普通の歯科医師なのか違うのか

深い虫歯は少し残して治療する方が予後が良い?

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

ステップワイズエキスカべーションvs虫歯取り残し1回法

深い虫歯を一気に全て削るよりも、1度虫歯を残して薬をつめておき、数ヶ月後に虫歯が硬くなったり、虫歯の下に象牙質様の物質が形成されることにより、再度虫歯を全て削る方が神経を残せる可能性が高いという論文は複数あります。この方法をステップワイズエキスカべーションと言います。

しかしステップワイズしたからといって神経を100%残せるわけではありません。それならばあえて神経に近い虫歯を残して最終的な修復を行い経過をみていくという選択肢もあるだろう、ということであえて虫歯を一部残すという治療法もありえます。この方法ですと1回で治療が終わります。

今回はこの両者に関して多施設ランダム化比較試験を行ったブラジルからの2017年の論文です。

Maltz M, et al.
Partial caries removal in deep caries lesions: a 5-year multicenter randomized controlled trial.
Clin Oral Investig. 2018 Apr;22(3):1337-1343. doi: 10.1007/s00784-017-2221-0. Epub 2017 Oct 8.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28988345
PMID  28988345

Abstract

Objective This multicenter randomized controlled clinical trial aimed to compare the outcomes of stepwise excavation (SW) and partial caries removal (PCR) regarding the maintenance of pulp vitality in deep caries lesions over 5 years.

Methods At baseline, 299 permanent molars with deep caries lesions were randomly assigned to control or test groups. The control group received the stepwise excavation treatment (SW), while the test group received partial caries removal from the pulpal wall followed by restoration in a single session (PCR). Treatments were conducted in two centers located in
the cities of Porto Alegre (South Brazil) and Brasília (Midwest Brazil). Survival analysis was performed to compare PCR and SWover time (Weibull regression models). The primary outcome of this study was pulp vitality, determined by the combination of the following characteristics: positive response to cold test, negative response to percussion, absence of spontaneous pain, and absence of periapical lesion (radiographic examination).

Results This 5-year study includes data pertaining to 229 teeth: 121 teeth actually examined at the 5-year appointment, and 108 teeth contributed with data collected in previous follow-ups (18 months or 3 years). Survival analysis showed success rates of 80% in PCR group and 56% in SW group
(p < 0.001). Failure was significantly associated with treatment [PCR, HR=0.38; 95%CI=0.23–0.63)] and region [South, HR=2.22; 95%CI=1.21–4.08].

Conclusion PCR significantly reduced the occurrence of pulp necrosis when compared with SW. Clinical relevance This study supports the PCR as a singlevisit technique to manage deep caries lesions in permanent teeth.

目的:今回の多施設ランダム化比較試験の目的は、 5年以上深い虫歯の歯髄が維持できるかに関してステップワイズエキスカべーション(SW)するか部分的な虫歯の除去(PCR)の結果を比較するものです。

実験方法:299本の深い虫歯を有する永久歯をランダムにコントール群とテスト群に振り分けました。コントロール群はステップワイズエキスカべーション、テスト群は部分的な虫歯の除去です。ブラジルの2施設にて行われました。本研究の主なアウトカムは歯髄の生活反応です。生活反応は、冷刺激への反応、打診による違和感等がない、自発痛がない、根尖部周囲の異常がないこと、などを総合的に判断します。

結果:5年間の研究では229本が含まれ、121本は5年後のアポイントメントで診査しています。残り108本に関しては18か月または3年後の結果となります。歯髄の生活反応率はPCRが80%でSWが56%と有意な差を認めました。失敗は治療法によるものと施設差によるものが有意差が認められました。

結論:本研究の結果は永久歯の深い虫歯の1回での処置としてのPCRを支持しています。

ここからはいつものように適当に抽出して訳していきます。疑問に思うところがあれば原著を確認して頂きますようお願いします。

緒言

虫歯を1度に全て削除する方法は露髄や歯内療法のリスクがあります。ステップワイズエキスカべーション(SW)は2段階で虫歯を削除する方法で歯髄の保護や露髄の回避に有効であるという報告があります。しかしステップワイズエキスカべーションにはリエントリー時の露髄のリスクや仮封の失敗による虫歯の進行、コストや不快感の増大、複数回来院する必要などの不利な点があります。

虫歯の存在はその領域の進行停止を阻害しないので、リエントリーによる虫歯除去の必要性に関しては疑問視されてきました。

そこで新たなテクニックが提案されました。ワンデーでの部分的な虫歯除去と修復(PCR)という方法です。多くのPCRに関する研究はフォローアップ期間が短い乳歯において報告されてきました。永久歯に関しては3つ報告があります。うち2つは象牙質の浅い症例で、残り1つが象牙質の深い症例に関する報告です。過去の著者の報告では63%に虫歯の進行を認めないまたは縮小、3次象牙質の形成が認めれました。 乳歯を使用した他の研究では、封鎖後に細菌数の減少と残存象牙質の硬化が報告されています。

実験方法

2005~2007年の間に22名の訓練された歯科医師により299本の深い虫歯の治療が行われました。

被験者

被験者は新聞やラジオなどへの広告も含めて色々な手段で集められました。
大臼歯部に初発の深い虫歯を持っており、レントゲン的に虫歯を全て除去すると露髄する可能性があること、歯髄は生活反応を示し、歯髄炎や壊死などの所見がないことが条件です。

フローチャートが細かくて見づらいのですが、299名中152名にPCR、147名にSW処置を割り振っています。その後、途中で失敗が確定した症例やドロップアウトした症例が脱落していき最終的に5年後までフォローしています。

治療内容

全ての治療は同一のプロトコールにて行われました。
浸潤麻酔後ラバーダムを行い、必要ならばダイヤモンドバーによる切削を行います。その後エキスカまたはエンジン用のステンレスバーにて虫歯外周の壁の部分にある虫歯は完全に除去します。虫歯が完全に除去来ているかは硬さによる判断を行っています。

歯髄に近接した部位の虫歯に関しては柔らかい虫歯のみ注意深く部分的な除去を行います。蒸留水で窩洞を洗浄後に滅菌ペーパーにて乾燥をしてからランダムに処置を行います。

SW群ではダイカルによる間接覆髄後に酸化亜鉛ユージノールセメントにて封鎖、数ヶ月後にリエントリーして虫歯を完全に除去してグラスアイノマー+アマルガム、またはコンポジットレジンによる修復を行っています。
PCR群ではグラスアイオノマーセメントにて裏装後にアマルガムまたはコンポジットレジンにて修復を行っています。

結果

被験者の平均年齢は17.71±10.91歳( 最少6歳、最高53歳)でかなり若いです。
62%が第1大臼歯、33%が第2大臼歯、5%が第3大臼歯です。
平均DMFTは7.9±5.7本でやはりかなりカリエスが多い人が被験者になっています。
各群間で年齢や性別などに有意差は認めませんでした(Table1)。

PCR群(152名)は、18か月後に失敗1、3年で失敗5,5年後で失敗13、トータル失敗症例は19です。
SW群(147名)は18か月で失敗14,3年後で失敗21、5年後で失敗4、トータルで失敗症例は39です。SW群はステップワイズ間の間隔が不十分なものが42症例もありました。

結構な数ドロップアウトしているので、最後残った数は結構少ないです。
また、18か月、3年経過のチェック時に予後良好でその後ドロップアウトしたものは最終的な結果として5年間で予後良好という群になっており、PCRでは96名成功、19名失敗、SWは75名成功、39名失敗という事になっています

アポイントをキャンセルする回数が多い被験者ほど有意に失敗したという結果になっています。

生存曲線に関してはPCRが80%でSWは56%となっています。

統計結果により失敗と治療法(SWとPCR)、施設に有意に関連性が認められました。

まとめ

考察はあまり大した事を書いていなかったので、勝手に読んだ感想を書いてみます。

以上の結果を素直に受け取って、虫歯をちょっと残した方が予後がいいからやってみよう、と思った方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私はそうは思いませんでした。

ステップワイズの予後が低すぎるのではないかという疑問ですが、別のステップワイズの論文ですと1年後の歯髄生存が75%ぐらいでしたのでそれほど違いがあるわけではないです。ただし、別の論文だと90%を超えているようですのでそれからすると悪い結果とも言えます。

当然ですが、年齢が高い方が元々露髄するリスクが少ないので深い虫歯治療の予後がよいことがわかっていますが、今回の被験者はかなり若い人が多く(平均年齢17.71±10.91歳)、それが予後に影響を与えたことは否定できないと思います。最少年齢6歳であり、6歳の第1大臼歯ならまだ歯根が完成すらしていないでしょうし、ラバーダムちゃんとかかるのか、という疑問もあります。
私が読んだことのあるステップワイズの論文(下にリンク有り)は18歳以上の被験者という条件がありましたから、被験者の年齢層にかなり違いがあります。

ステップワイズしようとして露髄したこともあったのかどうかに関しては今回記載がありませんでした。またステップワイズ間の間隔がかなり短かかった症例も含まれており、それもステップワイズの予後に影響を与えたことは否定できないでしょう。
第3大臼歯が5%程度含まれているのも予後に影響した可能性が考えられます。

また、5年間の結果に18か月と3年で予後が途絶えた症例もそのまま成功症例に含まれているのも今回の結果にかなり影響を与えているでしょうし、術者が多くテクニック差があったとも考えられます。
アマルガムの使用が予後に影響があったかはなんともいえませんが、どうでしょうか。

というわけで、この論文だけで永久歯においても虫歯を残して治療した方が歯髄が温存できる、とはならないのではないかと思いました。

ただし、長期的なランダム化比較試験を行ったことは評価できると思います。

日本においてもシールドレストレーションという虫歯を残しても周りがしっかり封鎖されていれば予後はよい、という考え方がありますが、自分は懐疑的です。
もうちょっと長期的な予後に関する論文が積み重ならないとなんともいえないな、と思いました。

PCR、SWの長期的な予後に関する論文、ご存じなら教えて頂ければ幸いです。

間接覆髄に関する論文

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