普通の歯科医師なのか違うのか

高齢者において口腔機能低下と外出頻度低下は関連がある

2020/02/15
 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

オーラルフレイル特集

前回は日本のオーラルフレイル系論文でおそらく最も有名である柏スタディの論文を読みました。適当に検索するとザクザク出てくるので楽しいです。今回の論文も適当にpubmedで検索して面白そうだったので拾ってきました。

前回のブログは以下のものになります。

口腔機能と外出頻度?

今回は2019年にパブリッシュされた論文です。

口の機能と外出するかどうかなんて関係あるわけがない・・・と普通は思うわけですが、そうではないのです。

Mikami Y et al. Association between decrease in frequency of going out and oral function in older adults living in major urban areas. Geriatr Gerontol Int. 2019 Aug;19(8):792-797. doi: 10.1111/ggi.13715. Epub 2019 Jul 2.

PMID: 31267649

Abstract

Aim: To examine the association between a decrease in the frequency of going out and oral function in independent older adults living in the urban area of Tokyo.
Methods: The participants analyzed were 785 older adults from the “Takashimadaira Study” (344 men and 441 women, age 77.0 ±4.6 years). This study investigated the following items: decrease in frequency of going out; basic characteristics (sex, age); physical factors, such as oral function (difficulty chewing, difficulty swallowing, dry mouth); body pain; the Japan Science and Technology Agency Index of Competence; physical activities; psychological factors, such as the Geriatric Depression Scale-15 score; and social and environmental factors, such as the presence or absence of participation in organization activities.
Results: To investigate the factors associated with a decrease in frequency of going out, logistic regression analysis showed an association with age (OR 1.08, 95% CI 1.03–1.13), difficulty chewing (OR 2.41, 95% CI 1.52–3.83), dry mouth (OR 1.68, 95% CI 1.07–2.64), body pain (OR 1.78, 95% CI 1.14–2.78), Japan Science and Technology Agency Index of Competence scores (OR 0.91, 95% CI 0.84–0.99), physical activities (OR 0.99, 95% CI 0.98–1.00), Geriatric Depression Scale-15 scores (OR 1.13, 95% CI 1.05–1.21) and organization activities (OR 1.94, 95% CI 1.22–3.07). Covariance structural analyses showed that both “difficulty chewing” and “dry mouth” significantly affected “decrease in frequency of going out.” In addition, decrease in frequency of going out was significantly affected by “ Geriatric Depression Scale-15 scores” through oral function.
Conclusions: The relationship between oral function and decrease in frequency of going out was clarified, after the multifaceted factors were adjusted.

目的:東京郊外に済む自立高齢者の外出頻度の減少と口腔機能の関連性について検討する事です。

方法:被験者は高島平スタディに参加した785名(男性344名、女性441名、平均年齢77±4.6歳)です。この研究では以下の項目を調査を行いました。
外出頻度の減少
基本的な情報(性別、年齢)
身体的な要素(例えば咀嚼しづらさ、嚥下しづらさ、口腔乾燥などの口腔機能)
身体の痛み
JST版活動能力指標
活動量
心理的な要素(例えば老年期うつ病評価尺度)
社会的環境的要因(例えば何か組織的な活動に参加しているかなど)

結果:ロジスティック回帰分析の結果、外出頻度の減少と以下の項目に相関が認められました。OR:オッズ比
年齢 OR 1.08
咀嚼しづらさ OR 2.41
口腔乾燥 OR 1.68
体の痛み OR 1.78
JST版活動能力指標 OR 0.91
活動量 OR 0.99
老年期うつ病評価尺度 OR 1.13
組織活動 OR 1.94
共分散構造分析から、咀嚼しづらさと口腔乾燥は有意に外出頻度の減少に影響していました。加えて外出頻度の減少は老年期うつ病評価尺度による影響を有意に受けていました。

結論:多因子の調整を行えば外出頻度の減少と口腔機能は明確に関連性があります。

ここからはいつもの通り本文を適当に要約します。誤訳もあり得ますので、気になったら実際の本文をご確認ください。

実験方法

被験者

高島平に住む70歳以上の高齢者7614名を対象に行った研究で、最終的に身体的な機能検査まで参加したのは1241名です。そこから除外基準にあてはまる人を除外した結果、最終的に785名が対象となっています。

調査項目

外出頻度の減少:質問表であり、なしで回答

口腔機能:咬みづらい、嚥下しづらい、口が渇きやすいの3項目。質問表あり、なしで回答

考慮された共変量:性別、年齢、見た目の俊敏さ、体の痛み(今現在、膝、腰に痛みがあるかどうか)、1年以内の転倒、既往歴(整形外科疾患、変形性関節症、脊柱管狭窄症があるかどうか)、身体的要因(BMI)、 JST版活動能力指標、MMSE、歩行速度と身体活動、心理的要因(自己申告と 老年期うつ病評価尺度 )、社会的環境的要因(家庭状況、パートナーがいるかどうか?教育歴、主観的な経済状況、組織的な活動への参加状況)
質問用紙+看護師、心理士による検査で全ての項目に関する調査が行われたようです。

外出頻度が保たれている群631人と外出頻度が減少している群154人の2群にわけてその2群間の比較をχ2検定とMann-Whitney U検定により行っています。
また、外出頻度の減少があるかないかを目的変数としたロジスティク回帰分析も行っています。

結果

外出頻度が保たれている群と減少している群の各項目の比較結果がtable1です。

口腔内の3つの主観的な症状に関してはすべて有意差があります。

既往歴的なものは有意差なしが殆どです。

口腔内の状態や体に痛みがあるかどうか、心理面などで有意差がでています。
うつ傾向が高かったり、体に痛みがあればそれは外に積極的に出て行こう、という気がなくなるわけでここらへんは理解しやすいところかと思います。

ロジスティック回帰分析の結果は以下になります。

model1は性別と年齢調整時のロジスティック回帰分析で、model2はmodel1で有意差が出た項目と性別年齢を説明変数としたモデルのようです。

年齢 OR 1.08
咀嚼しづらさ OR 2.41
口腔乾燥 OR 1.68
体の痛み OR 1.78
JST版活動能力指標 OR 0.91
活動量 OR 0.99
老年期うつ病評価尺度 OR 1.13
組織活動 OR 1.94

嚥下しづらさに関しては、モデル2で落選しております。
ちょっと惜しい感じですね。

考察

考察においても心理面の低下が外出の低下に繋がることは明白だみたいな事を書いています。
house-boundという言葉が使われています。

この house-bound が介護や死へ通じることは以下の論文で報告されているようです。

Jacobs JM, Hammerman-Rozenberg A, Stessman J. Frequency of leaving
the house and mortality from age 70 to 95. J Am Geriatr Soc 2018;
66: 106–112.

他の論文と結果が異なる点があることについては外出頻度の減少があるかないかの設定方法が違うからという可能性に言及しています。他の論文は外出頻度自体を変数としていますが、今回は主観的に外出頻度が減っているかどうかを質問表に記載する方式という違いがあります。

各項目の関連性

各項目の関連性についての図がこれになります。

面白いのが、 うつは口腔乾燥と咬みづらさに影響します。また、 口腔乾燥は咬みづらさの原因にもなっているわけです。
うつは殆どの要因に影響していますので、かなり重要なファクターと考える事ができるでしょう。

勿論ですが、抗うつ薬を服用していれば副作用で口腔乾燥もあるでしょうから、診断がついていて抗うつ薬を飲んでいる人が多い、という可能性もありえます。

まとめ

口の中の状態が悪くなる、オーラルフレイルの状態になってくると外出頻度が下がってくる可能性があります。

その因果関係については推察するしかないですが、
硬い物を咬めないならすすんで外食しにいくこともなくなったり、口腔乾燥がすすんで言葉が喋りにくいならコミュニティにも参加しづらくなる、などといった事が考えられます。

勿論、その背景にはうつ傾向や身体のどこかの痛み、身体のフレイルなどの背景があると考えられます。

すでに悪化している人の口だけ治せばなんとかなる、というわけではないでしょうが、口の機能が落ちていかないように予防する事は高齢者達が外出しコミュニティに参加するといった日常活動をキープし、フレイルや死亡を抑制するのに有効である、ということは言えるのではないでしょうか。

前回の論文でオーラルフレイルが全身的なフレイルの前駆症状となっている可能性が示唆されていたわけで、オーラルフレイルにならない、しない、という事が身体的なフレイルのみならず精神的、社会的なフレイルにならない、と言うことに繋がっていくのではないかと思いました。

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東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

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