普通の歯科医師なのか違うのか

藤島式嚥下体操セットの食前実施は嚥下障害症状を改善

 
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5代目歯科医師(高知市開業)
東京医科歯科大学卒業(47期)
同大学院修了
【非常勤講師】
徳島大学
岩手医科大学

藤島式がいっぱい

藤島先生と言えば、日本の摂食嚥下の巨人であり、摂食嚥下界隈で働いている人で知らない人はいないでしょう。恥ずかしながら、あまりにも藤島式が多すぎて嚥下体操まであるとは知りませんでした。

今回はその嚥下体操が有効なのかを検討した論文となります。

藤島式嚥下体操セットの継続的な実施による嚥下障害症状改善効果
体操セット実施群と未実施群の比較検討

長尾菜緒, 田中直美, 藤島一郎, 重松孝, 北條京子, 小山善哉
嚥下医学 7(2): 262-272, 2018.

ダウンロードフリーではありません。
https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=eg1engei&ye=2018&vo=7&issue=2

抄録 

 藤島式嚥下体操セットは、食べる前の嚥下体操、嚥下おでこ体操、ペットボトルブローイング、アクティブサイクル呼吸法の4 つで構成されている。嚥下障害を主訴に当院リハビリテーション科外来・嚥下外来を受診し、嚥下障害が比較的軽症で,また意思疎通が可能で、自力または軽介助で実施可能な患者に対し、DVD を使用し藤島式嚥下体操セットを指導した。そして指導前後で摂食嚥下障害の質問紙を使用し効果の検証を行った。その結果,藤島式嚥下体操セットを実施した嚥下障害患者群では、有意に嚥下障害の症状が軽減した。藤島式嚥下体操セットは,筋をリラックスさせる効果だけでなく嚥下筋力や喀出力を上げる効果があり,実施頻度も高い。また従来の嚥下体操と比較し、嚥下機能改善効果が高く、誤嚥性肺炎の予防に効果的であると考えられる。

実験方法

被験者

初診時にVF、VEによる評価と聖隷式嚥下質問表による調査を行い、以下の除外基準を満たさずに軽度嚥下障害と診断されたものが対象となっています。

除外基準
1 初診時の摂食・嚥下障害の質問紙に,A のチェックがない患者
2 嚥下障害が重度で,嚥下体操セットの指導のみでは嚥下機能の改善が望めない患者
3 意思の疎通が困難,高次脳機能障害,重度の麻痺等により嚥下体操セットが実施できない患者

聖隷式嚥下質問表は摂食嚥下障害のスクリーニング検査としてEAT-10などと同様に一般的に用いられています。Aが1つでもチェックされると摂食嚥下障害ありと判断されます。感度90%、特異度92%と精度が高いスクリーニング検査です。なお、AがなくBが1つでもあれば、摂食嚥下障害の可能性あり、Cのみであれば可能性は低い、と判定します。

指導方法

藤島式嚥下体操セットは食べる前の嚥下体操、嚥下おでこ体操、ペットボトルブローイング、アクティブサイクル呼吸法の4 つで構成されています。

初診時に訓練の必要性を説明し、実際一緒に実施してもらう形で指導をおこなっています。さらにDVDを配布して、家でスムーズに出来るようにしています。嚥下体操セットは15分で大体終わるようです。

実験の流れ

質問表をベースにした後ろ向きな実験系のようです。

初診時に1つでもAの記載があった被験者でリコール時に藤島式嚥下体操セットを継続していると答えた37名が実施群、対象群は嚥下体操セットの指導を行っていなかった14名となっています。

リコールは指導約1か月後と3~5か月後の2回ですが、明らかに症状が改善してAが0~1にまでになった患者で3~5か月後のリコールに来なかった9名も実施群に含まれています。

評価項目は初診時、1か月リコール時、3~5か月時の質問表のAの個数となっており、一元配置分散分析して有意差があるものに関してはボンフェローニの多重比較を行っています。

結果

実施群の実施状況ですが、結構緩い感じで4つ全てを毎食前に行っていない人も結構いるようです。

実施群では3~5か月後に来なかった人を抜いて29名で統計処理をしています。その結果、初診時、1か月後、3~5か月後全てで有意差を認めました。

対象群では有意差は認められませんでした。

実施群でどの項目のAが改善したかを検討しています。

5番:お茶を飲むときにむせることがありますか?
8番:食べるのが遅くなりましたか?
9番:硬い物が食べにくくなりましたか?
4番:食事中にむせることがありますか?
3番:物が飲み込みにくいと感じることがありますか?
6番:食事中や食後、それ以外の時にものどがゴロゴロすることがありますか?

ここら辺の改善が多く認めおり、どちらかというと咽頭期の改善が主と考えられます。硬い物、食べるスピードに関してはこの訓練で良くなる理由がよくわかりませんが、あくまで質問表は主観的なので、客観的な尺度を用いると違う結果になる可能性は充分ありえると思います。

まとめ

食前に間接訓練を行う事で摂食嚥下能力が改善するという報告は結構あります。そのため、デイや施設などでも食事前に嚥下体操を行っている所があります。

他の嚥下体操などと比較して藤島式が優っているかどうかも気になる所です。この実験では全ての人が毎食前にしっかり訓練していたわけではありませんが、それでも経時的に主観的な評価が改善しており、これは訓練継続のモチベーションになるのではないかと思いました。

しかし、これ4つ全部しっかり行うのは結構大変なんじゃないかと思いました。実際、指示通りにしっかり毎食訓練していなかった人も結構います。もうちょっと簡便化して同様の効果が得られるような訓練の組み合わせってあるのではないか、と考えてしまいます。

前回の論文でカ連続発音はおでこ体操と同等レベルの舌骨状筋群の活動量ということでしたので、おでこ体操をカ連続発音で代用すればもっと簡単になるのかも・・・などと考えてしまうところです。

Youtube

なお、藤島式嚥下体操セットはYoutubeにもアップされています。結構細切れになっていますので、まとめて載せておきます。

藤島式嚥下体操セット(1)【概論編】

藤島式嚥下体操セット⑵【嚥下体操】

藤島式嚥下体操セット⑶【嚥下おでこ体操】

藤島式嚥下体操セット⑷【ペットボトルブローイング】

藤島式嚥下体操セット⑸【アクティブサイクル呼吸法】

藤島式嚥下体操セット⑹【発声訓練】

藤島式嚥下体操セット⑺【実践編】

積み論文

6)穴井めぐみ,他:摂食・嚥下機能からみた高齢者における嚥下体操の有効性.老年看6:67-74,2001.
7)大岡貴史,他:日常的に行う口腔機能訓練による高齢者の口腔機能向上への効果.口腔衛会誌58:88-94,2008.

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