaired lip function, an individual’s speech can become unclear and, thus, might make conversation difficult. In contrast, there were no significant differences regarding the ability to pronounce the /
ka / sound, representing tongue motor function and MCI. It is necessary to move the tongue when pronouncing / ka / sounds, respectively, and tongue pressure could affect dexterity; more advanced oral motor skills are thus required for these sounds in comparison with / pa /.

口唇や舌機能の低下により食の内容や量、楽しさなどが低下し、栄養状態がで低下→身体的、認知的な機能低下が起こり認知症発症を促進する
という連鎖であると説明しています。

まとめ

歯科は当然ですが口をよくみる職業です。

しかし、口唇や舌機能を見る習慣がある歯科医師はまだそれほど多いわけでは無いと思います。
どちらかというとやはり歯を中心に見てしまうわけです。
自分もやはりそうです。

そういった意味で今後は口唇や舌機能などもしっかり網羅していきつつ、オーラルフレイル、MCI等への気付きや介入が大事なのかな、と思いました。

口の機能は全身状態を反映する、または全身状態に先行する可能性があります。
今後起こる全身状態の悪化を予期できるとすれば口の中って非常に重要だな、という思いを新たにしました。

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