普通の歯科医師なのか違うのか

直接覆髄の結果に与える予後因子

2020/02/15
 
この記事を書いている人 - WRITER -
5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

前回のお話

新年あけましておめでとうございます。
心機一転、というわけにもいかず去年の続きをそのまま引っ張る感じです。

虫歯が深く取っていたら神経が露出した場合には神経を温存するか、それとも取ってしまうか、のまず2択になるわけですが、運良く残せそうだとなった場合、神経露出面に何か材料を置く事が多いです。これを直接覆髄と言います。
神経露出面に歯質様の物質を誘導して新しい蓋を作ろうというのがコンセプトです。そのための薬剤として水酸化カルシウムとMTAがあります。

前回はどっちの材料がより優れているかを検討した文献を読みました。

この2019年のRCTを用いた文献ではMTAが統計的に有意に予後が良いという結果になりました。また他の2本のRCTでもMTAが予後が良い結果であり、直接覆髄出来る場合はMTAが鉄板になりつつあると思います。

MTAで直接覆髄する際の成功率は高いですが、100%とは言えません。
では、どういった要因が影響するのかを考えてみないといけないので、前回の論文からリファレンスを抜いて読んでみることにしました。

今回の論文

Cho SY, Seo DG, Lee SJ, et al. Prognostic factors for clinical outcomes according to time after direct pulp capping. J Endod 2013;39:327–31

2013年の韓国からの論文です。

Abstract

Introduction: Direct pulp capping is a treatment option for teeth with carious-exposed pulp. Because pulp capping studies have exhibited fluctuations in success rates according to different follow-up times, investigating the clinical pulpal survival rate and the potential factors contributing to the survival with respect to time is necessary.

Methods: A total of 175 patients treated between November 2007 and August 2010 met the inclusion criteria. During the follow-up, we investigated 7 clinical variables with respect to the survival of the
pulp capping treatment: sex, age, maxilla versus mandible, tooth position, capping materials, temporary filling materials, and exposure site. Survival analysis was performed using the Kaplan-Meier method and the Cox proportional hazard regression model.

Results: The Kaplan-Meier survival curves and log-rank tests revealed
that only age, exposure site, and capping material had significant effects on the pulpal survival rate (P < .05). A Cox regression model showed that mineral trioxide aggregate was the sole factor affecting the survival of the treated pulps (P < .05). In the analyses performed separately according to time, there was no conspicuous factor that affected the survival rate before
100 days. However, after 100 days, the type of pulp capping material was the single most important factor influencing the survival rate (P < .05).

Conclusions: The results of this study indicated that careful patient selection and the type of pulp capping material should be taken into consideration when performing a pulp capping treatment. (J Endod 2013;39:327–331)

直接覆髄は虫歯による露髄歯の治療オプションです。直接覆髄の研究ではフォローアップ期間の違いにより成功率の報告に幅があるので、経時的な歯髄の生存率とそれに寄与する可能性がある要因を調査することが必要です。

2007年11月から2010年8月までに治療を行った175名が対象です。フォローアップの間7つの変数に関して調査を行いました。性別、年齢、上顎か下顎か、歯の位置、直接覆髄の材料、暫間充填材料、露髄面の7つです。生存解析はカプランマイヤー法とコックス分析を用いました。

カプランマイヤー法による解析から、年齢、露髄面、直性覆髄の材料が歯髄の生存に有意に影響していました。コックス比例ハザードモデルからはMTAのみが歯髄生存に有意に影響していました。経時的には術後100日以内の歯髄生存に影響を与える因子はありませんでした。しかし、100日を超えると直接覆髄材料のみが歯髄の生存率に影響を与える唯一の要因でした。

この結果から、慎重な患者の選択と直接覆髄材料が直接覆髄を試みるにあたり考慮されるべき要因であると示唆されました。

ここからはまた適当に訳します。意訳していますし、誤訳もあるかもしれませんので疑問に思われた場合は原文をご確認お願いします。

Material and Methods

後ろ向きコホート研究のようで、電子カルテ上で2007年11月~2010年8月まで直接覆髄を行ったと記載があった245名を抽出した上で70名を除外して175名が対象となっています。

直接覆髄を行った条件として

1 自発痛がなく、冷温刺激のみで痛みが誘発される
2 打診による痛みや違和感がない
3 ラバーダムが可能である
4 露髄面からの出血のコントールが困難ではない

の4条件があげられます。

治療方法としては
浸潤麻酔後にラバーダムを行い、低速ラウンドバーにて切削後エキスカにて機械的にカリエスを除去しました。露髄した時には、2.5%の次亜塩素酸でケミカルサージェリーを行い、10分後に止血出来た場合は直接覆髄可能と判断しました。

直接覆髄には水酸化カルシウム(ダイカル)かMTA(ProRoot)が用いられました。直接覆髄材料の上はグラスアイオノマーセメントまたはレジン強化型グラスアイオノマーセメントにて仮封しました。仮封せず直接CRで充填したケースもありました。
直接覆髄2か月後に歯髄が正常かどうかを判定し、問題なければCRまたはインレーまたはアンレー、クラウンにて修復しました。

術後1,3,6か月、それ以降は6か月間隔でフォローアップしました。X線診査を3か月、6か月、それ以降は6か月毎に行いました。

Results

フォローアップ期間は中央値では11.1か月ですが、最短9日から3.7年とかなり開きがあります。

175歯中37歯が歯髄壊死や強い疼痛などで失敗し、138歯が成功です。

表1からみると年齢が40歳を超えているかどうか、直接覆髄材料、露髄面が咬合面か軸面かによって予後に差がでるという結果になっています。
40歳以下、MTA使用、露髄面が咬合面が予後が有意に良くなります。

カプランマイヤー法による生存曲線から計算すると、

MTAの歯髄生存率は 術後1年後において89.9%、術後3年後において67.4%であり、水酸化カルシウムの術後1年後における73.9%、術後3年後における52.5%よりも優れています

と書いていますがMTAの生存曲線が3年を超える頃にガクッと下がっているので、何か問題などがあったのかもしれません。これがそれほど下がらなかったらもっと差がついていたでしょう。

この生存曲線からすると

年齢の要素はかなり予後に影響しそうに感じます。歯髄の活性を考えるとやはり若い方が有利と言うことでしょう。

また、露髄面が咬合面の方が予後がいいというのは、やはり窩洞が隣接を含むと辺縁封鎖に問題が出やすい事などが考えられます。

コックス比例ハザードモデルでは唯一有意差があったのは直接覆髄材料だけでした。

カプランマイヤーは各要素における生存率の違いを、コックス比例ハザードモデルではどの要素が予後に関与するかを時間的な概念を入れて見ているかたちになると思います。

まとめ

2013年の論文ということと、後ろ向きの調査研究なので治療プロトコールが完全に統一されていないなど問題があります。
たとえば、直接覆髄する際に水酸化カルシウムなのかMTAなのかをどう使い分けしたかがわかりません。ランダムではないことは確実です。
MTAの3年後の生存曲線がガクッと下がっているのは使い始めたのがこの時期で、症例数が少なく扱いに慣れていなかったという可能性もあるのでは?と思いました。

直接覆髄の予後を成功に導くためには

年齢が若い
MTAの使用
露髄面が咬合面

である事が今回の論文で示唆されています。
年齢が若いというのは他の乳歯の論文などでも指摘されているようです。
またMTAの使用も今まで読んできて水酸化カルシウム優位という論文はないです。

ここら辺は臨床にフィードバックしていけるのではないかなと思いました。

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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

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